兵庫医科大学救急・災害医学l,集中治療部2
(蘇生14: 138-143, 1996)
目次
有効な災害医療計画を立案し改善するためには,わが国にも災害医学・医療の専門施設の創設が必要である。
キーワード:防災医療計画,災害医学
そこで,本論では,大震災における医療活動の経験を踏まえて,防災医療計画の方向性を探り,いくつかの提一言をまとめた。
1) 周辺の被害状況
防災医療計画を考える資料として,被災した主な設備と,その回復状況を以下に要約する。
(1)エレベータ
(2)空調設備
(3)電気設備
(4) 給水設備
(7) ボイラ
(8) その他
2) 患者搬送 (表2)
3) 救護活動
表1、当院の入院患者数
表2、傷病者搬出の実態
注)兵庫県アンケート調査では,主に病院搬送車と自家用車が利用され,消防救急車では対応しきれなかった(震災後1週間)。
2) 重複分散型の構造
など重複分散型の居住,勤務ルートを整えていた。
(2) ライフライン
(3) 情報の伝達 今回,交通遮断や超渋滞のなか,自転車やオートバイが最も機動的であった。過去の単純な情報伝達法の併設も推奨できる。
(4) 厨房
(5) 中央検査室
以上,重複分散型構造の適応を設備について提案したが,指揮系統や指揮者,院内情報伝達法,薬剤備蓄など,組織とその運用にもこの理念は適応できる。
3) 防災システムの日常的な利用
緊急時に問題になるのが,突然に防災システムを始勤してもスムーズに機能しないことである。マニュアルが見つからない,手順を忘れた,部品が不良など,今回も多くの実例が聞かれた。この問題を解決するにも,システムを日常的に利用し整備しておくことが重要である。
4) 医療施設間の災害相互援助協定(表5)
一方,今回の震災では,医療ボランティアも,受入れた現場も大変に戸惑った。実カのあるボランティア看護婦が,看護備晶や材料の置き場所が分らない,看護手順が違う,命令系統が解らないなどのため,その実力を発揮されなかったと,しばしば耳にした。
これらの問題を解決する方策として,複数の医療施設で締結する「災害相互援助協定」の制度を提案したい。もし,3病院が提携すれば,備書量は1/3で済む計算になる。平時からスタッフを交流し,治療や看護の指針,手順を共通化しておけば,緊急時の治療援助がスムースである。また,患者の受け入れ,患者搬送,臨床検査の代行,水や給食の提供など,今回,本院が経験した多くの問題を解決できる可能性が高い。蘇生学会の会員施設間で「災害相互援助協定」を締結し,その具体案を検討することも意義があると考える。
表3、建築の時期と被災程度
表4、ライフラインの重複分散型モデル
水源*2
熱源
表5、医療施設間の災害相互援助協定
この構想と実施するにあって望まれる主な環境をまとめた。
2) 経時的な医療二一ズの把握
(l)被災直後発災から約12−24時間は,被災現場での医療活動として,救出,心肺蘇生,緊急搬送,輸液輸血,創傷処置,トリアージなど救命救急医療と緊急医療搬送が必要であった。この時期は,被災地域が統制の取れた状態であることは期待できない。地元医療者も医療ボランティアも,
自分達を取り巻く状況に応じて,重症患者の治療,軽傷者の治療,傷病者搬送,後方病院の確保など,臨機応変に業務を分担することが望まれた。
(2)被災後急性期:救急処置が必要な被災者が治療を受けた後の医療二一ズは,被災現場から避難所や被災地の医療施設へ移行した。特に,被災地の病院では,全職員が不眠,疲労の蓄積,欠食のため,集中カ,忍耐を失い始めている時期であり,交代要因を必要とした。また,重症化する患者が出始め,専門医の助け,専門施設への重症患者搬送など,二一ズの高度化と細分化が要求された。
(3) 被災後早期およそ72時間以降は,被災地域の本来の医療体制復旧と,避難所での診療体制の整備が必要であった。しかし,実際には避難所診療グループと地域の医療組織との連携は不十分であり,重複投薬を受けた被災者,不十分な治療しか受けられなかった慢性疾患患者などが多数存在した。巡回診療を行っていた「かかりつけ医」を支える活動が必要であった。
(4)被災後後期被災後のl一2週間から,感冒の流行,慢性疾患の悪化,精神的な問題などが増加した。これらの治療と予防には,地域医師会,保健所,公衆衛生,行政などとの連携が不可欠である。避難所に駐留するよりも地域医療組織や「かかりつけ医」を中心とした診療体制を支援することが必要である。
被災地で行動する医療ボランティアは,このような経日的に変化する医療二一ズとその対応策について十分理解して活動すべきである(表6)。地域医療組織と無関係に避難所に駐留し続ける事態は,避けるべきである。
1) 災害医学と救急医学
2) 広域災害の原因推定
3) 広域被災想定
4) 疫学的な分析と関連分野の協力
5) 予防医学的な側面
6) 病院外医療の推進
7) 地域医療との連携
表6、医療ボランティアの役割
2) 被災後急性期(72時間以内)
3) 被災後早期(72時間以降)
4) 被災後後期(1−2週以降)
注)経日的な医療二一ズに沿った役割と目的を明確にして活動すべきである。
表7、神戸市で想定される主な広域災害
本論文の要旨は第14回日本蘇生学会総会(1995.10.鹿児島)において報告した。
2) 兵庫県環境部医務課,阪神淡路大震災復興本部:災害医療についての実態調査結果.1995
3) 兵庫医科大学医学会:阪神大震災の記録.兵庫医科大学医学会雑誌.特別号,1996
4) 丸川征四郎:阪神淡路大震災に遭遇して:災害医学医療の本格的導入を願う.集中治療
7:729-734,1995
A proposal of basic medical plans for disaster prevention and an ideal frame of disaster medicine
Seishiro Marukawa 1,Kohei Ozaki l,KazumasaYoshinaga l,Junko Yamauchi l and Hiroki Fujita 2
Dept. of Emergency and Disaster Medicine 1, Intensive Care Unit 2, Hyogo College of Medicine, Mukogawa-cho 1-1, Nishinomiya 663, Japan
The latest Hanshin Awaji great earthquake gave us many important lessons for the benefit of medical anti-disaster planning. Inthisarticle we would propose some basic ideas for anti-disaster plan,and suggest to introduce the disaster medicine in this country.
The hospital must be tolerant against any types of disaster and function as a shelter for injured sufferers.All logistics of hospital administration must be provided based on the role of multi‐dispersed style which is consisted with multiple sources(energies,savings,personnel,etc)and plural routes(deliveries,transmissions,communications,etc)
instead of mono‐style which is a standard in this society.
All anti-disaster systems should be used as a part of daily activity to maintain and improve themselves. Once the disaster occurred, an agreement for mutual assistance among hospitals and the supportive activity of volunteers groups may effectively compensate the anti-disaster systems.In this country, the disaster medicine is not established yet.We need rea11y it to support and develop the anti‐disaster plans.
要 旨
はじめに
1.本院被災の概要
2.病院の診療経過
――――――――――――――――――――――――
CPA 3*
損傷
頭頸部 18 5
胸腹部 13 15
四肢 10 10
不詳 6
クラッシュ症候群 0 9*
――――――――――――――――――――――――
注
―――――――――――――――――
自家用車 799(37.7%)
病院搬送車 739(34.9%)
消防救急車 507(23.9%)
ヘリコプター 46( 2.2%)
船舶 27( 1.3%)
―――――――――――――――――
合計 2118 (100%)3.防災医療対策への提言
――――――――――――――――――――
回答件数 n=121 n=57
――――――――――――――――――――
倒壊 2.5% 1.8%
半壊 9.1% 1.8%
部分改築 9.1% 3.5%
かなり補修 49.6% 35.1%
軽微の補修 27.3% 56.1%
損壊なし 2.5% 1.8%
――――――――――――――――――――
建築基準法の改正後の建築病院に被災が少ない傾向であった。
―――――――――――――――――――――――
電気
1) 各種バッテリーの利用(無停電装置を含む)
2) 太陽電池の利用
3) なお,自家発電機*1は2台を設置する
1)淡水化装置の設置
2)河川水の利用
3)井戸水の利用
――――――――――――――――――――――――
* 1)水冷式なら循環冷却方式,空冷式を併設
* 2)上水と下水,滅菌と非滅菌に分けて確保
* 3)プロパンガスの設置には火災時の危険性を考慮4.医療ボランティアへの提言
5.災害医学・医療への提言
災害現場の救命救急,搬送医療
避難所の救護
被災地病院の支援
避難所診療の組織化
被災地域医療体制の復旧
集団疾病の予防
慢性疾患の治療おわりに
参考文献
Abstract
災害医学 論文表題集(1996年)へ
gochi@hypnos.m.ehime-u.ac.jp
までご意見や情報をお寄せ下さい。