阪神・淡路大震災 1

鵜飼 卓、事例から学ぶ災害医療、南江堂、東京、1995, pp 35-42
(担当:市木)


災害の特徴

〇発生年月日:1995年1月17日(火)5時46分

〇発生地:阪神地区および淡路島

〇気象条件:晴れ〜うす曇り、気温5度、無風

〇被災者数:

死者、行方不明者5,502人
負傷者 約3〜4万人
避難者数 一時期30万人
〇家屋・建築物の損壊: 203,130棟

〇道路:主要幹線は国道2号線と43号線を残してすべて不通

〇ライフライン:停電、水道の途絶、ガス供給停止が広い範囲で生じた。

〇医療機関の損害:
 神戸市の約90%の病院がなんらかの被害を受け、診療所の約60%が診療不能となった。
 診療を続けた病院も、ほとんどライフラインの損害のため臨床検査が不可能であったり、患者の給食を準備することができなかった。またCTを含む放射線検査機器が使用不可能となった病院も多く、西宮市内の病院を例に取ると、11病院中手術室が使用できたのは2病院にしか過ぎなかった。

災害の特徴

・ 人工の多い近代都市を直撃した大地震(マグニチュード7.2)で、建物、道路、鉄道、ライフライン、情報通信網、医療機関など、人々の生活に関連するあらゆるものに大きな障害を生じた。

・ 一度に各所で家屋や建物の倒壊や火災が発生したので、負傷者も同時多発的に発生した。そのため、現場でのトリア−ジもまったく行われなかった。また、電話が不通で情報交換ができなかったため、損害を受けた病院に多数の負傷者が殺到したのに、被害が少なかったりまったく受けなかった病院には負傷者があまり来院せず、医療資源の全体としての有効利用ができなかった。

疾病構造の特徴

1、 死因

 窒息(外傷性窒息を含む)は約54%、胸部や全身の圧迫によるものが12.5%、一酸化炭素中毒を含む熱傷死が12.2%などで、70%以上は即死と考えられる。

2、 入院に至った症例の外傷

 脊髄損傷、脊椎骨折と四肢の骨折、骨盤骨折が多い。

3、 救急部を受診した患者の外傷部位

 四肢が約31%、頭部外傷が約26%、腹部外傷は以外と少なく約0.6%。

4、 時間の経過と疾病構造の変化

 重傷外傷患者への救急対応は被災地内ではほぼ24時間で終息に向かい、3日目ころから数週間にわたって、軽度の創傷処置、従来からの疾病の増悪、通常内服している医薬品を失ったことによる医療需要の増加、寒冷による感冒、肺炎、ストレス潰瘍や心筋梗塞の発症などが、主として避難所生活を送っている人たちを中心として問題になってきた。

5、 挫滅症候群crush syndromeについて

 今回の地震で目立った挫滅症候群とは、重量による長時間の圧迫の後、四肢または体幹および骨盤部への荷重の解放によって起こるショック様の症状のことをいう。損傷を受けた筋肉からのミオグロビン尿や高カリウム血症によって気付かれるが、CPKの異常高値も診断のよい指標となる。


阪神・淡路大震災 2

鵜飼 卓、事例から学ぶ災害医療、南江堂、東京、1995, pp 42-48
(担当:河野)


救急医療

1、 病院前救護

2、 傷病者の集中

3、 病院での救急医療

4、 転送搬送と受け入れ

外部からの応援と救護所の医療

1、 アジア青年医師連合(AMDA)、日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)、キリスト教医科連盟(JCMA)などの多くのNGOが、時間の経過とともに応援に駆けつけた。

2、 避難所での患者は、当初大半が上気道炎など感冒様症状を訴えるものであった。従来服薬中の薬を失ったり、かかりつけの開業医が診療をしていないために薬をもらいにくる人も多く、高血圧や不眠、腰痛などの症状で受診することが多かった。

その他の保健衛生・医療をめぐる問題

1、 水不足が最も大きな影響を与えた。健康が脅かされることは少なかったが、生活水を補うには全く不十分であった。

2、 自然災害後に伝染病が蔓延するか否かはもっぱら飲料水の良否にかかっているので、保健所は水質検査を行って、住民にその結果を公表すべきだ、とのこと。

3、 被災地からあまりに遠い所に集積所が設けられたため、援助物資の分配は困難だった。

本災害の教訓

1、 最大の教訓は、医療機関も医療従事者も災害の被害を受けるというごく当然の事柄である。

2、 通信と交通の問題が救急医療を円滑に行う上で大きな障害となった。

3、 これらを解決する災害医療対策が望まれる。


北海道南西沖地震 1

浅井康文ほか、事例から学ぶ災害医療、南江堂、東京、1995, pp 48-55
(担当:中川)


災害の概要

〇発生年月日:1993年(平成5年)7月12日(月)、22時17分ころ
〇被災者:死者201人、行方不明者29人、重傷者81人、軽傷者24 0人
〇気象:曇り
〇震源地、規模:北海道南西沖、深さ34km、マグニチュード7.8

災害の特徴

1、 津波:地震の5分後に襲来し、多くの人が溺死。青苗地区では集落が全滅。

2、 火災:青苗地区で起こり、189棟が全焼、焼死者3人。

3、 崖崩れ:奥尻地区のフェリー埠頭の裏山が崩落し、ホテル押し潰した。28人死亡。

ライフライン、通信

1、 電話回線:マスコミその他による回線の独占によりほとんど機能しなかった。

 今後)災害時に優先して使えるように契約を結ぶ必要がある。

2、 防災消防無線:桧山支所側でも使用していたため、混線し十分機能しなかった。

 今後)医療専用無線システムの設置

3、 消防無線:各消防署が一斉に広域共通波を利用したため、交信が不能となった。

 今後)周波数の増強と全国共通波の有効利用

消防活動

1、 問題点

2、 今後の対策

自衛隊の役割

1、 航空:13日午前5時5分より、緊急患者を倶知安の病院に運ぶ。

2、 陸上:医療チーム(医師7人、看護婦5人、薬剤師1人、衛生救護員17人)を編成し、救援活動を行う。

3、 海上:たまたま洋上訓練中であり、海に流された人の救助、捜索にあたり、医官の機内配置と救援物資の補給などが行われた。

疾病構造の特徴

 津波による溺死者や崖崩れによる圧死が多く、重傷者は比較的少なく軽傷例が多かった。


北海道南西沖地震 2

浅井康文ほか、事例から学ぶ災害医療、南江堂、東京、1995, pp 55-61
(担当:舟戸)


医療対策

奥尻地区

青苗地区

稲穂地区

神威脇地区

ヘリコプターの役割

 ライフラインは寸断され、港は沈んだ船のため近づけないので、ヘリコプターによる救援が必要となった。

 学校のグラウンドがヘリポートとなったが、周囲の電線が離着時の障害になり、今後各避難所のヘリポートの整備が必要である。

報道機関の役割

 NHK が偶然奥尻にいたためにリードする形となった。従来地震が起き てから10分以内の警報発令はかなり困難であるとされていたが、今回は 5分後という早さであった。しかし、すでに青苗地区は津波襲来後であっ たことからするとさらに警報発令は早くしなければならない。ラジオは 停電によりテレビが意味をなさない災害時に威力を発揮した。災害のときは懐中電灯、携帯ラジオ、電池は必携である。

〇報道機関のメリット

  1. 刻々と変化する状況を明らかにする。
  2. 被災者の安否確認
  3. 全国からの見舞金、救援物資が寄せられる(復興のための媒体)

〇デメリット

  1. 電話回線を独占したため情報網が不通、混乱            
  2. 関係者の不心得、あまりに悲惨さを報道しようとするあまり被災者の感情を逆なでしたことがあった。

ライフラインの被害と復旧状況

1、電気:約2300戸のうち約1700戸が停電、9日後に奥尻発          電所から送電

2、水道:広範囲に被害、給水車で飲料水を確保。11日後に奥尻地区、13日後に青苗地区が仮復旧

3、LPG、ガスボンベ:10日後ガスボンベ、コンロの運搬終了

4、電話回線:復旧までNTT の臨時無料公衆電話、8日後応急復旧がほぼ完了

(疑問=仮復旧でどの程度機能できたのか、完全復旧はいつ頃か)

島外からの医療救援隊の活動状況

1、 陸上自衛隊医療チーム:医師7名を含む計30名、翌日から診療開始(内科、外科、麻酔科、精神科、小児科)

2、 日本赤十字北海道支部:同様、8月10日以降は巡回診療班も

3、東日本学園大学:歯科診療班

4、 その他札幌医大など

防疫

伝染病予防法に基づき消毒が行われた。

(疑問=効果はどの程度か)

考察

〇北海道南西沖地震の特徴
  1. 震源が浅く直下型
  2. 津波発生が早かった
  3. 離島に被害集中
  4. 陸上自衛隊の医療チーム初出動
  5. 通信情報網の混乱

〇4つの適切性right person、right time、right place 、right materials からすると評価できる点は多かったと思われる。

おわりに(今後の対策)

1、警察、レスキュー、自衛隊、医療関係者の横のつながりが必要

2、機動力のあるヘリコプターと、有視界飛行に頼ることのない航空機を組み合わせた搬送体制を確立

3、ドクターヘリの導入

4、 医療専用無線、各組織間の通信網の確立


災害看護 III

高橋章子、エマージェンシー・ナーシング 新春増刊200-207、1996
(担当:安岡)


災害時の看護活動(活動の場)

1、被災現場での活動

 災害時にはチーム行動をとることが多いが、時には看護婦独自に対応の必要な場面にも遭遇する。柔軟に編成を組みやすい数名の活動単位を構成して、災害規模やニーズに応じて単独または複数の単位が合同して活動出来る構成にする。各単位は独立して活動できるように、各種災害時に予測される傷病の知識・技術を訓練したり、必要最小の医薬品・資器材を携行出来るよう備える。具体的には次のように設定する。

  1.  資器材を準備し、活動の場を設営する。災害に関する情報を収集し他の関係者と協議しながらマニュアルに基づいて資器材を準備する。また、利用可能な設備・場を有効に利用して、災害看護の原則に沿った救護体制を構築する

  2. 各種災害に相応する系統的看護を即時に提供する。トリアージと救命処置、応急処置と負傷者の誘導、重傷者の積極的搬送、負傷者の継続的観察、などが挙げられる。

  3. 看護婦としての多面的能力の実践

  4. 系統的看護活動を指揮したり調整する能力を発揮する

  5. 被災者と良い関係をもち、人や場を調整・管理する能力を発揮する。

2、 災害地の医療施設

  1. 医療施設アセスメント
  2. 入院患者の安全と救出
  3. 二次災害の予防・応援要請
  4. 緊急対策本部を設けて、幹部職員への報告や情報収集、対外対応の窓口とする。
  5. 施設の損傷が著しくなければ、外来患者の受け入れ準備をする。
  6. 入院患者・職員の生活用水、食事を用意する。
  7. 職員の精神面に配慮する。対策本部は家族の安否確認や保護についても考える。
  8. 病院自体の損傷が著しく、通常の指揮系統が混乱している場合には、新たな患者の受け入れは出来ない。むしろ内部の患者の安全に全力を尽くす。

災害時における看護婦の立場と行動

 災害時には多様な場面が想定できる。したがって看護婦が災害医療に参加する方法も単一ではない。チーム行動が効果的であるが、速やかな出動・救援のために複数の行動場面を想定したルールを作成しておくと行動しやすい。

災害看護のレベルアップ

 災害看護は特有の看護領域であるがまだ十分に開発されていない。レベルアップのためには
  1. 救急看護に関する知識と能力を高める。
  2. 看護行動を研究し定期的訓練を実施する。
  3. 看護指揮の要素と行動の実際面を図式化する。
  4. 看護婦の役割と責任を強化する。
  5. 災害看護に関する思想面を成熟させる。
等の課題がある。

災害看護学の確立

 我が国の看護界では、診療科別の看護が発達してきた歴史をもつ。よって、災害医療は必要性を感じながらもなじみの薄い領域であった。世界的に災害の多発している現代にあって、災害看護の思想が成熟していない我が国の医療界の現実は先進国に相応しいものとは言えず、災害医療の確立とその中での看護の位置付けを急がなければならない。

 そこで災害看護教育の方法であるが、災害看護に参加する看護婦全員がスペシャリストである必要はなく、知識や技術はピラミッド型でよい。すなわち裾野の広がりは卒業後2〜3年の看護婦に災害看護の初心者訓練を義務づけることで確保できる。最も必要なリーダーの育成は、救急看護経験者や災害看護に興味をもつ看護婦に段階的な積み上げ教育を行う。

 教育の成否は、看護部門のみならず医療社会全体の災害看護への認識と十分な支援にかかっている。そのためには医師のみならず、医療外の学識者など一般社会人の協力も必要であり、災害看護の必要性を広く啓発しなければならない。


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