そして、ドナーの意向に左右されず、受益者の人権のために活動の最低基準を設定すること が重要であるという観念が芽生え始めた。つまり、世界的に適用可能で、なおかつ国際的に合 意された基準が援助と責任能力のレベルを引き続き向上させていくために不可欠であると思わ れた。
注意・・・虚血四肢の再還流障害や、compartment syndromeとの違い
Crush injury においては、動脈閉塞による虚血と異なり、受傷部以遠でも、動脈血行は保た
れているため動脈閉塞による虚血とは異なる。
⇒ 局所の浮腫の助長 + 筋崩壊物質の血流への放出
⇒ 高カリウム血症による心停止・ 受傷部浮腫における全身の脱水・ミオグロビンによる腎
障害
Crush Syndrome ≒ 全身としての重症度 で評価する。
局所の重症度
全身の重症度
局所に対しては骨折や血管損傷の有無の精査と、神経麻痺の原因が本症によるものかの判断、
輸液に伴う局所の浮腫の進展に注意する。評価に関しては、輸液によるcrush部の腫脹増大
や、、本症による腎機能の悪化に起因する溢水などを見逃してはならない。
以上より大量輸液と強制利尿による、循環不全や高カリウム血症対策が治療戦略の基本である
といえる。また、本症では筋組織が極度に圧挫されているため、ここに筋膜切開を加えること
は、感染を助長したり、水分管理を困難にするため、減張切開は必要でない。
病院におけるこれらの主要な災害に対する計画は、いかなる突発災害にも対応できるように柔
軟性をもっているべきである。柔軟性のない計画は、時間の浪費などを起こし、結果としてそ
の病院は汚染されてしまう。
化学災害は健康面、環境面の両方で影響を考える。
トリアージとは、限られた人的・物的資源の状況下で、最大多数の傷病者に最善の医療を施す
ために、傷病者の緊急度と重傷度により治療優先度を決めることである。傷病者の数が多いほ
ど短時間の内に判定することが重要であり、それにはトリアージ・タッグを用いて傷病者の識
別を行うことが望ましい。
そのためには、災害現場において現場救護所を設置する。そこで、3つのTで表されるTriage,
Treatment,Transportationを行うため、1.現場トリアージ、2.医療トリアージ、3.搬送トリ
アージの三種に分けてトリアージを行う必要がある。
識別の方法は、呼吸の有無・呼吸数・頭骨動脈の脈拍の触知の有無・意識状態により行う。
(1)現場トリアージが行われていない場合
(2)現場トリアージが行われている場合
(1)緊急治療群
(2)準緊急治療群
(3)保留群
(4)死亡群
Phase I:救急隊など地域の救援・援助機関が被災現場に入る時期
Phase II:被災地に入る専門的な救援体制が整備される時期
Type II:損傷程度は比較的軽度であるが、瓦礫の下に閉じ込められるなど長時間救助
されずにいると生命に危険が及ぶ可能性がある。
Type III:損傷程度は重篤で適切な治療が行われないと生命に危険が及ぶ可能性が高い
が、災害現場からは比較的容易に救出可能。
Type IV:災害による損傷程度が重篤で、災害現場からの救出も比較的困難。
B・C:災害現場に近接した安全な場所に設置された救護所。医療施設への迅速な搬送が
困難な場合、ここでトリアージに引き続いた医療が行われる。
D:亜急性期以降、医師や看護婦が駐在して開かれる救護所
B:呼吸の補助
C:循環の維持、外出血のコントロール
D:挫滅症候群に対する現場での治療
災害時においては医療は独立したものではなく、多くのものに支えられて成立している。多数
の分野がリンクして医療は成立し、さらに影響される。すべての関連領域で一致する目的は災
害による死者軽減、負傷の軽減、後遺症の軽減である(図1)。
一方、視点を変えて、死亡の過半数を超える即死をターゲットとし、それを防止する努力もま
た有力なアプローチと考えられる。建築工学の分野では建物の強度や構造などに関する研究が
行われてきた。しかし、これには莫大な経済的投資を必要とする。
次の発想として、建物倒壊パターンと死亡率の関係解析がある。実際の地震において、全壊と
された建物区分を建築構造学的見地から分類して、それぞれの死亡率を調査した結果、従来の
建物倒壊区分で大きく全壊とされるものの中にも、生存空間が確保されて、死者発生が少ない
倒壊パターンが存在することを見出した。現在、生存空間を残す倒壊パターンはほぼ決定さ
れ、その倒壊パターンを導く建築方法、既存の建物の改造法についてのコンピュータによるシ
ミュレーションで検討が行われている。
地震によって閉じ込められた人間が救助を待つ間にどれだけ生きていられるかについての試算
がある。窒息、頭・胸部、腹部、四肢の損傷、負傷無しの死因モード別にモード別余命特性関
数を求める。これに、阪神淡路大震災の神戸市内で 1)家族・隣人、2)消防、3)自衛隊によって
実際に行われたSAR(search and rescue)の資料を重ねると、図3が得られる。この震後余命
特性の試算は被害予測、救援・救助活動における死者低減戦略、さらに管理の評価への応用が
期待される。
本システムの主な目的は正確な情報を災害管理者に提供し、決断の助けとするものである。
具体的には事前に詳細なデータベースを作成しておき、そこに被災時の情報(1.災害の種類、
2.規模など)を入力する。データベースは 1.地理、2.人口(時間帯/季節別)、3.資源(ライフ
ライン、医療資材などの備蓄状況と供給)、4.資源/道路などの壊れやすさなどできるだけ詳
細なものを作成する。システムの最大の特徴は、オンラインコンピュータの「blackboard
system」(複数の端末から書き込む)を採用して、動的局面に対応していることである。今
後、この種のデータベースを基礎とした地域ごとのネットワークシステムは管理や救援に必須
となる。
予測式の研究は倒壊家屋数と人的被害(死者発生)の相関関係に立脚し、さらにその他の要因分
析を加えて回帰式を求め、次に実際の地震被害に適用して検証するという手法が主流である。
負傷者発生予測式は負傷の重傷度を視野に入れたものである。重傷度の基準に入院の要否を使
用しており、妥当性、汎用性の点で高く評価できる。
今後、わが国各地域における可能な限り詳細なデータベースの開発とさらに精度の高い被害予
測式の確立が求められる。
クラッシュ症候群
月岡一馬、石原 晋・編著:実践外傷治療学、永井書店、東京、p.255-259〔定義〕
またcompartment syndrome は 解剖学的なcompartment内の圧が上昇して初めて筋組織が障害
され最終的に筋壊死に陥る。しかし、crush injuryではまず筋組織そのものが障害を受けそ
のため筋細胞が制御できなくなり浮腫をきたし、結果として周囲の圧を上昇させる。〔受傷機転〕
〔臨床症状〕
〔病態〕
〔重症度分類〕
〔治療〕
〔診療所では・・・〕
バイオテロリズムとしての炭疸
(吉田 聡 他、治療 84: 1355-1362, 2002)化学物質による災害管理 Introduction
島崎修次・総監修、化学物質による災害管理、メヂカルレビュー社、大阪、2001、p.1-91.化学災害に対する準備
2.化学災害とは何か
3.英国環境健康行動計画(National Environmental Health Action Plan)
4.中毒学
5.放射線障害
現場トリアージの実際
甲斐達朗、山本保博ほか監修、荘道社、東京、1999、p.58-64
優先度 分類 色別 区分 疾病状況 診断 第一順位 緊急治療 赤 I 生命・四肢の危機的状況で直ちに処置の必要なもの 気道閉塞、呼吸困難、重症熱傷、心外傷、大出血、止血困難、開放性胸部外
傷、ショック 第二順位 準緊急治療 黄 II 2〜3時間処置を遅らせても悪化しない程度のもの 熱傷、多発または大骨折、脊髄損傷、合併症のない頭部外傷 第三順位 軽症 緑 III 軽度外傷、通院加療が可能程度のもの 小骨折、外傷、小範囲熱傷で気道熱傷を含まないもの、精神症状を呈するもの 第四順位 死亡 黒 0 生命兆候のないもの 死亡または明らかに生存の可能性のないもの 現場におけるトリアージ
災害時の治療の原則
新藤正輝、山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、pp.171-176災害医療とは
↓1.災害現場における治療の目的と原則
→被災地外からの救援医療は望めない。損傷を免れた市民により負傷者の救出が行われる。
→負傷者を現場近くの安全な場所に移し、駆けつけた医療従事者とともにトリアージや処
置が行われる。
→組織立った負傷者の後方施設への搬送が可能になり、安全な場所に設営された救護所におい
て医療活動が行われる。
↓
この時期の災害現場の負傷者に対して行う治療の原則2.医療活動の場所
検索救助医療チーム。閉じ込められた負傷者に対して災害現場の渦中で医療を行
う、医師を含む特殊な訓練を受けたチーム。3.治療の実際
・合併損傷の軽減
・頚椎カラー(頭頸部損傷があり、頚椎損傷が疑われる場合)
・気管内挿管時・移動や体位変換時にも注意
針による胸腔内穿刺(←緊張性気胸)、胸腔内ドレーンの挿入(←血胸)災害医学と関連領域
和藤幸弘、山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、pp.7-16a. 災害の人的被害に対する多方面からのアプローチ
従来の災害医学のアプローチでは、1)遷延死の存在を科学的に証明すること、2)preventable
deathを同定して死亡に至る機序を解明すること、3)preventable deathの救命を目指して対策
が検討された。b. データベースに基づく情報ネットワークシステム
c. 人的被害予測
d. 防災システム評価に関する研究