第3回地域防災民間緊急医療ネットワーク・フォーラム 資料集より

都医師会と東京都の災害医療体制

社団法人東京都医師会

理事 木村 佑介


 平成7年1月17日、神戸から日本全国に大地震の恐怖とともに、数多くの教訓が発信された。しかし、発災から四年が経過し、記憶が薄れつつあるとともに、未だ解決されていない課題が多いことも事実である。

 今回、東京都の災害医療体制と都医師会の役割を記すことで、阪神・淡路大震災の教訓を再度喚起したい。


1 防災機関として

 東京都医師会は、災害対策基本法上の「指定地方公共機関」である。その責務は、災害時には積極的に医療救護活動等に協力するとともに、平常時は、防災計画の作成・訓練の実施等についても、都に協力することとなっている。後述するが、都医師会は、東京都、東京消防庁、警視庁、東京都歯科医師会及び東京都薬剤師会等の関係機関と密接に連携し、東京都の災害医療体制について検討を加えてきたところである。


2 災害時における都医師会の業務

 災害発生時の東京都医師会の業務大綱は、1)医療及び助産活動に関すること、2)傘下医療機関との連絡調整に関すること、の二点に大別できる。具体的には、地区医師会と協力しての医療救護班の編成・派遣と都医師会としての医療救護班の編成・派遣が主要な業務となる。

 東京都において大災害が発生した場合、まず、被災した区市町村が地区医師会の協力のもと医療救護班を派遣する。 東京都は、この区市町村の医療救護活動を広域的に応援・補完するため、都の直轄医療救護班を編成し、派遣することとなっている。

 都医師会は、東京都からの要請により、都直轄医療救護班に参画し、区市町村の医療救護活動の支援を行なう。

 このように都医師会は、被災地区内での地区医師会救護班として、また都直轄医療救護班として、医療救護活動に従事する。

 医療救護活動の流れと地区医師会班及び都医師会班の対応を下図に示す。活動場所は、初動期においては被災現場及び医療機関等の医療救護所が中心となり、医療救護班の指揮については地元医師会会員がとる。医療救護所では、応急措置は最小限にとどめ、重症者はできるだけ後方医療機関への搬送に努める。

 そして、強調したいことは、「災害医療救護活動は災害が発生してから始まるものではない。」ということである。普段の備えも災害医療救護活動の重要な一部である。地域状況の把握、自主参集場所の設定、緊急連絡網の整備、医療救護班の事前編成そして関係機関との交流等、平常時からの準備が、欠かせない。

【 医療救護活動の流れと医師会等の対応 】

被災地内(地区医師会)医療救護班の対応被災地外応援医療救護班の対応
○地区医師会災害対策本部設置
 被害情報収集、情報連絡体制、医療救護班編成等の対応

○医療救護班出動要請
 区市町村又は都医師会の要請で出動。ただし東京消防庁等から直接地区医師会へ通報があった場合は、地区医師会の判断で出動(区市町村への事後報告必要)

□平常時より(被災を想定)
 ・医療救護班の編成
 ・緊急連絡網の設定
 ・自主参集場所の設定
 ・トリアージ等の研修

○郡医師会災害対策本部設置
 被害情報収集、情報連絡体制、医療救護班編成等の対応

○医療救護班出動要請
 都医師会医療救護班は、原則として都の要請があった場合に出動。
 出動先は、被災地区市町村の指示する場所。出動先指示が不可能なときは、被災地区医療機関

□後方医療機関の対応
 ・重症患者受け入れ情報の把握と報告
 ・医療救護班派遣可能状況の報告
 ・患者受け入れと医療救護班派遣


3 関係機関との協力・連携

 災害時において、迅速な医療救護活動を実践するためには、行政、警察機関、消防機関、その他関係機関等との密接な協力関係が必要不可欠である。平常時から、交流を行ない、「お互いに顔の見える関係」を構築することが望ましい。

 東京都は、関係機関で構成する「東京都災害医療運営連絡会」を組織し、東京都の災害医療に関する数々の課題について検討してきた。都医師会もこの構成メンバーとして参加し、「トリアージタッグの統一」や災害医療救護活動に関しての15種類に及ぶマニュアル作成などの成果をあげてきた。

 この連絡会をとおして、災害時における関係機関相互の役割分担が明確化され、理解が深まり、「お互いに顔の見える関係」が構築できたことは、前述の成果にまさるとも劣らないものである。


4 今後、検討すべき課題(特に搬送体制)

 阪神・淡路大震災から、東京都医師会は、行政や関係機関間と密接な協力関係を構築し、東京都における災害医療体制の整備に大きな役割を果たした。

災害医療救護活動における、各関係機関の役割や様々な事項の要請先等、災害時の医療体制のありかたについては整備されているが、 検討を要する事項もある。

搬送体制の検討

 東京都は、現在まで作成したマニュアル等で、災害時医療救護活動における関係機関の各機能別の役割分担を明確にするとともに、要請経路や情報経路を明確化してきた。

 医療救護班の班編成についても、地区医師会との連携により、災害時には早急に編成が可能である。

 しかし、医療救護班を、必要とされる場所まで、迅速に運ぶことが可能なのか、また、医療施設での治療が必要な重症患者を現場や医療救護所から、後方の医療施設へ、短時間で搬送が可能なのか、このような「搬送問題」については、十分に検討されているとは、言えない。

特に東京都では、区部に大震災が発生すると、環状7号線以内の道路は封鎖され、登録緊急車両しか、乗入れできない。

 また、被害想定から考慮すると、大震災が発生した場合、医療機関が対応できる患者数を上回る、負傷者が発生する。したがって、他県市に患者搬送するなど、広域的な搬送体制の整備も必要である。

災害発生時では、初動期における救出・救助から医療機関までの搬送を円滑にすることが、数多くの重症者の命を救うこととなる。

 搬送体制については専門部会を設置して検討中であるが、今後とも、警視庁、東京消防庁、自衛隊等の関係機関と意見を交換し、初動期に十分対応可能な搬送体制の構築を進めていく。


参考 東京都の災害医療救護活動に関するマニュアル等

作成時期マニュアルの内容等
1996年2月(1)トリアージタッグの統一
 同 3月(2)災害時医療救護活動マニュアル
(3)同上資料(医療救護活動マップ及び関係機関名簿)
 同 8月(4)病院における防災訓練マニュアル
(5)病院の施設・設備事故点検チェックリスト
(6)都民向けリーフレット「災害時の応急手当」
 同 9月(7)研修テキスト「災害時の医療救護活動とトリアージ」(医療機関向け)
 同 11月医療救護活動マニュアル(区市町村編)
1997年3月(9)災害時における検視・検案活動等に関する共同指針
(10)災害時歯科医療救護活動マニュアル
 都民向けビデオ「災害時医療救護活動とトリアージ」
 同 5月(11)災害時における避難所等の衛生管理マニュアル
 同 6月(12)災害時における検案活動の実務
 同 8月(13)災害時における透析医療活動マニュアル
 関係機関名簿の改訂
1998年3月(14)薬剤師班活動マニュアル
 災害時における医薬品・医療資器材等の新たな備蓄・供給体制
 同 5月(15)保健所の活動マニュアル
 同 7月 衛生局職員活動マニュアル
現在検討中
及び今後の
検討項目
 搬送体制の検討(広域搬送システム等)
 広域火葬体制の検討(平成10年9月検討終了)
 病院における施設安全の検討


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