災害処理の原則と防災計画

     (高橋有二. 救急医学 15: 1745-52, 1991,担当:田中)


 我が国は地理的条件のほか、多様な社会産業構造、複雑な交通網等から災害を受けやすく、世界有数の災害多発国の一つである。このため、災害が生じる毎にその対応や防災について多くの問題が指摘されている。さらに、国際社会では1990年代を「国際防災の10年」として防災に努めているが、まだ多くの課題を残している。そこで、この筆者は我が国の災害、防災に問題を絞りつつも、災害処理の原則や防災計画についての考えや、とくに災害のなかでの医療救護、救急医療を中心にまとめている。

災害処理について

 災害処理についてまとめるには、まず災害とは何かを知る必要がある。「災害対策基本法(1961年、法223)」から引用すると、災害とは「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、その他の異常な自然現象又は大規模な火事、もしくは爆発、その他その及ぼす被害の程度に於て之に類する政令で定める原因による被害を言う・・・・」とある。この災害により発生する死傷者はすべて災害時の医療救護の対象とされている。筆者は災害を図1のように大別している。自然災害(主として、広域災害)では行政機関・医療機関も共に被災者となり、悪条件下のなかでの医療救護を行わなければならない。又、人為的災害(主として、局地的災害)に於いては周辺医療機関の多くは正常とみなして、比較的良い医療救護を得られるであろう。また、災害発生場所が都市か地方かによっても医療救護の対応は変ってくる。さらに、図に示すように自然災害の起り方、経過によっても医療救護の対応は変る。このように、災害の性質によって、医療救護の対応は変化するのである。

災害時の原則的対応について

 図に示したとおり、災害にはいろいろな性質があり状況も刻々と変化する。これに対して、被害を想定し対応を想定するのは極めて難しい。しかし、われわれは個人的対応と社会的対応とを的確に行う必要があり、つねづね災害時の対応を考えシュミレーションなどでトレーニングする必要がある。
 表は、災害発生時の主として個人的な原則的対応を示している。表2は災害医療救護の原則を示しているが、迅速な医療救護が必要である。とくに、広域災害では悪条件下のなかで医療救護を行わねばならないので、いかに効果的に行えるかはリーダーの能力にかかっているとみられるだろう。また、表にあるトリアージは集団災害、多発患者の処理については最重要項目である。的確なトリアージは多くの人々を救うだけでなく、災害救護医療の無用な混乱を防ぐ大きな効果があるからである。
 国としての社会災害対応は、具体的には災害発生時には内閣総理大臣を長とする中央防災会議が召集され、その下に各都道府県防災会議、市防災会議、町・村防災会議と組織化されてなされる。災害時の国家的対応の目的は、人的・物的被害を速やかに復旧し、社会的不安、衣食住などの確保・安定を図る事である。

防災計画(災害時医療)について

 既に示したとおり、災害時の被害想定が極めて難しいために、防災計画を確実に対応出来るように組むこともまた至難の業である。しかし、筆者は数々の災害救護体験から現在の防災計画にある幾つかの問題点を指摘し、今一度の系統的再検討の必要性をあげている。
 筆者が上げた問題点は
  1)緊急医療体制の想定において、医療提供者自体の被害を想定してない事。
  2)自家発電のような普通の安全装置が駄目になる事を想定していない事。
  3)公共施設の災害時においての提供場所を普段から想定していない事。
  4)医療スタッフ自体の安全を確保していない事。
  5)緊急時の手続きや権限などを明確にしていない事。
                 などである。

医療救護体制について

 緊急時の医療救護体制は、次の3つの程度を考えておく必要があると筆者は述べている。
  1. 院内体制、院内自給体制、少ない人員、職員の招集計画、ライフライン<中断などの不利な条件下での救急医療体制、病院の生き残り、来院患者の診療。
  2. ごく近い突発災害時、現場への医療救護班の派遣、平常時よりの遂行資器材、救急箱、編制などの準備、トリアージ、現場救急医療、搬送。
  3. 被災医療機関への応援、被災病院患者の収容、人的・物的応援。

    その他
     災害現場での各団体の連絡・調整については、「命令・指揮系統を充実するように」との意見がだされているが、災害現場にはさまざまな団体が活動するため、それぞれ独自の命令系統があり1本化するのは無理である。よって、筆者は過去の経験からそれぞれの団体の長が被災者の救急救命のために何が最善策かを話し合い、「互いに協力要請、要請に応える」かたちで進める事がベストであると考える。
     また、過去の災害を教訓として、我が国にまだ起っていない災害に目を向けておくことも防災計画として重要であると考えられる。

     最後にまとめとして筆者が述べていることは、「災害処理の原則」は災害関係法規や地域防災計画などで大要は決まっているが、あくまでも大要であって、実際必要なのは応用の方であり、相当頭を柔らかくして対応する必要がある、と言う事と、普段からもっと真剣に自分自身の安全、病院防災や備蓄、医療機関自体の生き残りに取り組む必要がある、と言う事である。