こころのケアセンターより、DVAP-TIMES vol.13
(10/11/96、eml 1906)
DVAP TIMES vol.13
発行:兵庫県精神保健協会こころのケアセンター
PHONE:078-512-2856 FAX:078-512-2870 E-MAIL:LDW04367@niftyserve.or.jp
☆DVAPとはDISASTER VICTIM ASSISTANCE PROGRAMの略です(「ディーバップ」と
発音して下さい)。
★★ボランティア研修★★
各地域のDVAPでは、ボランティアの方向けの研修会を、この秋に開催していま
す。そのひとつ、須磨DVAP主催の研修会は3回シリーズで、災害後中長期の心理
的影響、アルコール関連問題、リスニングスキルなどについての講義と議論を通
して、様々なボランティア団体の方のつながりが出来ればと言う企画です。1回
目は10月8日に行われ、地元のボランティアの方のみならず、地域型仮設の生活
支援相談員(LSA)の方も参加していただきました。援助と依存のバランスをと
る難しさ、支援する側のストレスなどについて活発な意見が出されていました。
また、阪神間では各保健所の主催、それを各DVAPが後援する形で、同様の企画
が立てられています。これは、現在各地域で活動されているボランティアの方を
主な対象として、精神保健の知識を再確認していただくこと、および連携を図る
という意図のもとに企画されたものです。これを通して今後仮設に残っていく高
齢者の方への支援を充実させたいとのねらいがあります。
★★大阪の活動★★
大阪府下の仮設住宅に対するDVAPの取り組みはこれまでも何度かご報告してき
ました。以下の文章は大阪スタッフが、国民健康保健連合会の機関誌に寄稿した
ものです。
まず被災者の方々が問題にされるのは「神戸から遠い」ということです。被災
者の方々の中には今も県内に通勤、通院している方も多く、時間と交通費も馬鹿
になりません。義援金や援助物資をもらうためにも、多くのお金と時間をかけて
神戸まで行かなければならないのです。また距離がある分、様々な情報が瞬時に
届かず、自分たちが取り残されているのではないかという不安も常に持っていま
す。
被災者の今の関心事は大阪の仮設住宅にいつまで居られるかということでしょ
う。
8月1日現在、大阪府下の仮設住宅は期限延長を決定されておらず、このままで
は来年の1月31日に退去させられるのではないかと不安を募らせています(付記:
八尾仮設自治会によれば200戸の仮設のうち平成9年1月の時点で、転居の見込み
がないものが120〜130世帯に上るという)。しかもこのように半年後の見通しが
立たない中で、次のステップを考えるのはとても困難です。多くの方々は兵庫県
を離れている分、元にいた所に戻りたいという気持ちが強くあるように思います。
被災者の中には、大阪に住んではいても住民票は移したくないという方も多く、
このために国民健康保険、医療費などの問題が起きたケースもいくつかあります。
大阪にある仮設住宅の一つの大きな特徴は、まわりが被災地ではないことです。
必然的に、地域社会の被災者に対しての取り組みは県内とは違ったものになって
います。ボランティアやケアをする側も被災者ではないことが多く、気持ちにゆ
とりがあるため、仮設住民にもその点でいい影響をもたらしているように思いま
す。また、地元のボランティアなどが提供してくださる生活情報や医療機関の情
報などは、被災者が見知らぬ土地で生活するのにとても役立っています。中でも
八尾志紀仮設住宅では、地元の複数の医療機関のスタッフを中心にグループ活動
や訪問活動が行われているのは特殊だと言えるでしょう。
その一方で、仮設住宅のまわりにとっては震災はもう「過去」のものとなって
おり、今なお震災の中に生きている被災者との間に意識のギャップがあることを
否定できません。地域社会は彼らに対しても「被災者ではあるがごく普通の住民」
として対応し、被災者側は自分たちのしんどさがわかってもらえていないという
不満を抱えることが少なくありません。
震災から1年半、今どの仮設住宅の自治会も住民も、自立へ向けての体制建て
直しの時期に来ており、実際に動き始めています。今後の私達DVAPの課題として
は、地元の行政やボランティアとの連携を深め、被災者にとって今一番必要な活
動をするということが挙げられるのではないでしょうか。また、「神戸」からの
1つの情報伝達経路としての働きを担っていくことも重要でしょう。そして今後、
自立されて仮設住宅から転居されていく被災者の方々がいる一方で、残されてい
く人々に対するケアが、ここ大阪では特に大きな課題になっていくのではないか
と思われます。
★★消防署ワークショップ★★
プロフェッショナルな救援者である消防隊員や警察官あるいは医療関係者が、
特殊な災害現場では通常と違う心身のストレスを被ることがあり、それは
criticalincident stress(CIS:異常事態ストレス) と呼ばれています。この震
災後、にわかに有名になった「デブリーフィング」という言葉は、本来はこうし
たCISへの対処法としてアメリカを中心に熟成されてきたもので、それ以外に「
デフュージングDEFUSING」などの対処法が体系的に実践されているようです。こ
うしたシステムを組織の中に持っていない日本の場合、まずCISについての知識
を救援者の間で共有し、議論を始めることが、まず必要でしょう。
DVAPでは、震災後の救援活動を通して、救援者自身が被った心身への影響につ
いて、この春に兵庫県下の消防隊員を対象とした調査を行いました。そして調査
結果を、被調査者である消防職員の方に還元する一環として、神戸市内の14ヶ所
の消防署を巡回し、CISに関するワークショップを現在開催中です。CISおよびス
トレスマネージメントの方法についての講義を行った後で、何人かの隊員の方に、
震災後の活動の体験や、その時の感情を個別にお聞きしています。その面接の中
では、1年9カ月を経た現在でも、生々しい体験が鮮明に語られることに、まず驚
かされます。また、実際に現場で救援活動にあたった方だけでなく管制や管理部
門などにたずさわっていた方も、不全感、罪悪感などを強く引きずっていること、
住民からの非難が如何に苦痛なものであったかなどの話に、聞く側もしばし圧倒
されてしまいます。
調査のみならずこうした生の声を集積することから、日本の社会に適した形で
の災害救援者の支援のあり方を考えていきたいと思っています。
★講演会のお知らせ★
アルコール関連問題について、明石保健所の主催で次のような講演会が開催さ
れます。
・「アルコール関連問題への早期介入」〜アルコール依存に対する正しい知識〜
・講師 国立療養所久里浜病院 アルコール問題予防センター長 樋口 進先生
・日時:平成8年10月20日(日) 午後1時〜3時
・場所:サンピア明石 5F (明石市相生町2-9-20)
講演の後断酒会や、アルコール関連の医療機関の先生方による対談も併せて開
催されます。詳しくは明石保健所までお問い合わせ下さい。
★編集後記★
救援者のことを「隠れた被災者」とB.ラファエルは呼んでいる。それだけ救援
者の被る精神的ストレスは大きく、「被害者と救援者は容易に『一体化』し、そ
の境界線がぼやけ、それぞれの私的生活へのインパクトは相当なものになる」の
である。今回の震災では、多くの救援者は自らも被災しながら、それぞれの責務
を果たしたわけで、そのストレスの大きさは想像を遥かに上回るものであった筈
である。消防隊員の方と話していると、言葉にできないほどの体験と、それにま
つわる激しい情緒的反応を、いまだに多くの方が抱えていることに驚く。「被災
しながら救援すること」の心理的影響について今後さらに検討していきたい。
救急・災害医療ホ−ムペ−ジへ
全国救急医療関係者のページへ
救急医療メモのページへ
gochi@hypnos.m.ehime-u.ac.jp
までご意見や情報をお寄せ下さい。