救急医療メーリングリスト(eml)より


放射線災害の話題 (1)



第2回日本集団災害医療研究会の話題



From: Genro Ochi 

Date: Wed, 13 Nov 1996 00:00:58 +0900

Subject: [eml:02140] 札幌便り1



 おち@愛媛です。日本集団災害医療研究会の話題です。



〇本日は進行が全体で1時間20分延長。質問者のマイクの後ろに人が並ぶという、

欧米なみの積極的な討議。特に最初の災害訓練のセッションで活発な討議。



〇会場は札幌医科大講堂、プログラムは eml のメンバーでもある坂野さんの desk

top publishing による手作りと、手作りの暖かみのある学会。昼休憩時、外は吹

雪で、病院の食堂でお世話になった。



〇ダウンバーストによる被害について:竜巻と違い突風が上から下に吹き抜けると

いう自然現象。日本で20件以上の被害があると。



●「放射線災害時の医療のポイント」:演者(三菱重工神戸病院 衣笠先生)は

(被爆事故に対する)緊急対策委員会のメンバー。科学技術庁はこれまで原発は絶

対安全という立場を取ってきたが、最近は緊急対策についても考慮。被爆者の衣服

や身体を洗った水は絶対に捨てたり流してはいけない(放射性汚染の拡大)など、

多くの問題。



 この演題の抄録は日本集団災害医療研究会ホームページに収載されています。



〇大規模災害時の大学病院の役割:阪神・淡路大震災での神戸大学の例から、大学

病院のマンパワーの豊富さがわかる。しかし地域の防災計画の中ではほとんどあて

にされていない。



 以上、本日の話題から拾ってみました。


Date: Wed, 13 Nov 1996 01:56:06 JST From: "Y.Mizuno, Osaka, Japan" Subject: [eml:02142] RE: 札幌便り1 水野@阪大(核物理研究センター)です. 放射線安全管理委員会もやっていますので... |From: MX%"eml@m.ehime-u.ac.jp" 13-NOV-1996 00:43:25.08 |Subj: [eml:02140] | おち@愛媛です。日本集団災害医療研究会の話題です。 | |〇放射線災害時の医療のポイント:演者は(被爆事故に対する)緊急対策委員会の |メンバー。科学技術庁はこれまで原発は絶対安全という立場を取ってきたが、最近 |は緊急対策についても考慮。被爆者の衣服や身体を洗った水は絶対に捨てたり流し |てはいけない(放射性汚染の拡大)など、多くの問題。 水や空気を通じて,体内に取り込まれると,内部被曝といってじわじわと 被曝が継続し,至近距離からでもあるので,大変厳しい基準となります. 同じ量の放射線でも,体の外からのもの(外部被曝)とは,大違いの危険度と なってしまいますので,水に流してはいけない,ということになるのだと思います. | |〇大規模災害時の大学病院の役割:阪神・淡路大震災での神戸大学の例から、大学 |病院のマンパワーの豊富さがわかる。しかし地域の防災計画の中ではほとんどあて |にされていない。 神戸大学病院の例は,どこかWEB上には,報告がありますでしょうか? ___ ________________________________________________________ 水野 義之
http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/~ymizuno/
日本救急医学会・災害医療セミナーの話題:放射線災害医療 From: Genro Ochi Date: Wed, 25 Mar 1998 00:14:12 +0900 Subject: [neweml: 02005] 名古屋便り3・放射線災害医療  おち@愛媛です。日本救急医学会・災害医療セミナーの話題 です。セミナー2日目、朝1番の話題は放射線災害医療(東大 救急医学 前川教授)で、私が最も期待していた話題の一つで した。以下、印象に残った部分を箇条書きでご紹介いたします。 併せて以下の講演抄録もご参照下さい。
http://apollo.m.ehime-u.ac.jp/jaam/www/98/9801sem4.html#07 ・放射線災害については周囲の住民に対する防災計画を立てる  ことにとどまり、救急医療の立場の者を巻き込んで対応を協  議するような受け皿はなかった。最近、東大放射医学の責任  者が放射線災害対策に関する責任者?となっており、その方  の要請で前川教授が救急医学を代表して各種の委員会や協議  会に出席するかたちとなっている。 ・従来より科学技術庁において放射線事故はタブーとされ、用  語からしても被爆医療、放射線災害医療などの語は使用され  す、単に「緊急医療」という曖昧な言い方がされて来た。 ・世界的に様々な地域で放射線事故を繰り返してきた。ラチア  川 1949-56, マーシャル諸島 1954,ウインスケール 1957、  スリーマイル島 1979、チェルノブイリ 1986,ゴイアニア  1987年、などが有名。最後のものは南米での事故、病院取り  壊しの後、放射線療法用のセシウムを放置した。夜光るため、  子供などが身体に塗りつけて遊んだ。290人にのぼる広域汚染、  4人死亡。  過去50年間に放射線による事故件数 23、死亡者数 65人とな  っている。しかしロシアなどから漏れてくる旧共産圏などの  情報を合わせると、上記公式記録の 3〜10倍に及ぶ放射線事  故があったと推定されている(旧ソビエトで100件以上、死者  50人以上)。 ・放射線災害への対策の原則=発生を防止+拡大を防止+発生  した災害による影響を緩和(複数の対策を組み合わせる、多  重防御の原則) ・放射線作業者に対する医療活動計画 → いまだ不備  緊急被爆医療ネットワークの構築 → 中毒情報ネットワーク   にならった全国ネットワークを作れ、また長距離搬送など   の訓練を行え ・放射線障害の起こり方=被曝/汚染/被曝+汚染  被曝 → 放射線を浴びる事、汚染 → 線源が身体などに付着 ・放射線の種類(β線被曝が注目されている)  α線 → 紙、皮膚などを通さない。  β線 → 皮膚を貫通し身体の放射線障害。アルミ箔は通さな   い。防御服等を着用せず被曝、汚染水が肌に付着して。  γ線 → 身体を貫通、1m幅のコンクリート壁で遮蔽できる ・β線熱傷:皮膚のC基底細胞層の放射線障害  体表面積の40%以上の被曝 → 紅班出現 → 同消褪 → 4.5日  から1ヶ月で紅班再発 → MODS, 肝炎、脳炎で死  (死亡例、少なくとも19例) ・放射線障害の確定的影響と確率的影響:両者が複雑に組み合   わさっており、発病するかどうかなどの予測は困難   LD50/60 = 3,000〜5,000 mSv(ミリシーベルト)      = 3〜5 Sv(シーベルト)   60日以内に50%に動物が死亡する放射線被曝量 ・放射線量、被曝量の単位:Sv(シーベルト)、Gy(グレイ)、   rad、rem、curie、Bq(ベクレル)など ・救急医療(例えばサリン中毒)と緊急被曝医療の比較  類似点 → 救命のための手技、汚染患者の診察の原則、汚染   拡大の防止法、スタッフの2次汚染の防止  相違点 → 内部汚染対策、汚染材料や器材の処置、院内対策 ・第1次、第2次、第3次緊急(被曝)医療機関:救急医療の   1〜3次と定義が異なるのは誤解を招く  第1次 → 放射線事業所に附属または直近にある。被曝者の   スクリーニング、除染、不安解消などが任務  第2次 → 委託医療機関(愛媛県の伊方原発だと県立中央病院?)  第3次 → 放医研(千葉?にある放射線医療研究所)。24時   間対応でコンサルト可能。全国の被曝患者を遠距離搬送し   て受け入れることができる?。  以上、長文となり、またまとまりがありませんでした。ご容赦を。
From: Genro Ochi Date: Thu, 26 Mar 1998 01:38:49 +0900 Subject: [neweml: 02022] 名古屋便り4・放射線災害医療  おち@愛媛です。日本救急医学会・災害医療セミナーの話題 の続きで、"[neweml: 02005] 名古屋便り3・放射線災害医療" の自己レスです。お騒がせします。 ○放射線の単位とその意味:このあたり私は大変不勉強だと反 省しています。誰か教えて!? (本を読まずに人に聞くのはず るいか・・・) |・LD50/60 = 3,000〜5,000 mSv(ミリシーベルト) |     = 3〜5 Sv(シーベルト) |  60日以内に50%に動物が死亡する放射線被曝量 | |・放射線量、被曝量の単位:Sv(シーベルト)、Gy(グレイ)、 |  rad、rem、curie、Bq(ベクレル)など  Gray(Gy) → absorbed dose を SI単位で表したもの  1 rad = 0.01 Gy = 10 mGy = 1 cGy 1 rem = 0.01 Sv 1 curie = 3.7 x 10^10 Bq 1 Bq = 1 dps → 1 秒間に1個の割合で原子核が崩壊すると          きの放射線量(disintegration per second) ○放射線災害医療の講演を聞きながら、愛媛大学医学部学生の 災害医療抄読会で読んだ論文を思い浮かべていました。 「
チェルノブイリから10年」  松本義幸、日本医事新報 No.3779: 53-6, 1996    これによると急性臨床影響としては、職業被爆した計237人 が放射線被爆による臨床症状を示して病院に収容されたが、 134人が急性放射線症と診断された。その134人の患者のうち 28名が3ヶ月以内に放射線障害で死亡。胃腸障害が重大な問題 であり、10Gy以上の線量を受けた11人の患者が早期に致命的な 肝機能障害。死亡した28人のうち26人が身体表面の50%以上の 皮膚障害を併発。急性期が過ぎた後、過去10年間に更に14人の 患者が死亡。  有名な小児甲状腺癌については、今までのところチェルノブ イリ事故の結果として放射線被爆が公衆の健康に与えたインパ クトの唯一の明白な事実。事故後6ヶ月以内に生まれた子供で。 今日までに診断された患者のうち、甲状腺癌によって死亡した 子供は三人だけで、標準的な治療処置(L-サイロキシンを生涯 投与)が適切に行われていれば良好に反応。  甲状腺癌以外の長期的健康影響としては、汚染地域にすむ人 々の一部および事故処理作業者の間で特定悪性腫瘍の発生率が 増加しているという報告がいくつかある。しかし、これらの報 告は一致制がなく、被爆者の追跡調査方法における違いやチェ ルノブイリ事故後における患者把握数の増加を反映している可 能性がある。  *以上ざっとまとめてみました。この論文はチェルノブイリ の被害の印象を軽めに捉えているような感じもいたします。 ○私共のホームページにはもうひとつ放射線災害医療に関する 論文のまとめが収載されています。 「放射線事故」(衣笠達也、災害医療ハンドブック、医学書院、 東京、1996年、p.48-53) (前川教授のご講演、聞き書き) | 過去50年間に放射線による事故件数 23、死亡者数 65人とな | っている。しかしロシアなどから漏れてくる旧共産圏などの | 情報を合わせると、上記公式記録の 3〜10倍に及ぶ放射線事 | 故があったと推定されている(旧ソビエトで100件以上、死者 | 50人以上)。  上記の論文では以下のような記載となっています。 「1944〜1993年の過去50年間に起こった放射線事故は、世界中で 約300件、放射線被曝のた め事故1カ月以内に医療処置を要した人 々は、およそ1900人、死亡者102人であった。」  以上、長文失礼をいたしました。名古屋便り、もう少しおつき あい下さい。それでは。
From: Morishige TANAKA Date: Thu, 26 Mar 1998 16:01:03 +0900 Subject: [neweml: 02033] Re: 名古屋便り4・放射線災害医療 ☆-------☆-------☆田中盛重☆-------☆-------☆-------☆-------☆-------☆ 田中@愛媛です 放射線の話ですね。 1998/03/26 01:38:49 ころGenro Ochi さんは書 きました: > Gray(Gy) → absorbed dose を SI単位で表したもの > 1 rad = 0.01 Gy = 10 mGy = 1 cGy > 1 rem = 0.01 Sv > 1 curie = 3.7 x 10^10 Bq > 1 Bq = 1 dps → 1 秒間に1個の割合で原子核が崩壊すると >         きの放射線量(disintegration per second)             ベクレル、キュリー、dpsは、これは、崩壊速度そのものです 100年ほど前に、放射線・放射能が発見されたのは、ご存じと思います。 当時、桁外れに強い、放射線源が。ラジウム226で、これ1グラム(正確 には放射平衡にあるものも含みますが)を1キュリーとしました。 これが、放射能の単位となったわけですが、ラジウムの重さというのも不便 なので、その崩壊速度を測定から、3.7×10^10dpsと定義し直し ました。 ところが、最近になって、SI単位系が登場しました。周波数がサイクルか らヘルツに変わり、気圧がミリバールから、ヘクトパスカルに変わったのは、 これのせいです。 この単位系では、全ての誘導単位は、1×10^n でなければ、なりま せん。 となると、3.7×10^10dpsは、これに合わないので、改めて、1 dpsを1Bqと定義したわけです。 これにより、古くから続いたキュリーは、消えることになりました。同様に、 照射線量の単位、レントゲンも消えてしまいました。照射線量は、概念その ものが消え、後継の単位はありません。必要に応じて、 C/Kgなどとい う単位を使います。 もっとも、頭の中は簡単に切り替えできないので、「トリチウム 1ミリ キュリー」などというは、今でもまかり通ります。多分フランス以外では、 今でも、使っているはずです。 ところで、仕事が一段落したら、家族で温泉に行こうと思います。 温泉には、「ラジウム」とか「ラドン」のタイトルがついているところが、 よくあります。この理由は、昭和の初めにドイツで、放射線は健康によいと いう説が発表されたことに端を発します(放射線ホルミシスとは関係ありま せん)。日本の温泉地では、これを見逃すことはなく、直ちに、「ラジウム」 「ラドン」を冠したそうで、その名残なのです。 放射線は、「目に見えない」「透過する」という性質から、いろいろな悲喜 劇をもたらしました。機会があれば、書かせて下さい。 ------------------------------------------------------------------------------- Morishige Tanaka Central Reseach Lab., Ehime University School of Medicine mtanaka@m.ehime-u.ac.jp Shigenobu, Ehime (791-02)

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