名古屋空港旅客機墜落炎上事故のとき救急救命活動はいかに行われたか
―救急隊の記録―

山本直樹、救急医療ジャーナル 2 (5): 18-21, 1994(担当:佐野)

▼事故の概要

 1994年4月26日20時16分頃、名古屋空港で、中華航空機の台北発名古屋行きエアバスが南北に延びる2740m滑走路南側から着陸しようとしたところ失敗し、滑走路南側着陸帯に墜落、飛散炎上した。火災は消防隊により約15分後にほぼ鎮火されたが機体は全焼した。乗客、乗員271名については、乗務員全員と乗客240名の計255名が死亡し、生存者16名が病院搬送された。その内、懸命な救急救命処置にもかかわらず亡くなった乗客は9名であり、重症だがその後順調に回復している者7名の救命に成功した。

▼救急活動の概要

  1. 空港消防隊(航空自衛隊)の救急活動
     20:16火災覚知し、20:19救急車(1号)、20:23救急車(2号)現場到着。20:32生存者確認作業開始。20:35救急車(1号)小牧市民病院へ1名収容。20:37救急車(2号)小牧市民病院へ3名収容。20:40救急隊員が現場で生存者発見、カーゴにより医者1名を現場へ搬送。

       

  2. 春日井市消防本部の救急活動
     署救急隊は航空機火災指令により出動し、先着隊からの出動要請を中継し、さらに収容医療機関の確保を要請した。部署付近の自衛隊員より負傷者の情報を得、移動部署したが、負傷者はすでに名古屋市の救急隊により応急処置が施されており、2名を春日井市民病院に搬送した。

       

  3. 西春東部消防本部救急活動
     20:22空港管制情報官から119番通報を受け出動。救急隊(3号車)は現場救護所を設置し、人命検索・トリアージ・現場救護所への担架搬送を行い、負傷者1名を病院へ搬送した。救急隊(4号車)は出動途上にあるS病院の院長と共に現着し、トリアージ・現場救護所への担架搬送を行った後、負傷者3名を病院へ搬送した。

       

  4. 小牧市消防本部救急活動
     西春東部消防本部からの救急車の出動要請を受け、救急車1台とタンク者1台を出動させた。空港関係車両の誘導により現場北側に停車し、先着救急隊(他の消防本部)の指示により負傷者救出を行い、負傷者20名を仮救護所へ搬送した。

       

  5. 名古屋市消防局救急活動
     20:25出動指令を受け、滑走路上の事故と考え、集団災害用資器材(担架および救急鞄)を積載し出動した。出動途上に救急隊10隊が増強されたこと、他消防本部の救急隊が活動中であったこと等により、隊員に生存者の確認、負傷者の応急処置およびトリアージを優先する旨を徹底した。

   

高速道路における多重衝突事故と救命救急活動のポイント

吉成道夫、救急医療ジャーナル 2(5): 22-4, 1994 (担当:佐野)

 高速道路における多重衝突事故は、人為災害であり、災害範囲は事故現場の付近に限局され、悪天候日の朝夕に発生しやすい。地震や台風等と異なり、情報、搬送、治療に関係する消防機関、警察機関、医療機関は機能を損なわれることなく温存されており、大災害の中では比較的対策が立てやすいものである。ライフラインも保たれている。

 この災害は高速道路といういわば閉鎖空間で突発的に発生するため、通報、トリアージ、搬送が傷病者の予後を左右する。

▼東北自動車道における交通事故の概要

 事故当時、路面は前日の夜からの降雪で圧雪状態で、地吹雪により視界が著しく悪く時速50kmに速度制限がされていた。先頭の車がスリップし追い越し車線に反転して停止したことに端を発し、後続車両が次々に衝突。車両67台が巻き込まれ、死者1名、重症者4名、中症者7名、軽傷者17名の計29名を出す惨事となった。

▼救命救急活動のポイント

  1. 通報
     高速道路における事故の最初の通報は電話か無線によってなされる。従来は路肩1kmおきに設置された非常用電話から道路公団管制室を介して119番通報されることが多かったが、携帯電話やタクシー無線によって通報されることもある。

     消防署に通報が入ってからは消防無線が主な情報伝達手段となり、現場への出動命令や現場からの情報の分析等が行われる。医療機関、警察との連絡には通常の電話回線が用いられる。

  2. 現場でのトリアージ
     最先着救急隊員が現場で傷病者のトリアージを行うが、情報と現実とが異なることがしばしばあり、対応しきれないと判断したらためらわず応援を依頼する。高速道路の衝突事故では重症者が10名を越えることはまず無く、トリアージは比較的楽である。

       

  3. 搬送
     傷病者を救出したら治療可能な医療機関に搬送する。軽傷〜中等度負傷者の搬送は通常の搬送でよいが、重症者の場合は医師の出動を要請し、高規格救急車に患者を収容し、応急処置をしながら搬送するのが望ましい。

     また、搬送先医療機関の選定は、現場で選定するよりも、情報の集約する消防本部(署)で判断すべきである。

 以上の様に、高速道路における多重衝突事故は、迅速で正確な通報・現場でのトリアージと応急処置・医療機関への搬送の三点について関係諸機関(道路公団、消防、警察、医療機関等)が平素から対策を立てておけば、被害を最小限にとどめることができると思われる。


阪神・淡路大震災下における神戸市立西市民病院看護婦の活動

荒牧礼子ほか 病院54: 871-7, 1994(担当:森田)


 阪神・淡路大震災は、未曾有の被害をもたらし、神戸市立西市民病院は医療機関として、壊滅的被害を被った。看護婦さんに当時の活躍ぶりとその後の活躍について話していただいた。

▼崩壊した5階で患者を救出

 病院に着くと、5階が崩壊しており6階の患者の救出中でした。5階には46人入院していたが、レスキュ−隊が来ないために手がつけられませんでした。5階は密閉した箱のような状態で、中からの「助けてくれ」と言う声は全く聞こえませんでした。レスキュ−隊の到着をいつまでも待てないので、自分たちで救助を始めました。患者さんを助けるために何人かでリレ−して手渡す形をとり、46人中1人亡くなられましたが他の方は皆無事でした。その後、午後になってやっとレスキュ−隊が到着し、自衛隊も来ましたが遅すぎました。

▼入院患者の搬出に難渋

 災害時には全員出勤と言うことが頭にありましたので、なんとか病院に行こうと思いましたが渋滞がすごいので車から下りて病院まで走りました。病院に着くと、病棟の患者さんを避難させようと言うことでとりあえず1階に重症患者を運び出そうと担架に乗せて、医師たちと階段を下ろしました。階段には窓もなく外も真暗で、ヘッドライトをつけての作業でした。

▼次々に運び込まれる患者に対応

 病棟の患者さんを若い看護婦や夜勤の人たちにお願いし、私はすぐに救急室に入りました。外からの患者さんのうち、かなりの方が圧死でした。また、すごい土埃で一目では亡くなっているかどうかわからず、とりあえず救急蘇生の準備をしたりしました。重症か軽症かを判断している余裕はなく、運ばれてきた人はとにかく医師に見てもらうと言う状況でした。亡くなられた方が次々に運ばれてきて、外来、廊下、待合室など足の踏み場もないほどでした。結局亡くなられた方は67人でした。そのうち電気が切れてしまい、救急処置室は窓もなく真暗なので玄関の外に処置室を作りました。

▼受付で電話での問い合わせに対応

 電話での問い合わせがとにかく多く、それに対して「申し訳ありませんが」という感じで極力丁寧に対応しました。西病院に運び込まれた人たちの記録に関しては、最初は走り書きだけで、亡くなられた方も来られた方の記録も全くありませんでした。そのため「分からないと言うことはどういうことだ」とか「どうしてそんなに分からないのか」と相手は怒るので、「出来ることは相手の立場で答えるしかない」と自分に言い聞かせながら対応しました。

▼建築基準の見直しが必要

 まず、構造的には階段がもっと広くないといけません。踊り場になっているようなところでは、担架が回らないのです。また、面会室のような空間は避難所としても使えるように広めに作るべきだと思いました。廊下も広くすれば良いと思いました。

 懐中電灯は必需品です。懐中電灯がないと真暗なところでは全く動けません。担架も各病棟に2つぐらいでは全く足りません。災害時を前提にした見直しが必要だと思いました。

▼保健所を拠点に活動

 震災後3日目には、病院が壊れて十分な機能を果たせないことが知れわたったのか、来院患者が少なくなってきました。それで医師も看護婦も神戸市の災害に関わると言うことで、保健所での救護活動に参加することになったのです。各地域をブロック別に分けてそれぞれの担当が全戸訪問を行いました。生存されているかどうか、けがはないか、食べ物はあるか、といったことを聞いて回りました。それが終わるといくつかの避難所を巡回しました。中央保健区内の避難所は最初は212カ所でした。最初の2〜3日は保健所からの派遣ということでいくつかの避難所に足を運び、一段落してきた2月1日から独居老人の安否の確認を地区ブロックごとに始めました。特に寝たきり老人に重点をおき、次に1歳未満の乳児を訪問しました。

 個人のボランティアでは1人1人に言わなくてはならず、継続性がありません。その意味ではシステム、あるいは一定の期間に組織としてこられた人たちの意義が大きいと思います。


アメリカにおける災害医療システム
FEMA(連邦緊急管理庁)とNDMS(国家災害医療システム)

赤木真寿美ほか 病院54: 864-70(担当:梶原)


 FEMAは緊急時や戦争時の緊急対応を総合的に企画・調整・運用する連邦機関として設置され、関係各省庁、地方政府機関に加えて民間部門の協力も得て機能する組織である。

 FEMAの活動の基本となっているのは、災害救助及び緊急援助法と、これに基づいて策定された『連邦災害対応計画』であり、この計画が包含する緊急・災害対応分野は輸送・通信から保健医療・食料・エネルギーなどの12項目に及ぶ緊急支援機能と財務支援機能・広報支援機能・国会関係機能である。

 そしてこれらの保健・医療分野での緊急・災害対応の中核の一つである被災地緊急災害医療と患者搬送・入院医療を提供するシステムがNational Disaster Medical System(国家災害医療システム)である。NMDSはアメリカ保健・福祉省、国防省、退役軍人省、および連邦緊急管理庁ならびに地方政府および民間部門の協力隊として組織され運用されている。

▼NDMSの目的

  1. 災害医療援助の提供
  2. 被災患者の避難・移送
  3. NDMSの参画病院による病院医療の提供

▼NDMSの活動開始と活動調整

 大規模災害時には、当該州知事が連邦の支援を要請する。この州知事からの要請はFEMSの地域ダイレクターを通じて大統領あてになされる。大統領はこれに基づき大規模災害又は非常事態宣言を行う。大統領宣言はFEMAによる一連の連邦政府対応を開始させ、これにはNDMSの連邦レベルの対応も含まれる。

 その他NDMSは州知事または州保健部長の要請に基づいて保健・福祉省の保健次官が活動を開始させることが可能となっている(大統領宣言の行われていない場合)。また、国家安全にかかわる非常事態の場合には国防長官がNDMSの活動を開始させる権限を有している。 NDMSの運用支援センターは保健・福祉省、国防省、FEMA、退役軍人省、アメリカ赤十字及びその他の連邦・民間関係機関で構成されている。

▼NDMSのシステムと運用のポイント

  1. 全国をカバーする災害医療システムとして組織され、各参画機関がその有する機能を最も効果的に発揮するようリソースを活用するものとしている。航空輸送の主たる部分を実質的に軍が担当する等。

  2. 公的部門に民間部門をボランタリーベースで組み合わせる組織化の発想に基いていること。病院のNDMSへの参加、災害医療用ベッドの提供・確保、災害医療訓練への参加等。

  3. 災害医療の提供体制は、通常の救急医療の延長にあるものではなく、特異な災害環境下、すなわち、医療機関、搬送手段、通信、機器・資材の確保が正常になし得ない状況下のものと位置づけられ、対処・運用するものとされている。

  4. 被災地域内では医療機関内の医療提供機能は不全化し、しかも、多数の被災患者が発生することを前提とし、災害地域外においてでないと要治療被災患者への効果的医療は提供できないことを踏まえ、航空機における迅速な患者搬送体制とNDMS病院による患者収容と病院医療の提供の連携が図られ、運用されるシステムとなっている。

  5. 輸送手段の確保については、航空機によることを基本とし、実質的には、強力かつ悪環境対応能力の高い軍の航空輸送力の活用を図るものとなっている。またこの機能の発動については、NDMSの組織・運用に軍が直接参画している事から、必要時に直ちに行いうるシステムとなっている。

  6. NDMSの活動調整は、当該地域レベル、広域のレベルでリンクを取って行われていることから、災害の状況により、地域レベルでの対応が不可能な状況となれば、地域レベルのコーディネーションチームから広域レベルのコーディネーションチームへ通知することで、直ちに広域レベルでの活動が開始されるものとなっている。

  7. 災害医療対応病院が全国的に整備・ネットワーク化されており、ここでの災害医療用救急ベッドの確保、災害医療援助チームの組織化がなされ、災害医療の訓練が定期的に実施されている。

  8. 被災地へは、被災地外から災害医療チームが派遣・投入され、医療の提供、要搬送・治療患者の把握と搬送処置が取られるシステムとなっている。また、このチームは被災地域へ、必要機器・医療資材、食料、水、その他の必要資材とともに投入される。

  9. 通信手段については、電話回線は被災地域では、切断・不通となることを前提にNMDS関連機関、チーム間では、無線を活用することとしており、病院での無線機の整備と災害通信用チャンネルの割り当てが図られている。

  10. 災害時の医療資材の確保・投入のため連邦の資材保管所の資材が直ちに活用できるシステムとなっている。

  11. 被災地域での保健・医療面での調査については、関係機関により災害の進行ステージに対応して、災害発生直後の基本傷病とニーズ把握調査から災害鎮静後の死傷原因などの把握・分析のための詳細調査まで実施され、災害の進行に対応した適切な災害医療・環境・保健対策の実施と今後の災害対策の資料を収集・確保するシステムとなっている。