救急処置シミュレーションに関する論議

越智元郎、野上和秀、安田康晴、畑中哲生
(プレホスピタルケア 13: 42-48, 2000)


I. はじめに

 救急処置シミュレーションは救急救命士(以下、救命士)養成課程や消防本部などで行われる訓練で、救急隊員のチームが行う一連の処置の流れを現実の場面に模して確認するものである。またこの訓練を救命士会などの催しにおいて、デモンストレーションとして実施する場合もある。1999年4月、この救急処置シミュレーションについて、山陰災害・救急医療メーリングリスト(SEML)および救急医療メーリングリスト(EML)という2つのメーリングリストにおいて、活発な論議が繰り広げられた。メーリングリストは電子メールの同報機能を用いた、意見、情報交換のための活動である。

 本稿はその論議を多くの救急医療関係者と共有することを目的に準備された。なお上記メーリングリストにおける今回の論議の詳細は、次の公開ホームページに収載されている。

http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/99/j5simup.html


II.救急処置デモンストレーションを見て(一救急医より)

 1998年秋、ある救急関係者の集会において、救急隊員3名が舞台上で演じる、「デモンストレーション:特定3行為」と題する催しをみた。ある状況における救急隊員による処置の流れを、筆者のような救急隊員以外の職種の参加者や他の消防本部の職員に供覧するというものであった(表1)。

 演技はよどみなく実施されたが、筆者には幾つかの点で疑問を感じさせるものであった。救急活動の目標を心拍再開ではなく、社会復帰に置くとすれば、心室細動の早期検出と早期除細動を具体的な目標にするべきであり、そのためには、以下の配慮が必須である。

 1. 消防本部への通報から現場到着、通報か ら心電図確認、通報から電気的除細動(適応がある場合)の各所用時間の短縮を目指せ。

 2. 現場に到着するまでにできるだけの病因 予測をする必要があり、通報者からの的確な情報聴取が重要である。

 3.心疾患による心肺停止が考えられる場合は特に、早期の心電図確認と除細動器実施にしぼった救急隊活動が望まれる。この目的で救急隊員用テキストのプロトコールやマニュアルを超えて、柔軟に実施する必要がある。ここで参考とすべきは米国心臓病学会(AHA)の2次救命処置のガイドラインであろう。

 虚血性心疾患が予想される例では、次のような配慮が必要と考えられる。

イ)口腔内異物確認 → 省略する。
ロ)バックマスク換気による両肺呼吸音を部下が確認 → 省略する。
ハ)LMAやコンビチューブなどによる気道確保 → 除細動を先に実施する。
ニ)救命士による病院外での輸液 → 薬剤が使えない現状では時間の無駄であり、搬送を急ぐ(または走行中の救急車内で実施)。

 4.最初の心電図が心静止で、後ほど心室細動に変わる想定の訓練はやめてはどうか。時間短縮の緊迫性がゆるむと思う。現実にも心肺停止後、早い時間ほど心室細動の率が高く、またそのエネルギー(振幅)も大きい筈。

 5.1つの処置(特定行為)ごとに医師の許可を取るようにと、救急救命所などで教えるのはやめてほしい(一括指示を原則とする)。また指示医師への心電図伝送も必須ではない。 6.2次救命処置について市民への啓蒙も重要。119通報をすることが、「心肺停止であれば特定行為が行われること」を前提とするような社会的合意を形成したい。

 以上、皆様のご意見を承りたい。

表1.ある救急処置デモンストレーションの流れ


  • 狭心症の既往歴のある老人男性がテレビを見ていて意識を失ったという119番通報により、高規格救急車が派遣される。
  • 救急車が患者宅に到着。家人は心肺蘇生法は実施していない。
  • 救急隊員により患者の意識確認、口腔内異物確認、呼吸と脈拍の同時確認(2人の隊員により)。
  • バックマスクで人工呼吸開始、他の隊員が聴診器で呼吸音聴取。呼吸音聴取の後、聴診を介助した隊員が心マッサ−ジを開始。
  • 蘇生開始1分後の自己心拍、自発呼吸吸の確認
  • 隊員の1人が心電図モニターの準備をしていたが、その波形の種類について特にチームには報告せず。
  • 喉頭鏡で口腔内確認
  • バックマスク人工呼吸での換気が十分でない(という設定)。
  • 医師に電話、患者の病状報告、このときの心電図波形を(初めて?)目でみて医師に報告(設定では心静止)。医師から特定3項目のうち、ラリンジアルマスクエアウエイ(LMA)挿入(のみ)の了解を得る。
  • 医師の返事「・・のプロトコールに沿って実施しなさい」
  • LMAを挿入
  • 輸液実施について医師の了承を得る。医師の返事「・・のプロトコールに沿って実施しなさい」
  • 末梢静脈路を確保。
  • 心電図波形が心室細動に変わったという想定。心電図伝送。医師に除細動の了承を得る。医師の返事「・・のプロトコールに沿って実施しなさい」
  • 電気的除細動を実施
  • 現場を出発したのは到着後10分以上たっていた。


III.研修所でのシミュレーション訓練について

 研修所でのシミュレーション訓練(以下、シミュレーション)は、バッグ・マスクによる人工呼吸、心臓マッサ−ジ(以下、心マ)、喉頭鏡の使用訓練から始まる。その目的は救急隊員としての基本的手技の確立である。その後、特定3行為の訓練、現場を想定したシミュレーションへと進んで行く。この流れの中では、研修生の入所前の知識と経験の違いにより、実習の進み具合と成果が大きく変わって来る。入校してくる研修生の多くは基本手技が出来ていないため、最初の1ヶ月半くらいはバックマスク、心マ、喉頭鏡の使用方法に時間を取られている。そのため、シミュレーションに割く事のできる限られた時間の中で、基本的手技の確立と観察の重要性については特に力を入れて指導している。しかし現段階では、とても処置等に要する時間短縮というところまでは行かないのが現状である。

 心肺停止の症例についても観察なしのCPRはありえないとした行動要領である。今回指摘を受けたうちの何点かは、この基本的手技と観察を強調して実施していた為のものである。研修生それぞれが卒業後は、教習所での訓練を基礎にして順次バ―ジョンアップして行くものと思ってシミュレーションを行って来た。しかし、研修所でのシミュレーションを絶対的なものと誤認している卒業生がいる事も知ることができた。

 今回の指摘事項について説明をしたい。まず、心疾患による心肺停止が考えられる場合の早期の心電図波形確認と除細動については、常々言って来ているが、他の想定とは行動要領を明確に分けて実施する事としたい。

 想定上、特定3行為の始まる順序については、1997年7月3日付消防庁通知で、心臓機能停止又は呼吸機能停止のどちらか一方が停止すれば特定行為が出来る事が明確にされた後からは、心疾患については想定上の初期心電図が心室細動に変更されている。

 救急隊が傷病者の前で家族に行うインフォームド・コンセント(以下 I・Cと略)については、第2回日本臨床救急医学会(1999年)で議論された。ここでは、救急隊の出動する現場では同意が得られないかも知れないが、説明は必ず行う必要があるという結論であった。これについては、今後も議論が必要だと思う。

 心電図伝送が必須でないという事は承知しているが、消防庁の調査では救命士活動を行っている消防本部の75%が心電図伝送を実施しており、訓練において伝送を省略する事は現時点では難しい。現場では心電図伝送をしなくても良い信頼関係を医師との間に作る事を望んでいる。

 特定3行為の一括指示については、もちろん賛成であるが、具体的内容を医師に伝える訓練として行う必要がある。現場ではその地区の指示医師との関係が一番重要で、それが保たれている限りは、一括指示になっても良いと思う。

 病院外心肺停止例における救急活動の理想は、

  1. 市民への広報活動充実により、救急業務への理解が得られた状態で119番受信。
  2. CPRの口頭指導によりバイスタンダーCPRが実施されている。
  3. 家族へのI・Cも救命士活動を理解している家族の為に一言の説明で終わる。
  4. 医師からの指示も出動時に119番を受信した指令室から医師に連絡がしてあり、3行為一括指示が電話ですぐに受けられ、すばやく特定行為が行われる。
  5. 除細動により脈拍回復、気道確保器具を挿入、現場出発、搬送中に静脈路確保を実施、という形であると思う。

 この理想に少しでも近づくためには、応急手当の普及啓発、119番受信時の口頭指導の充実、救命士制度への医師の積極的参加、それと救命士のレベルアップが必要であり、それぞれにかなりの時間と努力がいると思う。特に、救命士のレベルアップには、現場での一つ一つの積み重ねられた経験が必要であり数年はかかるものである。それと合わせて病院内実習の充実等の医師からのバックアップが必須であると思う。

 研修所でのシミュレーションの目的は、先に延べたように基本的手技と観察の流れを身体でおぼえ、それを医師や教官に評価してもらう事である。このようなシミュレーションは、今回例示されたデモンストレーションの目的にはそぐわないかもしれない。しかし、デモンストレーションは見学者や実施者により目的がそれぞれ異なると思うので、そのことを考え組み立てていくことが必要である。

 今期の研修所で行っている想定と実習の要点は、次のとおりである。

  1. 心肺停止(出動途上における電話によるCPRの指導と現場到着後の早期除細動)
  2. 呼吸困難(気管支喘息、心不全の鑑別と処置)
  3. 多発外傷(3階からの飛び降り、これに伴う出血性ショック、肺挫傷、頭部損傷の鑑別と処置)
  4. 胸痛(心筋梗塞、急性大動脈解離の鑑別と眼前CPAの早期除細動)
  5. 脳卒中(脳出血、クモ膜下出血、脳梗塞の鑑別と処置)
  6. 交通事故(胸部外傷、出血性ショック、頸髄損傷の観察と処置)
  7. 鋭的外傷(胸又は腹部刺創、出血性ショック、腹膜炎、肺損傷の観察と処置)

 7月中旬に5日間にわたって行った救急車同乗実習では、この7想定を研修生全員が1回ずつ隊長役になって実施した(写真1、2)。

 このように、研修所でのシミュレーションも現場活動に近づける努力は行って行きたいし、現に少しづつ変わって来ている。これを実際の現場活動に近づける為には、基本的手技と観察が確実に出来る事が前提条件である。その後に、理想とするシミュレーションが出来上がるものと思う。研修所入所前の研修生には事前勉強も大切であるが、基本的な救急活動の訓練についても先輩救命士から指導を行ってもらいたい。研修生は、基本重視のシミュレーションを行って来ているので、卒業後は現場の状況に応じた行動や時間短縮について、所属消防本部でそれぞれレベルアップを図っていただきたい。入所前の所属、研修所、それから卒業後の所属と連携が取れてこそ救急隊の活動もスムーズに行く事だと思う。

 研修生は国家試験を前にして、試験準備とシミュレーションの両立で大変苦労している。指導側においても、限られた時間内での効率的な指導に腐心している。「病院前救護体制のあり方に関する検討会」の答申や医学会の動向を見ながら、今後のシミュレーションの見直しを図って行きたいと思う。

写真:1999年7月、救急救命九州研修所でのシミュレーション風景
 写真1 車庫内でのシミュレーション訓練
 写真2 高規格救急車内でのシミュレーション訓練


IV.現場の救急隊員の目からみた救急処置シミュレーション

1)シミュレーションとは

 シミュレーションとはある種マニュアルに基づいて行われる訓練である。そのマニュアルは実戦から得られるものでなくてはならない。例えば映画「トップガン」の様に相手機の航空力学、戦闘能力等を十分に分析・把握しその攻撃についての対応策のマニュアルが作成され、そのマニュアルに基づきシミュレーションが毎日の様に行われる。ペルーの日本大使館でのペルー軍の人質救出作戦も相手の人員・武力等を十分把握し、なおかつ大使館と同じ構造の建物を造り、そこで実戦を想定した訓練が何回も行われ、救出作戦が成功したのである。これらのシミュレーションは常に実戦を想定したものであり、実戦での成功を勝ち取るためのものなのである。

 救急におけるシミュレーションも同様に実戦、現場を想定したものでなくてはならない。しかし、これを行う隊員は全て基本をマスターした隊員であり、今回の論議ではそこまで達していない救急隊員に、救命士養成における研修所でのシミュレーションを行う困難さを露呈した。

2)現場の救急シミュレーションと研修所のシミュレーション

 現場における救急シミュレーションは前述したように、現場活動を想定し、現場で即応できるものでなくてはならない。

 同じ心肺停止患者を想定したものでも、心肺停止に至るまでの経過によっては必然的にその優先順位は違ってくる。例えば、心疾患患者、特に除細動を優先しなければない症例や気道異物の除去を目的とした症例、外傷により心肺停止となった症例では患者に対するアプローチや処置手順は当然異なっている。そして常に患者の家族・同僚などの関係者が存在していることを忘れてはならない。

 また、現場シミュレーションを行う上において、障害となるのが研修所で学んだシミュレーションが完璧であり、バイブルだと勘違いをし、現場から得られた実践的な活動シミュレーションを受け入れられないという意識である。

 具体例をあげるならば、ショックパンツを使用したシミュレーションである。そもそもショックパンツを使用し搬送する患者では、現場で無駄な時間をかけないこと(スクープアンドラン)が現状の処置においては大前提となる筈である。

 研修所でのシミュレーションではいまだ現場時間を短縮したものではなく、メインストレッチャーにショックパンツを広げ、スクープストレッチャーにより患者をショックパンツ上に、そして右足・左足加圧という順序である。われわれはこの方法に疑問を持ち、現場でいかに早く装着・加圧できるかを考え、まず、ショックパンツをズボンのように履かせて車内収容し、デマンドバルブを使用し加圧する方法でシミュレーションを行ってきた。しかしこの方法は応用であり、基本的なシミュレーションとしては受け入れられないのである。

 現場で即応できるシミュレーション、基本シミュレーションとはどこから生まれてくるのであろうか。少なくとも現場活動から生まれるべきのものであり、決して机上だけから生まれてくるものではない筈である。しかし、現場活動から検証され実際に行われているものを研修所のシミュレーションにフィードバックするシステムは存在せず、現場活動から得られたシミュレーションは今後も亜流として扱われることになる。

 現場活動で即応できる実践的なシミュレーションを構築するには、救急現場で実際に行われている活動を医学的見地・救急活動(資器材・活動現場・隊員数など)から検証し、フィードバックするシステムが必要である。

 また、救命士会や学会、救急シンポジウムで行われるシミュレーションについても、救急活動を一般住民に啓発するのであれば一言一句説明し、その割に手は動かない、現実味を帯びないデモンストレーションでよいだろう。一方、知識・技術を高めていくための会でのシミュレーションであれば、医学的根拠・法的根拠・現場活動を十分に理解したものでなければ何の意味も持たない。

3)救命士教育体制の現状

 第2回日本臨床救急医学会総会の救命士の生涯教育に関する議論にもあったように、救命士を養成する以前に、派遣をする消防本部の体制、意識が希薄なところに問題があるように思える。研修所の入所者の半数が「救命士になりたい」と考えていたものでなく、上意下達の世界における業務命令で入所している。入所前の救急教育が十分に整っておらず、多くの消防本部が「半年間を過ごしてこい」といった安易な考えを持っていることは否めない。また、業務命令でありながら、先任の救命士に現場活動や訓練で基本手技・知識を十分に教育されていない救急隊員が数多く入所している。事実研修所入所前は予防担当、救助・消防隊員で救急現場にほとんど出たことのない隊員が数多く入所しているのである。このように入所前の教育体制が整っていないため、今回の議論であったような、実戦的な、現場で即応できるシミュレーションが行えず、基本訓練に時間を費やしてしまうという研修所からの意見が生まれてくるのは当然のことといえよう。

4)今後どうあるべきか、どうすべきか

 救命士は医療従事者である。まず消防内部における医療従事者になるという「能動的動機付け」を根底に持つ必要があり、入所する隊員にもその強い意識が必要である。

 また、救急隊員教育の具体的な方策としては、先任救命士や医療機関による入所前・資格取得後の教育システムを確立すること。次に、受け入れ医療機関との指示連絡・病院研修を含めた連携強化を組織ぐるみで積極的に行うことが必要になると考える。

 また、研修所で学んだシミュレーションを現場に即応できるものにアレンジしていくことを考える前向きな姿勢を常に持ち続ける必要があり、またそれが可能となるような組織としてのバックアップ体制が必要である。


V.救急処置シミュレーションに関する論議 ―まとめと提言―

 救命士の養成は実務型教育の典救急救命士型であり、その最終目標は状況に応じて即時的、かつ的確な行動を実践できる能力の獲得にある。その中心的役割をになうのがシミュレーションである。

 今回、救命士養成施設でおこなわれているシミュレーションに関して様々な批判が寄せられた。特に問題とされたのは心原性突然死のシミュレーションであるが、ここでの議論は養成所における様々なシミュレーション全般に対するものと解釈すべきであろう。これらの批判に対する養成施設からの反応にもあるように、現行の教育制度の枠内では養成所におけるシミュレーションを根本的に改善するのは容易ではない。しかし、現在の状態が本来あるべき姿からは程遠いものであるというのもまた事実であり、われわれはこれに対して何らかの方策を講ずるべきである。

[救命士養成施設の対応]

 各養成所は寄せられた批判の一部を真摯に受け止め、今後の検討課題とすべきであろう。たとえば、救急救命九州研修所では、心原性突然死に対する想定内容をより実践的なものへと変更するなど、いくつかの変更を検討している。これは今回の批判に対する直接的な対処の一環であるといえる。

[各消防本部の対応]

 完成したシミュレーション訓練を養成施設に期待する事が困難な現状では、その一部を各消防本部における継続教育に頼らざるを得ない。養成施設におけるシミュレーションの実態について各消防本部と養成施設との相互理解を深め、救命士資格取得後に各地方で行われる教育の体制を再構築する必要がある。また、各消防本部における隊員教育は救命士以外の一般隊員に対しても同様に行なわれるのが理想的である。

 一般救急隊員の士気と技能を高めることは、救命士養成施設での教育効率的を上げるための必要条件である。

[救命士教育内容の再検討]

 救命士養成所に課せられた教育時間の内訳についても再検討の余地がある。救命士のあるべき姿は決して「小医者」ではない。医療全般にわたる幅広い知識は必ずしも必須ではない。一方、状況によっては一般の医師よりもさらに高度な知識と技術が必要でもある。限られた教育時間の中で、どのような知識、どのような技術の習得を目指すべきなのか。病院前救護体制における必要性を吟味した上で、坐学と実技習得に割くべき時間配分を再検討する必要がある。これにより、本来のシミュレーションを行なうための時間的余裕を作り出すことができるかも知れない。

[消防学校における教育内容の再検討]

 救命士養成施設が本来的なシミュレーションを行なう事を困難にしている一因として、一般隊員に対する実技教育の不備が挙げられる。実際、救命士養成施設での実技指導の多くは、本来一般隊員が習得しておくべき技術の指導に当てられている。消防学校での教育カリキュラムは従来のI過程、II過程が統合されて救急標準過程となった。救急車乗務経験のない段階ですべての教育を済ませてしまうことの是非について、あるいは標準過程における実技指導の内容などについて、救命士養成施設との一貫教育を念頭においた再検討が必要である。

[まとめ]

 救命士養成施設で実施されているシミュレーションに関して様々な議論が行われた。この議論はシミュレーションのみならず、救急隊員・救命士の教育全般にわたる重要な問題を浮き彫りにしている。先に延べたいくつかの提言を基に、今後の救急隊教育がより効率的なものとなり、病院前救護体制の強化につながる事を期待したい。


■救急・災害医療ホームページ/ □救急処置シミュレーションに関する論議