14 アミノグリコシド系抗生物質の筋注により筋弛緩作用を呈した一例 東京医科大学病院救急医療センター 金井尚之 アミノグリコシド系抗生物質の麻酔中の神経・筋のブロックによる筋弛緩作用はよく 知られている。しかし単独で使用し筋弛緩作用が出現することは極めて稀である。今 回ribostamycin筋注により筋弛緩作用が出現した症例を経験した。症例 は38歳の女性で他院で膀胱炎に対しribostamycinlgを筋注後,全身 の脱力が出現,搬送された。当院来院時意識清明で血圧も安定していたが,脱力感著 明で全く動けず,呼吸も減弱していた。血中濃度を低下させる目的で血液透析を施行 後,症状は劇的に改善した。またneostigmine静注によりテタヌス刺激反 応に改善がみられた。後目のリンパ球幼弱化反応・皮膚反応でアナフイラキシーは否 定的であり,基礎疾患に重症筋無力症もなかった。アミノグリコシド系抗生物質は皮 内テストがいらないため外来で安易に使用されることが多い。しかし一般的なアレル ギー以外に筋弛緩作用の高[j作用も念頭において使用には注意をすべきである。15 蛋自結合率の高い薬物除去における血液吸着法の有用性ーフェニトインの中毒症 例を通して一 熊本赤十宇病院薬剤部 川崎知世 【はじめに】血液吸着法は薬物中毒時において分子量10000以下の薬物を除去す ることができる非常に有効な手段である。しかし,血中の薬物はそれぞれ固有の割合 で血漿申蛋自(分子量:40000以上)と結合しているため,‐般に蛋自結合率が 高い薬物の除去においては,血液吸着法は無効であると言われている。【症例】蛋自 結合率が90%であるフェニトインを大量服用(5g)した患者において血液吸及着 を行ったところ,40.0μg/mlであった血漿中フェニトイン総濃度が3時間吸 着後には16.2μg/mlまで低下し,その半減期は3.9時間であった。また, 吸着中のフェニトインの蛋白結合率および血漿蛋自濃度はほぼ一定であった。【考察 】薬物と蛋自との結合は平衡関係であるためナ血液吸着申においては,蛋自と結合し ていない(遊離形)フェニトイン10%が除去されると,体内に残存する結合形フェ ニトインからまた10%が遊離して、それが除去されるといったように、遂次的に薬 物が吸着除去されていったことが推察される。したがって,今回の結果より蛋白結合 率の高い薬物の中毒時における血L液吸着法の有用性が示唆された。
16 低ChE血症を呈し、診断に苦慮した臭化ジスチグミン中毒の一例 総合会津中央病院救命救急センター 弥富俊太郎 抗コリンエステラーゼ(ChE)剤である臭牝ジスチグミン(ウブレチド)を投与さ れ有機リン申毒様の症状を呈した症例を経験し、診断に苦慮したので報告する。症例 は83歳、男性。意識障害と呼吸困難を主訴に来院した。初診時、意識レベルI一3 (JCS)。瞳童孔は両側とも縮瞳童し、対光反射(一)。呼吸は浅く頻呼吸で低酸 素血症を呈していた。ChE値は異常低値を示すも有機リン系薬物の服用は認めなか ったり経過観察にて意識、瞳孔、呼吸状態は改善、ChE値も次第に回複した。患者 は神経因性膀胱の診断で臭牝ジスチグミンを処方されており、諸症状はその副作用と して出現したものと考えられた。臭ィヒジスチグミン中毒の本邦報告例は数例のみで 、いずれも肝・腎機能低下、脱水等による血申濃度の上昇が原因と考察されているが 、本例は肝・腎機能に異常はなく著明な脱水も認めなかった。
17 総合感冒薬服用にともなう急性肝不全の1例 大阪大学救急医学教室 中田康城 アセトアミノフェンの大量服用では、肝壊死の発生が知られている。我々は、アセト アミノフェン含有感冒薬を服用後、アレルギー機序によって肝不全を生した症例を経 験した。中毒診療上重要と考えられるので報告する。[症例]68才、男性。劇症肝 炎の診断にて近医より当院紹召介となった。来院時、GPT2884U/1、GOT 2420U/l、PT25.4j%、肝干性昏睡I度の肝不全であった。血漿交換を 含む集中治療の後、肝機能は改善した。肝不全の原因として、総合感言薬(ベンザエ ースQ)による急性中毒が疑われた。2ケ月後、ベンザエースの再服用(通常量〉に より、同様の症状を呈した。このため、アレルギ機序による薬剤性の肝障害を疑い、 リンパ球刺激試験を施行したところ、ベンザエースに対し、陽性を示し、肝障害の原 因と診断しえた。急性中毒が疑われる症例においても、アレルギ機序による臓器障害 に注意すべきである。
18 リドカイン急速静注による死亡例の臓器分布 北医療大、薬、中毒代謝 生形和幸 看護婦である娘が実母に安楽死の目的で点滴用リドカイン(l0%、100mg/ml )10mlを静脈内投与し、中毒死させた事例の被害者の組織内濃度を測定したとこ ろ、肝臓中濃度が他臓器に比べ著しく低下していた。リドカインオーバードースによ る死亡例がいくつか報告されているが、臓器分布に大きな差は見られていない。この 理由として静注リドカインが心臓に達した段階で心停止が起こり、完全に薬物が分布 する前に血流が止まったことが考えられる。そこでリドカインの主要代謝物MEGX の分析と、動物実験を行った。MEGXは肝臓中にのみわずかに検出され、早い時期 の死亡が考えられた。一方、ラットにリドカインおよび塩化カリウムを同時に投与、 心停止させ、組織内濃度を測定したところ、被害者同様、肝臓中濃度は他臓器に比べ 低い値を示した。これらの結果から、現事例の死因はリドカインにより急性の心停止 によるものと考えられた。
19 誤嚥性肺炎に膿胸を合併した急性リスロンS中毒の一例 東京大学附属病院救急部 清田和也 リスロンS(ブロモワレリル尿素、BVU)は催眼鎮静薬のなかでは最も強力で、重 篤な意識障害をきたす。我々は本学会において薬局で容易に人手可能であるOTC( over‐the‐counter)薬としての間題点を指摘してきた。今回重篤な 意識障害に誤嚥性肺炎、膿胸を合併した一例を経験したので報告する。症例は29歳 女性で深昏睡、右側臥位で発見された。約9時間前にリスロンS20g、ドラマミン A(ジメンヒドリナート)5.4gを服用したと推定された。来院時より胸写上右肺 野に誤嚥性肺炎による陰影を認めた。来院時のBVU血中:濃度は117.3〆gl ml(0.53mEqlL)であった。強制利尿により意識障害は改善した†s、呼 吸不全は遷延し第7病日頃より右胸腔内に液体貯溜を来たし、ドレナージにより膿胸 と診断した。ドレーンより胸腔内の洗浄を行い、気管切開も施行したところ、急速に 軽快した。深昏睡垂状態で長時間同一体位で放置され、誤嚥性肺炎を含併したことに 起因すると考えた.