災害医学抄読会6/14/96

滋賀県の保健衛生医療支援活動の経過

前田博明ほか、公衆衛生 59: 482, 1995(担当:萬木)


1.震災の勃発と支援活動の開始

 1月17日未明、兵庫県南部沖地震が発生し、多大な被害がでた。滋賀県では地震発生当日の17日から防災車両や人員を派遣し、18日には対策会議を設置、給水車の派遣や救援物資の搬送を行った。

 神戸市中央保健所では、出勤できる職員が少なく、かつ援助物資の搬送など対策本部的な業務に追われ、保健所の本来業務の保健衛生医療の対応ができていないという状況だった。

 中央保健所との協議の結果、医師2名・環境衛生技師1名・保健婦2名の計5名を保健衛生医療チ−ムとして編成し20日に神戸入りした。

2.第1班の支援活動経過

1)避難所の巡回調査
 医療チ−ムが巡回できない避難所はもとより、医療の巡回が行なわれている所でも救急対応が中心で、寝たきりに近い老人や慢性疾患患者への配慮や衛生面のチェックは抜けていると思われたため、避難所の巡回調査を行なった。

2)避難所での保健衛生指導
 インフルエンザの蔓延予防(うがい薬の配置・感染防止を目的とした病室の設置指導・喫煙環境のチェック)、トイレ、廃棄物の処理状況、手洗い状況、配給食品の管理などの指導を行なった。

3)中央保健所ニュ−スの発行
 保健衛生や医療について必要な情報を避難者や住民に提供するため、保健所スタッフとともに中央保健所ニュ−スを作成し配布した。

3.第2班以降の保健チ−ムの活動内容

 第2班の編成は第1班の報告を受けて、医療チ−ムを3チ−ム(内科・小児科・精神科)を追加し、24日に出発した。

1)中央保健所ニュ−スの発行
 保健・医療情報、生活での留意点、環境衛生などを記事にして全避難所に配布し、3月末までに17号発行した。

2)宮本小学校を活動拠点として、次のような保健活動を行なった。

  1. 医療チ−ムへの情報提供、支援
  2. 避難者の健康管理指導:避難所の被災者の健康チェックと生活指導、ラジオ体操、ストレッチ体操の実施、個別健康相談など
  3. 避難所の衛生管理指導
  4. ェ避難所管理者および中央保健所との連絡調整

4.医療支援の終了と保健婦活動の継続

 宮本小学校では、本県の医療チ−ム(滋賀医大:延べ573名)が24時間体制で診療を行っていたが、疾病の変化(救急→感染症→慢性疾患)や地域医師会の復興に伴い、3月31日に終了した。

 保健婦活動は1)避難所における巡回健康相談、2)仮設住宅の家庭訪問を中心に6月末まで継続する予定。

考察

1)地方自治体間の情報交換
 国から都道府県に対して医療チ−ムの派遣の指示があったのは、地震発生から1週間後、すでに救急医療の需要がなくなった時であった。国を経由するのではなく、自治体どうしが普段から連絡体制を持つことが望まれる。

2)現場サイドの判断と実行
 現場と本庁では災害時の認識の違いが大きいため、現場独自で判断・実行する体制や機能が望まれる。

3)災害時の保健所の役割
 保健活動だけでなく、他から入った医療チ−ムや保健チ−ムをコ−ディネ−トする機関として保健所の役割は大きく、地元の医師会や病院との連絡調整や医療体制の復元など災害時の保健所の役割は大きい。


阪神・淡路大震災時における保健医療活動

加藤晴実、公衆衛生 59: 477, 1995(担当:稲倉)


 この資料は自分自身家を持ち家族を持つ被災者である、宝塚市在中の救急医の方(宝塚市健康センター所長)が、震災直後に行った医療活動の内容及び問題点について書かれたものである。

1。救護所の設置と活動

 1月17日未明の震災直後から宝塚市役所では、災害対策本部・救護班が設置された。宝塚市立病院と市内の4つの救急病院にはすでに患者が殺到しており、病院の機能麻痺を少しでも緩和する目的で、地震発生4時間後にスタッフ14人(医師5人)で総合体育館に救急・応急処置所と安置所を設けた。ここでは応急処置と死体検案、適切な後方病院への振り分けが主な作業であった。

 野戦病院と化した17日に比べ、18日目からは後片付けなどの際に生じた創傷の訴えが中心となり、救護所(仮設診療所)への移行を要求したがなかなか聞き入れて貰えなかった。19日午後になってようやく救護所が体育館に開設された。市の救護所の特徴は、入院する程でもないが点滴治療など数日の経過観察を必要とする患者に、入院に準じた医療を提供する機能をもつこと、24時間体制で各診療所へ医療を提供すること、トリアージの機能をもつことであった。

 これとは別に、県が派遣した医師団による避難所での巡回診療が1月20日にスタートした。スタート当初は、県の救護所と市の救護所の間には連携や情報交換もなく、別々の医療活動を展開していた。著者らが「市と県の救護所・救護活動の連携と今後の救済活動を再検討すべきである」ことを何度も提言し、1月24日にやっと図のようなシステムが確立した。

2。問題点

 医療を知らない人間が、現場の医療状況を正確に把握せずに救護活動の方針を決定していたことには無理があったと考えられる。本来、対策本部に医療サイドの人間が加わるっべきであり、集団災害においては状況の推移に対応して、ニーズの迅速かつ正確な評価をすることが不可欠である。専門家の意見を率直に聞き入れる姿勢が行政サイドに望まれる。

 本部と現場が密接に情報交換を行うことのできる、システムづくりが大切である。

 パフォーマンス的な医療関係者もおり迷惑であった。

 家が無事であったにもかかわらず避難所にたむろする若者のグループや、物資目当てのホームレスの人々などは迷惑であり、何とか対策が望まれる。

3。まとめ

 本当の意味で救護活動を支えるものは、純粋な活動姿勢と信頼関係であると考えられる。


時系列別医療期―災害医療サイクル―

救助期

二宮宣文、エマージェンシー・ナーシング 新春増刊 69, 1996
(担当:中浜)


はじめに

 平時救急医療:通常の社会活動の中で行われるため、救出救助・トリアージ・応急処置・搬送・診断・治療という救急医療の流れがスムーズに管理運用される。

 災害時救急医療:被災地域の社会構造のハード・ソフトともに損害を受け破壊されるため救急医療の流れがストップする。

 救出救助・救急医療の需要と供給のバランスの不均衡
               → 被災者自らの救出救助の必要性

1.救出救助現場における多数患者の取り扱い

 災害発生直後の災害規模予測は困難
          → 負傷者,死傷者数の増加で認識できてくる

 <災害発生時の行動優先順位>

・家庭にいるとき
 1)家族を助ける 2)隣人を助ける 3)地域を助ける
・現場へ最初に到着した救援救急隊のスタッフ

1) 到着後30秒以内に現場状況を把握
2) 本部に第1報の情報を報告し、必要な応援要請を具体的に行う
3)中規模以上の災害と判断したら現場指揮者,トリアージ指揮者,患者搬送指揮者を決め現場救護所を住民とともに設置する

2.現場救護所での活動

 現場救護所は災害現場の近くで2次災害のない安全な場所に設置する。

・現場救護所(図1)

・現場救護所での医療
 あくまでも救急病院への転送前の応急処置である。
1) 中等症,重症患者のバイタルサインチェック 2)止血処置
2) 開放創の処置(消毒,ガーゼなど) 4)骨折のシーネ固定
5)ショックの患者に対する輸液

・災害現場救急医療の最大の目的  生存者数を最大にする。

・現場における救出救護をスムースに行うポイント
1) 重要な情報は反復して言え 2)重要事項は警告トーンで話せ  3)ハンドスピーカーを使え 4)分担役割を決めて自分の役割に専念する

・患者搬送手順
1) 患者搬送ポストの設定
2) Cattle Chute Technique(図2)を使う
  乗車点では患者名,搬送先などを必ずチェック
3) 搬送車両は1列に並び交通の混乱を避ける
4) スムーズな患者搬送に配慮する
(患者搬送救急車両の通行道路は一方通行,通行車両制限)
5) ヘリコプターなどの航空機の使用
 (ヘリポートは、安全で患者搬送ポストより遠くない所に設置)

3. 救出現場での医療

・救出活動
救出救助活動の原則:安全,確実,迅速
救助の優先順位:要救助者の救命を優先
   次に、救出,苦痛軽減,財産保全
救助スタッフの安全を損なう場所での救出作業は行わない。
安全の確認と安全の確保を行ってから。情動的な行動はしない。
 短時間により多くの現場情報を収集し、2次災害に充分留意する。

・救出時医療
 <救出時に医療が必要となる場合>

  1. 救出以前に患者の生命に危険が迫っているとき
  2. 救出作業中に生命の危険が予想されるとき
  3. 救出後に生命の危険が及ぶと判断されるとき
  4. 救出時に苦痛を伴うとき
  5. 救出までに時間が経過しておりすでに脱水などの症状を呈しているとき
  6. 外傷の応急処置が必要と判断されるとき
  7. 精神的にショックを受け精神的介助が必要なとき
  8. 四肢の切断などを行わないと救出できないとき

・救出時医療の方法

  1. 現場救出救助チームがいるときにはその指揮者に従う
  2. 医療チームの安全の確保
  3. 医療チームの撤退路の確保
  4. 患者へのアプローチ
  5. 呼びかけなどによる患者の意識レベルのチェック
  6. バイタルサインのチェック 
  7. 救急処置方法の検討
  8. 救急処置の施行
  9. 患者の救出
  10. 救急処置の続行 
  11. トリアージ 
  12. 患者搬送

・部位・損傷別災害時応急処置の実際

  1. 圧挫症候群:建物などの下敷きになり四肢が圧迫されている場合には、筋肉の挫滅を疑い圧迫されている四肢の付け根を縛り、救出してから徐々に決行を再開するようにする。輸液を行う。

  2. 精神症状:災害時の恐怖や、救出されないストレスにより精神的不安を引き起こしたり不眠状態や錯乱状態になることがある。患者とよく接触し十分話しをすることでストレスを軽減することが重要である。精神症状を呈している患者はトリアージの重症に入れ、いち早く後方救急病院に搬送する必要がある。救出救助スタッフに対してはデコプレッション,デブリーフィングのためのミーティングを行い、ストレスが蓄積しないようにする。

  3. 四肢切断が必要なとき:患者や家族より承諾を得る

まとめ

 災害サイクルにおける災害救助期の救急医療は発災直後の混乱の中でスムーズに動かないことが多い。救助隊の到着を待つだけでなく、平時より救急処置などを災害時に活かせるように訓練しておく必要がある。


時系列別医療期―災害医療サイクル―

浅井康文ほか、エマージェンシー・ナーシング 新春増刊 59, 1996
(担当:吉村)


T1.災害の特徴

 災害は1)広域災害である自然災害、2)局地災害である人為災害、3)本来局所的である人為災害が広域化したものや、人為災害でありながら広域災害化した特殊災害、の3つに大きく分類される。災害に備えるためには、あらかじめ災害の特徴をよく理解しておくことが大切である。

U2.災害医療サイクル

 これは1)災害間期(静止期)、2)災害前期(切迫期)、3)災害発生期(インパクト期)、4)救助期、5)復興期が、ひとつのサイクルになっていることである。

1 災害間期(静止期)

 この時期は災害予防策を講じ、発生時の被害を最小限に止めるように努める。実行可能な法律の整備を行なうのもこの時期である。

 災害間期における準備には、計画、訓練、備蓄の3つが必要である。まず計画であるが、これはどこにどのような災害が発生する可能性があるか、自然災害においてどんな被害が生じやすいかを検討し、予防策を考えるとか、それが難しい場合には災害対策計画のなかで効果的な対処法を立案しておくことが肝要である。

 訓練は、災害発生時の対処マニュアルの作成、改訂と実地訓練を行なう。特に定期的にマニュアルのチェックおよび実地訓練を行なっていないと、いざというときに役に立たないことが多い。3番目は備蓄である。災害発生時に利用可能な医療資源の所在を確認するとともに、その効率的な運用や補給路が途絶えた場合に備えての備蓄を行なっておく。地域内の診療施設と人員や専門性などの対処能力、機能分担、搬送手段や後送施設の確保、代替電源や代替水源、食料、医療品や医療材料の備蓄が大切である。

2 災害前期(切迫期)

 現時点では難しいが、地震の予知や台風の大雨警報などを行なう時期に相当する。避難時期、場所、救援物資(種類、量など)に関する的確な情報伝達が必要とされる。

3 災害発生期(インパクト期=緊急期)

 予想される早期の災害者に対する1)捜索、救助、救援活動(treatment)、2)患者の選別(triage)、3)生存者の病院搬送、後方病院への転送(transportation)の、いわゆる3Tsの時期をいう。この3Tsをいかに迅速かつ的確に行なうかが重要で、これにすみやかに対応できる医療従事者を育成する災害医学教育が、最近の大災害の多発によって叫ばれている。

 一般にこの災害発生期は、外部からの救援がワンポイント遅れるため、被災者の自助、被災者同志の互助、ついで外部からの援助を得ることとなる。3Tsのうちtriageという語は、もともとコーヒー豆を選別することを意味するが、災害においては患者の重傷度と治療優先度を決めることである。このことで現在の医療能力で最大多数を救出することを目的とする。しかしこのことは、助かる見込みのない被災者を切り捨てることになり、日本で当てはめると倫理的な葛藤が残る。

4 救助期

災害が起こってから災害救護の行なわれるまでの時間をいかに短くするかが救助のポイントである。普通は道路が寸断され、通信は途絶している。そのため今後は、救急ヘリコプターの活用を積極的に考えていかねばならない。

5 復興期

 災害者の安定した自立生活のための支援、ライフライン(電気、水道、電話、LPガスなど)の復旧をはじめとする。あらゆる復興活動が行なわれる。この時期は被災住民の精神衛生を含む保健衛生問題の解決、治安の維持が課題となる時期である。

終わりに

 災害は種類と時期によって保健医療のニーズに特徴と変化をもたらす。我々は過去の災害における貴重な体験を疫学的に分析、検討し、災害の予防、準備、また起こったときの災害の軽減化に努力していかねばならない。しかし著者等が北海道南西沖地震で提言したヘリコプター搬送の必要性、通信、情報網だけをとっても、阪神、淡路大震災ではまったく生かされておらず、再び同じ提言がなされている。

 関東地方に再び大地震が起こることが予想されている現在、自分の地域は安全という保障はなく、この災害医療サイクルを学び、被害の減少に努めなければならない。


災害による傷病者の疾病構造

金田正樹、日本医師会雑誌 110: 715, 1993(担当:木村)


はじめに

災害発生後、最も忙しくなる場所は医療機関である。最初にやらなければならないのは人命救助であり、そのためには災害時の疾病構造を知っておくことと、この時の緊急医療対処 計画を立てておくことが必要である。地震が人的被害を与える直接的な原因は、1.建物の損壊及び落下物、2.津波、3.火災、4.山崩れ及び土石流等がある。

T1.建物の損壊及び落下物

1.宮城県沖地震(6/12/1978)
 負傷の原因及びその程度別に見ると、ガラス片による切創が最も多く、落下物による負  傷の順である(表1)。この表から20%以上が落下物による負傷であることがわかるが、 これは都市型地震災害の特徴であり、頭上からの危険を示したものである。負傷の種類は切創49.8%、打撲28.3%、が最も多く、骨折10.9%、熱傷3.8%の順であった。この内重症例は10%以下であり、そのほとんどは中等、軽症で、屋内で、揺れている最中に受傷している。

 また、仙台市においては地震直後から信号機がとまり、交通渋滞になったため、救急車による受傷者の搬送に支障をきたした。

2.メキシコ地震(9/19/1985)  この地震の特徴は、人が多数集まるホテルや病院に被害が集中していることである。建築基準が確立されておらず、耐震性に劣ったビルが多かったことが原因である。負傷者の多くは打撲、切創、擦過創、骨折等であった。コンクリートなどが劣化し、粉状になり、粉塵が周囲に巻き上げられ、これを吸引することによって呼吸器障害を起こしたり、窒息死した例を見たのが特徴的であった。数多くの負傷者が短時間のうちにメキシコ赤十字病院などに集中搬送されたために病院内はパニック状態となり、大混乱をきたした。最も耐震性を強化して建築しなければならない建物は病院であり、これが人命救助を左右する。

3.イタリア地震(11/23/1980)
 主な負傷部位は四肢に多く、重傷例は20%であった。
また1968年十勝沖地震でも重症例は負傷者の18%であった。

U2.津波

1.日本海中部地震(5/26/1983)
 最も被害の大きかった能代市ではライフラインの止まった病院の機能が著しく支障をきたし、地震と津波による多数の負傷者が搬送され、混乱をきたした。

 負傷者は津波によるものが多く、地震の規模が多きい割りには落下物や転倒による負傷が少なかった。宮城県沖地震のときの仙台市と比較して、人口密集度が低く、公園や広場が多いことから安全地帯に避難しやすかったことが人的被害を少なくしたと思われる。負傷例は打撲、挫創、骨折などが多く、これも重症例は10%前後であったが、中には心不全を含む老人のショック例などが見られた。

2.インドネシア・フローレス島地震(12/12/1992)
発展途上国の災害はその復興に非常に長い時間がかかる。これには日本などからの災害援助が、リハビリテーションを含む復興事業までの一環した流れで行なわれることが必要である。

V3.火災

1. 関東地震(9/01/1923) 死者の30%以上が火災旋風によるもので、酸欠による窒息死や熱風による気道熱傷が死因と思われる。

W4.山崩れ、土石流

 震源地が山間部であると例外なく山崩れや崖崩れが直接的に人的被害を引き起こし、ときには川を堰止めて洪水を起こすことがある。

1.長野県西部地震(9/14/1984)  死者全員は土石流による家屋の倒壊の下敷きになったものである。


わが国の大災害

高橋有二、日本医師会雑誌 110: 715, 1993(担当:杉山)


1。災害の分類と医療救護

1.災害の分類
 1)自然災害(広域災害):ライフラインの中断,医療機関の麻痺
  都市型(ライフラインの中断),地方型(孤立化)
  [台風,集中豪雨,洪水,地震,津波,干害,雪害,雷,火山噴火など]

 2) 人為災害(局地災害):医療機関正常,分散収容
 都市型(災害の拡大),地方型(遠距離)
 [化学爆発,都市大火災,大型交通災害,ビル・地下街火災など]

3) 特殊災害
 広域波及型[放射能,有害物質汚染の拡大]
 長期化型 [現場確認,患者救出に長時間を要する]
 複合型  [二次,三次災害の発生,拡大]

 都市型,地方型の差異:
  人口密度,医療施設数,距離,通信・交通の便,救急・輸送体制など.

 ライフライン−電気,水道,ガス,電話,交通手段

2. 自然災害と救急医療の対応
1) 急性型(突発,4〜5日で大勢が決まる):地震,台風,火山噴火など
 外科的医療から内科的医療へ

2) 慢性型(徐々に被害拡大,2〜3カ月を要す)洪水,干害,疫病
 内科的医療から外科的医療へ

 災害といってもさまざまの種類があり,災害統計をみても何の基準で大災害と定義するかに困惑することがある.特に自然災害では人的被害,住宅被害(全壊,半壊,床上浸水),被害範囲,あるいは地震の大きさなどで分類しても,地震の場合は巨大地震でも震源が遠ければ,直下型の中規模地震のほうが被害の多い場合もある.

2。自然災害

1.風水害
 わが国でも世界各国でも,もっとも多い災害は風水害であり,原因は台風,サイクロン,ハリケーンなどがあげられる.

(1) 伊勢湾台風/台風15号(1959.9.26〜27)
  死者4697名,行方不明401名(計5098名),負傷者38921名

(2) 洞爺丸台風/台風15号(1954.9.24〜27)
  死者1361名,行方不明400名(計1761名)

(3) 狩野川台風/台風22号(1958.9.26〜28)
  死者888名,行方不明381名(計1269名),負傷者1138名

2. 地震
(1) 関東大震災(1923.9.1/M7.9,死者142807名,家屋損失576000戸以上)
(2) 福井地震(1948.6.28/M7.1,死者3895名)
(3)三陸沖地震(1933.3.3/M8.1,死者3008名)
(4) 北丹後地震(1927.3.7/M7.3,死者2925名)
(5)三河地震(1945.1.13/M6.8,死者1961名)

 近年,家屋の損失,倒壊を含め,死傷者は減じつつある.最近,大都市を襲う地震が少ないが,しかし,予想される東京直下型地震,あるいは関東大震災クラスの巨大地震(静岡を中心とする)などへの備えを怠らぬことである.

3。人為災害

 人為災害では大型交通災害としての10大航空機事故,10大鉄道事故などが目立つ.1985年8月12日発生の日航機御巣鷹山墜落事故では生存者救護,遺体収容確認作業に約40日を要した.

4。おわりに

 災害時医療と救急医療との決定的な違いは,一時多数発生した患者の中から,いかに一人でも多くの人を救命するかにあり,当然確実なトリア−ジ(triage)が必要となる.少ない医療側に多数の患者,その力関係,周囲の状況が刻々変わるなかで,柔軟な対応が望まれる.