災害に対応した医療体制

 日本赤十字社支援による現地病院の災害医療

          上林恒雄.病院 54: 844, 1995

 これからの災害医療

          堀 進悟ほか.病院 54: 847, 1995(担当:杉原)

 大災害時における医療救護には時間の要素が重要で、災害発生直後(Phase 0)から数カ月後(Phase 3)までのタイムスケールがあります。Phase1は生存被災者相互による救助の時期で、Phase1は被災地に派遣された救援チームによる系統的救出医療の時期、Phase2は病院における緊急治療の時期、Phase3は被害生存者に対する社会復帰のための医療・療養指導の時期となっています。
 救命においてPhase1がより早期に終了するほど効果は高くなるため迅速にPhase1を開始するべきであるが、災害発生直後における医療チーム派遣を困難にする要因が存在します。それは、第1に医療チームの派遣のみでは救出医療の効果を上げにくく、器材や人員を備えたレスキューチーム、後方病院と一体化した協力体制が必要であり、第2に被災地の的確な情報がなければ医療チームを適正に配置できないこと、第3に医療チームには被災地での自己完結性が要求されることがあげられます。しかし、上記の条件を満たす組織は少なく、第3の条件を満たす組織は日本では日本赤十字社と自衛隊などの一部に限られています。
 阪神大震災と地下鉄サリン事件における初期医療対応の相違は、後者では被曝者に限られたのに対し、前者では大規模災害のために行政単位内部での対応までが不可能になったことです。又、病院の被害の有無も大きな相違の1つである。これらの事から、Phase0からPhase1への移行にかかった時間が大きく異なり被害も大きく異なったと考えられる。
 災害医療を担当する医師に要求される能力は高度の専門性よりも幅広い臨床能力とリーダーシップです。又、今後の不時に備え、医学教育の中に「災害医療」を含めることが望まれ、緊急時には全ての医療従事者が被災地救援に参加できるように医学生を対象に災害医療に関する基本的な知識を習得する機会を与えるのが良いと思われます。

 今後の災害医療の課題は、次の通りです。
 A.広域災害に対して
  1) 病院群の多極分散型ネットワーク
  2) 災害医療拠点病院の準備
  3) 医療情報システムと災害統合指令
    (コントロールセンター、移動オペレーションセンター)
  4) 医療マンパワー、ボランティアの確保
  5) 広域支援体制
 B.病院内対策
  1) フレキシブルな院内体制
  2) 医療現場での指揮者
    (トリアージ指導、搬送・医療情報)
  3) 医療要員の確保
  4) 入院病床の確保
    (応急病床)
  5) 災害医療訓練
 C.その他
  1) 自然と人間と医療
  2) 平素からの地域医療の実践
     (出ていく医療)



阪神・淡路大震災の経験と今後の医療体制(座談会)

 
  宮坂雄平,浅井康文,磯部文雄,河北博文.病院 54: 830, 1995(担当:菊池)

【震災時の状況】

(当日)
 当日の朝から昼にかけての報道によって、死者がゼロという誤解があり、全体として比較的楽観視していた。夜になって報道される死者数が次第に増加し,1000人以上に達した。公的病院での重症患者の受け入れ、多くの県、市、大学病院等からの応援がはじまり、医薬品、ミルク等の物資を送るため、ヘリコプターや船の手配をした。

(3日目)
 救護所や避難所が増えてきて人的支援が可能になった。

(7日目)
 かぜ等の日常の疾病の対応や、精神的ケアの問題に取り組んだり、医療スタッフ(ボランティア)のための窓口を設けたりした。

【今後の対策】

(情報システムの構築)
 救急医療情報センターが35県でつくられていて、どの病院で何床空いているとか、どんな診療科があるかなどの情報を救急搬送の際利用できるシステムになっている。今後は通常時の負担はできるだけ少なく、災害時に役立つように改善していく。
 また緊急時、小中学校の校庭に救護所を設け、そこに医師、看護婦、その他の職員が集まるなど、地域医療体制の整備を事前にしておく。
 電話は寸断していたのではなく、パンクしていた。医療関係は災害時に備えて、医療専用の無線や、優先して回線を利用できるように優先契約を結んでおく、アマチュア無線の利用など2重3重に通信網を確保する体勢を敷く必要がある。また衛星通信を使う手段も今後進んでいくと思われる。

(ヘリコプターの利用)
 ヘリコプターは、はじめの3日間で17回しか利用されていない。その理由としてヘリコプター利用の経験がないため、どこへ連絡すればよいか、なにをすればよいかなどが分からなかった。日頃から訓練をしておく必要があると思われる。

(通行車両の制限)
 一時的に地域を封鎖し、入れる車両と、入れない車両をわけることによって交通渋滞を防ぐ方法もあるが、実際問題として、整理するために警察官がたくさん必要になる。特に当日、2日目は救助のほうに警察官の手を取られてしまうのでそれは難しい。緊急用に常に1車線、確保することが必要だと思われる。