救急処置シミュレーションに関する論議

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From: "竹川 利和"
Subject: [eml-9: 02351] RE: [eml-9: 02350] RE:  研修所のシミュレーションの現実(その1)
Date: Thu, 29 Apr 1999 21:32:35 +0900

安田さん皆さんこんにちは、竹川@北九州市です。

>竹川さん皆さん今晩は、安田@出雲消防です。
>いやいやメールを書きつつ7年前の私も何も分からず
>研修所に入校し一つ一つ教えてもらったことを思い出し
>ました。そこまで現在の状況がひどいとは、思いもしません
>でした。今までのメールお気に召さなかったと思いますがお
>許しください。まだ島根の方がいいのですね。

研修所の現状をご理解いただきまして有難うございます。
私もそうでしたが、研修所を卒業して現場活動に入ると
時間の経過とともに基本的手技をおろそかにしがちです。
水泳の選手を見ているとフォームがきれいです。基本が
出来ているから早く泳げます。我流で泳ぐと最初は速く
泳げますが伸びないと思います。
研修所のシミュレーションはきれいなフォームを作って
いるのです。基本が出来ていればどんな応用的な
シミュレーションを行ってもかまわないと思っています。

>さてこの問題は単に研修所というよりは国が救命率を上げよう
>と取り組んでいる現状に今だ対策を講じない消防本部に問題
>ありですね。せっかくこの論議が繰り広げられているのであれば
>是非この現状を国の機関、そう自治省消防庁あたりが全国でこの
>体制に対策を講じない消防本部に一括を入れる必要があると思
>います。
>竹川さんを始め研修所の皆さんの努力を無にしてはいけないと
>思います。この論議を是非上層部につたえなければいつまでた
>っても国民が期待する救命率の向上はあり得ませんよね。

安田さんと同じ考えです。先に述べたように救急I・II課程の
シミュレーションを論議する必要があります。
すぐには変えることは出来ないと思います。とりあえずすぐ
出来る事は、私たち現場にいる救命士が特定行為を競うあう
だけでなく隊員指導を競い合い一人でも多く最低限度研修所
に入校する前までに基本的手技を教え込む必要があると思います。

>業務命令だろうがなんだろうがやる時ゃやる。命令であれば特にその
>気持ちを持って欲しいもんです。It’s my job 仕事ですから。

研修生に言っています。今のあなた達の仕事は、研修所で勉強
する事です。この未曾有の不況の中でこんな素晴らしい高度な
救急研修を受けさせてくれる職場がありますか、それも無料で
給料をもらいながらあなた達は恵まれていると・・・・・・・・・
しかし何人の研修生が理解してくれているかわかりません。
消防職員の悪いところは、同じ方向でしか物事を見ない事だと
思います。いろいろな角度から物事を見て自分なりに判断してほしい
と思っています。
愚痴になりましたすみません。

近いうちにeml-9に参加している研修所教授陣からまた私と
ちがったコメントをいただけると思います。楽しみにしています。

【m】

Date: Fri, 30 Apr 1999 11:54:38 +0900 (JST)
Subject: [eml-9: 02360] 研修所のシミュレーション

皆さん、畑中@ELSTA九州です。

研修所におけるシミュレーションの位置を、救命士教育全体の中で考えてみたいと思
います。

まず、どなたの御発言か確認できませんでしたが、養成所で教える蘇生の手順に関し
て救急隊員が行なうべき処置と一般市民が行なうべき処置の区別があいまいになって
いるのではないかというご意見がありました。少なくとも教科書の記載はその通りで
す。心肺蘇生の部分では、「救命士として」CPA患者に対して何をどのように考えて
観察・処置を進めていくべきか、と言う最も重要な問題が完全に省略されています。
おまけに、「CPRの流れ図」では、意識のない患者を発見した場合には「助けを呼ぶ
」ことになっています。これが救命士のとるべき行動でないのはもちろん明らかです
が、一般市民むけの流れ図を流用してほとんど1ページを費やしてしまうことの意義
は一体何なのだろうと思ってしまいます。教科書全般を通して、個々の処置に関する
記載はあっても、全体の流れというか、処置手順の戦略的な考え方を考察した部分は
ほとんどありません。また、一般市民に対する教育をどのように行なうべきかも非常
に重要な問題ですが、教科書の中でこれに関して触れた部分はありません。結局、CP
A症例に対する戦略的考え方とか、一般市民教育の問題に関しては教官・教授が補足
的に解説を追加するしかありません。もちろん国家試験には出題されません。

さて、研修所におけるシミュレーションについては、すでに九州研修所の方からもい
くつかのレスがあって有意義な議論が行われております。シミュレーションに割く事
のできる時間的問題に関して追加します。

救急救命士法は合計835時間の教育を義務づけていますが、この内訳は535時間の座学
と300時間の実習です。つまり、全体の6割以上を座学に割けというわけで、これを見
ただけで我が国の救命士教育が如何に座学偏重であるかがわかります。一般に実務教
育では全体の7割程度を実技の習得に割くのが効率的であると言われており、paramed
icの教育もこの方針に従っています。我が国における座学偏重は国家試験においても
然りで、座学さえできれば技術がなくても国家資格を得る事ができます。以前から私
が指摘するように、この場合の座学とは、「パルミチン酸は必須脂肪酸か否か」とか
、「ばい菌を染めると何色に染まるか」などの内容です。このような教育が有意義で
あるかどうかは、優秀な頭脳を集積した「お上」が決めた事ですから、私のような一
介の医師には逆らう事もできないわけで、全ての救命士養成施設では、この座学・国
家試験対策をどのように進めるかに頭を悩ませているのが現状でしょう。

一方、研修生にとってももわずか535時間の座学で、あの「高度な」標準テキストと
「高度な」国家試験を撃墜するのは非常に困難です。彼らの多くは深夜、日付が変わ
るまでまで勉強するわけですがそのほとんどは座学対策です。座学対策は、すなわち
国家試験対策でもあるわけで、一部の研修生にとっては実習のことに頭を巡らせるの
はむしろ迷惑な話とさえ言えるのですが、このことでその研修生を責めるわけにもい
かないと思ってしまいます。研修生の中には実習の重要性を理解し、これに真剣に取
り組む人もいますが、研修所の教育としてはこのような一部の研修生に焦点を合わせ
るわけにはいかないのです。  

技術の習得に割く事のできる限られた時間の中で、どのようにすれば効率を上げる事
ができるのかと悩む中で、九州研修所が採用した戦略が、「基本技術の習得」です。
すでにアップされたように、バッグマスクさえ満足にできないような状態から始めて
、最終的に個々の状況に応じた正しい流れを習得させる段階にまで至らせるのは実際
上不可能です。円山さんのご指摘にもあるように、個々の手技がいい加減な状態で「
流れ」を重視しても意味がありませんよね。そこで、当研修所のシミュレーションは
極端に言えばシミュレーションではなく、単に個々の手技を適当に並べただけとさえ
言えます。最大の目的は、「流れ」ではなく「個々の手技」にあります。すべての手
技を一つのシナリオに詰め込むために、やむなく不自然な流れを想定することもある
わけです。当研修所の一教授が、とあるシミュレーションのデモを見学して述べた名
言を紹介します。「一見したところ、流れが良く、うまそうな幕の内に見えた。とこ
ろが一つ一つを食ってみたらとても不味くて食えたものではない。こんな見かけだけ
の幕の内ならぶっかけどんぶりの方がましだ。」

現在の研修期間にあと400時間ほど追加の時間を許されるなら、もっと実効性のある
シミュレーションをやってみたいという希望はあります。しかし現状では、研修所で
はとりあえず個々の手技を完成させた形で研修生を送り出し、それ以後の「流れ」や
現場状況に応じた細かな設定は各消防本部にお願いする以外にないわけです。私が「
Teach (Train) on the Job」の重要性を強調するのもそのためです。

シミュレーションをもっと実際の現場に促したものに改良すべきであるというご意見
はもっともです。今までに頂いたいくつかのアドバイスを取り入れて、個々の手技を
尊重しながらもできるだけ現場に促した想定に改良して行くことにやぶさかではあり
ませんし、実際にその努力も続けております。ただ、このような大所帯では時間がか
かることもご理解下さい。たとえば、以前にもeml-9で取り上げられた3連続除細動の
問題は、昨年の夏から検討を重ねてきた結果です。内容の吟味、デモビデオ・プリン
トの作製などをやっているうちにあっという間に一年です。変更前にはもちろん、変
更後にも様々な「異見」がでてきますから、この調整も大変で、誰が見ても納得の行
くシミュレーションを作るのは不可能でしょうが、改良の努力を怠るべきでないのは
当然だと考えています。

現場教育にかかわる皆さん、限られた時間、実習軽視の環境で、九州研修所ではとり
あえず「優秀な部品」をお届けするよう努力しております。部品はバラバラに箱詰め
された状況でしょうが、これをうまく組み立てていただければきっと優秀な完成品が
できるはずです。この部品の中には、優秀なOSといくつかのアプリケーションも含ま
れています。プレインストールはできませんでしたが、どうぞ現場でインストールし
てみて下さい。お手数をおかけしますがよろしくお願いします。そして、養成所と地
元消防本部とで連携した救命士教育のシステムが構築されることを期待します。よい
システム造りはすなわち危機管理であります。

【n】

From: "Y.Takeda"
Subject: [eml-9: 02361] RE:  研修所のシミュレーション
Date: Fri, 30 Apr 1999 12:04:31 +0900

畑中さん、皆さん竹田@出雲消防です。
すみません。今までsemlで発言をしていた関係上なかなかemlで発言が
できなかったのですが、畑中さんのメールを読み感銘を受けましたので一言
言わせて下さい。

>現場教育にかかわる皆さん、限られた時間、実習軽視の環境で、九州研修所
 ではとりあえず「優秀な部品」をお届けするよう努力しております。部品
 はバラバラに箱詰めされた状況でしょうが、これをうまく組み立てていた
 だければきっと優秀な完成品ができるはずです。この部品の中には、優秀
 なOSといくつかのアプリケーションも含まれています。プレインストール
 はできませんでしたが、どうぞ現場でインストールしてみて下さい。お手
 数をおかけしますがよろしくお願いします。そして、養成所と地元消防本
 部とで連携した救命士教育のシステムが構築されることを期待します。よ
 いシステム造りはすなわち危機管理であります。

我々、現場はその部品を完成品させ、さらにパワーアップし、そして研修所に
は最高級な素材を送れるように努力したいと思います。
ありがとうございました。

****************
竹田 豊   出雲消防署 東部分署

【o】

Date: Fri, 30 Apr 1999 18:00:46 +0900
Subject: [eml-9: 02364] Re:  研修所のシミュレーション

円山です。畑中さん今日は。

シミュレーションに対する研修所考え方は解りました。

もう一つ書かせてください。
現場活動を円滑にするためには、現場に到着するまでに、どのような情報を
集め、患者の病態を把握する必要があると思います。
現着までの約6分間に自分で患者宅に電話したり、指令課に確認させたりして
情報を集めたりして、できるだけ詳しい患者情報を得て、ある程度の患者の病
態を把握させるような訓練はされているのでしょうか?
当然外れると問題ですので、広めの病態把握ですが。これができるようになれ
ば、現場活動時間の短縮につながりますし、他隊の応援も早めにもらえるよう
になると思います。
シミュレーションである以上、情報収集、患者の状態、周囲の状況、病態把
握、そして現場活動、指示要請(現着前に電話をして医師を待機させれば、早く指示はもらえます
し、石原さんが書かれていたように3コール以内で必ずでる
地域であれば、待機する必要はないです)等の流れが必要だと思います。
その流れの中でここの手技を確実にしていくだけでなく、時間短縮のために他
に何が必要なのか教えていたただければと思います。

【p】

Subject: [eml-9: 02375] RE: 02360]研修所のシミュレーション
Date: Sat, 1 May 1999 11:42:18 +0900

畑中さん皆さんこんにちは、竹川@北九州市です。

畑中さんは書きました。
>現場教育にかかわる皆さん、限られた時間、実習軽視の環境で、九
 州研修所ではとりあえず「優秀な部品」をお届けするよう努力し
 ております。部品はバラバラに箱詰めされた状況でしょうが、こ
 れをうまく組み立てていただければきっと優秀な完成品ができる
 はずです。この部品の中には、優秀なOSといくつかのアプリケー
 ションも含まれています。プレインストールはできませんでした
 が、どうぞ現場でインストールしてみて下さい。お手数をおかけ
 しますがよろしくお願いします。そして、養成所と地元消防本部
 とで連携した救命士教育のシステムが構築されることを期待しま
 す。よいシステム造りはすなわち危機管理であります。

私が言いたかったのはまさにそのとおりです。
私が発言した中に感情論が多いにあり、判りにくっかた点を畑中さんの発言で
理解された方が多いと思います。
研修所に勤務する教授・教官は誰一人としていまの状況に甘んじているわけでは
ありません。少しでも救命率の向上目指して日夜努力しています。
 
 研修所が行っているシミュレーションは、本来の皆さんが議論しているシミュレー
ションではなく。研修所で行っているのは救急実習訓練なのです。救急実習訓練の
中の一部を現場に近い想定を入れたシミュレーションを行っているのです。
 救急実習訓練全体をシミュレーションと、とらえたところに誤解が生じたのではな
いでしょうか。
 研修所に入校してくる研修生は、半年ごと九州200人東京300人です。多くの研修
生は救急車に積載されている器材を取り扱うことができると本人は思っていますが、
実際取り扱わせてみるとほとんどの研修生が、見よう見真似で覚えてきた形だけの
取り扱いになってしまいます。出来あがった形がなんとなく似ているのです。
 たとえたなら、小学校一年生に上がってくるほとんどの子供はひらがなを全部
書けるし自分の名前は漢字で書けると聞いています。しかし書き順はみんなバラバラ
で正確な書き順をしている子供の方が少ないとも聞いています。書けるというよりも
形が似ていると言ったほうが正しいかも知れません。小学校の先生は、これを
正確な書き順に正す。この「正す」が教育なのかも知れません。研修所もまったく同
じだと思います。正確な手技が出来ていないまま、入校してきた研修生を「正す」役割
が、救急実習訓練の90%はしめていると思います。残りの10%で皆さんが議論している
シミュレーションを行っているのです。
 研修所での救急実習訓練の大半をシミュレーション訓練に当てられる日がくること
を願っています。
 消防本部で活躍されている多くの救命士さん、皆で研修所が本当のシミュレーショ
ン訓練が出来るように協力してあげてください。お願いします。

【q】

From: "m-kayukawa"
Subject: [eml-9: 02378] Re:消防の救急シミュレーション
Date: Sat, 1 May 1999 14:44:37 +0900

シミュレーションに関しての私の考えです。
私が2課程へ入ったのは6年前です。私の所属ではいまだに救命士は
おりません。これからも望みは薄いです。

故に皆さんの話のレベルは雲の上の話なのですが、救命士研修所への
入所者のレベルが低い(実技に関して)という話はうなづけます。

2課程もしくは標準課程でも、実技はテストの項目にはありませんからね。
実習の時間、ずうっと後ろで腕組みして見ていても、ペーパーテストで良
い点を取れば、優秀な学生として卒業できます。そして現場に直行します。
その後誰も教えてはくれません。

基本のCPRとしてバッグマスクの扱いも、微妙な指使い、バッグを押すタ
イミング、時間、当てる位置などはやはり「1課程でできているはずだから」
などと言って教える暇もありません。流れとしてのシミュレーションをやる
時間がなくなるからです。教官も歯噛みする思いだったと思います。
基本手技がいいかげんなままでも、シミュレーションをどんどんこなしていか
なければ、学科に響きます。

自分で習う、人に聞く気持ちにならなければ、いつまでたっても覚えられま
せん。そして私のときも、そういう人々が大勢巣立っていったという気がします。

モチベーションを持たせることさえできればなんということの無いことであっ
ても、それが最も困難を極めます。

消極的な策でしょうが、実技テストもやるべきです。各所属に帰ってから
練習してくれるだろう、という考えでは、いつまでたっても現状改善は難
しいと感じます。

標準課程、2課程レベルでの基本手技パターンシミュレーションを全国統一
で各消防学校に普及させ、それをテストで評価するようにでもなれば、この
問題はかなり改善されると思うのですが。

そうなったらなったで、その基本から抜け出せない標準課程が出てくるでしょ
うが、過渡期としてそれでも良いと考えます。このEMLのように最先端の話題
がポンポン飛び出すグループもあれば、バッグをきちんと押すことができる
救急隊員がほとんどいないという所属もまだまだ多いです。そういうところか
らも救命士を取りにごまんと来るのが現状でしょうから。

うちの所属では、若いのが標準課程入校の時に、みっちりとバッグの押しかた
観察のしかた(あくまで基本)をやらせてから入校させるように仕向けています。

帰ってきてから話を聞くと決まって「いや〜、覚えているから楽だった」「満足に
できるやつはほとんどいない」「斜に構えて実技やらんやつもいっぱいいた」と
のたまう状況がいまだに続いています。

ポンプ操法も同じですね。現場でそんなことはやらんぞという話はいっぱいし
ます。しかし新人の団員はポンプ操法でホースや吸管の重さを体で覚え、重
量物を担ぎながらバランスをとって走ることを覚えてゆき、やがて実戦で役立
つというのと同じことと思います。

基本CPRがちゃんとできないということは、その隊員の救急隊員としての人生
が真っ暗ということです。それができるようになるための最初が標準課程であ
るはずですよね。

「学校は知識を詰め込むとともに練習のしかたを教える場であるから、本当
の練習は帰ってからみっちりやってくれ、学校は時間がない」というのが本音
でしょうが、誰も練習しません。実技はテストにもないから展示を良く見てもい
ません。

とりとめなく私の気持ちを書いてしまいました。すみません。

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北海道・・消防 粥川

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