交信記録・脳死報道に関する論議(下)

救急医療メーリングリスト(eml)より





Subject: [eml-9: 02649] Re: 中四国地方会:西山先生の講演 From: Genro Ochi Date: Tue, 18 May 1999 16:01:45 +0900  愛媛大学の越智です。NGさんより、移植報道のあり方について コメントをいただき有難うございました。 ○ NGさんより(eml-9: 02641) > 今回の移植のケースが、手法としては第1次バージョンに近い  形であり、情報コントロールに振れすぎたかなとのコメントもあ  ったようですから、西山さんの講演にあったように、事前の取り  決めごとによって、もう少しスマートに行くようになり、現場の  混乱がより少なくなり、関係者が悩まずにすむようになることを  望んでいます。 → 私も、事前の協議によって、節度のある移植報道が最小限の混   乱下に実施されるのがよいと思います。報道機関の特性として、   「他社を抜く」ことに価値があり、「他社に抜かれる」ことへ   の恐怖感があり、「他社が誰も或る情報を入手できない、でき   ても報道できない」場合には焦燥感は生じない、ということも   理解しました。   しかしこれは、報道内部での相対的な事象に過ぎません。患者   や家族の幸福を願い、よりよい脳死移植の制度が定着すること   を願う国民を代弁する行為ではなく、まさに記事を売って生計   を立てる報道屋の姿でした。私たちが視聴料を支払っているN   ○Kにおいても、その最たるものでした。   報道機関が自らを(行政などを監視し、正義を実現する)第三   勢力というような位置づけをするのであれば、他社がどうであ   れ、「真実は真実」という絶対軸を持ってほしい。そうでなけ   ればどうやって、政府を批判したり、国民をリードしたりでき   るのですか。今回の具体的な1点「ドナーは特定されてはなら   ない」、このことについてはどのような情勢下にあっても、中   心となる報道機関には真心で守り抜いてほしかったです。この   ことに関して言えば、N○Kは移植報道の責任者を更迭するか、   大晦日の歌番組を中止して、わが国や世界の移植医療の経過や   死の概念の変化について、粛々と特別番組を放送してほしい。   「万死に値する」とまでは思いませんが、その位の反省を示す   べきではないでしょうか。 ○NGさんより >[eml-9: 01617] Re: 週刊誌の報道(移植)について(長文) > で私がかなりつっこんで紹介したように、救急医学会も混乱を  予想できなかった当事者として、一定の反省を持って登場せざる  を得なくなります。そうでないと、あの場での議論に関わった当  事者として、N○Kだけを非難はしにくい。「絶対混乱します」  との度重なる説明にも、当時の学会幹部からは「厚生省が出すこ  とも含めて摘出後でないと同意できない。マスコミは勝手におや  りなさい」的な発言になって、物別れで終わったわけですから。 → 脳死判定から臓器移植にかけての一連の事態が進行している段   階で情報を出すことについて、救急医学会の代表者が難色を示   され、結局事前の協定は作製されず、方針が定まらぬまま、第   1例に臨むことになったわけですね。私も、今回の第1、2例   の経験をもとに、よりよいルールが成立することを望みします。   それはかつての誘拐報道(よしのぶちゃん事件)に関する協定   のように、侵すべからざるものとして尊重されることになって   ほしいと思います。   救急医学会の報道への立場が「どうぞご勝手に」というものに   なり、協定がまとまらず、報道各社がそれぞれの論理で動いた   結果、第1例でのN○Kのあの行動になったということでしょ   うか。でも、そこのところはN○K自身が国民(視聴者)に対   し、説明義務を負うべき部分ではないでしょうか。 ○  私は第1例目におけるN○Kの報道のあり方を問題にしています。 それはいくつもある切り口の一つであり、たくさんの内在する問題 点の一つに過ぎません。しかし、一つ一つの問題の検証の積み上げ が、2度と同じ過ちを繰り返さない(脳死移植はもう珍しくないも のになってゆくと思いますが、今後の新しい報道テーマに対しても) ことにつながると思います。日本救急医学会としてのこの問題の取 り上げ方には、以下のようなものがあると思います。 イ)理事会や専門委員会での検討、厚生省や他組織との協議 ロ)学会評議員の方々が、一般会員を代表して、この問題を取り上   げる(秋の学会総会での評議員会で) ハ)秋の学会総会で一般会員として意見を表出。これは突っ込んだ   所まで論議する時間は用意されていません。 ニ)一般会員が機関誌などで直接意見を表出する。具体的には日本   救急医学会誌のレター欄への投稿ということになるでしょう。  私個人として可能なのはニ)のみでございます。イ)〜ハ)につ きましては、私と同様のお考えを持たれた学会幹部の方々が、適切 な問題提起や論議をして下さいますと、大変ありがたいと思います。  ニ)につきましては、昨年 emlで論議された「救急医療における 守秘義務の問題」が日本救急医学会誌(確か2月号)のレター欄に 掲載された例がございます。
http://ghd.uic.net/98/ibshuhi.html 今回も同様のアプローチを考えていますが、レターの趣旨としては、 以下のように訴えてはどうかと考えています。 ・第2日目の脳死臓器移植が実施された直後の5月上旬、日本救急  医学会中国四国地方会において、担当医として初回の脳死臓器移  植に関与された西山医師の講演を聞く機会を得た。 ・西山先生が講演の中で強く強調されたことは、報道陣の無神経な  報道姿勢によって、患者さんや家族のプライバシーがおかされ、  診療を遂行する上でもいくつもの障害を生じたという点であった。 ・その最たる例は、ほぼ公的な報道機関といっても過言ではないN  HKが、患者さんの住所を町名まで報道したことによって、患者  さんが事実上特定されてしまったことであった。このような報道  姿勢に対しては、筆者自身強い憤りを感じるが、同時に筆者が所  属する日本救急医学会として、明確な抗議の姿勢を打ち出してい  ただきたい。 ・一方で、脳死移植法案が成立した後に、脳死移植に関する報道の  ルールを作るために報道機関、厚生省、日本救急医学会などが協  議の場を設けたとお聞きしている。この際、日本救急医学会とし  てはリアルタイムでの情報開示はすべて不可とする立場を取り、  報道機関の要望とは合致せず、協定作製には至らなかった。この  ことが、その後の脳死移植の現場における混乱のもととなってい  る。 ・報道のルールづくりのための事前の協定を作製できなかったこと  について、日本救急医学会には一部の責があるかも知れない。今  後、第1、2例の経験を踏まえて、積極的に関係諸機関との協議  や調整を行い、二度と臓器提供者や家族のプライバシーが踏みに  じられるような事態を避けていただきたい。患者さんのプライバ  シーを守り、同時に適切な情報開示をすることは十分に可能だと  考える次第である。  長文、大変失礼をいたしました。それでは皆様、また。 ---- Genro Ochi gochi@m.ehime-u.ac.jp

Subject: [eml-9: 02654] 移植報道(越智さんの意見に関して) From: "Joji (George) TOMIOKA" Date: Tue, 18 May 1999 09:40:53 -0400 (タイトル変更しています) 冨岡譲二@サンタクルス医療供給システムプロジェクトです。 みなさま、こんにちは。 NGさん、・・さん、越智さんのご意見を興味深く読ませていただきました。 残念ながら、僕は海外にいるため、今回の移植にまつわる報道すべてを見聞し たわけではありません。ですから、以下の文には事実誤認や誤解もあるかと思 いますので、そういった点については、遠慮なくご指摘ください。 まず、救急医学会の立場・責任の件です。 確かに、報道機関の立場からすれば、 「脳死法案成立時の日本救急医学会と報道各社の協議の場で、リアルタイムで の情報開示はすべて不可としたために、報道機関の要望とは合致せず、協定作 製には至らなかったことが今回の混乱の遠因である」 という論法が成り立つのかもしれませんが、現場で臓器を提供する側の患者さ んの治療に当たる救急医の立場としては、やはり、「どうしてリアルタイムで なくてはいけないのか」というところに引っかかってしまいます。 もちろん、移植医療を密室の中に閉じこめておけとはいいません。移植医療に 対する不信感が根強くあることを考えても、きちんと事実関係は明らかにすべ きだとも思います。しかしそれは、移植が終わったあとでもいいはずです。 この点については、報道側と医療側と、単純に合意にはいたらないのかもしれ ません。しかし、そうであればこそ、今回は、患者さんのプライバシーに最大 限配慮した形での報道がなされるべきではなかったかと思っています。 NHKに代表される報道機関の責任問題についても疑問を持ちます。立場を変 えて考えて、たとえば今回の移植で、治療に関係した医師が、マスコミより先 に患者さんのプライバシーを暴露していたとしたらどうなっていたでしょう か。院内の反省会で「悪いことをしました。今後やりません」と謝ったからと いってマスコミは許してくれないでしょう。あらゆる報道機関から徹底的に叩 かれ、職を失うことさえあり得ない話ではなかったと思います。 横浜市大の患者さん取り違え事件については、マスコミ各社は激しく責任を追 及しました。それに応じるように、横浜市大も原因究明を行い、経過を発表 し、また、厚生省も [eml-9: 02651]、・・さんの書き込みにあるように、報 告書を発表していますし、同じく厚生省の「患者誤認事故防止方策に関する検 討会」も再発防止のための指針を発表しています。 ひるがえって、今回の移植報道に対するNHKをはじめとする報道各社の患者 さんへの対応は、どうでしょうか?今回の事件は、患者取り違えと同じくらい のインパクトのある「事件」だと思うのですが、これに対して報道各社が局内 の勉強会だけでお茶を濁すつもりだとしたら、自分に対して甘すぎるとしか思 えません。 「つるし上げ」をするつもりはありませんが、この点では越智さんの >   N○Kは移植報道の責任者を更迭するか、 >   大晦日の歌番組を中止して、わが国や世界の移植医療の経過や >   死の概念の変化について、粛々と特別番組を放送してほしい。 >   「万死に値する」とまでは思いませんが、その位の反省を示す >   べきではないでしょうか。 は決して極論ではないと思います。 そして、責任追及だけでなく、今後、よりよい報道体制を作っていくために、 日本救急医学会としても、越智さんが提案されている四つの策を真剣に考える べきではないでしょうか。 At 4:01 PM +0900 99.5.18, Genro Ochi wrote: > イ)理事会や専門委員会での検討、厚生省や他組織との協議 > ロ)学会評議員の方々が、一般会員を代表して、この問題を取り上 >   げる(秋の学会総会での評議員会で) > ハ)秋の学会総会で一般会員として意見を表出。これは突っ込んだ >   所まで論議する時間は用意されていません。 > ニ)一般会員が機関誌などで直接意見を表出する。具体的には日本 >   救急医学会誌のレター欄への投稿ということになるでしょう。 諸先輩方を差し置いて恐縮なのですが、日本救急医学会評議員の末席を汚させ ていただいている身ですので、ロ)ができる立場にはあるのですが、任期の関 係で、今年の救急医学会総会に帰国できる可能性は非常に薄く、僕自身がリア クションを起こすことは難しいと思います。しかしながら、どなたか他の評議 員の先生が提案されるのであれば、名を連ねることはできます。また、ニ)に つきましても、レターの賛同者という形で、協力できると思っています。 他の日本救急医学会会員の方のご意見はいかがでしょうか? 以上、長文失礼します。それではまた。 +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+- Dr. Joji TOMIOKA(冨岡譲二) サンタクルス医療供給システムプロジェクト +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-

Subject: [eml-9: 02675] Re:移植報道など From: WK Date: Thu, 20 May 1999 01:08:37 +0900 WKです。 冨岡さん、・・さん、皆さん、こんにちは。 On Tue, 18 May 1999 09:40:53 -0400 "Joji (George) TOMIOKA" さん いわく : > まず、救急医学会の立場・責任の件です。 > > 確かに、報道機関の立場からすれば、 > > 「脳死法案成立時の日本救急医学会と報道各社の協議の場で、リアルタイムで > の情報開示はすべて不可としたために、報道機関の要望とは合致せず、協定作 > 製には至らなかったことが今回の混乱の遠因である」 > > という論法が成り立つのかもしれませんが、現場で臓器を提供する側の患者さ > んの治療に当たる救急医の立場としては、やはり、「どうしてリアルタイムで > なくてはいけないのか」というところに引っかかってしまいます。 以前NGさんがemlでも説明して下さいましたように、 厚生省記者クラブでの試案の合意内容は、それなりによく考えられていた ものであったと思います。リアルタイムで報道される内容は、極めて限定されて いました。日本救急医学会が何故反対したのか、またどのレベルの話で反対された のか、その経緯はよくわかりませんが、自分たちを守るための原則論だけに こだわっていただけなように感じます。 この意味では、国会も、報道機関も、学会も、厚生省も、ネットワークも、 やってしまったことにそれほど違いはなく、どこも自分で責任をとることはせずに、 全てのつけを患者さんに回しました。 問題の本質を明確にすることは必要ですが、批判しあったり内部検討したり するだけではなく、それぞれの機関がそれぞれの説明責任を果たして、一連の 経験を今後の医療実践に役立てていくことができなければ、誰も救われないのです。 emlで議論されているような方や、現場で毎日尽力されておられる個人個人は それぞれに思うところがあり、努力されているのだと思いますが、 関係する団体や機関という大きなレベルでは、何を思い、どう考え、 今後に活かしてゆくのか見えてきません。先送りしているうちに、 また別の事件が起こって忘れられてしまうなどということはないでしょうね。 そういうことにならないように、皆さん、よろしくお願いします(^o^/。 (中略) まあ、それはさておき、 今回提供者の方が特定されてしまった、ということについて、 N○Kなり、他の報道機関なりは、何をしても責任の取りすぎということは ありません。「世間にわかるかたちで、特定されてしまった」という過去は、 今も今後も消えることはないのですから。 提供者のご家族が穏やかな日常生活を送ることができているとよいのですが、 週刊誌に刑事事件の公判の写真が掲載されてしまう世の中では、 どうなのだろうと考えこんでしまいます。

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