59 シンナー中毒による尿細管性アシドーシス(RTA)の合併が疑われた2症例の検計 北里大学医学部救命救急医学 上條吉人 われわれはシンナー吸入が原因と思われたRTAの2症例を経験したので報告する。 症例lは19歳の女性で15歳時よりシンナーの吸入を続けていたが数日前より全く 飲食せず頻回にシンナーを吸入し四肢の弛緩性麻痒草を来たし搬送された。症例2は 36歳の男性で数日前より頻回にシンナーを吸入していたが吸入中に希死念慮が生じ シンナーを頭からかぶり火を付け顔面から両上肢にかけ2度11%、3度9%の熟傷 を受傷し搬送された。来院時の2症例のAnionGapは軽度開大していたが、高 クロール血症性の代謝性アシドーシスを認めRTAの合併が疑われた。症例lでは高 度の低カリウム血症(1.4mEqll)を認めカリウム投与による治療を続けた。 しかし、低カリウム血症は改善されず、肺うっ血による呼吸不全および致死性不整脈 を来たし入院2日目に死亡した。症例2の血清カリウム値は正常でアシドーシスは入 院3日目に改善した。これら2症例について文献的考察を加え報告したい。60 自動車排気ガス自殺の特異事例 群馬県警察本部刑事部科学捜査研究所 阿久沢尚土 ガソリン自動車の排気ガスを引き込み、自殺をしたが、血液中一酸化炭素が少量しか 検出されなかった特異事例を報告する。河川敷で普通自動車の排気ガスを車内に引き 込み、死亡している62歳男性を発見した。死者に特異な病歴等なく、遺体の眼瞼結 膜に溢血点等認められず、特異所見もなかった。検視時に採取した心臓血の一酸化炭 素ヘモグロビン濃度(COHb〉を測定したところ、CO一Hbは僅か約4%しか検 出されなかった。使用した自動車の排気ガス分析を行ったところ、一酸化炭素は17 0ー240ppmに対し、二酸化炭素は5.4%排出されていた。再現実験を当該車 両を用いて実施したところ、開始約10分程度で酸素濃度は14%まで低下し、二酸 化炭素は4%まで上昇した。ガソリン車による排気ガス自殺は、一酸化炭素中毒によ るものが一般的であるが、本例はこれに該当しない特異な事例と認めた。
61 亜鉛フューム吸入による肺水腫の1症例 自治医科大学救急医学教室 三澤和秀 亜鉛フューム吸入による障害としてフューム熱がよく知られているが、まれに遅発性 の透過性九進型肺水腫が起こるため注意を要する。自験例を呈示し、病因を考察する 。【症例】46歳男性。作業中に亜鉛フュームを吸入した。当日は無症状で、l翌朝 から咳が出現しだが、週去に同様のエピソードがあり放置した。2日後に気分不快・ 労作時息切れがあり、3日後に当科受診した。末院時、頻呼吸なるも呼吸苦なし。両 肺に湿性ラ音を聴取。FIO20.21にてpH7.438,PCO235.8,P O248.6。胸部X線で全肺野に斑状浸潤影を認めた。人工呼吸管理およびステロ イド投与により、X線所見・血液ガスデータは徐々に改善し、8日目に抜管した。呼 吸機能検査て拘束性障害と拡散能障害が見られたが、症状改善したため13日目に退 院した。【考察】遅発性の原因として、直接的な肺胞上皮細胞障害の他に好中球・メ ディエイターの関与も考えられた。文献的考察を加えて報告する。
62 重症熟傷例におけるCO‐Hbについて 聖マリアンナ医科大学救命救急・熱傷センター 野田聖 閉鎖空間における熟傷例の場合、受傷早期よりの意譲障害は有毒ガスや一酵化炭素中 毒一を念頭に入れて治療に当たらなくてはならない。今回、火災による重症熟傷例に おける血中C0‐Hbについて検討した。対象は1992年1月より11994年1 2月までの3年間に火災による重症熟傷で当院救命救急・熱傷センターで入院治療し た症例のうち現場より直接救急隊により搬人され、来院時に血中C0‐Hbを測定し得 た男性6例、女性6例の合計12例である。平均年齢66.1±16.3歳、合併し た熟傷の受傷面積は平均31.4±30.1%、受傷から来院までの時聞は平均51 .7±24.7分であった。来院時の動脈血中C0‐Hb値は、1.9%から44.3 %までの平均15.l±13.7%であった。死亡例は4例で全例意識障害を呈し、う ちC0‐Hb値が10%以上の症例が3例みられた。全体でみるとCO一Hbが10%以 上の症例は7例認められた。CO-Hbと重症度との関連が示唆された。
63 意識障害を残した一酸化炭素中毒が疑われた一症例 愛知医科大学麻酔・救急医学教室 坪井博 急性一酸化炭素中毒,低酸素血症,熱中症が疑われ対処するも意識障害が残った一症 例を経験したので報告する。【症例】29歳,女性,1996年1月2日午後6時頃 ,自室にて右側臥位で倒れていた所を発見され,呼びかけに対し反応無い為,救急隊 要請され,当院救命救急センターlcuに搬送された。Icu入室時所見では,意識 レベル300(Jcs),左頸部,左腰部,右膝蓋部にn度熱傷創,高度の代謝性ア シドーシスを認めた。検査所見では血清K,UN,Cre,G0T,GPT,LDH ,CPK,AMY,WBC等の異常高値,C0Hbは0.6%であったが頭部CT所 見では淡蒼球領域に1ow densi一tyを認めた。気管内挿管後,胃洗浄,D HP,血漿交換,高気圧酸素療法等を施行し人工呼吸からの離脱が出来,意識レベル 200程度の改善が得られたので,気管切開後一般病棟へ退室した。【考察】気密性 の高い室内でガスストーブ不完全燃焼による急性一酸化炭素中毒に意識障害を来たし ,室温の上昇により熱中症,熱傷を呈したものと推測される。
64 エピクロルヒドリン暴露時のラット組織内濃度測定法の検討 東邦大学医学部法医学教室 伊藤敦子 エポキシ樹脂の主原料であるEpichlorohydrin(ECH)は、多面的 に毒性を考えなければならない物質であるが、とりわけ腎での強い毒性が考えられ、 その発生機序について報告してぎた。申毒時の体内濃度に関しては、体内分解が速い ためその証明は難しいとされ、血申濃度の測定文献があるのみで、組織内濃度に関す る詳細な報告は少ない。今回、我々はラット体内に取り込まれたECH濃度の測定方 法の検討と、体内代謝について考察した結果、若干の知見を得たので報告する。除蛋 白1質の方法、抽出溶媒の種類とPH、内部標.準参考物の選択等を検討したところ 、ガスクロマトグラフィにて組織内に取り込まれたECH濃度の測定が可能となり、 回収率も満足すべき結果であった。各組織内濃度は暴露後15分程度で測定不司能と なるが、脳内濃度は血液、尿と同様に比較的永く測定可能であった。またECHの極 めて速い体内分解に、GSHの関与が示唆される結果が得られた。