毒キノコによる中毒

(980126 neweml-1396, 970913 neweml-0016)


目 次

野生キノコ、食べるの待って
「食用」と「毒」、見た目はそっくり
(朝日新聞 970914、日曜版)
シリーズ・もっと「知」りたい:毒キノコ(朝日新聞大阪版 1997年9月)
  ◆1 多い不用心な事故
  ◆2 多彩な中毒症状
  ◆3 体張り治療法開発
  ◆4 吐かせ、すぐ病院へ
  ◆5 仲良く付き合いを
◎論文要約 毒キノコによる中毒(中毒研究 7:123, 1994)


 本ペ−ジの内容について著作権上の問題がありましたら、web担当者が責任を負います。不都合な点がありましたら改めますので、ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。

野生キノコ、食べるの待って
「食用」と「毒」、見た目はそっくり

(970914、朝日新聞日曜版)


 秋の味覚、キノコの季節がやってきた。店頭で売っているのは、大半が人工栽培の ものだ。それもおいしいが、天然キノコの野趣あふれる味は、また格別だ。しかし、 一見、とてもおいしそうに見えて実は猛毒、というキノコは多い。昨年は、百三十七 人が食中毒にかかり、うち一人が死亡した。症状も様々だ。食用と毒キノコの見極め は難しく、専門家は「決して素人判断で食べないように」と注意を呼びかけている。

☆     ☆     ☆     ☆     ☆

 「赤や黄色など、派手な色は毒キノコ」「柄が縦に裂けるキノコは食べられる」― ―。毒キノコと食用キノコの見分け方とされる俗説はいくつもある。しかし、専門家 によるとどれも間違いだという。赤いかさが鮮やかなタマゴタケやベニヤマタケ、紫 色のウラムラサキなど、色も美しく、おいしいキノコがある。

 滋賀大学教育学部の横山和正・助教授(生物学)によると、日本のキノコは五、六 千種類あると推定されているが、名前が付いているのは千五百―二千種。そのうち、 毒キノコは二十―三十種類で、一本食べただけで死んでしまう猛毒キノコが四、五種 類ある。横山助教授は「食べられるか、毒かの簡単な見分け方はありません」と指摘 する。

 見た目はおいしいキノコにそっくりだが、実は毒、というキノコは多い(表)。  兵庫医科大の吉永和正講師(災害・救急医学)は「キノコ中毒の診断、治療はとて も難しい」と話す。症状がさまざまで、毒成分が特定されていないキノコも多いから だ。また、潜伏期が長く、中には症状が出るまでに数日かかるものもある。「キノコ を食べた」という情報がないと、診断がつかず、手遅れになることもあるという。

 日本のキノコ中毒の代表格は、野生のシイタケにそっくりなツキヨタケ(写真(2) )だ。激しい下痢などを起こすが、死ぬことはない。猛毒を持ち致死率五―九割のシ ロタマゴテングタケやドクツルタケ(写真(4))は、食べてから六―二十四時間で 水のような下痢が大量に出て、三、四日後に黄だんなど肝臓障害の症状が現れる。コ レラや劇症肝炎と、症状がよく似ている。

 キノコだけ食べた時には異常は起きないが、アルコールと一緒になると中毒を引き 起こす種類もある。アルコールを飲んだ時に、体内にできるアセトアルデヒドが分解 できなくなる成分が含まれており、二日酔いのような症状がでる。ワライタケやヒカ ゲタケは、食べてから三十分から一時間たつと、気分が高揚したり幻覚を見たりする。  キノコを食べて、調子がおかしくなったらどうすればいいか。吉永講師によると、 まず吐かせて、できるだけ早く病院に運ぶ。食べ残しがあれば、必ず一緒に持ってい くこと、という。

 厚生省の食中毒統計によると、中毒患者は昨年、三十五件、百三十七人だった。九 三年には、名古屋で親子三人が公園で採ったキノコを食べ、四歳の男の子と母親が死 亡した。

 大阪大薬学部付属薬用植物園の米田該典(かいすけ)助教授は、野生キノコは食べ ないのが一番という。「どうしても食べたいなら、しっかりしたリーダーがいる野外 観察会などで挑戦しましょう」

 <区別が難しいキノコ>

  
食用主な症状
シイタケ
ヒラタケ(1)
ツキヨタケ(2)下痢
シロツルタケ(3)シロタマゴテングタケ
ドクツルタケ(4)
激しい下痢
肝障害
ホンシメジ(5)
ウラベニホテイシメジ
クサウラベニタケ
イッポンシメジ(6)
おう吐・下痢
ナメコ
ナラタケ
ヒカゲシビレタケしびれ・まひ

  【写真説明】

 表の数字は写真の番号。写真はいずれも伊沢正名氏撮影(山と渓谷社「日本のきの こ」より)


◆毒キノコ:1 多い不用心な事故

(970922、朝日新聞夕刊)


 「友人が『天然ヒラタケだ。すき焼きだ』とやってきた。さっそく食べようと準備 して、念のため、暗室で見ると、青白く光っている! 危うく難を逃れました」。四 国のある男性の経験だ。ヒラタケそっくりのこのキノコ。実は、毒キノコのツキヨタ ケだ。食べると下痢をして、物が青く見える症状が出る。

 毒キノコで中毒する人が後をたたない。大阪大薬学部付属薬用植物園の米田該典 (かいすけ)助教授は「昔は食糧事情が悪くて、食べる例が多かったのですが、最近 はアウトドアブームのせいか、キノコや山菜を不用心に食べる人が多いようです」と いう。

 米田助教授のもとには、秋になると「こんなキノコを採ったんですが、食べられま すか」という電話が殺到する。「電話で特徴を聞いても鑑別できないから、食べるの はやめときなさいと助言しています」。でも「どうしたら毒が抜けますか」という質 問が必ず続くという。

 キノコの毒は抜けない。水に溶けず、熱にも強い毒がほとんどだ。

 次回は、中毒症状。

(中村通子)


◆毒キノコ:2 多彩な中毒症状

(970924、朝日新聞夕刊)


   キノコ中毒の症状はさまざまだ。

 幻覚を見る。気分が高ぶる。汗が出る。下痢をする。手足がしびれる。手足の先な どが激しく痛む。胸がどきどきする。そして、一本食べるだけで死んでしまうものも ある。

 キノコの種類によっても症状は違うし、同じキノコを食べても、平気な人とあたる 人に分かれることがある。中毒を起こすことは分かっていても、毒成分が特定されて いないものも多い。

 食べなくても中毒するキノコがある。日本各地に生えるシャグマアミガサタケは、 なべで煮て、蒸気を吸い込むだけで腹痛やけいれんを起こす。ひどいときには肝臓や 腎臓がやられ、死ぬことがある。発がん性もあるといわれている。

 滋賀大教育学部の横山和正・助教授は「毒キノコの見分け方に、法則はありません」 という。専門家でも、間違えることがある。横山助教授も、自分で採ってきたキノコ で、あたったことがあるそうだ。市販の瓶詰に毒キノコがまじっていて、中毒を起こ した例もある。

 次回は、中毒の治療法。


◆毒キノコ:3 体張り治療法開発

  (970929、朝日新聞夕刊


   毒キノコ中毒に、特効薬はない。下痢や腹痛など、症状に応じた治療が中心だが、 時には、一刻を争うこともある。

 猛毒キノコの代表、タマゴテングタケは、一本食べるだけで死ぬことがある。コレ ラに似た激しい下痢と、劇症肝炎のような症状が特徴だ。

 フランスの医師、バスチアン氏は、自分の体で実験して、このキノコに対する治療 法を開発した。

 一九七一年のある日、バスチアン氏はタマゴテングタケを一本食べ、何もしなかっ た。すると、激しい肝炎が起きた。三年後、四本食べてみた。そして、食後すぐ、自 分が考え出した治療法を開始。すると、下痢はしたが、肝炎は起きなかった。

 バスチアン氏の治療法は、ビタミンCの注射や消毒薬の服用、ニンジンを食べて発 酵乳を飲むこと、などを組み合わせたもの。

 滋賀大教育学部の横山和正・助教授によると、フランスでは、この治療法が各地の 毒物センターで使われており、中毒した五十人のうち、四十六人が助かったという報 告がある。

 次回も、治療法と対策。


◆毒キノコ:4 吐かせ、すぐ病院へ

(970930、朝日新聞夕刊)
 食べた人を一カ月近くにわたって苦しめるキノコがある。ドクササコだ。食べると、 手や足、体の先端を、焼け火ばしで刺されるような激痛が襲う。

 ヤブシメジともいうこのキノコは、症状の激しさに、ヤケドキンと呼ぶ地方もある。 竹やぶやコナラ林に生える。一九八一年から八六年の六年間に、このキノコで計十八 人が死んだ。

 滋賀大教育学部の横山和正・助教授によると、昔の人は、ドクササコに中毒したら、 痛む部分を冷たい水に浸し、痛みをこらえるしかなかった。長い時間水に入れっぱな しにするため、肉がふやけ、しばしば肉が取れて骨があらわになる。老人や子供は、 耐え切れず死ぬことだってあったそうだ。

 今でも治療薬はない。だが、対策はある。兵庫医大救急部の吉永和正講師は、この キノコの中毒には、持続的に痛み止めを注入する治療法が効くという。

 怪しいキノコを食べてしまったら、どうすればいいか。

 吉永講師は「吐かせて、とにかく急いで病院へ。あれば、食べ残しのキノコを持っ てきて」という。種類が分かれば、早く適切な治療ができる。

 次回は、キノコと親しむ。


◆毒キノコ:5 仲良く付き合いを

(971001、朝日新聞夕刊)


 毒キノコは怖いが、つきあい方を間違えなければ、楽しく親しめる。

 大阪大薬学部付属薬用植物園の米田該典(かいすけ)助教授は、野のものを気軽に 食べるのが間違いだという。「野草で中毒した人に食べた理由を聞くと『うまそうに みえた』といいます。グルメと命は引き換えられないと思うのですが」

 キノコ好きは多い。各地に愛好団体があり、秋は観察会などが目白押しだ。

 兵庫県西宮市には、全国でも珍しい自治体主催のキノコクラブがある。約四十人が 毎月一回集まり、専門家の話を聞いたり、人工栽培に挑戦したりする。九月には、滋 賀大教育学部の横山和正・助教授の指導で、地元キノコを採集した。毒キノコも結構 ある。「野生キノコの楽しさは、食べるだけではありません。美しい姿の観察やスケ ッチを通じてキノコと親しんで下さい」。横山助教授は、キノコの楽しさや怖さがぎ っしり詰まったホームページを開いている。アドレスは http://www.sue.shiga-u.ac.jp/kinoko/kinoko0.htm

 次回から「肥満」。


毒キノコによる中毒

(長野県立木曽病院 山浦由郎先生、中毒研究 7:123, 1994)


 本資料は愛媛大学医学部麻酔・蘇生学教室の抄読会の資料として作成されたものです(文責:愛媛大学医学部救急医学 越智元郎)。

はじめに

 本邦のキノコ中毒ぱ自然食ブームやグルメ指向を反映して増加の傾向。年間の中毒患者数 約数百人、死亡者2−3人。

毒キノコの鑑別法

 分類学的および形態学的に決め手となる鑑別法はない。より客観的な方法として呈色反応や電気泳動法による種判別法が考案されている。

キノコ中毒の臨床症状による分類と治療

1、【コレラ様症状型】:ドクツルタケ、シロタマゴテングタケ

病因:アマニタトキシン(環状ペブチド)が蛋自合成を阻害、組織壊死

臨床経過:

#初期(6-10時間)―腹部疝痛、下痢、低血糖、肝細胞壊死、電解質異常
#中期(10-24時問)―水様性下痢、脱水、acidosis、肝腎障害、止血凝固障害
#末期(24時問以上)―黄痘、腎不全、肝性脳症

治療:

イ、胃腸、血液、肝細胞からのトキシン吸収防止。血液浄化法、血漿交換等。
ロ、対症療法→輸液、電解質補正、肝保護剤など
ハ、解毒剤 silibinin(トキシンの肝細胞への取込阻害)、aucubin

2、【神経症状型】

A. 副交感神経刺激型:オオキヌハダトマヤタケ、キヌハダトマヤタケ

病因:ムスカリンなどの4級アンモニウム塩が副交感神経節前線維を刺激

症状:摂取10-30分後に発汗、流漣、流涙、蠕動尤進、錯乱、幻覚、呼吸困難

治療:硫酸アトロビン静注

B. 交感神経刺激型:テングタケ、ペニテングタケ

病因:イソキサゾール化合物がGABAreceptorに結合し抑制

症状:摂取30−60分後に興奮、流誕、散瞳または縮瞳、幻覚・線維束性痙撃

治療:ネオスチグミン、抗痙撃薬。ムスカリン様作用が優位ならアトロビン

C. 中枢神経麻痺型(幻覚剤様中毒):シビレタケ、ワライタケ

病因:トリプタミン誘導体が中枢神経系のセロトニンと拮抗

症状:摂取30−60分後に色彩幻覚、めまい、運動失調、酩酊、錯乱、昏睡

治療:数〜10時間の経過観察、クロルプロマジン、抗痙撃薬

D. 末梢血管運動神経刺激型(肢端紅痛症型):ドクササコ

病因:不明。

症状:摂取数時間後から不快感、嘔気、しびれ。1〜数日後から四肢末端の発赤、腫脹、激痛

治療:急性期ぱDHP、HD。硬膜外ブロック。

E. ジスルフィラム(アンタビュース)型:ホテイシメジ、ヒトヨタケ

病因:Corpineがアルデヒド・デヒドロゲナーゼ活性を阻害

症状:摂取後4−5日間、飲酒に伴い顔面等の紅潮、頭痛、めまい、意識障害

治療:頻脈・不整脈にプロブラノロール内服。輸液、ビタミンB剤

3、【消化器障害型】:ツキヨタケ、クサウラペニタケ

病因:不明。

症状:摂取30-120分以内に悪心、嘔吐、下痢

治療:輸液、電解質補正


■救急・災害医療ホ−ムペ−ジ全国救急医療関係者のページ救急医療メモ