災害医学の学術的論拠

     (Gunn SWA. 救急医学 15: 1721-5,担当:大野)


 長い間、災害に対するその時々の人道的な援助は無秩序なものだった。それが最近ようやく組織化され概念化され、そして技術を伴って災害医学という新しい分野に進化してきた。まず過去の歴史を概観してみると、第一次世界大戦後には国際赤十字連盟結成、第二次世界大戦後には国連と世界保健機関が誕生した。このような国際機関の道徳的かつ地道な努力によって、「災害管理」が専門分野としての地歩を築いてきた。災害医学は、今や外傷学や救急医学とは異なる分野として、保健と開発計画全体の中で重要な位置を占めている。ここで災害医学を定義しておくと、災害によって生じる健康問題の予防と素早い救援、復興を目的として行われる協働応用科学である。小児科、疫学、感染症学、栄養、公衆衛生、救急外科、社会医学、地域保健、国際保健などのさまざまな分野や、総合的な災害管理にかかわるほかの分野が協働するものである。

 災害管理の学術的な根拠に基づく10項目の基本則を示すと、
1)災害準備は必須、備えがあるほど効果的な援助活動が可能
2)自然災害の多くは予防可能、人為災害は全て回避できる
3)全く同じ災害はないが派生する問題は予測可能
4)災害のプロフィールに基づいて傷病パターンを疫学的に示すことができる
5)地域、国、国際レベルでの災害計画と準備は不可欠
6)災害に即座に対応できるように人的資源の動員を組織化
7)危機、人の介在の影響の評価、災害後状況調査が必須
8)災害発生後に行動しても2次災害は回避できない
9)再建の時相は災害直後から始まり、新しい開発の一部である
10)災害管理には地域社会、地方、国の公共組織すべてを包合

 これらを見ると災害管理のカギは災害準備と予防にあると言える。しかも疫学から見ても災害医学は有用であると言える。こうした研究を実用に供するためにはトレーニングを受けた人を擁することも大事である。災害準備と対応とをより効率的、効果的なものとするために、保健をはじめとして緊急管理にかかわるあらゆる周辺分野の参加と協力とを欠かすことはできないといえるだろう。