災害救援における市民組織の活動

     (梶秀樹. 救急医学 15: 1753-59, 1991,担当:平田)


 外国の災害における市民による救護活動の記録を見ると組織的な活動よりもむしろ個人の自発的な奉仕活動の方が目立つ。
 一方、これまでの日本の災害事例では、一般市民を始め宗教団体、学生、婦人会、各種慈善団体など数多くの市民・民間組織が救援に参加している。今後も大災害が起きた場合にも、こうした多くの市民・民間組織の救援活動への参加が期待される。
 ただ、これまでと若干異なるのは、近年、災害救援体勢に関する法的裏付けが整い、行政の取り組み自体も日常的な防災行政として定着して来たこと、それと同時に、市民に対する防災教育や組織化においても多大な努力が払われるようになったことである。しかし、こうした行政と裏腹に、市民活動そのものは停滞しており、災害への無関心が拡大するとともに、防災総合訓練などへの参加率も低下の一途をたどっている。そのため、防災に対して行政指導色が強くなったことが市民の自発性を弱め、行政依存度を高める結果を招いたのではないかとの危惧が生じている。とはいえ、いつ災害が起こっても不思議でない我が国の地理状況では、市民の組織化と日常訓練の継続は不可欠であり、大災害経験者が少なくなり、経験の伝承による市民の関心の維持が難しくなっている現状では、行政のリードこそ重要で、むしろ、どうすれば市民意識を鼓舞しうるか、その効果的方策を工夫することが課題と言える。

市民防災組織の現状

我が国の代表的な市民防災組織の現状を整理してみる。
(1)消防団・水防団
 最も伝統的な団体で、消防組織法の制定により準公務員として位置づけられている。常設消防隊のない自治体で事実上の消防隊として活動し ている団体もあるが、一般に、消火活動自体は次第に常設消防に移管されつつあり、消防団は地域住民の啓蒙、教育活動などの地域防災活 動全般の指導、防災イベントや災害救援などの地域交流活動への従事 が主となってきている。 (2)自衛隊消防団
 一定量以上の危険物、化学物質を扱う工場などに設備が義務づけられているのが自衛隊消防団である。
(3)自主防災市民団体
 災害対策基本法に基づき、現在最も組織化に力が注がれている。多くは既存の町内会・自治会を母体としているが、町内会・自治がまった くの住民自治組織出あるのに対して、防災市民組織は、公的な行政機 構の一部として、好適予讃や資機材の供与を受けられる点が異なる。
 組織に期待されている活動内容は、
  一般防衛体制を整えること
   組織の強化
   防災知識の普及
   活動マニュアルの作成
   資機材の配備
  災害発生時
   情報の収集伝達
   出火防止と初期消火
   負傷者の救出・救護
   住民の避難誘導
   給食・給水活動

(4)防災町づくり協議会  行政の呼びかけにより、大都市の住宅密集地など災害危険度の高いいくつかの地区に結成された住民自治組織で、予防的意味合いをもつ災害に強い町づくりのため運動が展開されている。
(5)日赤奉仕団
 世界のいかなる災害においても、最も活発な救援活動を展開するのが赤十字社である。赤十字の活動基盤はボランティアであり、平常時よりそのネットワークをもっている。
(6)防火クラブ・消防クラブ
 火災予防知識の普及、消火機などの使用法習得などの講習が行われている。
(7)防災研究クラブ
 中・高等学校で行われている防災研究クラブなども市民の防災組織の一つと見なされる。地震の前兆現象や地盤変化の観測が主。

市民防災組織の活性化のために

 このように、我が国では多くの社会グループにおいて、それぞれの特性に応じた防災市民組織が結成されているが、そのすべてが活動しているとは言いがたい。災害が極めてまれなため活動を日常的に継続することが困難であり行政のキメ細かいリードが望まれる。  防災活動の市民の参加の度合いを3つのレベルに分ける。
 各レベルごとに強化されるべき対策は、  

step1 認識レベル

 学校教育における防災カリキュラムの確立。  一般市民に対しては、最終目標を自らの町を常に安全の目で点検し評価で  きるようなレベルにまで教育効果を高めて行くという水準に定めて、指導  して行くことが望まれる。

step2 日常行動レベル

 家庭での防備、防災技術の習得、防災町づくりへの参加があげられる。し  かし、行政の行う防災訓練への参加率は低下している。原因としては、災  害が極めてまれなため日常生活との接点が見つけられないためと思われる。

step3 発災時の行動レベル

的確な情報収集システムの確立:現在、市民を情報発信者として育成する 視点が欠けており、今後の態勢づくりが望まれる。  市民の組織化:専門的な同好会やサークルに属しているグループが中心で 一般市民にまで広がっていない。今後、ボランティアが日常的に集まれ る仕組みが不可欠であり種々の工夫が期待される。