―災害医療― 災害種と特徴的病像

鳥取大学医学部付属病院麻酔科  和藤 幸弘

『Emergency Nursing』「災害看護」新春増刊1996、pp.22-58


目次

序文(はじめに)

I、災害の種類と傷病の特徴

A. 自然災害

  1. 地震
  2. 津波
  3. 水害(洪水・台風)
  4. 火山爆発・火砕流
  5. 竜巻

B. 人為的災害

  1. 列車事故
  2. 爆発(爆弾)
  3. 化学物質による事故(中毒)
  4. テロリズム

II、災害時の疾病と治療

A. 外傷における種々の病態と治療

  1. 頭部外傷
  2. 顔面外傷
  3. 胸部外傷
  4. 腹部外傷
  5. 圧挫症候群(crush syndrome)
  6. コンパートメーント症候群
  7. 熱傷
  8. 骨折
  9. 外傷の二次的感染症
  10. 凍傷

B. 非外傷性疾患における種々の病態と治療

  1. 溺水
  2. 偶発性低体温
  3. 有毒ガス中毒
  4. 光化学スモッグ
  5. 外傷後ストレス症候群

おわりに

参考文献


はじめに

 阪神大震災を経験して、われわれ医療従事者も多くの教訓をえた。しかし、災害時に予測もつかないような、あるいはだれも診たことのない特殊な病態が発生するわけではない。過去の災害を検討することにより、それぞれの災害のにおける傷病の特徴、負傷や死亡の機序を理解して起こりうる事態に対応することが重要である。

 外国の例も参考にしながら、日本の衛生状況、医療レベルに従って、国内における災害の疫学を想定し、起こりうる傷病、災害時の治療方針などについて述べる。また、日常の医療レベルが維持できなくなった被災地、または被災地近隣の医療機関で使えるものとし、検査、治療はできるだけ大がかりな設備を要しない簡単な処置にとどめた。それぞれの傷病の詳細等に関しては、成書にある詳しい検査所見や平常時の治療などを参考にされたい。


災害の種類と傷病の特徴

 傷病発生のメカニズムの基本は災害の種類により特異性がある。しかし、付随するさまざまな要因により多彩となる。たとえば、1992年トルコでは、冬期に発生した地震で、ストーブの上のお湯が転落して、熱傷が多発した1)

 災害時には直接的な外傷を連想するが、銘記しなくてはならない重要な落し穴は、内科的疾患の発生や慢性疾患の増悪である。とくに、突発的な災害では急性心筋梗塞の発生に注意すべきである2)。また、慢性閉塞性肺疾患なども急性増悪するし、透析患者や糖尿病患者に対しても、日常以上に医療が必要となることも留意しなければならない。

 1988年から1990年に行われた世界的規模の調査では、災害直接の死亡に対して、結果的にその1.5倍が災害に関連した死因で死亡している3)。そのおもな原因は感染症である(表1)。大火災、台風、洪水などでは生体系が破壊され、通常では考慮の範疇にない感染症が発生することもある4)。また、1995年の阪神大震災でも約500名がインフルエンザなどで災害後に死亡したように、被災後の衛生状況や被災者の生活環境、季節なども関係する。現代の日本では、インフルエンザやA型肝炎などに対する注意が必要である。

 災害の種類は表2のように自然災害と人為的災害に大別されるが、わが国では地震が頻度、被災者の規模などから、もっとも危険である。


A. 自然災害


1.地震

 1995年の阪神大震災で経験したように、現代のわが国でも大規模な人的被害が発生する可能性がある。

 表35)に過去の地震の資料を示す。しかし、一般的に傷病名として報告されるのは生存して病院に受診したものであり、より多くの救命を目標にするならば、死因にも注目すべきである。

【負傷のメカニズム】

 死亡、負傷の原因の基本は、建造物の倒壊などによる物理的外傷であるが、その他の状況により多彩となる。

【共通の傷病】

(1)機械的(物理的)外傷

挫滅創、裂創、骨折(四肢、脊椎、骨盤など)切創、切断創、頭部外傷(頭蓋骨骨折、硬膜外血腫、急性硬膜下血腫など)、脊髄損傷、胸部外傷(肋骨骨折、血胸、気胸)、腹部外傷(実質臓器・腸管破裂)など。

(2)内科的損傷

塵介吸入など。

【頻度の高いその他の外傷】

 熱傷。

【特徴的な病態】

 圧挫症候群(腎不全)、コンパ−トメント症候群(阻血)、多発外傷、出血(ショック)など。

【二次的創感染症】

 破傷風、ガス壊疽、化膿創。

【管理のポイント】

1988年のアルメニア地震では負傷者の39.7%が複数の部位を損傷した、つまり多発外傷であった5)。また、600−1,000名が圧挫症候群による急性腎不全のため透析を必要とした6)

平常機能を果たす病院で医療を行えば、救命の余地がある傷病、即ち、圧挫症候群、出血性ショック、熱傷などの患者に早く治療を開始することが重要である(表4)。

2.津波

 津波にさらわれると溺水により全滅すると考えられていたが、1993年北海道南西沖地震の津波被害において生存者を確認した7)。津波にさらわれた人の約10%が、救助されたり、自力で生還した。津波被害に関する認識を改め、早期に捜索と救助を行うことや、避難時にライフジャケットやヘルメットを着用することにより、より多くの生存者を得る余地があると考えている。

 '93年の北海道南西沖地震の津波は地震後3−5分と異例の早さで発生したが、通常は数十分の余裕がある。

【死亡・負傷のメカニズム】

 溺水。漂流物との衝突による頭部外傷、脊髄損傷、内臓損傷による出血、その他全身の打撲、擦過傷、切創など(機械的外傷)(表5)。

3.水害(洪水・台風)

 人類史上最も多くの死者を出した自然災害は、中国で1887年に発生した黄河の氾濫で、約900,000人が死亡したといわれている。わが国では1959年、伊勢湾台風で4,600人が死亡した。しかし、情報メディア、土木建築の発達した現代の日本ではこれに匹敵する被害は考えにくい。また、水害での生存者に対する救急医療の必要性は低く、生存者の0.2%〜2%が病院に受診する程度であるといわれている8),9)

【共通の傷病】

 津波と同様であるが、創の汚染がより高度である。また、台風の場合、暴風による落下物への衝突や身体が飛ばされたことなどによる機械的損傷が多い。1985年プエルト・リコを襲ったハリケ−ンIsabelleでの死者95名のうち21名(22%)は溺水で、残りは地滑りにおける外傷であった。さらに、集団では発生しないが、補修作業中の電撃症などの報告も散見する。1989年アメリカで発生したハリケ−ンHugoでも死者9名のうち7名は電気工事中の事故死であった10)。表6に1974年オ−ストラリアにおけるサイクロンTracyの負傷者の内分けを示す11)。1985年ミシシッピ−州におけるハリケ−ンElenaでは被災翌日から2日間に1,029名のハリケ−ンによる傷病者が3つの病院の救急外来に受診したが、外傷がそのうち484名(47%)であった。外傷の内分けは擦過傷22%、切断創または挫創20%、捻挫14%、骨折12%であった。これらは軽症が多く、入院を必要としたのはわずかに4%であった12)

4.火山爆発・火砕流

 熱傷。高温ガス吸入による気道熱傷。また、硫化水素ガス中毒、火山灰吸入による呼吸障害に注意が必要である。

5.竜巻

 米国では年間、平均死者83名、重症外傷200名以上の竜巻による被害が発生している13)が、日本で大きな被害が発生することは少ない。1985年カナダにおける調査では死亡率4%、重症外傷16%、軽症80%で、死亡は頭部および胸部の外傷によるものが多い。また竜巻における死亡はほとんど(92%)が、現場で死亡したものであった14)。表7に1965年4月11日、米国インディアナ州で140名の死者をだした竜巻における入院患者の外傷と受傷部位を示す15)。衝突、打撲が主体で台風の際の外傷と類似している。


B.人為的災害


1.列車事故

 1983年に特急列車『やくも』が大型トラックと踏切で衝突した際の死傷者を表8に示す。この事故では全乗客105名中20名が死傷した。なお、下肢切断創2名にガス壊疽が発生した。

 1991年の信楽列車事故でも骨折が圧倒的に多く、ついで肺挫傷、血気胸などの胸部損傷であった。さらに死者42名のほとんどは圧死であったと報告されている16)

2.爆発(爆弾)

爆裂創(Blast Injury)

 約50%が頭部外傷、10−20%が腹部外傷である。また、管腔臓器の損傷が特異的である。さらに、爆風により多くの負傷者は吹き飛ばされたり、瓦礫など吹き飛んだ物によって二次的な多発外傷を負う17),18)

 1987年イスラエルで発生したバス爆破テロで入院した29名のうち38%に爆裂肺、14%に腸管損傷、76%に鼓膜損傷が認められた。また、このうち31%が多発外傷または開放性頭部外傷で重症であった19)

(1) 爆裂肺(Blast Lung)

実質・肺胞性の肺水腫および肺出血。さらに肋骨骨折や胸郭の外傷がなくても気胸、肺挫傷が起きる。

(2) 脳挫傷。

(3) 空気塞栓。

(4) 聴覚障害、鼓膜損傷。

3.化学物質による事故(中毒)

 工場における爆発や有害物質の流出などのほか、化学兵器を使用した戦争やテロリズムでもおこりうる。有毒ガス吸入による中毒では大量の傷病者が発生する可能性がある。

 吸入により障害を発生するものには、一酸化炭素、液化石油ガス(プロパンガス)、天然ガス(都市ガス)、硫化水素、塩素ガス、亜硝酸ガス、ホルマリンガス、六価クロム、クロルピクリン、ホスゲン、サリンなどがある。1993年には東名高速道路、1994年には茨城の住宅街にクロルピクリンが流出し、死傷者が発生している。

 サリン、マスタ−ドガス、青酸ガス、ホスゲンなどは化学兵器の毒ガスとして知られるが、ホスゲンはクロロホルム、トリクロルエチレン、四塩化炭素、塩化炭化水素(ドライクリ−ニング液に含まれる)などが加熱されても生じるため、火災においても発生する可能性がある20)。火災時には単一の有毒ガスのみでなく、青酸ガス、ホスゲン、NO2、SO2など複数の有毒ガスに暴露されている可能性がある。火災における死者のCO-Hbと青酸化合物を測定した調査研究では83%がCO-Hbが致死レベルであったが、それ以外の症例の中には青酸化合物が致死的レベルに達するものがあったと報告されている21)。日本のデパ−ト火災でも死者の血液から致死量の青酸化合物が検出され、合成繊維やアクリルが燃えると青酸ガスが発生することも確かめられている22)


4.テロリズム

 最近では、オクラホマシティのビル爆破事件、松本市や東京地下鉄サリン事件などのテロリズムが発生している。これらは人口密集地や通勤時間帯などいわゆる災害の被害を増悪する因子を逆に利用することもある。従来からは爆弾テロがもっとも多いが、毒ガスを使用したテロリズムにも注意が必要である。


II、災害時の傷病と治療


【災害時における治療の目標】

 世界的にもっとも汎用されているWHOの定義によれば医療における災害とは、『その地域における救急医療の能力を多数の傷病者が圧倒したとき』である23)。災害時の医療の目標は圧倒的多数の傷病者に対して、医療資材、マンパワ−などの不足する状況で、日常レベルにより近いの医療をより多くの人に行うことである。また、実戦では、一人でも多くの救命と脊髄損傷などの後遺症軽減、四肢の温存などを目指す。大災害の場合、12時間以内の救助(Golden 12 hours for the rescue24))と24時間以内に救命手術など治療を開始すること(Golden 24 hours the for definitive medical care25))は災害の予後を大きく改善する。


A. 外傷における種々の病態と治療

【外傷患者への対応―患者の評価】

 1.気道確保、輸液、昇圧剤の投与などの救命処置が必要かどうか。

 2.多発外傷の場合どれを優先して治療するか。

 3.緊急手術が必要かどうか。また、手術の程度、必要な資材、人材の調達を検討し施行可能かどうか。

 4.治療開始までに必要な検査が可能か。

などを考慮するとともに、患者の病態をできるだけ正確に評価して、それぞれの患者をその場で治療するか、転送するか、またその際に行う応急処置、さらに全体ではだれを先に治療するか、転送するかなどを決定しなければならない。

[1]頭部外傷

■荒木の分類

  1. 頭部外傷T型(単純型)
    意識障害などの神経症状なし。

  2. 頭部外傷U型(脳震盪型)
    一過性の意識障害。意識障害は通常2時間以内(遅くとも6時間以内)に消失する。後遺症を残さない。

  3. 頭部外傷V型(脳挫傷型)
    意識障害が6時間以上持続するもの、および脳の器質的障害を思わせる症状を有するもの。

  4. 頭部外傷W型(頭蓋内血腫型)

    受傷直後には意識障害がなく、時間経過とともに急激に意識障害が出現、増悪する。すなわち、lucid interval(意識清明期)があるもの。

■緊急手術を考慮する症状

1.バイタルサイン(とくに呼吸状態)の悪化。
2.意識障害の増悪。
3.瞳孔不同の出現。
4.片側の麻痺および神経症状。

■緊急手術の適応

1.硬膜外血腫
2.急性硬膜下血腫
3.脳内血腫
4.頭蓋内異物、頭蓋内穿通症
5.陥没骨折で骨片が硬膜内に穿通している場合など

* 手術適応とならない外傷
  • 脳挫傷、頭蓋底骨折など。

*予後不良を思わせる頭部外傷

1.呼吸停止。
2.ショック症状(低血圧など)。
3.深昏睡。
4.その他の外傷の出血に対して大量輸血、輸液を必要とするとき。
5.瞳孔散大。
6.除脳硬直様肢位。
7.けいれんなど。

■頭部の打撲・損傷部位と器質的損傷部位の可能性

1.前頭部の損傷
前頭骨、側頭骨、前頭洞、前頭蓋底の骨折。

2.側頭部の損傷
側頭骨、頭蓋底骨折。硬膜外血腫、顔面神経麻痺。

3.頭頂部の損傷

頭頂骨、側頭骨骨折。硬膜外血腫。頚椎損傷にも注意する。

■頭蓋骨骨折の部位による頭蓋内病変の可能性

1.陥没骨折:脳挫傷
2.側頭骨線条骨折、上矢状洞にかかる骨折:硬膜外血腫
3.耳にかかる骨折:聴力・平衡機能障害、顔面神経損傷、頭蓋底骨折、髄液漏
4.後頭部の骨折:後頭蓋窩血腫

■肢位による病変の鑑別(図1)

 図1(1)は片側の麻痺を示す。麻痺側が外旋する。頭蓋内血腫に多い。(2)除皮質硬直は頭部前屈、上肢屈曲、下肢進展が特徴である。大脳皮質の広範なダメ−ジを意味する。予後不良。(3)除脳硬直は頚部進展、上肢下肢進展、上肢回内を特徴とする。脳幹部の損傷を意味し、予後不良である。

◆頭皮の損傷

 頭部、顔面の皮膚は血管が豊富で、また緊張が強く、創が開くために小さな裂傷などでも比較的大量の出血となる。また、頭皮に損傷がある場合には骨折を調べる。

◆頭蓋外の血腫

1.皮下血腫
頭皮と腱膜との間にできるいわゆるコブ。

2.帽状腱膜下血腫

帽状腱膜と骨膜との間にできる。縫合線を越えて大きく広がることがある。

3.骨膜下血腫

骨膜下にできる。縫合線を越えて広がることはない。

【経過観察のポイント】

1.意識レベルの変化
2.呼吸パタ−ンの変化

[2]顔面外傷

 頭皮同様に出血が多い。

■評価のポイント

1.頭蓋内病変の合併の有無。
2.筋突起骨折など開口障害の有無。
3.気道損傷の有無。
4.ガラス片などの異物の有無。
5.頚椎損傷の可能性。
6.眼球損傷、異物の有無。

【処置】

1.気道の確保
2.出血に対する応急処置
Barton包帯(図2)、サ−ジカルテ−プ(Steri-Strip(R), Leuko-Strip(R)など)などによる創閉鎖止血。

[3]胸部外傷

胸部には心臓、大血管、肺、気管など生命維持に直接かかわる重要臓器が存在する。

■救命処置が必要な胸部外傷

1.胸部大血管損傷
2.心臓損傷(破裂)
3.心タンポナ−デ
4.肺破裂(緊張性気胸)
5. Flail Chest

1)Flail Chest(動揺胸壁)

 複数本の隣接する肋骨が、一本につき複数箇所骨折している場合に起きる。
【症状】呼吸困難、疼痛著明。
【治療】
  1. 気道確保。陽圧呼吸による内固定。
  2. 外固定、牽引(図3)。

【注意】血・気胸、肺挫傷などを高率に合併する。

2)単純肋骨骨折

一本の肋骨につき一ケ所の骨折の場合。気胸、血胸、肺挫傷などを合併することもあるが、これのみなら疼痛以外あまり問題はない。
【治療】
 災害現場の応急処置としては、図4のような絆創膏固定が有効である。方法は患者の上肢を挙上し、胸骨、脊椎棘突起を2〜3cm越えて太い絆創膏を重ねて固定する。呼気時に固定することと骨折部より上下1〜2本まで固定する。

3)胸骨骨折

【概念】
 外力の直達により、胸骨柄と胸骨体部の連結部に好発する。
 頻度はあまり多くないが、Flail Chest様の呼吸となり、呼吸機能を大きく障害する。視診によっても診断は容易であるが、血気胸、気管損傷、縦隔損傷、心臓損傷、食道破裂などの可能性を念頭に置くべきである。皮下気腫を併発することが多い。また、脂肪塞栓もしばしば併発する。
【治療】
手術によりワイヤ−、またはプレ−ト固定を行うが、応急処置として、副木による外固定(図5、写真1)や手術までの処置として、牽引(Flail chestの牽引と同様)、および人工呼吸による内固定が有効である。現場からの搬送中で気管内挿管下に人工呼吸が行えない場合には、マスクによる用手的な陽圧補助呼吸が有効な場合もある。
【経過観察のポイント】
1.胸部外傷の場合、既にショック状態を呈していたり、重要臓器の直接損傷で容易に状態が悪化する。
2.肋骨骨折や胸骨骨折はしばしば激しい疼痛を伴い、鎮痛剤を使用して患者を鎮静しなければならない場合が多い。そのため、呼吸困難や意識レベル変化のなどに対処が遅れがちとなる。出血傾向がなく、可能であれば持続的胸部硬膜外ブロックが、意識の維持と疼痛管理に有効である。

4)胸部圧迫症

【概念】
 胸部または腹部の圧迫により、上大静脈の還流が障害されて発生する。
【症状】
 顔面、眼球溢血。
肋骨、肋軟骨骨折をともなうことも多い。重篤なものでは眼底出血、脳内出血をきたすこともある。
【処置】
安静。

5) 気胸(外傷性)

1.閉鎖性気胸
胸腔が閉鎖されている場合。
緊張性気胸に至らなければ、一過性の呼吸困難のみ。

2.開放性気胸
外傷により、胸腔が大気に開放されている場合。
患側肺が完全に虚脱し、高度の呼吸困難をきたす。

3.緊張性気胸
閉鎖された胸腔内に創から漏出した吸気が貯留する。気胸が増加し続け、患側肺は虚脱し、心臓を圧迫するようになる。心臓は拡張障害をきたし、心タンポナ−デ同様の循環動態となる。

【治療】
 閉鎖性気胸で呼吸困難が強くないものは経過観察するが、原則として、胸腔ドレナ−ジし、低圧持続吸引する。

【経過観察のポイント】
胸腔ドレナ−ジのエアリ−クの増減と出血量の増加。エアリ−クの量が短時間に変化するのは病態が悪化したか、ドレナ−ジにトラブルが発生したと考える。

[4]腹部外傷

【概念】腹部外傷が直接生命にかかわる機序は、実質臓器または血管損傷による腹腔内出血や後腹膜出血、また、腸管損傷による腹膜炎の併発である。前者では肝臓、脾臓、後腹膜の腎臓、大動脈、下大静脈、腸間膜動脈などの損傷・出血で、容易に出血性ショックに陥る。後者ではとくに結腸の破裂や穿孔で容易に腹膜炎が成立する。

【管理のポイント】

 腹部外傷を診る場合、以下の症状に注意する。

(1)腹壁の損傷。
(2)腹部の膨隆。
(3)胸・腰椎の損傷。
(4)筋性防御。

腹部エコ−による血腫の診断、X線写真によるFree airの証明は、検査が可能であれば、有力な診断根拠になる。
(5)爆裂創などに対しては異物にも注意する。

【緊急手術の適応】

(1)腹腔内異物:爆裂の破片、銃創など。
(2)腹膜を貫通する刺創。臓器損傷が疑われ、バイタルサインが増悪するもの。
(3)出血性ショック。
(4)横隔膜下のガス像。

【経過観察のポイント】

汎発性腹膜炎の成立と出血に注意する。

1.38.5℃以上の発熱。急激な体温の変化。
2.筋性防御の出現。
3.低血圧。

[5]圧挫症候群(crush syndrome)

1941年、第二次世界大戦中に初めて報告された外傷性横紋筋融解症26)。四肢(とくに下肢)の広範な挫滅や阻血により引き起こされる。ミオグロビン血症、ミオグロビン尿、急性腎不全を主徴とする。

 急性腎不全の機序としては、アンギオテンシンU、カテコラミン、アルギニン、バゾプレッシンなどの腎血管収縮物質の放出、微小血栓、なども考えられているが、筋肉崩壊により血中に放出されたミオクロビンが尿細管を閉塞するというものが有力である27)

【突然死】

四肢または下半身を絞扼された状態で、会話が可能であったような症例が、絞扼部位を開放された直後にショック状態に陥ったり、心停止を起こすことがしばしばある28,29,30)。絞扼部位からのK放出による高K血症、血液の急激なアシデミアへの変化、循環血液量減少性ショックなどが考えられているが、高K血症が有力である31,32)。救出後のおもな死因は敗血症、出血である。

【症状および検査所見】

1)循環血液量減少(出血性ショック)
2)急性腎不全(ミオグロビン尿-褐色尿)
3)コンパ−トメント症候群(非開放性の場合)
4)高K血症
5)代謝性アシド−シス
6)CPK異常高値(104−106 U/ml)
LDH、AST(GOT)高値
7)低Ca血症
8) 敗血症

【診断】
急性腎不全、ミオグロビン尿証明。

【治療】

(1)腎不全予防のため、大量輸液(10,000〜20,000ml/日)を行い、それに応じた尿量を確保する。必要があれば利尿剤(フロセミド、マニト−ル)を投与し、尿量を確保する。

 乳酸加リンゲルを20ml/kg/hrの速度で投与開始し、一日量計160ml/kg輸液、一日尿量100ml/kg、尿pH6.5以上維持を推奨するものもある30)

(2)血液浄化法
 血液透析(HD)。状態が悪いとき、とくに循環動態が悪いときには、CVVF、CHDFなど持続的血液浄化を行う。

(3) その他、代謝性アシド−シスの補正、血清K値の補正を行う。

【経過観察のポイント】
1.褐色尿の出現。
2.尿量の減少。

[6]コンパ−トメント症候群

1881年「Volkman's ischemic cont- racture」として初めて報告された。1914年、Murphyは、筋肉内の出血、浮腫、うっ血などにより、腫脹がきわめて高度となり、四肢が阻血となる状態として報告した33)(写真2,3)。

おもに四肢の外傷、血管損傷、熱傷などで発生するが、薬物中毒や長時間の麻酔などで四肢が圧迫された際にも発生する34)

【症状】
古典的『five Ps』

  1. Pain(疼痛)
  2. Pulselessness(脈なし)
  3. Pallor(蒼白またはチアノ−ゼ)
  4. Paralysis(麻痺)
  5. Paresthesia(異常知覚)

【治療】

減張切開。写真2のように組織圧を測定すると減張切開の根拠になる。組織圧50−60mmHgで減張切開するのが一般的である。

【注意】
減張切開後、止血に難渋することがある(写真4)。

【経過観察のポイント】

1.四肢の高度な腫脹。
2.橈骨動脈、足背動脈の拍動触知。
3.疼痛の変化。

[7]熱傷

 種々の災害において二次的な損傷でおこることが多い。

 古い分類と現在主流の分類で混乱することが懸念されるので、現在の分類を表9に示す。

 地震では、火災のほか炊事中やスト−ブの上のお湯が落下して、熱傷を負うことが多い。

【重症度の評価】

 熱傷指数による評価は治療方針の決定や予後判定にきわめて有効である。しかし、S.D.B.とD.D.B.を鑑別することは重要であるが、負傷直後にこれらを区別するのは困難な場合が多い。熱傷面積を基本に、呼吸に影響を及ぼす気道熱傷、顔面、胸部の熱傷の有無で評価する。

◇熱傷指数(Burn Index)

BI=V度受傷面積+ 0.5 x U度受傷面積
10〜15以上を重症とする。

◇熱傷面積の判定(図6)

1)9の法則(rule of nine)…成人に適用
2)5の法則(rule of five)…幼小児に適用
 3)手掌法:体表面積の1%が(患者の)手掌ひとつの面積に相当する。

◇気道熱傷

火炎、高熱のガスを吸入し、口腔から咽頭、喉頭、気管、気管支に熱傷を負うもの。

【症状】

 疼痛、浮腫などの熱傷の局所症状に加えて以下の症状が重要である。

(1)低タンパク血症:局所への漏出による。
(2)貧血:局所からの出血と溶血による。
(3)高カリウム血症とカリウム感受性亢進
(4)麻痺性イレウス
(5)感染症:急性期離脱後、問題となる。
(6) 高血糖:感染予防の意味でも管理が重要である。

【管理のポイント】

Artsの基準(一部改変)

  1. 総合病院に入院、全身管理

    #U度30%以上
    #V度10%以上
    #顔面、気道などの熱傷
    #熱傷指数15以上

  2. 一般病院で入院

    #U度10〜30%
    #V度2〜10%

  3. 外来通院
    #U度10%以下
    #V度 2%以下

【治療】

重症度を判定し、Artsの基準による処置が必要と考える。熱傷に関しては平常時と同じ治療が必要である。重症の場合には直ちに植皮手術、集中治療を行える医療機関に搬送する。また搬送に際して、静脈路を確保し、さらに気道熱傷が疑われる場合には浮腫が発生する前に気管内挿管で気道確保を行って搬送するのが賢明である。口唇に熱傷がある場合、気管チュ−ブは、歯肉に縫合して固定するか、ワイヤ−で歯牙に固定する。

〇輸液

中等症以上の治療の基本は輸液である。Baxterの公式などがおおまかな輸液の指標になるが、尿量(1ml/kg/hr以上)確保を目標に輸液量を決定するのが実戦的である。

Baxterの式
輸液量(1日目)=  乳酸加リンゲル4ml×熱傷面積(%)×体重
(受傷後8時間で1/2、8-16時間で1/4、16-24時間で1/4)

低タンパク血症が高度(血清タンパク:3g/dl以下)であれば、数時間後からFFP(新鮮凍結血症)、アルブミン製剤などの投与を開始する。また、溶血が認められたらハプトグロブリン製剤を投与する。

▽溶血と血尿の鑑別

尿の外観(色)はほぼ同様であるが、尿または血液を遠心分離したとき、溶血の場合には上澄部分が赤色になる。

〇植皮・Debridment

第3度熱傷にはできるだけ早期に、壊死組織の除去と植皮を行う。

〇減張切開

四肢が腫脹によって阻血(コンパ−トメント症候群)になるため、真皮まで切開して緊張を開放する。

胸部の熱傷で、絞扼による呼吸障害が出現したら、胸部にも減張切開(写真5、6)を行う。

◇小児における熱傷の特徴

小児は水代謝量が多く、ショックに陥り易いので、熱傷面積が同じなら、小児の方が重症と考える。

皮膚が薄く、真皮・乳頭層が乏しいので熱の進達が速い。従って、熱傷面積を過小評価しやすい。また、成人に比し、全身に対する頭部の体表面積の割合が大きいことも念頭に置くべきである。

【経過観察のポイント】

1.尿量の変化に集中する。
2.重症熱傷患者は動くことや声を出せない場合があるが、意識は正常であることが多い。これに留意して患者に接する。
3.バイタルサインが急激に変化を起こすに注意する。

[8]骨折

1)骨盤骨折

骨盤骨折そのものよりも、問題となるのは付随する外傷または合併症である。もっとも大きな問題は後腹膜への出血である。さらに尿道損傷などの可能性も考慮する。

【治療】

(1)止血している場合:絶対安静。

 転位が軽度であれば下肢介達牽引とキャンバス懸垂など。転位が強い場合は直達牽引や創外固定を行う。

(2)出血している場合は内腸骨動脈を中心とした出血部位に経動脈的血管塞栓術(TAE)を行う。

【経過観察のポイント】

1.急性期にもっとも恐れなければならないのは出血である。大量出血の兆候のないものや一時的に止血しているものでも、体位変換や搬送の際に突然出血性ショックに陥ったり、心停止となるものもある。

2)四肢開放(複雑)骨折

【治療】

(1)一次的に牽引を行い、待機的に創外固定を行う(写真7)。必ず、創を開放とする。

3)大腿骨(骨幹部)骨折

 局所に3,000ml程度の出血、血腫を形成することもあり、これだけでショック状態に陥ることもある。コンパ−トメント症候群の原因として外傷では最も多い。ショックパンツが有用である。また、整復位にない場合は疼痛が激しく7kg程度の牽引が必要である。

【経過観察のポイント】

1.疼痛の管理と、出血に対する注意。

4)大腿骨頚部骨折

【概念】

 加齢による骨粗鬆症が基礎に存在する。高齢女性に多く、通常骨折を起こすほどの外力が加わらなくても起こる。

【症状】

偏位が小さい場合には疼痛が著明でないこともある。骨折としては重症でないが、多くは高齢者で、呼吸循環器系の合併症を有したり、予備能がないので注意を要する。

【治療】

(1)安静
(2)鋼線牽引
(3)可及的速やかに手術を行う。

【経過観察のポイント】

1.高齢者であるためにその他の合併症に注意する。
2.長期間の臥床により、痴呆症状が発現するので、受傷から3−4日頃には、手術できる病院に搬送する。

5)脊椎損傷

 落下、転落などの際に起こりやすい。

【管理ポイント】
 搬送時頚椎カラ−、砂嚢などで固定し、平らな硬い担架に固定して搬送する(写真8)。

【経過観察のポイント】
1.急性期には浮腫などにより麻痺レベルが進行する可能性を念頭におき、頻回にチェックする。とくにC3-5(横隔膜)、Th10-11(呼吸筋)のレベルは患者の予後に大きく影響する。

◆骨折の合併症

1)脂肪塞栓症候群

大腿骨、頚骨、上腕骨、骨盤骨折などの受傷後、数時間から2〜3日頃までに発症する。咳嗽、呼吸困難、頭痛、精神症状などから初発する。

【概念】骨折部位から脂肪滴が血中に遊離して、全身に塞栓症状を起こす。

【診断】

呼吸器症状(低酸素血症)、精神症状(錯乱、傾眠傾向など)、DIC(皮膚、眼球結膜などの点状出血)などを主症状とする。

 胸部X-P写真ではびまん性雲状陰影、吹雪状陰影(Snowstorm appearance)が特徴的である。

 診断基準を表10に示す。

 尿中や、血中に遊離脂肪滴を証明すれば診断は確定するが、証明できることはまれである。

【治療】

1.呼吸管理
酸素吸入など

2.DICに対して、タンパク融解酵素阻害剤(ーFOY、ートラジロール、ーフサン、ーミラクリッドなど)投与。

3.アルコ−ル(5%)点滴など。

[9]外傷の二次的感染症

1)破傷風

【概念】

破傷風菌(Clostridium tetani)(グラム陽性嫌気性桿菌)の局所感染より発症する。破傷風菌により産生された菌体外毒素(exotoxin)が中枢神経系に強い親和性有するために特有の筋強直を起こす。また、破傷風菌はおもに土壌中に存在する。

 災害現場や、医療機関での一次的創処置に際しては、破傷風の感染を念頭に置き、発生を予防することが重要である。

【感染】

 創が土などに汚染されたとき、釘などを踏み抜いたときなどに破傷風菌が芽胞として進入する。1964年頃より破傷風トキソイドの予防注射が一般化し、発生率が減少している。

【予防】

(1)充分な創洗浄を行う。
(2)汚染創を開放する。
(3)本感染が疑われる状況のときには破傷風トキソイド0.5mlを皮下注または筋注する。しかし、予防接種歴のない患者では不十分であり、さらにTIG250単位を筋注する。

【症状】

 潜伏期は1〜数日である。発熱を伴う場合が多い。咬筋の痙攣による開口障害や、牙関緊急(trismus)の出現に始まり、全身痙攣に至るものもある。項筋の痙攣による項部硬直も認められる。開口障害発生が速いほど、重症化するともいわれている。その他、頻脈、異常高血圧、不整脈、大量発汗による脱水などを呈することもある。

【診断】

 症状を呈した場合、破傷風が念頭にあれば、特有の症状から診断は容易である。創部からの菌検出率は低く、期待できない。

【治療】

(1)創処置:創の開放、洗浄を行う。

(2)免疫療法:トキソイド0.5ml(i.m.またはs.c.)、およびTIG5000単位一回投与(i.m.)を行う。

(3)抗生物資投与

ペニシリンG(PCG)のほか合成ペニシリンやセフェム系薬剤に対しても感受性がある。
 抗生物質は破傷風菌の芽胞や毒素には無効であるが、破傷風菌自体や混合感染の治療という観点からは有用である。

(4)咬筋強直などを発症した場合、免疫療法などでは対処できないので、呼吸管理、集中治療が行える医療機関に収容する。

2)ガス壊疽

ガス産生嫌気性菌であるクロストリディウム属菌(おもにClostridium perfringens)を起炎菌とするクロストリディウム性ガス壊疽と非クロストリディウム性ガス壊疽があるが、災害時には遅発性感染症として前者が重要である。軟部組織に壊死性の炎症を引き起こすが、炎症が筋肉に及ぶと急激に進行する。感染創から皮下組織、筋膜に沿って体幹・中枢側へ進行する。

【症状】

組織の壊死・炎症のほか、溶血性貧血、黄疸,CPK上昇など。

初期(2日以内)には患部の疼痛、握雪感やX線写真でガス像を確認できる。さらに、2日目以降に壊死部分が腫脹し、皮膚が暗赤色から黒色に変化して筋肉が壊死した独特の臭気が認められる。診断・治療開始が遅れるとトキセミアとなり腎不全やショックに陥ることもある。

【診断】

 創部から起炎菌を検出できれば診断は確定するが、嫌気性菌培養による同定は難しく、検査結果を待たずに治療を開始しなければ手遅れになる。早期の特有な症状から診断する。

【治療】

(1)切断、または壊死筋膜・組織を除去・洗浄し、徹底的に開放する。

(2)高圧酸素治療が著効を示し、最近はできる限り四肢を温存する方向である。高圧酸素治療が行える施設に搬送する。

(3)抗生物資投与。

  ペニシリンGの大量投与を行うが、混合感染の可能性が高く、複数の抗生物質を併用して広域にカバ−する必要がある。

[10]凍傷

第T度(紅斑性)

皮膚は蒼紅(紫)色を呈し、腫脹する。知覚鈍麻を生じる。温めると、鮮紅色となり掻痒感を生じる。

【治療】

温水(40℃程度)で20〜30分間温める。

第U度(水疱性)

【治療】
温水浴に加え、感染予防を行う。

第V度(壊死性)

 皮膚は潰瘍、壊死となる。無痛。
【治療】
 壊死部分は切除または、切断を行うが、境界がはっきりしてから行う。


B.非外傷性疾患


[1]溺水

 意識レベルが悪い場合、低酸素血症が強い場合には気管内挿管下に陽圧換気を行う。軽症の場合、酸素投与のみを行うが、12時間から24時間頃に発生する二次溺水に充分留意し24時間以上経過観察する。

[2]偶発性低体温

33〜32℃で不整脈が発生する。
28〜26℃で心停止となる。
26℃以下で心停止の場合、死体か生体かの判別は難しい。

【治療】

 心停止でない場合は静脈路、気道を確保し、保温程度で経過観察する。温水シャワ−などで急激に体温を上昇させると、末梢血管が虚脱し、ショックとなる。

心停止の場合は心臓マッサ−ジ、人工呼吸(または補助循環)、代謝性アシド−シスの補正などを行いながら、体温が28℃程度まで上昇したところでエピネフリン投与を開始する。

[3]有毒ガス中毒

 中毒の中では集団で発生し、災害に発展する可能性がもっとも高い。

1)一酸化炭素中毒(CO中毒)

【概念】

 COは酸素よりもヘモグロビン親和性が高いため(250倍)、生体内でCO-Hbを生じ、組織への酸素供給を阻害する。

一般に密閉部での不完全燃焼、自動車の排気ガス、都市ガスの吸入、炭坑事故などで発生する。CO自体は無臭である。

【症状】

 軽症では頭痛、悪心、嘔吐など。重症では種々のレベルの意識障害から昏睡、心停止まで。必ずしも、血中CO-Hb濃度と症状は相関しない場合が多いが、重症度の参考に表11を示す。

【検査所見】

  1. 血中CO-Hb高値(特異的)。ただし、喫煙者では通常でも動脈血中COーHbが10%程度のこともある。また、治療されなくても、時間経過とともに低下する。
  2. 代謝性アシド−シス。
  3. 不整脈。
  4. その他AST(GOT)、ALT(GPT)、LDH、CPKなどの逸脱酵素上昇。

【治療】

治療方針:できるだけ早く体内からCOを洗い出す。

  1. 100%酸素吸入。
  2. 高圧酸素療法(2〜2.8ATA;60〜90分)。

【備考】

 高圧酸素治療を行えば、一回の治療で、症状は劇的に改善するが、1−数週間後に再度、意識レベルが低下したり、痴呆症状が発現することがある。間欠型CO中毒というが、機序などは不明である。

2)プロパンガス中毒

【概念】

 プロパンガス(LPG)は、無臭、無毒であり、これによる中毒は、空気に対する比重が大きい(1.52)ために酸素欠乏や窒息、または高濃度プロパンガスの麻酔作用による中枢神経抑制であると考えられている。

 付臭剤による感覚閾値は0.5%以下と規定されている。

【治療】

 心停止に至らないものは予後良好であるが、症状に応じて、酸素投与や人工呼吸を行う。

3)硫化水素中毒(H2S中毒)

【概念】

 H2Sガスは火山活動のほか、石油化学工場(工業過程の副産物)、下水処理場(細菌の分解産物)などでも発生する。H2Sは空気よりやや重い、「腐ったタマゴの臭い」と表現される刺激臭を有する無色のガスである。生体における臭気の感覚閾値は0.03ppm程度であるが、100ppm以上では嗅覚麻痺に陥る。急性中毒閾値は500ppm程度であり、中毒症状は突然発生すると考えられる。

 生体に対する作用は接触した粘膜で反応して生成される硫化ソ−ダによる気道粘膜、眼球結膜、角膜、皮膚に起きる炎症と吸入したH2Sがシアン化合物と同様の機序で組織への酸素供給障害を起こすものとがある。

また、生体は生理的にH2Sを解毒するので、中毒による障害は暴露された時間ではなく、暴露されたH2S濃度で決まる。

【症状】

 軽症では頭痛、めまい、歩行時のふらつきなど。重症では意識障害、けいれん、昏睡、呼吸筋麻痺により死亡する。

【治療】青酸化合物中毒同様である。

4)塩素ガス(Cl2)中毒

【概念】

塩素ガスは特有の臭気をもつ黄緑色のガスで、空気に対する比重は大きく、水溶性である。中毒症状は、生体粘膜表面で水と反応し、塩酸や活性酸素を生じて、障害が発生する。塩素は、水道水、プ−ルなどの消毒、漂白剤のほかプラスチィック工場などでも使用されている。

【症状】
 粘膜における炎症、とくに吸入により生じる肺水腫に注意する。

【応急処置】

1.洗浄

 暴露された衣服を除去し、接触した皮膚は石鹸水で洗浄する。眼球も流水で洗浄する。

5)シアン(青酸)化合物中毒

【症状】

〇軽症:呼気ア−モンド臭、頭痛、めまい、顔面紅潮、呼吸障害自覚(窒息感)、呼吸促迫、頻脈、嘔気、嘔吐など。

〇重症:意識レベル低下、意識消失、けいれん、徐脈、呼吸停止。

〇その他:高K血症、高Ca血症、心電図上房室ブロックなど。

【診断】

呼気ア−モンド臭(0.2〜5ppm)
血中乳酸値上昇→ 代謝性アシド−シス

【治療】
(1)高流量(15L/分以上)100% 酸素吸入、  または人工呼吸(自発呼吸が不十分な場合)
(2)亜硝酸アミル吸入(1〜2A)
(3)亜硝酸ソ−ダ(3%)10mlを4分かけて静注。小児では0.3ml/kgを5分かけて静注。
(4)チオ硫酸ナトリウム(25%)50mlを10分かけて静注(小児では1.5ml/kg)。
改善がみられない場合には初回量の1/2量を追加投与

*すべての患者を24〜48時間経過観察する。

*亜硝酸アミルの吸入でメトヘモグロビン濃度が30%以上に上がってしまった場合は、メチレンブル−溶液(1%)1〜2mg/kgを5〜10分かけて静注、必要なら1時間後に再度投与する。

6)神経毒ガス(サリン、VXガス)中毒

【概念】

 化学兵器として開発されたサリン、VXガス、タブン、ソマンは化学構造や、生体への作用機序が有機リン系農薬と類似している。

 吸入または接触で体内に吸収され、血漿中のコリンエステラ−ゼ(有機リン、サリン)、および赤血球のコリンエステラ−ゼ(サリン、VXガス)と強力に結合する。その結果アセチルコリンが過剰に蓄積する。呼吸筋麻痺で死亡する。

【症状】

1.副交感神経刺激症状(ムスカリン様作用)
 眼痛、縮瞳、発汗、唾液・気道分泌亢進、悪心、嘔吐、気管支けいれん、徐脈など。

2.交感神経刺激症状(ニコチン様作用)
筋弛緩、血管収縮、頻脈、発熱など。

3.中枢神経刺激症状
 興奮、頭痛、けいれん、意識障害、昏睡など。

【治療】

1.人工呼吸。

2.PAM(Pralidoxine iodide)投与。
 PAMはコリンエステラ−ゼとサリンの結合を切り離す作用を持つ。暴露から10時間以内なら適応となる。成人で0.5〜1gを30分〜1時間で点滴静注。小児では25〜50mg/kg。効果がなければ反復投与するが、最大投与量は成人で一日6g程度。

3.硫酸アトロピン投与。アセチルコリンのムスカリン様作用に拮抗する。徐脈の改善を目安に持続投与する。有機リン中毒のように縮瞳の改善は指標にならない。

4.輸液
 サリン中毒では体液の喪失が激しく補充を必要とする。

5.血漿交換
血中から中毒物質を物理的に除去し、また、健常なコリンエステラ−ゼを補給する意味で有効であるが、集団で患者が発生した場合には施行できない。

【治療方針】
 重症の場合には、気管内挿管下に人工呼吸を行い集中治療ができる医療機関へ転送する。

【その他の注意事項】
 サリンは1滴が皮膚に接触しても致死量が吸収されるといわれている。液体に接触した可能性のある患者や衣服に直接触れたり、吸入しないように治療にあたる必要がある。また、汚染された患者は大量の水道水で洗浄する。さらに処置室の窓を開放し通気をよくする。

7)マスタ−ドガス中毒

【概念】

 マスタ−ドガスは戦争のための化学兵器として開発され、おもに第一次世界大戦中に使用された。アルキル化剤でDNAをアルキル化して二重鎖を破壊するとされるが、それだけでは作用を説明できず中毒機序は不明である。

【症状】

1.眼:結膜炎。失明することもある。

2.皮膚:紅斑、水疱形成など。高温多湿で皮膚への作用が増強される。

3. 喉頭炎、呼吸不全。第一次世界大戦中の早期死亡の大部分は呼吸不全によるものであったといわれている 35)

8)ホスゲン(COCl2)中毒

【概念】
 第一次世界大戦中にヨ−ロッパで化学兵器として使用された。水に溶けにくく、粘膜面の炎症は特異的でないが、タンパク質の変性などを起こし、肺水腫となる。

【症状】
肺水腫は2〜24時間後に発現する。

【治療】
 酸素投与および呼吸管理。

【経過観察のポイント】
 テロリズムなどの場合、軽症患者には被害者としての意識が強く、根底に怒りがあることも忘れてはならない。また、非常に不安が強く、それらに対する精神的なケアも必要である。

[4]光化学スモッグ

【概念】

 自動車排気ガスと太陽(紫外線)光線の反応によりオキシダントと総称される二次汚染物質が発生、それを吸入することによる。

 5月から10月頃、大都市の校庭などで運動中に発生することが多い。

【症状】

1.頭痛、めまい、嘔気など。
2.眼痛、流涙など。
3.呼吸困難、肺水腫に至ることもある。

【治療】
1.安静。
2.眼洗浄。

[5]外傷後ストレス症候群

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)

 災害を経験した被災者のみならず医療従事者や災害援助にかかわったものにも発生する。 凄惨な災害現場や恐怖体験が、脳裏に焼き付き、頻回に連想する(flash back)、抑うつ、孤立などの症状を呈する。

 1991年湾岸戦争の際、アメリカ人専門医は外傷外科医、集中治療医についで精神科医が多く派遣された。災害においても、生存した被災者の精神生活の質を向上させる意味で、積極的に精神的ケアを行うことは重要である。


おわりに

 種々の災害とその特徴的病像について述べた。1988年12月アルメニア地震の際、アメリカとイギリスは災害援助として、100台以上の透析器を被災地に送った36)。これは地震の規模、建築構造、被災の状況から圧挫症候群が多発するという予測に基づくものである。過去の災害を検討し、起こりうる事態を予測して対応することが重要である。


引用・参考文献

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