災害医療抄読会 5/31/96

千歳高速道路・玉突多重衝突事故

浅井康文ほか、日本医師会雑誌 110: 742, 1993


 平成4年3月17日火曜日午前8時45分頃、札幌市と千歳空港を結ぶ高速道路上で、車両186台が巻き込まれ、死亡2名、重軽傷者106名という、わが国最大の玉突多重衝突事故が発生した。

 この時の覚知時間は、北海道警察が事故発生から7分後、道路公団が10分後、恵庭(えにわ)消防署が19分後であるのに対し、札幌医大は71分後、千歳医師会が73分後であった。

 10時31分(事故発生後106分)、千歳市立総合病院の医師1人と看護婦2人が現場に到着。

 10時20分(事故発生後95分)、恵庭第一病院の医師1人が現場に向かう(到着時刻不明)。

 10時52分(事故発生後127分)、札幌医大の医師2人が、ヘリコプターで現場に到着。

これはいわゆる「ドクターヘリ」で、事故現場付近の高速道路上に着陸し救急医療を行\った。最後に残った患者に心マッサージを施しながら札幌医大へはこんだが患者は40\分後に死亡した。

 医療サイドからの問題点として、

  1. 医療機関への連絡が、1時間以上経ってからなされている。
  2. 大事故でありながら医師による現場でのtriage(負傷者の選別)がなされていない。
  3. 患者搬送依頼時に、札幌医大側から、現場への出動を提案したぐらいの、救急医療への認識の欠如。
  4. ヘリコプターによる緊急搬送手段を活用していない。
  5. 医療側の連絡不備。 

などがあげられる。

 対策として、

  1. 医師を含んだ、大事故時の緊急マニュアルの作成と実行。
  2. 現場で応急処置が可能な“ドクターカー"や“ドクターヘリ"の必要性。
  3.   高速道路上の関係機関が合同した、定期的防災訓練の実施。

などがあげられる。

 災害医療現場では、“triage《選別》"“treatment《処置》"“transportation《搬走》"の3つが重要である。今後、救急医療の人的・質的充実を図り、各地域での医師側の連絡及び協力体制を確立する必要がある。


羽田沖日航機事故

稲葉博満、日本医師会雑誌 110: 746, 1993


 1982年(昭和57年)2月9日午前8時45分頃、乗客166人乗員8人、計174人を乗せた日本航空DC−8型機が、東京羽田空港に着陸しょうとした時、機長の精神異常による操縦ミス(逆噴射)から、空港沖合の誘導灯に、激突・墜落した。

 この事故には、蒲田医師会を始め、大森医師会、日赤医療班など、合計5団体が医療救護活動に加わった。乗客・乗員の受傷状況は、死亡24人・重篤1人・重症12人・中等傷72人・軽症46人・無傷12人であった。

(反省点と課題)

(その後の動向)

 羽田沖航空機事故で医療救護活動を行った蒲田医師会は、1983年、多くの反省点を指摘した冊子「航空機事故と医療活動」、並びに1986年、空港救急医療計画作成指針を示した「PART 」を刊行し、多くの反響を呼んだ。

 1990年には、東京国際空港における、医療救護活動に関する協定が空港長と大田区三医師会の各会長との間で締結された。

 1992年12月には、東京国際空港の救急医療緊急計画実施細則が完成した。 


大震災時の医療活動 診療所医師の立場から

森本裕二郎、公衆衛生 59: 473-6, 1995

今回の阪神淡路大震災では、筆者は自身の医院の建物の応急手当を行い、入院患者・来院患者の対応に追われながら、所属する地区などの避難所10カ所程度を訪問したが、既に他からの医療班により巡回診療が行われている場面に出会っている。神戸市医師会は、職員が罹災したり交通途絶・渋滞により出勤不能ということもあり災害復興対策本部を1月19日(震災後4日目)組織し、罹災状況・診療可能な会員数の把握などの現状報告が行われた。その中で、筆者は規模の大小はあれ、個々の医療機関独自の救急活動の状況をそこで初めて知ったのである。

 このように災害に対する備蓄や連絡体制は皆無に等しいといっても良いほどの状態であった。今回は医療関係者も保健行政職員の人々と同様救援活動をしながらも被害者である側面もあり、たとえ準備態勢が整っていたとしても問題点は多く存在していたのではなかろうか。300万人の罹災者を出した都市部直下型地震については今後立案される全ての計画についても、被害状況調査結果を念頭に置くべき基礎知識として活用されなければならない。

今後、是非検討すべき点としては

  1. 地震に限らず全ての災害について地方自治体と連携しながら医師会内部および近隣地区医師会も含めて、総合的に検討準備及び訓練を日常から実地しておくこと

  2. 今回医院と離れた場所に住居を持つ医師の対応が遅れたこともあり、職住一致とはいわないまでもできるだけ徒歩ででも短時間で到着可能な地域に居住する必要がある。

  3. 非常時に備えて、福祉・保健・医療関係の行政職と定期的な連絡調整および体制を常時取り、たびたびチェックする。医薬品、医療機器、衛生材料、水、食糧、自家発電器など3日間は確保できる備蓄をすべきである。そして歩ける範囲でお互いに調達できる単位組織を構築する。

  4. 通信システムの確保。ワンウェイではなく様々な通信手段が利用できるようにする。また歩いて行ける範囲−地域完結型の防災システムの構築が望ましい。今回クラッシュ症候群および人工透析患者の対応に苦慮した面もあり、他地区転送のためのヘリコプターの発射のスペースもほしい。

  5. 今回の震災情報はマスコミ報道も迅速であった。しかし罹災者として一番役立ったのはラジオ放送であった。ただ、放送局によって報道に混乱あったのはいかがのものであろうか。


大震災時の医療活動―神戸市立中央病院―

立道清、公衆衛生 59: 470-2, 1995


 阪神・淡路大震災後、神戸市立中央病院救命救急センターはそれ自体が被災者であった。震災があってから5時間は電気が遮断しており、酸素については震災当日が補給の日にあたっていた。電気については、震災が早朝であり手術室での使用がなかったことと、酸素については補給用のタンクローリーが交通渋滞に巻き込まれたが結果的に間に合い、入院患者は何とか無事に全員生存し得ている。

 病院へのアクセスが断たれていたこともあって入院患者(≒救急車)が増え始めたのは震災後6日目からであった。集計してみると震災直後3日間で外来患者844件、入院68件、手術4件、1週間で外来1627件、入院137件、手術6件、1ヶ月間で外来3004件、入院533件、手術88件であった。これらの数値は災害現場に近い医療機関の患者受け入れと比較しても非常に少ない数であり、実際に病院へのアクセスが機能していたら、救急外来は何倍もの患者・救急車であふれていたことが想像される。

 ライフラインと病院機能は時間単位で回復していく。しかしそれすら、大災害医療の初期3日間のニードという面から無力であった。しかし、もしいくつかの”if”を想定したとしても、十分に、有効に、働きえたであろうか。ライフラインが健全であったら、病院機能はライフラインのみに制約されるものではない。橋が残っていても橋にいたる道路が自由に通れるわけではない。通信網が働いたとしてもそれに応じる組織が存在し、いかに働くかが問題となる。

 震災のあと病院は5日以降、患者の受け入れに、20日以後救護所よりの患者受け入れのサポート病院として、その後(2月以後)には各救護所からのボランティア団体の引き上げをスムーズにし、地方医師会の立ち上がりを助ける意味で多くの院外外出務者を送りよく働いたといえる。しかし初期3日間の空白はどうすることもできない負い目として残る。この負い目は修羅場となった医療機関としても内容を点検すれば同様に感じられるものであろう。災害医療の具体的点検と心構えを持たなかったことによるものであり、日本の災害医療全体の負い目であると考える。


災害に対する予防と準備

上原鳴夫、日本医師会雑誌110: 701, 1993


はじめに

災害=「被災地域の対応能力を超えた生態系の破壊」
→自然現象が人間生活に及ぼすインパクトを緩和したり、被災地域の対応能力を強化することによって、災害の被害を最小に食い止めることは可能

1.災害のサイクル

《災害の時系列的区分》

a.災害間期
 ・地域→災害対策計画の策定・災害対策組織の設置
 ・病院→病院災害計画の策定・病院災害対策委員会の設置

 役割(1)リスク・マッピング…災害発生地域とその被害の予測
               →予防と対処法の立案
   (2)リソース・マッピング…災害発生時に利用可能な医療資源の所在確認
   (3)災害発生時の対処マニュアルの作成・改訂と実地訓練

b.災害前期/切迫期
 災害予知や警報・避難時期などの的確な判断が必要
   →意思決定者への適正な情報集中が必要

c.災害発生期/緊急期
  被災地域の住民による適切な捜索・救助・救護活動が必要
   →(1)捜索・救助・救護活動
    (2)トリアージ(患者の選別)と重症者の病院搬送
    (3)病院における集団外傷対処と後方病院への転送

d.復興期
  地域住民や被災者の保健衛生の確保が必要

《病院災害計画》

a)内部災害対策;病院自体が損壊を受けた場合の対策
b) 外部災害対策;同時的に多数の傷病者が発生した場合に備えて、
 病院がこれに対応できる体制と運営プランを詰めておくもの

2.病院災害計画の留意点

1)無理のない計画

2)病院災害対策委員会

  任務 (1)病院災害計画の立案
     (2)病院計画にかかわる各部門の災害計画の立案
     (3)各職員の役割分担の明確化
     (4)教育・訓練計画の策定と実施
     (5)病院計画の見直しと改訂     …など

3)備蓄や代替ライフライン

4)警報
 ・緊急体制の宣言者を明確化…情報の混乱を避けるため
 ・患者の再分配…集団外傷に備えて病院の受け入れ能力を高めるため
 ・患者の避難に関する計画の再確認

5)災害マニュアル
・通常の救急医療とはやや異なる実用的なガイドラインの策定・教育
・各職種の任務の明瞭化

6)トリアージ
 ・トリアージの担当者の設定
 ・最大許容数の算定(手術実施可能数に基づく)

7)情報管理
・ 受付での患者の同定 ・適正な診療記録の書きとめ
・地域災害対策本部や情報センターへの診療状況の定期報告
・停電状況でも使用可能な通信手段の設置
・受付及び患者家族などとの対応担当者の設定

おわりに

・地震発生時の手術室や検査室の安全性に関する検討が必要である。
・災害時に最も被害を受けやすい人々
         =2800万人の災害的弱者(特に患者)
→災害対策に関して、行政に任せるのではなく、医療者として運営
 面と技術面の双方から災害への備えを具体的に検討すべきである。


災害被災者のトリアージ

青野允、日本医師会雑誌110: 709-14, 1993


 トリアージとは患者の重症度と治療優先度を決めることであり、現存医療能力で最大多数の犠牲者を救出することを目的とする。救出不能な被災者や、治療の不必要な軽症患者を除外し、限られた医療資材、少数のスタッフで救出可能な患者を重症度に準じて選定する。被災者の数が多いほど短時間のうちに判定しなければならない。

 患者の状態は常に一定ではないので、トリアージは1度行えばそれで終了とはならず、救出現場から医療機関で確定治療に至る過程で行われる。ニューヨーク州の災害対策マニュアルを例にとると、まず第1回トリアージを救出現場で行い、トリアージタッグをつけるだけで治療は行わない。ついで後続の救急隊が優先順位に従って安全な応急野外診療所に搬送し、1次、2次救命処置を行って状態の安定化を図る。改めてトリアージを行い、IDカードとトリアージタッグを追加、再び優先順位に従って、ヘリコプタ−、救急車、バスなどで医療機関に送る。ここでは定められた配分表に記入する。以後も病院入り口から確定治療が行われるまで、トリアージと治療が繰り返される。

 トリアージは最初に到着した救急隊長が行い、わが国では救急救命士がこの任に当たるべきである。理想的には、医師、看護婦(士)、救急救命士のトリアージチームが現場に急行し、医師がトリアージ責任者(triage officer; TO)となることであるが、欧米のこれまでの経験では、医師は第2次以降のTOとなることが多い。TOの資格として、病院内でよく知られていて、判断力、指導能力、決断力があって、外科の経験があり、病院の近くに住んでいる医師がよい。経験の深い麻酔科医も適任である。第1、第2次TOはその地域の病院数、所在地、病床数、外科的能力、各病院の特殊性、災害現場の地理・地形、各病院までの距離などを熟知し、各病院の能力に相応した疾病と人数の搬送を指示する必要がある。また病院入口部のTOは自己の施設の空床数、治療能力、医療資材ストックを随時確認して、能力以上の患者を受入れてはならない。

 災害時の被災者の識別には、国際的に決まっているトリアージタッグを用いる。これは治療優先度の順から色別に、赤(最優先)、黄(待機的)、緑(保留)、黒(死亡)が用いられる。優先度を客観的に決めることは難しいので、いくつかのスコア制が提唱されているが、混乱した災害現場では役に立たないことが多く、今後の改良が望まれる。ここではニューヨーク州で使われているものを紹介する。

【赤色タッグ】
 低血圧や低酸素血症を呈しているような生命の危機に瀕している患者に相当し、ヘリコプタ−や救急車で早期に搬送、確定治療を受けると生存する確率が高い患者に用いられる。ここには止血容易な大出血、または止血困難な出血、複雑骨折、呼吸器系外傷、心タンポナ−デ、開放性胸部外傷、脳外傷などが含まれる。

【黄色タッグ】
 これは2〜3時間以内に手術を要するような、生命に機器のある患者であうが、全身のショック状態を呈しないものに用いられる。熱傷、大骨折、多発骨折、脊髄損傷、合併症のない頭部外傷、内蔵露出などが含まれる。歩行不能の者にも用いられることがあるが、この場合の搬送は、本来の黄色タッグよりも後になる。

【緑色タッグ】
 生命に危険がなく、外来治療で十分対処可能な場合に用い、災害現場からは徒歩で移動させる。相当する疾患として、小骨折、小範囲熱傷(10%以内)、ヒステリ−などがある。必要時には重症患者の運搬に協力してもらうことも可能であるが、たとえ外傷がなくとも、内出血など内部損傷の有無には注意しなければならない。

【黒色タッグ】
 生命徴候のない者や明らかに生存の可能性のない致命傷を負っている者である。死者が多数で救助者が生存者に近づけないような状況下では、どける必要がある。時として、赤色と黒色の区別が非常に難しいことがある。

 トリアージが終わったら、同じ色のグループに分けて災害の及ばない、搬送の便利な地点に集め、応急処置、症状などをタッグに記入する。TOは赤色はヘリコプタ−、救急車、黄色は救急車、緑色はバス、徒歩で搬送を指示し、同時にこの状況を基幹病院に通報する。このとき、小児はできるだけ両親と一緒にする。負傷した救助者は他の救出の妨げにならないように、すみやかに退去する、被災者がパニックに陥らないよう可能な限りの情報を与えて落ち着かせる、パニック状態の患者は早期に隔離する、といったことに注意する。

 トリアージを成功させるためには、

  1. TOは治療に参画しない。
  2. トリアージ部門では最小限の治療を行う。
  3. 患者の動向は一方向で、逆行させない。
  4. トリアージを行わない限り、患者を移動させない。
  5. 特に病院入り口では能力以上の患者を入院させない。
  6. タッグ、カルテ、検査結果などは全て患者につけて移動させる。
  7. TOの命令は絶対であり、私見をはさんではならない。
 以上のことが必要となる。


災害種と特徴的病像(各論)

和藤幸弘、エマージェンシーナーシング 新春増刊22, 1996


外傷性疾患

1:頭部外傷
荒木の分類(I〜IV型)→意識障害の程度による
緊急手術の適応となるのは、硬膜外血腫、急性硬膜下血腫、脳内血腫、頭蓋内異                  物、頭蓋内穿通症など
頭蓋骨骨折は、その部位により脳挫傷、硬膜外血腫、脳神経の損傷、頸椎損傷な            どを起こす

2:顔面外傷

頭皮同様に出血が多い→出血に対する応急処置

3:胸部外傷

  1. Frail Chest;呼吸困難、疼痛。治療は気道確保、外固定、けん引。
  2. 単純肋骨骨折;応急処置としては、絆創膏固定が有効
  3. 胸骨骨折;呼吸機能の障害。応急処置としては、外固定。手術によりワイヤー、orプレート固定。
  4. 胸部圧迫症;上大静脈の還流が障害されて、顔面、眼球溢血が起こる。
  5. 気胸(外傷性);閉鎖性、開放性、緊張性がある。治療としては、安静、穿刺吸引、胸腔ドレナージ

4:腹部外傷

直接生命にかかわるものは、腹腔内出血、後腹膜出血による出血性ショックと腸管損傷による腹膜炎の併発で、注意すべき点は、発熱、急激な体温の変化、筋性防御の出現、血圧の低下である。

5:圧挫症候群(crush syndrome)

ミオグロビン血症、ミオグロビン尿、急性腎不全を主徴とする。また、突然死を起こすことがしばしばある。治療は、腎不全予防のため大量輸液(1万〜2万ml/日)を行い、必要により利尿剤を投与し尿量を確保する。また、循環動態が悪いときには、持続的血液浄化を行う。

6:コンパートメント症候群

主に四肢の外傷、血管損傷、熱傷などで発生し、筋肉内の出血、浮腫、うっ血などにより腫脹が極めて高度となり、四肢が阻血となる状態。
症状は、5P(Pain,Pulselessness,Pallor,Paralysis,Paresthesia)
治療は減張切開

7:熱傷

熱傷深度の判定(第I〜III度)
熱傷指数(Burn Index)= 度受傷面積+1/2 度受傷面積 で10〜15以上を重症     とする
熱傷面積の判定→9の法則、5の法則、手掌法
Artsの基準により処置を行う
中等症以上の治療の基本は、輸液であり、その量の指標としては尿量(1ml/kg/hr以上)確保、Baxterの公式。低蛋白血症が高度な場合はFFP、アルブミン製剤を投与
第III度熱傷には、できるだけ早く壊死組織の除去と植皮を行う
四肢の腫脹が高度で阻血になる場合は減張切開
気道熱傷では浮腫が発生する前に気管内挿管で気道確保を行う

8:骨折

合併症として脂肪塞栓症候群に注意する→受傷後数時間〜2、3日ごろまでに発生する。呼吸器症状、精神症状、DICなどを主症状とする。

1)骨盤骨折;問題は後腹膜出血。出血している場合はTAEを行う
2)四肢開放(複雑)骨折;一次的にけん引を行い、待機的に創外固定を行う
3)大腿骨(骨幹部)骨折;局所に大量の出血、血腫を作ることもある。コンパートメント症候群の原因になる。
4) 大腿部頸部骨折;加齢による骨粗鬆症が基礎に存在する。安静、鋼線けん引、手術

9:外傷の二次的感染症

1)破傷風;潜伏期は1〜数日。症状は、開口障害、けいれんなど。治療としては、トキソイド、抗生物質、呼吸管理
2) ガス壊疽;症状は組織の壊死、溶血性貧血、黄疸、CPK上昇など。治療としては、切断、組織の除去、高圧酸素治療など

10:凍傷

第I度(紅斑性):温水で温める
第II度(水泡性):温水浴に加え、感染予防を行う
第III度(壊死性):壊死部分は、切除または切断

非外傷性疾患

1:溺水

2:偶発性低体温

33〜32℃で不整脈発生。28〜26℃で心停止となる
心停止でない場合は、静脈路、気道を確保し保温程度で経過観察

3:有毒ガス中毒

1)一酸化炭素中毒(CO中毒);生体内でCO-Hbを生じ酸素供給を阻害する。治療は100%酸素吸入、高圧酸素療法
2)プロパンガス中毒;無臭。症状に応じて酸素投与、人工呼吸
3)硫化水素中毒(H2S中毒);頭痛、めまい、意識障害、呼吸筋麻痺
4)塩素ガス中毒(Cl2中毒);粘膜炎症、吸入による肺水腫
5)シアン(青酸)化合物中毒;呼気アーモンド臭、頭痛、呼吸障害、頻脈、嘔気、意識障害、徐脈、けいれん。治療は人工呼吸、100%酸素吸入、亜硝酸アミル吸入、亜硝酸ソーダ、チオ硫酸ナトリウム静注
6)神経毒ガス(サリン、VXガス)中毒;AChの過剰な蓄積、呼吸筋麻痺を起こす。治療は、PAM投与、アトロピン投与、血漿交換など
7)マスタードガス中毒;結膜炎、紅斑、水泡形成、喉頭炎、呼吸不全
8) ホスゲン(COCl2)中毒;肺水腫。酸素投与、呼吸管理

4:光化学スモッグ

オキシダントの吸入による。頭痛、眼痛、呼吸困難など。

5:外傷後ストレス症候群[PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)]

災害の様子、恐怖体験のflash back、抑鬱など


災害種と特徴的病像(総論)

和藤幸弘、エマージェンシーナーシング 新春増刊22, 1996


【はじめに】
 阪神大震災を経験して、我々医療従事者も多くの教訓を得た。今後の災害時においても、過去の災害を検討することにより、それぞれの災害における傷病の特徴、負傷や死亡の機序を理解して起こりうる事態に対応することが重要である。

 外国の例も参考にしながら、日本の衛生状況、医療レベルに従って、国内における災害の疫学を想定し、起こりうる傷病、災害時の治療方針などについて、簡単な処置にとどめて述べる。

【災害の種類と傷病の特徴】

 災害時には直接的な外傷を連想するが、銘記しなければならないのは、災害に関連して内科的疾患の発生や慢性疾患の増悪である。

 1988年から1990年に行われた世界的規模の調査では、災害に直接的な死亡に対して、その1.5倍が災害に関連した死因で死亡している。その主な原因は感染症である。

 被災後の衛生状況や被災者の生活環境、季節なども関係する。現代の日本では、インフルエンザやA型肝炎などに対する注意が必要である。災害の種類は、自然災害と人為的災害に大別されるが、わが国では、頻度、被災者の規模などから、地震が最も危険である。

【自然災害】

1.地震

《負傷のメカニズム》
死亡、負傷の原因の基本は、建造物の倒壊などによる物理的外傷であるが、その他の状況により多彩となる。

《共通の傷病》
1)物理的外傷

挫滅創、裂創、骨折、切創、切断創、頭部外傷(骨折、血腫など)、脊髄損傷、胸部外傷、腹部外傷など

2)内科的損傷

塵芥吸入など

《頻度の高いその他の外傷》
 熱傷

《特徴的な病態》
 圧挫症候群(腎不全)、コンパートメント症候群(阻血)、多発外傷、出血(ショック)など

《二次的創感染症》
 破傷風、ガス壊疽、化膿創

《管理のポイント》
 平常機能を果たす病院で医療を行えば救命の余地のある、圧挫症候群、出血性ショック、熱傷などの患者に早く治療を開始することが重要である。

2.津波

 津波にさらわれた人の約10%が救助されたり、自力で生還したことから、避難時にライフジャケットやヘルメットを着用することにより、より多くの生存者を得る余地があると考える。

《死亡・負傷のメカニズム》
 溺水、機械的外傷(漂流物との衝突による頭部外傷、脊髄損傷、内蔵損傷による出血、その他の全身の打撲、擦過傷、切創など)

3..水害(洪水・台風)

《共通の傷病》
 津波と同様であるが、創の汚染がより高度である。また、台風の場合、暴風による落下物への衝突や身体が飛ばされたことによる機械的損傷が多い。水害での生存者に対する救急医療の必要性は少なく、生存者の0.2〜2%が病院に受診する程度であるとされている。

人為的災害

1.列車事故
 骨折が圧倒的に多く、次いで肺挫傷、血気胸などの胸部外傷である。さらに死者のほとんどが圧死である。

2.爆発(爆弾)
 約50%が頭部外傷、10〜20%が腹部外傷である。また管腔臓器の損傷が特異的である。さらに、爆風により多くの負傷者は吹き飛ばされたり、瓦礫など吹き飛んだものによって二次的な多発外傷を負う。

  1. 爆裂肺−実質、肺胞性の肺水腫および肺出血。さらに肋骨骨折や胸郭の外傷がなくても気胸や肺挫傷が起きる。
  2. 脳挫傷
  3. 空気塞栓
  4. 聴覚障害、鼓膜損傷

3.化学物質による事故(中毒)

《発症のメカニズム》
 工場の爆発や有害物質の流出、火災、化学兵器を使用した戦争やテロリズムなど。

《化学物質の種類》
 一酸化炭素、プロパンガス、都市ガス、硫化水素、塩素ガス、亜硝酸ガス、サリンなど

4..テロリズム

 従来から爆弾テロが最も多いが、毒ガスを使用したテロリズムにも注意が必要である。

【災害時の傷病と治療】

 世界的に最も汎用されているWHOの定義によれば医療における災害とは『その地域における救急医療の能力を多数の傷病者が圧倒したとき』である。災害時の医療の目標は圧倒的多数の傷病 者に対して医療資材、マンパワーなどの不足する状況で、日常レベルにより近い医療をより多くの人に行うことである。また、実践では1人でも多くの救命と脊髄損傷などの後遺症軽減、四肢の温存などを目指す。大災害の場合、12時間以内の救助(Golden 12 hours for the rescue) と24時間以内に救命手術など治療を開始すること(Golden 24 hours for the definitive medical care) は災害の予後を大きく改善する。