市立宇和島病院・宇和島消防、NEC'96救急フォーラム vol.4, p.4-5
(10/14/96、eml 1935)
市立宇和島病院,麻酔科科長の新田先生が中心となって構築された救急医療ネット ワークが今年8月にスタートしました。このシステムはもともと災害を想定したイン ターネット上に構築されたMBone(IP Multicast Backbone)の技術を適用し,広域災害 時に円滑な救急活動を可能にするネットワークとして考えられました。 新田先生,そして市立宇和島病院と専用回線でつながっている宇和島消防,救急救 命士の山口救急係長さん,通信を担当されている消防士長の毛利さんにお話しをうか がいました(写真1、宇和島消防本部・近景)。 -救急医療ネットワークを間単にご説明下さい- <新田先生> これは大災害時に搬送患者数のアンバランスを防ぎ,トリアージによって適切な病 院へスムーズに搬送することを目的に医療関係機関をつなぐネットワークです。 これにはパソコン通信のような電話回線ではなく,デジタル専用線STネットやISDN64 を用いています。せっかくネットワークを構築するんだったらデータだけでなく,画 像や音声も通した方がより有益でないかと思い,専用線を使用してTV会議ツールのよ うにリアルタイムな画像と音声でアクセスできるようにしました(写真2、新田先生)。 -スタートしたご感想,また今後の運用についてお聞かせください- <新田先生> 8月からスタートといってもまだ実験的な要素が強く今のところ市立宇和島病院と 宇和島消防がつながっているだけですが,いずれは他の周辺医療機関ともアクセスで きるようにしていく予定です。これはWWWで情報を発することができることを前提に してネットワークを構築しています。救急時の医療ネットワークは災害時の情報を皆 さんに提供するものとして普及していければと考えています。 <山口さん> また,災害時だけでなく,平時でもどんどん活用していきたいです。まだ導入した ばかりで未知数の部分が多いですが,これから新田先生にご指導いただきながら開発 していきたいと思っています。具体的には,搬送時に提出する傷病者収容証に予後の 経過や結果を記載してメールによって送り返してもらうとか,傷病者の処置について ,後日アドバイスをいただくとか,TV会議ツールを使用しての隊員の救急教育等を検 討しています。 <毛利さん> 愛媛大学医学部が中心になって全国の救急医療に関心のある様々な職種の方々が情 報交換するグループが既にインターネットの中にありますが,私達も近いうちに登録 し参加するつもりです。また,私達の消防のホームページを作って消防・救急の業務 の紹介,応急手当の方法などを流し市民への啓蒙活動にも利用しようと考えています 。市民の方々が,ふと思いついた時に心臓マッサージのページを開いて見たりするだ けでも,応急手当の普及啓発のPRになるのではないでしょうか(写真3、毛利さん)。 -インターネットの活用は限りなく広がりますね- <山口さん> インターネットで様々な医療機関からリアルタイムに情報が入手できる事は大きな メリットですね。今までですと新聞とか一般の公共機関から発表されるニュースしか 手に入らなかったけど,最近の例ですと,O-157に関して早い段階で医療に携わって いる人から生の情報が手に入り,大変参考になりました。 O-157に限らず伝染病の患者さんに遭遇した時,隊員の感染危険など,ある程度の 情報を知っておきたいし,知る必要があります。そういった時にインターネットだと 手軽に早急に情報が得られますよね(写真4、救急救命士の山口さん)。 <毛利さん> 今までの国や県からくる縦の情報の流れから,リアルタイムに横方向から情報が行 き交うようになったのが大きな変化ですね。 -最後に抱負をお聞かせ下さい- <山口さん> ここは消防団の活動が盛んで,管内約3,100人程いる団員さんが全員応急手当 ができるように指導していきたいと思っています。地域によっては,搬送時間が長く なりますので,地元住民に何かあったときに近くの団員が応急手当を施し,救急隊に 引き継ぐといった具合に救命率を向上させていきたいと思います。 松山市から車で2時間あまり,いくつかのトンネルを抜けて開けた景色がなだらか な山裾に囲まれた宇和島海でした。走る車窓から見たほんの一瞬のことでしたが,日 本らしい穏やかさが深く記憶に残りました。その宇和島市ではマルチメディアを駆使 して病院と消防が協力して地域の医療を支えています。お話を伺った新田先生,山口 さん,毛利さんをはじめ,穏やかな優しさが感じられる宇和島市でした(図、宇和島市の救急医療ネットワーク構想)。★★宇和島消防からのお知らせです★★ 現在,宇和島消防では,救急医療関係者のために開設されているインターネット上 の「救急災害医療メーリングリスト」に参加し,E-MAIL(コンピュータ通信上での手 紙)を利用した意見情報交換を行っています。 このメーリングリストは,登録された全員に同じ内容のE-MAILを届ける事によって ,多数の人達の間で,同じ事柄について意見情報交換ができます。参者は,医師,看 護婦,救急隊員,技師,自衛隊関係者,日本赤十字救護ボランティア,民間のライフ セイバー,医療情報機器会社の開発研究員,医療系出版社編集委員,道路公団職員等 その年齢,職種は広がりを見せています。 多くの大学病院は既にインターネットに接続され,また,一般の病院などでも利用 されていることから,E-MAILを利用して救急隊が搬送した患者の症例検討などが,短 時間にまた双方の時間に捕らわれることなく可能となります。 最後に救急をはじめとする救急医療関係のアドバイスと概要を掲載いたしますので ,既にインターネットにアクセス可能な方は,一度ご覧下さい。また,救急医療に関 心のある方は「救急医療メーリングリスト」に参加し,一緒に情報交換をしてみませ んか。なお,一部文章は「東大阪市消防局東消防署 伊藤成治氏」の好意により同氏 が「近代消防」に掲載された「コンピュータ通信の救急医療への応用」より引用させ ていただきました。 ◆救急・災害医療ホームページ http://apollo.m.ehime-u.ac.jp/GHDNet/jp/ 愛媛大学医学部救急医学教室が担当しており,インターネットを通じて,市民の皆 様をはじめ医療従事者,消防関係者,災害行政坦当社の方々まで,多くの人々の役に 立つ救急・災害医療の情報を発信しているページです。 ◆全国救急医療関係者のページ http://apollo.m.ehime-u.ac.jp/GHDNet/jp/ems/ 全国の救急医療関係者のパソコン通信やインターネットによる情報発信を応援する ページです。 ◆救急医療メーリングリスト(eml) http://apollo.m.ehime-u.ac.jp/GHDNet/jp/ML/ 救急医療関係者によるメーリングリストで,このメーリングリストは医療従事者, 救急隊員,一般市民の皆様など,救急医療に興味を持つすべての人々に開放されてい ます。パソコン通信からの参加もできます。 ※宇和島地区広域事務組合消防本部を文中では「宇和島消防」とさせていただきまし た(写真5、通信風景)。