災害医療と教育カリキュラム

     (山本保博. 救急医学 15: 1719-20, 1991,担当:大野)


 いつどこで災害が起こっても不思議でない今の時代、我々は我が国の災害救急医療対策を改めて見直す必要がある。災害救急医療を考える場合、それが自然災害によるものと人為災害によるものとに分けることができる。いずれの場合も現場で一番大切なことは、"Three-Ts"といわれる処置方法で、1. Triage(選別)、2. Treatment(応急処置)、3. Transportation(搬送) をいかに迅速かつ的確に行うかが重要である。また災害の場合には被害者が同時に多数発生するので、国レベルでは、各省庁間の縦割りシステムによる行政、都道府県や市町村との間の連携、病院や消防署間とのネットワークなどを円滑に機能させることが必須である。もう一つ重要なことは災害が発生した場合、指導的役割を果たせる災害医の養成であろう。フランスでは全科にわたる医師を対象に災害時の集団傷病者に対する外科的、内科的処置を行う資格を与えるコースを設けている。アメリカでは医学生4年次を対象に災害医学の講義と実習シュミレーションを行ったり、ACEPやFEMAが教育プログラムを作成、実施したりしている。スイスでも医学生が必須科目として災害医学を扱ってきている。このように諸外国では、約10年前から災害医の養成を積極的に行ってきており、その成果が国際的災害医療協力派遣の必要性が生じた場合に即、専門家を多数派遣できる土壌となっている。したがって、我が国においても、救急医の中から災害医の育成、生涯教育の一環としての災害医療コース、医学生の必須科目として災害医学のカリキュラム化を行うなどの方法により、災害が発生したときの指導的役割を果たせる災害医の養成が行い得るものと思われる。そうすることによって、初めて外国での災害に対しても我が国の国際的な医療貢献が可能になると言えるだろう。