住田 亮 すみたりょう*
武井健吉 たけいけんきち**
小泉晶一 こいずみしょういち***
* 金沢大学医学部小児科講師(現市立砺波総合病院小児科)
** 同大学院生
*** 同教授
(エマージェンシー・ナーシング Vol.12 (7): 626-30, 1999)
諸家の報告2)と同様に当院でも圧倒的に1次救急患者が多く,まさに「時間外・休 日診療所」の様相を呈する.
診療体制は小児の内因性疾患であればまず小児科医がコールされる.ほとんどの症 例では小児科医のみで対応できるが一部の重篤な症例に対しては小児科医単独ではな く,ICU医師と共同して治療にあたることがほとんどである.この理由としてマンパ ワーの不足以外に,小児科医は一般的に重症救急疾患に対する知識・手技を十分に持 ち合わせていないことが多く,逆にICU医師は重篤な病態に対する一般的な治療戦略 は持っているものの,小児,とくに乳幼児例ではその生理学的・解剖学的な特殊性ゆ えに戸惑うことが少なくないためである.すなわち小児救急医療の専従者がいない現 在,小児科医,ICU医師の良好な連携が重症児の救命に大きな役割をはたすと思われ ,幸い当院では現在のところ比較的良好に機能している.しかし,初療にあたる小児 科医や最初に患者と接する看護婦の認識が甘いと時に危機的状況に陥ることがある. 以下に反省を込めて事例を呈示する.
現病歴;1998年3月20日より軽度の鼻閉,咳嗽を認めていた.翌21日,咳嗽がしだ いに増悪し37℃台の発熱も認めたため近医受診.感冒と云われ,内服薬を処方された .同日夕方より嗄声の出現とともに咳嗽が犬吠様になったため20時に救急外来受診. 経過;クループと診断された.初診時すでに強い陥没呼吸と呼吸音の減弱が認めら れたが,満床のため当直医は他院へ紹介しようとした.なかなか転送先が決まらず数 十分が過ぎ,この間患児はぐずったり泣いたりしていたがしだいに意識レベルが低下 し,チアノ−ゼも増強してきた.この時点で上級医およびICU医師が呼ばれ,静脈ラ インを確保し血液ガス分析を施行したところpH7.15,PCO2 82.5,PO2 52.5と著明な換気不全の状態であったためただちに気管内挿管の上,ICU入室となっ た.入室後は順調な経過をたどり,入院4日目で抜管し一般病棟転室となった.
最初から緊急度が高いことがはっきりしている症例であればこのような事態には陥 らないだろうが,この事例のように家族や医師すらもあまり危機感を感じない重症例 が社会的な意味も含めてもっとも「危ない症例」だと思われる.このようにいたずら に患者を危機にさらさないためにはどのような注意が必要なのかについて次項で述べる.
2)咳嗽;「咳が出る」といって受診する患者の中で注意を要するものの一つとし て犬吠様咳嗽が挙げられる.呈示した症例のようなクループ症候群や急性喉頭蓋炎の 場合3),急速に呼吸困難が進行し,筆者の施設ではないが入院直後に呼吸停止をき たし,死に至った症例もある.よってとくにこのような咳嗽を聞いた時にはナースが とりあえず呼吸状態を観察し,重篤と判断すれば即座に小児科医を呼ぶなどの配慮が 必要であろう.
3)喘鳴;喘鳴の聴こえる喘息はむしろ安心である.危険なのは強い努力性呼吸で 起座呼吸を余儀なくされている(横になれない)のに喘鳴が聴こえない場合である. 喘鳴を起こすだけの換気ができていないことを示しており,緊急に対処しなければい けない病態である.経皮的酸素飽和度モニターにて血液酸素飽和度(SpO2)を測定し 90%以下ならとりあえず酸素吸入を始めて構わない4).一方,喘鳴が突然起きた場 合,とくに乳幼児では異物の可能性を念頭に置いて保護者に確認すべきである.
4)痙攀;熱性痙攣は救急外来でよく遭遇する疾患の一つであるが,来院時も痙攀 が持続しているものや片側性痙攀は要注意である.このうち痙攀の持続の判定は見慣 れているはずの小児科医ですら誤ることがある.典型的な強直性-間代性痙攀であれ ば間違えようもないが,強直性痙攀のみの場合は痙攀後の意識障害と判断されること も少なくない5).事実,救急車で搬送された児で,救急隊から「痙攀は搬送中に止 まった」との情報をもらったが実際に診ると強直性痙攀だったという経験を筆者は持 っている.もし,痙攀の持続か痙攀後意識障害かの判別に迷うことがあれば瞳孔およ び眼位の観察を行う.痙攀では散瞳し対光反射も鈍いか消失していることが多く,ま た眼位も上転している例が多い.
以上に示したのはよくある症状のうち,危険性の高い状態を見極めるコツであるが ,ほかにもさまざまの症状があるのでできれば成書で確認されたい.以下に重要と思 われるいろいろな病態に共通したチェックポイントを列記する.
a)意識;低下の度合いを筋緊張も含めて評価.
b)顔貌;無欲様,苦悶様顔貌.顔色が蒼白の時.
c)呼吸;陥没呼吸,努力性呼吸,起坐呼吸,鼻翼呼吸.
d)皮膚;チアノ−ゼの有無,末梢の冷感,発汗.
患者の来院時に話しかけと同時にこれらの項目をチェックし,異常があれば即座に バイタルサインを確認し,同時に小児科医をコールして状態が悪い旨を伝えるべきで あろう.とくに外来が混んでいる時にはよりトラブルが多いと考え,早いうちに暫定 的な患者評価を行い,必要なら診察順の変更などを行う.繰り返しになるが,医療職 として患者に最初に接するのはほとんどの場合ナースであり,救急ナースであれば患 者の振り分けだけでなく,ある程度の重症度評価をした上で診断・治療の流れを作る ことも重要な役割ではないだろうか?
一般診察患者として来院し,重症と判断された例でも基本的な流れは同じだが,先 に述べたように来院後いたずらに時間を浪費することなく,診断・治療を完結させな ければいけない.このためには来院した患者を単に待たせるのではなく,とりあえず 訴えを聞くなど早めにコンタクトを取って患者のおおまかな状態を把握することが肝 要であろう.
■引用・参考文献
1)鶴原常雄:小児救急医療の現状,小児科臨床48:2705-2716,1995.
2)前川喜平:小児急患来院時の見立てと親への対応,小児科臨床48:2695-2703,1995.
3)Barkin RM., Rosen P.: Croup and epiglottitis. Emergency Pediatrics,
784-791, Mosby, St.Louis, 1999.
4)Kliegman RM: Respiratory distress. Practical Strategies in Pediatric
Diagnosis and Therapy, 97-102, Saunders, Philadelphia,1996.
5)Barkin RM., Rosen P.: Coma. Emergency Pediatrics, 136-144, Mosby,
St.Louis, 1999.
6)住田亮,益子邦洋,大塚敏文:小児重症救急疾患の初期対応,小児科臨床48:2
717-2722,1995.