災害医学抄読会(7/5/96)

医療確保の状況と災害、医療体制の今後の展望

山本光昭ほか、救急医学 19: 1629, 1995(担当:)


I. 阪神・淡路大震災における医療確保の状況とその考察

1.医療救護班の確保

 震災直後から2〜3日間の初期救急医療は被災地内にある病院や診療所の診療活動に加加え、被災地外からの医療救護チームの応援や被災地内に住居を構えていた医療関係者の応援などによって確保されていた。

 初期救急医療の確保のあと、非難所における住民の生活の長期化が考えられてきたため、厚生省から平成7年1月20日付けで各都道府県に「兵庫県南部地震にかかる保健医療スタッフの派遣について」という通知を発出し、1月23日に厚生省現地対策本部を設置し、1月26日から厚生省の連絡調整に基づいた各都道府県による救護センターが始まった。救護センターは概ね1000人以上の避難所から優先的に設置し、設置されていない避難所については、巡回診療をおこなった。

 さらに厚生省は平成7年2月9日付けで、避難所からの住民の移動が完了していないこと、民間ボランティアによる救護センターの運営が継続面で懸念された事から、3月末までの各都道府県による継続的、安定的な医療スタッフの派遣を依頼している。被災地での医療スタッフは正確には把握出来ないが、兵庫県保健環境部医務課調べの医療救護班の派遣数の推移は、巡回診療班と救護センターとに分けてみると、初期の立ち上がりは巡回診療班がはやく、1月22日に巡回診療班は160 班とピークを迎えた。一方で救護センターの診療班数は1月26日に巡回診療班を上回り、2月7日に222 班とピークを迎えた。その後徐々に縮小が図られ、2月末、3月末といった区切りごとに大幅に縮小され、4月末に撤退が完了した。

 災害時の医療救護チームの派遣には、1、初期の救急医療段階での速やかな派遣の問題と 2、災害によって診療所機能が低下した地域医療の確保の問題とに分けて議論する必要がある。前者は各自治体で計画去れてきたが、後者は今回の大震災では事前の計画やマニュアルなしに、現地からの情報をもとに体制を整えていった。

 初期の救急医療について、管波は、災害発生後1週間以内は民間活動優位、とくに3日間は絶対的優位と指摘し、災害発生後72時間は組織的対応は不可能で、行政は指揮系統の確立の労力やボランテッア活動の束縛をすべきではないと指摘している。ところで、初期の救急医療段階で医療スタッフの派遣がすべての解決にならないことも考慮する必要がある。死因の96% が圧死などの即死に近い状態であった事から、住宅の耐震性の強化や家具類の固定などの予防も必要であろう。

2.医療機関の復旧

 病院は比較的早く復旧しているが、診療所特に歯科診療所の復旧は遅れている。歯科診療所の復旧の遅れは、歯科診療が大量の水を必要としている上に、診療機器の損壊の影響が大きい事であろう。兵庫県の調査によると「診療機能を低下させた主原因」として、回答した163 病院のうち、「上水道の供給不能」が120 病院(73.6%)でもっとも多く、以下「電話回線の不通および混乱」が98病院(60.1%)「ガス供給不能」が88病院(54.0%)などのライフラインの破綻によるとした回答が上位をしめた。震災対策といえば耐震構造の建築と考えがちであるが、医療に関する場合は、水、ガス等のライフラインの確保、情報・連絡体制の確保、マンパワーの確保が、耐震構造の建築よりも優先する課題であろう。

3.保健医療活動

 実際に行われた保健医療活動としては、精神科医療の確保として神戸市などの保健所に精神科救護所を設置し、人工透析を必要とする患者については、被災後直ちに透析可能な医療機関のリストが兵庫県に提供され、さらに、被災地の透析医療機関に対する薬物や水の確保が行われた。歯科診療としては、歯科巡回診療車を利用した仮説診療所の設置、インフルエンザの予防には、うがい、手洗いの実施と、マスクの使用についての注意、ワクチン接種等が実施された。また、兵庫県内外の保健婦の協力で巡回健康相談が行われた。

4.阪神・淡路大震災から得られた教訓

 「阪神・淡路大震災わ契機とした災害医療体制のあり方に関する研究会」による緊急提言によると、主な教訓としては 1、第一義的な調整・指令を行うべき県庁、市役所が被害をうけ、通信の混乱が加わり、医療施設の被害状況、活動状況といった情報収集が困難な状況となったこと、2、医療搬送ニーズに加え、消防・救急救助ニーズも同時に有り、併せて道路の被害や災害者の避難なで大変な混雑となったため、円滑な患者搬送、医療物質の供給が困難となったこと、3、医療施設の施設自体は損壊を免れても、ライフラインが破壊されたか、設備もしくは設備配管が損壊したため、診療機能が低下した医療機関が多く見られたこと、等が上げられている。

II. 災害医療体制の今後の方向性

1.「震災時における医療対策に関する緊急提言」の視点

 前述の「緊急提言」においては、緊急に整備する必要がある事項として、9項目を提案しているが、これらの発想の根底には、1。地域単位の対応(community based)、2。住民主体の活動(citizen's action)、3。日常からの訓練、備え(continuous effort)という「three Cs」があると考えられる。

2.「病院防災マニュアル作成ガイドライン」の視点

 平成7年8月29日、「阪神・淡路大震災わ契機とした災害医療体制のあり方に関する研究会」から「病院防災マニュアル作成ガイドライン」がだされている。ここでは、病院レベルの防災対策をハード面とソフト面の両面から考えることを指摘している。

 ハード面としては、建物自体の耐震性の確認等の他意物自体に対するものと、自家発電装置、貯水槽などの設置、設備機械の固定、手動式の医療器具の確保といった機器設備に対するものがある。

 ソフト面としては、第一に行うことは、院内に病院長を委員長とした全職種、全部門が3参加した防災対策委員会を開催する事であり、そして独自の防災対策マニュアルを作成し、訓練を実施する事である。さらに委員会の開催を通じて、病院防災マニュアルの職員への徹底とマニュアルの改正が重要であるとしている。また、地方自治体の作成する地域防災計画の中での自病院の位置づけの確認に加え、他団体や関連機関との協議が望まれる。


時系列別医療期―災害時の看護技術

心肺蘇生

横井 要、エマージェンシー・ナーシング 新春増刊136-44, 1996
(担当:梶山)


心肺蘇生 ─ 救急蘇生法の中に含まれ傷病者が意識障害, 呼吸停止, もしくはこれに近い状態に陥った時, 呼吸および循環を補助し救命するために行う手当てをいう.

〔蘇生法を行うときの手順〕

   気道の確保
   人工呼吸
   心臓マッサージ

気道の確保 ─ 空気が肺に到達するまでの通路を開通させること.
 【方法】
 ・頭部後屈あご先挙上法(オトガイ挙上法)
 ・下顎挙上法
 ・頭部後屈項部挙上法

人工呼吸 ─ 気道を確保し3〜4秒ほど観察しても胸部の動きがなく呼吸音が聴こえない場合必要となり, 口対口人工呼吸法が行われる. (10〜12回/分)

 ※ 最初は1回の吹き込みに1.5〜2秒かけてゆっくりと呼気吹き込み人工呼吸を2回行ってみて, 脈拍の有無を確認する.

心臓マッサージ ─ 胸骨圧迫を反復することにより心拍出量を得て,血液を循環させようとするもの
 【方法】
  胸骨下部1/3の部位に, 胸骨が3.5〜5cm下方へ圧迫されるように 行う. (80〜100回/分)

◎ 人工呼吸と心臓マッサージによる心肺蘇生法

1人で行う場合−2回の人工呼吸, 15回の心臓マッサージを繰り返す.
2人で行う場合−1回の人工呼吸, 5回の心臓マッサージを繰り返す.

◆ 心肺蘇生を行う手順

 意識の有無の確認

   意識のない場合は, 誰かに助けを求めた後、呼吸をしているかどうかを確認

  呼吸をしていない場合は, 気道を確保した後,十分な呼吸をしているかどうかを確認

  それでも呼吸をしていない場合は, 人工呼吸を行ってみて, 頚動脈の拍動の有無を確認

頚動脈の拍動がない場合は, 人工呼吸と心臓マッサージを行う

※ 意識の有無を確認した際, 意識があれば呼吸が十分かどうかを見て,不十分であれば気道の確保を行い, 十分であれば安静にして観察を続 ける.

※ 人工呼吸をして十分な呼吸を行うようになった場合, 安静にして観察を続ける.

※ 人工呼吸と心臓マッサージを同時に行った際に頚動脈の拍動がみられるようになった場合は, 人工呼吸のみを続ける.

※ 人工呼吸と心臓マッサージを同時に行っても, 頚動脈の拍動が見られない場合でも, 極端な疲労状態に陥る場合を除いて, 医師または救急隊員が来るまで続行しなければならない.


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