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エホバ裁判判決


Date: Fri, 20 Feb 1998 11:23:00 +0900
Subject: [masui 2072] エホバ裁判判決:長文です

 麻酔ディスカッションリストに投稿された資料を、発信者の了承のもとに掲載させていただきます。なおこの資料は OCRによる読みとりで作成したもので、誤字などがありえますので、予めご承知おき下さい。また固有名詞の一部はウェブ担当者の判断により、記号化をさせていただきました。


平成九年(ネ)第一三四三号   損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成五年(ワ)第一〇六二四号)
(平成九年一二月一日口頭弁論終結)

   判  決

・・県・・郡・・町
                 亡武田M訴訟継続人
    控    訴    人     武 田 S
・・県・・市・・
                 同
    控    訴    人     堀 越 N
・・県・・郡・・町
                 同
    控    訴    人     武 田 G
・・県・・市
                 同
    控    訴    人     金 子   I

    右四名訴訟代理人弁護士     赤 松   岳
    同               野 口   勇
    同               石 下 雅 樹

東京都千代田区露が関一丁目一番一号
    被  控  訴  人      国
    右代表者法務大臣        下稲葉 耕 吉
    右指定代理人          中垣内 健 治
    同               渡 部 義 雄
    同               星   昭 一
    同               佐 藤   孝
    同               小 林 隆 之
    同               高 柳 安 雄
    同               山 口 清次郎
    同               大日向 鐵 機
・・県・・市
    被  控  訴  人      内 田 ・ ・
東京都
    被  控  訴  人      長 尾 ・ ・
東京都
    被  控  訴  人      冨 川 ・ ・
東京都
    被  控  訴  人      市 川 ・ ・
東京都
    被  控  訴  人      田 上 ・ ・
東京都
    被  控  訴  人      三 田 ・ ・

   主        文

一 原判決中、被控訴人国、同内田・・、同冨川・・及び同市川・・に関する部 分を次のとおり変更する。

 1 被控訴人国、同内田・・、同冨川・・及び同市川・・は各控訴人武田Mに対しては金27万5000円、同堀越N、同武田G及び同金子Iに対して はそれぞれ金9万1666円及びこれらに対する平成5年7月16日(被控訴人 内田Hについては同月17日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支 払え。

 2   控訴人らの右被控訴人らに対するその余の請求を乗却する。

二 控訴人らの被控訴人長尾・・、岡田・・及び同三田・・に対する控訴を棄却す る。

三 控訴人らと被控訴人国、同内田・・、同冨川・・及び同市川・・との間で生 じた訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを20分し、その19を控訴人らの負 担とし、その余を右被控訴人らの負担とし、控訴人らと被控訴人長尾・・、同田上 ・・及び同三田・・との間の控訴費用は、控訴人らの負担とする。

四 この判決は、主文第一項1に限り、仮に執行することができる.

   事 実 及 び 理 由

第一 当事者の求めた裁判

一 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 被控訴人国、同内田・・、同長尾・・、国冨川・・、同市川・・、同田上・・及び同三田・・は連帯して、控訴人武田Sに対しては金600万円、同掘越N、同武田G及び同金子Iに対してはそれぞれ金200万円及びこれらに対す る平成5年7月16日(被控訴人内用・・については同月17日)から支払済み まで年5分の割合による金員を支払え。

 3 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

 4 仮執行宣言

二 控訴の趣旨に対する答弁

  控訴棄却

第二 請求の原因

   本件の請求の原因は、次のとおり改め、又は加えるほかは、原判決の事実 及び理由欄の第二に記載のとおりである。

一 原判決2枚目裏7行目の「原告」を「訴訟承継前控訴人亡武田M(以下 「M」という。)」と、同4枚目表4行目から同4枚日裏2行目までの間の 各「原告」を「M」とそれぞれ改める。

二 同4枚目裏5行目の次に行を改めて次のとおり加える。
   「六 Mは、平成9年8月13日に死亡したが、その相続人は、夫で ある控訴人武田S、Mと同控訴人との間の長女である控訴人堀越N、同 長男である控訴人武田G及び同二女である控訴人金子Iである。(当事者間に 争いがない。)」

三 同6行目の「六」を「七」と、同行日の「原告」を「控訴人ら」と、同7行 目、同8行目及び同11行目の各「原告」を「M」とそれぞれ改める。

四 同10行目の「受け入れないとの」の次に「Mの」を加え、同末行の 「舞って」を「舞い、輸血以外に救命手段がない事態になった場合には輸血する 治療方針を採用していながら、この治療方針の鋭明を怠って、」と改め、同5枚 目表3行目の「いずれも」の次に「Mに生じた」を、同5行目の「遅延損害 金」の次に「につき、これを相続した控訴人らの法定相統分に応じて控訴の趣旨 2項記載のとおりの金員」をそれぞれ加える。

第三 争点

   本件の争点は、次のとおり改め、又は加えるほかは、原判決の事実及び理 由欄の第三に記載のとおりである。

一 原判決5枚目表7行目から10枚目表8行目までの問の各「原告」のうち、 同5枚目表9行目、同6枚目裏4行目、同7枚目表末行、同9枚日裏3行目及び 同10枚目表5行目の各「原告」を「控訴人ら」と、その余の各「原告」を「み さえ」とそれぞれ改める。

二 同6枚目表2行目の「の輸血拒否」を「による輸血拒否」と改める。

三 同7枚目表8行目の「振る舞って」を「振る舞い、輸血以外に救令手段がな い事態になった場合には輸血する治療方針を採用していながら、この治療方針の 説明を怠って、」と同8枚目表7行日の「示し」を「示したもので、輸血以外に 救命手段がない事態になつた場合には輸血する治療方針を採用していながら、こ の治療方針の説明を怠って、」とそれぞれ改める。

四 同7枚目裏1行日の「訴外武田G(以下「訴外G」という。)」を「控 訴人武田G(以下「控訴人G」という。)」と改める。

第四 本件の経過

   本件の経過は、次のとおり改め、又は加えるほかは、原判決の事実及び理 由欄の第四に記載のとおりである。

一 原判決10枚日裏3行目の「三」の次に「、乙第9号証、乙第10号証、乙 第13号証、乙第14号証」を加える。

二 同行目から20枚目表1行目までの間の各「原告」を「M」と、各「訴 外G」を「控訴人G」と、「訴外武田S(以下「訴外S」という。)」 を「控訴人武田S(以下「控訴人S」という。)」と、各「訴外S」を 「控訴人S」とそれぞれ改める。

三 同12枚目裏6行目末尾に「なお、被控訴人内田は、当日、Mに対して 超音波検査を実施し、肝右葉付近に巨大な腫瘍があることなどの所見を得、その 摘出手術が相当困難なものとなるとの感じを抱いた。」を加える。

四 同13枚目表9行目の「答えた」の次に「(なお、被控訴人冨川作成の陳述 書(乙第10号証)中には、同被控訴人がMから「死んでも輸血をしてもら いたくない。」と言われた記憶がない旨の記戟部分があるが、右記載部分は、カ ルテ(乙第1号証)中の、右会話があったとされる同年9月7日を含む同年8月 18日から同年9月10日までの検査、一時的指示、継続指示などを記載した文 書(81頁〉中の特記事項欄に「エホバ!輸血は死んでもだめ」との記載がある ことに照らして採用できない。)」を加える。

五 同14枚目裏1行目の「術前検討会」の次に「(これには少なくとも、被控 訴人内田、同冨川及び同市川が出席した。)」を、同8行目の「事態」の次に 「が発生した場合には、輸血の実施を考慮することとし、これ」をそれぞれ加え る。

六 同17枚目表5行目の「手術」の次に「の」を加え、同6行目の「提出され た。」の次に「この承諾書は、説明の内容として、「肝腫瘍の手術、合併症につ いて説明しました。(内田・・)」と手書きで記載され、承諾文書として、「今 般主治医より(空欄未補充)を受けることにつきまして充分な況明を聞き了解い たしましたので、実施をお願いいたします。」と印刷され、その下にMが患 者本人として署名捺印し、患者の家族である控訴人Sが署名捺印しているもの である。」を、同7行目の末尾に「。」をそれぞれ加える。

七 同18枚目裏2行目の「著名」を「著明」と改める。

八 同8行目末尾に「待機していたMの家族(控訴人ら四名及び控訴人G の妻)からの同意を得ることなく、」を加える。

第五 争点に対する判断

一 争点一(無輸血特約)について

 控訴人らは、Mと被控訴人国とは、平成4年9月14日、被控訴人医師ら がMに対して手術中いかなる事態になっても、すなわち、輪血以外に救命手 段がない事態になっても、輸血をしないこと(以下「絶対的無輸血」という。) を合意したと主張する。
  しかし、前記認定の事実によれば、Mは、口頭により絶対的無輸血を求 める旨の音思を表示していることは認められるが、文書上はその意思は明確でな い。また、被控訴人医師らは、口頭によっても、文書によっても右Mの求め に応ずる旨の意思を表示しているとは認められないが、できる限り輸血をしない 旨の意思表示はしていることが認められる。したがって、絶対的無輸血の合意が 成立していると認めることはできない(手術に当たりできる限り輸血をしないこ ととする限度での合意成立の効果は認めるべきである。)。これを補足説明する と次のとおりである(以下、前記認定事実には証拠を示さず、それ以外の事実に は括弧内に証拠を示す。)。

 1 エホバの証人の信者である患者(以下「エホバの証人患者」という。)の 症例報告等(甲第13号証の1ないし14、乙第8号証の1の1ないし24)に よれば、エホバの証人患者は、多くが絶対的無輸血の意思を表明しているが、家 旗などの説得により、輸血の承諾をした事例もあり(乙8の1の18の症例)、 手術に当たりできる限り輸血をしないこととするが、輪血以外に救命手段がない 事態になった場合には輸血をすること(本件において、被控訴人医師らの認識に おける「できる限り輸血をしないこと」の意味は、この趣旨と解される。以下 「相対的無輸血」という。)を承諾した事例もあり(甲第13号証の4の症例 1、乙8の1の7の症例)、また、患者本人は絶対的無輸血の意思を表明した が、その家族は生命の危機に瀕する事態に陥ったときに相談させてほしいとの意 思を表明した事例もあり(甲第13号証の12の症例)、さらに、患者本人は相 対的無輸血を承諾したが、妻が反対した事例もある(乙8の1の3の症例4)。   以上のとおり、エホバの証人患者の輸血について採る態度はさまざまである ところ、絶対的無輸血は、生命の維持よりも輸血をしないことに優越的な価値を 認めるものであるのに対し、相対的無輸血は、輸血をしないことよりも生命の維 持に優越的な価値を認めるものであって、同じ無輸血といっても、この両者の間 には質的に大きな違いがある。

 2 Mが医科研で最初に受珍した際、、被控訴人内田に対し、Mは、 輸血に関する発言はしなかったが、控訴人Gが「母は30年間エホバの証人を していて、輸血をすることはできません。」と言った.しかし、同控訴人は、 「輸血以外に救命手段がない事態になっても輸血はできない。」旨を明言はして いない。

 これに対し、被控訴人内田は、「(腫瘍は)大きいですけど、心配いりませ ん。ちゃんと治療できます。」「いざとなったらセルセイバー(回収式自己血輸 血装置)があるから大丈夫です。本人の音思を専重して、よく話し合いながら、 きちんとやっていきます。」と言っているが、「輸血以外に手段がない事態にな っても輸血はしない。」旨を明言してはおらず、将来の話合いの余地を残してい て、絶対的無輸血の治療方針を採る旨を表明してはいない。

 3 Mが医科研に入院した当日の被控訴人市川とMとの問答は、貯血 式自己血輸血の可否に関するものに過ぎず、両者とも、絶対的無輸血の意思又は 治療方針を明確に表明するものではない。

 4 Mが医科研に入院中の平成4年9月7日には、Mは、被控訴人冨 川に対し、「死んでも輸血をしてもらいたくない。そういう内容の書面を書いて 出します。」と言っているが、これは、絶対的無輸血の意思を口頭で表明したも のである。この意思表明は、主治医である被控訴人冨川に対するものであるか ら、被控訴人国の履行補助者に対して絶対的無輸血による手術を求める旨の意思 表示(申込み)であるといえる。

 これに対し、被控訴人冨川は、「そういう書面をもらってもしようがないで す。」と言っているが、これは、右申込みを承諾したものではないことは明らか である。

 5 手術説明会の同月14日には、被控訴人内田は、大きな手術となり出血が あることなどを説明するとともに、「術後再出血がある場合には、再び手術が必 要になる。この場合は医師の良心に従って治療を行う。」と説明しているが、同 被控訴人の内心の意図はともかくとして、右説明は、相対的無輸血の治療方針を 表明するものではない(およそ輪血について言及したものと認めることはできな い。)。

 控訴人Gは、その際、被控訴人内田に対してM作成の免責証書(乙第4 号証)を交付している。右免責証書の記載文言は、輸血拒否の意思を表明しては いるが、他の例(甲第4号証中の「輸血謝絶書」、甲第30号証の2、甲第12 号証の6の1ないし3、甲第12号証の12)と表現を異にし、死の結果をも受 け入れる旨の絶対的無輸血の意思を明確にしているとは解されないおそれがある (「どんな損傷」という表現が用いられているが、「傷」という語感からは死の 結果をも許容する趣旨かどうか疑いの生ずる余地がある。)

 前判示認定事実によると、被控訴人医師らが絶対的無輸血の治療方針を採用せ ず、相対的無輸血の治療方針を採用していたことは明らかである。また、医療の 専門性(この専門性は訴訟代理の委任の局面とも同一である。)に鑑み、医師は その専門知識及び能力に基づきその良心に従って医療内容を決定すべきであり、 患者による治療内容に対する注文は、通常は単なる希望の表明に過ぎす、原則と しては、医師が明示に承許した場合でなければ、そのような医師の治療方針と抵 触する合意が成立したと認めるべきものではない(後記の説明義務違反の問題が 生ずることや手術の施行自体について患者の同意が必要なことは別論である。 )。被控訴人医師らの右言動をもってしては、被控訴人医師らが絶対的無輸血に つき承諾したものということはできす、手術に当たりできる限り輸血しないこと とする限度でのみ合意成立の効果を認めるべきである。

 6 以上のとおり、Mと被控訴人国との間に絶対的無輸血の合意が成立し たとは認められないが、念のため右合意の効力について当裁判所の見解を述べて おく。当裁判所は、当事者双方が熟慮した上で右合意が成立している場合には、 これを公序良俗に反して無効とする必要はないと考える。すなわち、人が信念に 基づいて生命を賭しても守るべき価値を認め、その信念に従って行動すること (このような行動は、社会的に優越的な宗教的教義に反する科学的見解を発表す ること、未知の世界を求めて冒険をすること、食糧事情の悪い状況下で食糧管理 法を遵守することなど枚挙にいとまがない。)は、それが他者の権利や公共の利 益ないし秩序を侵害しない限り、違法となるものではなく、他の者がこの行動を 是認してこれに関与することも、同様の限定条件の下で、違法となるものではな い。ところで、エホバの証人の信者がその信仰に基づいて生命の維持よりも輸血 をしないことに優越的な価値を認めて絶対的無輸血の態度を採ること及び医師が これを是認して絶対的無輸血の条件下で手術を実施することは、それが他者の権 利を侵害するものでないことが明らかである。さらに輸血にはウイルスの感染等 の副作用があることは公知の事実であるし、Mが医科研を初めて受診した平 成4年7月28日までに、絶対的無輸血の条件下で実施された手術例が多数あ り、この中には相当数の死亡例もありながら、死亡例について医師が実際に刑事 訴追された事例がなかったこと(甲第13号証の1ないし14、乙第8号証の1 の1ないし24)、同元年には、輸血療法の環境の変化に対応して、厚生省健康 政策局長が輸血療法の適正化に関するガイドラインを定め、これを各都道府県知 事あてに通知しているが、その一項目として、「輸血療法を行う際には、患者ま たはその家族に理解しやすい言葉でよく説明し、同意を得た上でその旨を診療録 に記録しておく。」ことが挙げられていること(甲第22号証)、同2年中には 日本医師会の生命倫理懇談会が絶対的無輸血の条件下での手術の実施をやむを得 ないことではあるが肯定する旨の見解を発表していること(甲第10号証、甲第 21号証)、同2年からMの右受診前までの間に北信総合病院、国立循環器 病センター、聖隷浜松病院、京都大学医学部附属病院、上尾甦生病院及び鹿児島 大学医学部付属病院などが絶対的無輸血の条件下での手術を是認する見解を発表 しており、これを報道する新聞も、その見解に否定的な評価を示してはいないこ と(甲第12号証の3ないし5、同号証の6の1、2、同号証の7の1ないし 3、同号証の8)、Mの右受診時点までに、法律学の領域においても、医療 における患者の自己決定権、インフォームド・コンセント、クォリティ・オブ・ ライフなどの問題につき患者の意思決定を尊重する見解が多数発表されていたこ と(当裁判所に顕著な事実。なお、甲号証としては、第57号証、第59号証な どがある。)などに照らすと、Mの右受診時点では、絶対的無輸血の条件下 で手術を実施することも、公共の利益ないし秩序を侵害しないものと評価される 状況に至っていたものと認められる。ただし、これは医師に患者による絶対的無 輸血治療の申入れその他の医療内容の注文に応すべき義務を認めるものでないこ とはいうまでもない。絶対的無輸血治療に応ずるかどうかは、専ら医師の倫理 観、生死観による。後記説明為務を負うことは格別として、医師はその良心に従 って治療をすべきであり、患者が医師に対してその良心に反する治療方法を採る ことを強制することはできない。もっとも、その良心に従ったところが医師に当 然要求される注意義務に反するときは、責任を免れないことはもちろんである。

二 争点二(説明義務違反とその責任主体及び結果)について

  控訴人らは、被控訴人医師らが、輸血以外に救命手段がない事態になった場 合には輸血する治療方針、すなわち、相対的無輸血の治療方針を採用していなが ら、Mの絶対的無輸血の意思を認識した上で、Mの右意思に従うかのよ うに振る舞い、この治療方針の説明を怠って、Mに本件手術を受けさせ、本 件輸血をし、右の行為によつてMの自己決定権及び信教上の良心を侵害し た、と主張する。

   この主張は、本件において国以外の被控訴人医師らが輸血以外に救命手段 がない事態になった場合には輸血する治療方針、すなわち、相対的無輸血の治療 方針を採用していたことをMに説明する義務を負っていたところ、その義務 の懈怠があるとするものである。まず、右説明義務の存否について判断する(以 下、前記一同様に、既に認定した事実には証拠を示さず、それ以外の事実には括 狐内に証拠を示す。)。

 1 説明義務の存否

 (一) 被控訴人医師らは、できる限り輸血しないこととするが、輸血以外に 救命手段がない事態になった場合には輸血する治療方針、すなわち、拍対的無輸 血の治療方針を採用していながら、Mに対し、この治療方針の説明をしなか った。

   (二) 本件のような手術を行うについては、患者の同意が必要であり、医師 がその同意を得るについては、患者がその判断をする上で必要な情報を開示して 患者に説明すべきものである。もちろん、これは一般論であり、緊急患者のよう な場合には、推定的同意の法理によるべきであるし、その説明の内容は、具体的 な患者に則し、医師の資格をもつ者に一般的に要求される注意義務を基準として 判断されるべきものである。

 この同意は、各個人が有する自己の人生のあり方(ライフスタイル)は自らが 決定することができるという自己決定権に由来するものである。被控訴人らは自 己の生命の喪失につながるような自己決定権は認められないと主張するが、当裁 判所は、特段の事情がある場合は格別として(自殺をしようとする者がその意思 を貫徹するために治療拒否をしても、医師はこれに拘束されず、また交通事故等 の救急治療の必要のある場合すなわち転医すれば救命の余地のないような場合に は、医師の治療方針が優先される。)、一般的にこのような主張に与することは できない。すなわち、人はいずれは死すべきものであり、その死に至るまでの生 きぎまは自ら決定できるといわなければならない(例えばいわゆる尊厳死を選択 する自由は認められるべきである。)。本件は、後腹膜に発生して肝右葉に浸潤 していた悪性腫瘍(手術前の診断は、肝原発の血管性腫瘍、肝細胞癌、悪性後腹 膜腫瘍等の疑い)であり、その手術をしたからといって必ずしも治癒が望めると いうものではなかった(これは、現に当審係属中にMが死亡したことによっ ても、裏付けることができる。)。この事情を勘案すると、Mが相対的無輸 血の条件下でなお手術を受けるかどうかの選択権は尊重されなければならなかっ た。なお、患者の自己決定は、医師から相当の説明がされている限り、医師の判 断に委ねるというものでよいことはいうまでもなく、また、医学的知識の乏しい 患者としては、そういう決定をすることが通例と考えられる。そして、相当の説 明に基づき自己決定権を行使した患者は、その結果を自己の責任として甘受すべ きであり、これを医師の責任に転嫁することは許されない(説明及び自己決定の 具体的内容について、明確に書面化する一般的な慣行が生まれることが望まし い。)。

  輸血(同種血輸血)は、血液中の赤血球や凝固因子等の各成分の機能や量が 低下したときにその成分を補充することを主な目的として行われるものであり、 ショック状態の改善、事故や手術の際の大量出血による生命の危険に対して劇的 な効果を収め得る治療手段であるが、ときにウイルスや細菌などの病原体による 感染症や免疫反応に起因する副作用などがある(甲第6号症、甲第7号証、甲第 9号証、甲第11号柾、甲第22号証、乙第5号証、乙第6号証)。したがっ て、医師が患者に対して輸血をする場合には、患者又はその家族にこれらの事項 を理解しやすい言葉でよく説明し、同意を得た上で行うことが相当である(甲第 22号証)とはいえるが、手術等に内在する可能性として同意が推定される場合 も多く、一般的にそのような説明をした上での同意を得べきものとまではいえな い。しかし、本件では事情が異なる。Mは、エホバの証人の信者であったと ころ、エホバの証人患者は、その宗教的教義に基づいて輸血を拒否することが一 般的であるが、前記一1認定のとおり、輸血拒否の態度に個人差があることを看 過することはできない。また、単に無輸血といっても、絶対的無輸血と相対的無 輸血の間には質的に大きな違いがあり(また、甲第18号証、甲第36号証の1 ないし14によれば、エホバの証人の信者であっても、血液製剤のうちの一部の ものは、個人の判断で許容できるとしているし、血液の貯蔵を伴わない自己血輸 血の一部の方式も、同様に許容できるとしている。)、医師は、エホバの証人患 者に対して輪血が予測される手術をするに先立ち、同患者が判断能力を有する成 人であるときには、輸血拒否の意思の具体的内容を確認するとともに、医師の無 輸血についての治療方針を説明することが必要であると解される。

   さらに本件においては、次の事実が認められる。Mは、昭和4年1月 5日生まれであって、医科研に外来受診しその後入院した当時63歳であり、判 断能力を有する成人であった。被控訴人内田は、Mの担当医師団の責任者で あり、Mの外来受診の際に対応して入院治療を承諾し、本件手術のメンバー を決め、術前検討会を主宰し、本件手術の執刀医として最終的な着任者となっ た。被控訴人冨川及び同市川は、Mの主治医として、入院中のMの日常 的な診療に直接携わった。被控訴人長尾は肝臓外科専門医として、被控訴人田上 及び同三田は麻酔医として、本件手術及び本件輸血には関与したが、その関与す る局面は限定されたもので、M及びその家族と接触することはなかった(原 審における被控訴入内田本人尋問、乙第13号証、乙第14号証)。被控訴人内 田、同冨川及び同市川は、前記認定の経緯から、Mがエホバの証人の信者で あつて輸血拒否の意思を有していることを知っていた。被控訴人長尾は、M がエホバの証人の信者であることを知っていたと推認されるが(乙第13号証 )、同田上及び同三田については明らかでない。被控訴人内田は、Mが立川 病院で無輸血手術ができない旨言われたため、医科研に受診することとなった経 緯を知っていた。被控訴人内田は、Mの外来受診当初から、Mの肝右葉 付近に巨大な腫瘍があることなどの所見を得、その摘出手術が相当困難なものと なるとの感じを抱き、控訴人Gに対して「いざとなったらセルセイバーがある から大丈夫です。」と告げた(なお、これらの事実から、被控訴人内田は、この 腫瘍を摘出する本件手術をするに当たっては輸血以外に救命手段がない事態が発 生する可能性のあることを認識していたものと推認できる。)。被控訴人冨川 は、輸血以外に救命手段がない事態になれば患者が誰であれ輸血する考え方を個 人的に抱いていたところ、平成4年9月7日、Mに対し緊急時には救命のた めに輸血する方針である旨を告げ、Mから「死んでも輸血をしてもらいたく ないし、必要なら免責証書を提出する。」旨言われたが、そのような証書を貰っ ても仕方がないと返答した。被控訴入内田及び同市川は、そのころ、カルテの記 載(乙第1号証81頁)又は被控訴人冨川からの報告によりMの右発言を知 った(被控訴人内田が担当医師団の責任者であること、被控訴人市川が同冨川と 同様にMの主治医であってMの日常的な診療に直接携わっていたことか らの推認。なお、被控訴人長尾、同田上及び同三田がMの右発言を知ってい たと認めるに足りる証拠はない。)。被控訴人内田、同冨川及び同市川の三名 (以下「被控訴人内田ら三名」という。)は、術前検討会において、Mの生 命に危険な事態が発生した場合には、輸血の実施を考慮することとし、濃厚赤血 球等を準備することとした。被控訴人内田ら三名は、平成4年9月14日に、み さえ、控訴人茂久及び同Gに対し、手術説明をし、その際、控訴人Gから免 責証書の交付を受けた。

  以上によれば、被控訴人冨川は、一応相対的無輸血の方針を説明していると 認められるが、Mがこれに納得せず、絶対的無輸血に固執していることを認 識した以上、そのことを他の担当医師特に責任者である被控訴人内田に告げ、担 当医師団としての治療方針を統一すべき義務を負い、その内容がMの固執し ているところと一致しなければ、自ら又は被控訴人内田を通じて、Mに説明 してなお医科研における入院治療を継続するか否か特に本件手前を受けるかどう かの選択の機会を与えるべきであった。そして、被控訴人内田、同冨川及び同市 川は、無輪血で手術を行う100%の見込みがないと判断した時点で(少なくと も術前検討会の後M及び家族への手術説明の際には)、担当医師団の方針と してその説明をすべきであった。しかし、被控訴人長尾、同田上及び同三田は、 担当医師団の責任者たる被控訴入内田の決定指示に従う立場にあり、M及び その家族と接触してその意思を確認する機会も、治療方針の説明をする機会もな かったから、右説明義務を負うことはない(なお、担当医師団の一員ないしその 一員と予定されている麻酔医にまで右説明等の義務を認めることは、外科医と麻 酔医の役割分担を前提とする病院組織の場合には、病院全体の効率的な運営を妨 げるおそれがあって相当でない。)。

 (三) 以上によれば、被控訴人内田ら三名は、輸血以外に救命手段がない事 態になった場合には輸血する治療方針、すなわち、相対的無輪血の治療方針を採 用していながら、Mに対し、この治療方針の説明を怠ったものである。

 (四) なお、被控訴人らは、同内田らが、Mの生命を守るためには、本 件手術を実施せざるを得ないと考えていたところ、本件手術に関し輸血がどの程 度必要であるのか輸血をしなければどうなるかについて、説明すれば、Mが 手術を拒否すると考えて、あえて説明をしなかったものであって、このような行 為は正当であって許されると主張する。しかし、手術等に対する患者の同意は、 各個人が有する自己の人生のあり方(ライフスタイルないし何に生命より優越し た価値を認めるか)は自らが決定することができるという自己決定権に由来する ものであるところ、右主張は、この自己決定権を否定し(前判示のとおり、その 患者の自己決定が明らかに不合理な場合は、別論である。)。いかなる場合であ っても医師が救命(本件ではむしろ延命)のため手術を必要と判断すれば患者が 拒否しても手術をしてよいとすることに成り兼ねないものであり、これを是認す ることはできない。すなわち、現状においては、ガン告知等医師の裁量によって 説明の要否及び内容を判断すべき場合があることは確かであるが、本件について は、前判示の病名、患者の意思の強固さ等の諸事情からいってそのような裁量に よって説明をしないことが許される場合でないことは明らかである(本来、ガン 告知を含めて医師が患者に対してすべき説明の内容ないし程度については、診療 機関が患者の受診当初において明示にすなわち書面で、患者の希望ないし意思を 確かめる措置を執ることが適当である。)。

 2 説明義務違反の結果

  被控訴人内田ら三名が、Mに対し、相対的無輸血の治療方針を採用して いることを説明しなかったことにより、Mは、絶対的無輸血の意思を維持し て医科研での診療を受けないこととするのか、あるいは絶対的無輸血の意思を放 棄して医科研での診療を受けることとするかの選択の機会(自己決定権行使の機 会)を奪われ、その権利を侵害された。

  Mは、被控訴人内田ら三名から右説明を受けていれば、医科研での診療 を受けないこととする(本件手術についても同意しない)選択をしたものと認め られる(M本人尋問、甲第15号証)。したがって、被控訴人内田ら三名の 説明義務違反の結果、Mは本件手術を受け、本件輸血を受けたこととなる。

三  争点三(本件輸血の違法性阻却事由ないし違法性)について

 1 被控訴人らは、本件輸血は社会的に相当な行為又は緊急事務管理として違 法性が阻却されると主張する。すなわち、被控訴人らは、Mが輸血以外に救 命手段がない事態になっていたので、本件輸血は、人命尊重の観点から、また、 医師にとっての職業倫理上の責任、刑事上の責任を回避するという観点からも、 社会的に相当な行為又は緊急事務管理行為というべきである旨主張する。

 確かに、後記認定のとおり、本件輸血がMの救命のために必要であったこ とは、認められる。また、一般的には、医師が手術に際して患者の救命のために 患者に輸血することは、輸血についての患者の事前の明示の同意がなくても、手 術についての患者の同意が輪血についての同意を通常内包しているため、違法性 がないものといえる。しかし、本件は、前判示のとおり救命ないし延命を至上命 題とすべき事案ではなく、被控訴人内田ら三名に関しては、前記説明を怠ったこ との違法性が明らかであるところ(なお、本件手術についてのMの同意は、 治療方針について十分な説明を受けずにされた瑕疵あるものではあるが、結果と して手術が輸血なしでされた場合には、Mに損害が生ずることはないから、 被控訴人らの責任も生じない。)、本件輸血は、同被控訴人らが前記説明を怠っ たことによって発生したものであるから(すなわち、同被控訴人らが前記説明を していれば、Mが本件手術を受けることも、ひいては本件輸血を受けること もなかったものであるから)、本件輸血がMの救命のために必要であったこ とをもって同被控訴人らが前記説明を怠ったことの違法性が阻却されることはな い。そして、この違法性が阻却されない以上、前記説明を怠ったことによつて発 生した本件輸血の違法性も阻却されることはない(仮に、本件輸血がMの救 命のために必要であったことをもって本件輸血の違法性が阻却されるものとすれ ば、同被控訴人らは、Mの意思にかかわらず、また、前記説明をするとしな いとにかかわらす、およそ本件輸血は違法でないこととなるが、このような考え 方は、前判示のとおり、救命のためという口実さえあれば医師の判断を優先する ことにより、患者の自己決定権をその限りで否定することとなるから、採用でき ない。)。

 しかし、被控訴人長尾、同田上及び同三田に関しては、同被控訴人らが前記説 明義務を負っていなかったものであるから、本件輸血の違法性につき、さらに検 討する必要がある。

 2 被控訴人長尾、同田上及び同三田(以下「被控訴人長尾ら三名」という 。)に関しては、本件輸血が違法であるか否かは、専ら本件輸血がMの救命 のために必要でなかったか否かによって、判断すべきものである。すなわち、前 記認定のとおり、被控訴人長尾ら三名は、被控訴人内田ら三名のように前記説明 義務を負うものではなく、事前にMがエホバの証人として輸血を拒む意思表 示をしていたことを知っていたかどうかも明確でない。しかし、少なくとも本件 手術において輸血の要否が問題となった時点では、被控訴人内田らからそのこと を告げられたと認めるべきである。担当医師団としては、前記認定の手術に当た りできる限り輸血しないこととする合意の効果に拘束される(また、医師はその 良心に反するものでない限り、患者の真しな自己決定に拘束されるとも解され る。)。被控訴人長尾ら三名の行為に関しては、本件輸血がMの救命のため に必要でなければ違法であり、これが必要であれば違法ではないとすべきであ る。そして、本件輸血の必要性については、次のとおり認められる(以下、これ までと同様に、既に認定した事実には証拠を示さす、それ以外の事実には括弧内 に証拠を示す。)。

  本件手術終了後の時点におけるMの状況及び被控訴人医師らの判断は、 次のとおりであった。出血量は、2245ミリリットル余りで、低血圧、頻脈、 創浮踵が著明となっていた。この時点で、適切な対処むしなければ、Mが不 可逆的なショック状態に陥り、生命の維持が困難となる状況であった(原審にお ける被控訴人内田本人尋問)。被控訴人内田は、この時点でも、できれば輸血し ないようにしたい意向であった(同)。しかし、ショック状態の管理については 一般に麻酔医の方が外科医より専門的な知見と経験を有するところ(弁論の全趣 旨)、麻酔医である被控訴人田上及び同三田が、どうしても輸血しないと生命の 維持ができないという判断を示したことから、被控訴人医師らは、本件輸血をす ることとした(原審における被控訴人内田本人尋問)。この時点においては、輸 血に代えて代用血漿剤を使用することは、同剤が酸素運搬機能に欠け、凝固因子 を有しないため、救命手段として適切なものとはいえす、他の適切な救命手段は なかった(同、乙第11号証の1)。

  以上の事実によれば、本件輸血の必要性はこれを肯定することができる。し たがって、被控訴人長尾ら三名に関しては、本件輸血が違法であるとはいえず、 同被控訴入らに関しては、Mに対して不法行為責任を負う理由がない。

四 争点四(損害)について

  原審におけるM本人尋問の結果、甲第15号証及び甲第95号証によれ ば、Mが本件輸血によって医療における自己決定権及び信教上の良心を侵害 され、これにより被った精神的苦痛は、大きいものがあったものと認められる。

  しかし、?Mが侵害されたものは純粋に精神的なものであること(本件手 術が積極的にMの健康を害したとは認められず、むしろ後記のとおり延命の 効果があったと認められること)、?被控訴人医師らは、長時間にわたる困難な 手術を遂行し、腫瘍の完全な摘出はできなかったものの、その時点でなし得る最 大限の治療をしたこと、?本件手術で腫瘍を摘出しなければ、Mの余命は約 1年と見込まれたが(原審における被控訴人内田本人尋問)、右摘出により、み さえは本件手術後5年間の生存が可能となったものと認められること、?被控訴 人内田ら三名がMの輸血拒否の具体的内容を確認するとともに治療方針を説 明する義務を怠ったとはいえ、Mが医科研に受珍し入院して本件輸血を受け た平成4年7月ないし9月当時、エホバの証人患者の手術に際して絶対的無輸血 の治療方針を採用するのが相当か、それとも相対的無輸血の治療方針を採用する のが相当かについて、確定的な見解があったものではないこと(ちなみに、前記 一6認定のとおり、平成2年中に発表された日本医師会の生命倫理懇談会の見解 は、絶対的無輸血の条件下での手術の実施を「やむを得ないことではあるが」肯 有する趣旨のものであり、同2年からMの右受診前までの間に絶対的無輸血 の条件下での手術を是認する見解を発表した病院は、未だ多くはなかったもので ある。)、?わが国の医療現場における説明及び同意(インフォームド・コンセ ント)の観念及びこれに関するシステムは、なお流動的な形成途上にあり、被控 訴人内田らの行為は医師の思い上がりと評すべき面もあるが、善意に基づくと認 められること(なお、控訴人らは、手術後も被控訴人医師らが本件輸血をしたこ とを秘匿した点を非難するが、手術直後にこれを明らかにしてもすでにした輪血 の事実を覆すことはできず、その告知がMの予後に与える影響を考慮する と、やむを得ない面があり、この点を重視することはできない。)等の本件に顕 れた全事情を勘案すると、Mの被った右精神的苦痛を慰謝するには50万円 をもってするのが相当と認める。また、M及びその相続人である控訴人ら は、弁護士に本訴の追行を委任しているところ、本件の事案の内容、認容額など を考慮すると、本件と相当因果関係のある弁護士費用は、右損害認容額の1割の 5万円が相当と認められる。

五  まとめ

   以上によれば、Mの相続人である控訴人らはその相続分に応じ、被控 訴人国並 びに同内田、同冨川及び同市川(不真正連帯)に対し、民法709条、710 条、715条に基づき、控訴人茂久において27万5000円、その余の控訴人 らにおいてそれぞれ9万1666円(円未満切捨て)及びこれに対する不法行為 の後の日である平成5年7月16日(被控訴人内田については同月17日)から 支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

第六   結論

    以上の次第で、控訴人らの本件控訴は、被控訴人国、同内田、同冨川及び同 市川に対する請求につき主文第一項1の限度で理由があるから、これを認容する こととして原判決をその旨変更し、控訴人らの被控訴人長尾、同田上及び同三田 に対する請求は理由がなく、原判決は相当であるから、控訴を棄却することと し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文、同条2項、61条、64 条本文を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のと おり判決する。

東京高等裁判所第12民事部
                     裁判長裁判官  稲 葉 威 雄
                           裁判官  塩 月 秀  平
                           裁判官  橋 本 昇  二


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