意見覧:

JR職員に救命手当の普及を

(1999年12月18日、JR西日本への提言)


 ウェブ担当者より:私共は救急医療メーリングリスト(eml)、別称 日本救急医療情報研究会を通じて、市民への救急蘇生法の普及をはじめ、わが国の救急災害医療の様々な問題について話し合っています。また社会に対しても様々な提言や働きかけをしてゆきたいと考えています。このたび、私共の会のメンバーのご家族がJR西日本に勤務しておられることから、「JR職員に救命手当の普及を」という提言をさせていただく機会がありました。本ペ−ジはこの提言の内容を広くご紹介し、皆様からのご意見、ご質問をお寄せいただくために用意いたしました。ウェブ担当者(gochi@m.ehime-u.ac.jp)までご連絡をよろしくお願い申し上げます。)


 拝啓 貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。

 私は、JR社員の妻でございますが、公立病院の救急部に長年看護婦として勤務しております。この度、私共夫婦や私の加入しております救急医療情報研究会の有志の方から、JR西日本にお願いがしたい事があり、突然お手紙をお送りさせていただきます。

 私達夫婦は愛する我が子を突然の病気で亡くし、辛い日々を過ごして参りました。また、私の仕事柄、病気や事故で突然亡くなられる患者さんを毎日のように看て、その家族の深い悲しみも十分に理解しています。このような家族の突然の死,そしてその後の家族の深い悲しみを多くの方に経験してもらいたくないとの思いから、私達は救命手当の普及活動をさせていただいております。

 私は救急医療情報研究会(代表:愛媛大学医学救急医学教室 越智元郎)に参加させていただいております。JR社員の中には、自動車免許取得時に必要な救命手当の教育を受けられていない方もおられ、車中で心停止等が起こった場合速やかな対応ができない場合がありうるのではと不安を抱いている救急関係者も数多くいらっしゃいます。

 JRは非常に多くの市民が利用する公共性の高い企業ですので、急病などで呼吸や心臓が止まってしまった方に遭遇する可能性が他企業に比べ,格段に高いと思います。心臓が止まってから、4〜5分間そばにいる方が何の救命手当も行わなければ、その方を助ける事はできません。もし列車内で突然倒れ、すぐに最寄の駅に列車を止め、救急車を呼んだとしてもその時間は5分をはるかに超えてしまいます。ましてや新幹線ではもっとかかると思います。

 自治省の平成11年3月の報告書によりますと、駅構内で心停止になった方は2ヶ月間で47名あったそうです。そのうち救命手当を受けた人は 19.1%で、他の公 衆の出入りする場所での救命手当の実施率より低く、また施設関係者による実施率も他と比べ低くなっています。また、残念ながら心停止になられた47名の誰一人助かった人はいなかったそうです。

 先にテレビにも出ましたが、相模鉄道の車中において急病で呼吸が止まった方に車掌さんが救命手当をし、命が助かったことが報道されました。また、小田急電鉄では社員教育として救命手当の講習を行い、車中に応急手当のセットを備えているそうです。また、米国では、乗降客の安全対策として、駅や空港などに医療器具を備えています。

 乗客を安全に目的地まで運ぶというJRの大命題を考えますと、乗客の命を守るために必要な救命手当を行う事は非常に大切な事です。また、この救命手当は乗客のためだけでなく、JR社員の家族や同僚の命を守る事にも繋がります。

 JRの個々の部署では救命手当の講習を受けているところもあると全国的には聞いておりますが、ぜひ、JR西日本が社員教育の一環として救命手当法の教育をしていただける事を切にお願い申し上げます。

 救命手当実施の際の感染等の問題を考えますと、列車内、職場、駅等には、ビニール手袋、三角布、ガーゼ、フェイスマスク(安価です)等の応急セットを備え付けていただければ、社員だけでなく、救命手当のできる乗客や市民もそれを使用する事ができます。

 本社としては、社員が何か救命手当を行ったことで、逆に悪化したら、その責任はとの気持ちはおありだと思います。しかし、この件に関しましては、善意の行為で行ったのであれば、たとえ悪化したとしても民事的にも刑事的に責められる事はありません。

 最近、暗い話題も多いJRですが、JR西日本が「乗客の命を大切にするJR」としての企業イメージを多くの方に持ってもらえるようになることを望んでいます。また、駅や車中など接客に携わる方だけでなく、どこの職場でも社員が救命手当の教育を受けていれば、JR社員の妻として安心して主人を職場に送り出すことができます。救急はいつでもどこでも起こり得ます。どんなときでもすぐに対応できるように救命手当の教育体制を是非作っていただきたいと思います。そして、それが他のJRにも波及していく事を切に願っております。

 格別のご配慮のほどよろしくお願い申し上げます。

敬具      

津秋活之(JR西日本 徳山施設管理センター)
津秋圭子(山口県立中央病院救急部)■■■■■
円山啓司(市立秋田総合病院中央診療部)■■■
他 日本救急医療情報研究会*・有志■■■■■
(*代表 愛媛大学医学部救急医学 越智元郎)


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