(4)愛媛県防災航空隊の活動紹介
演 者 愛媛県防災航空隊 佐々木 英 二
まず、活動紹介という題をいただいたのですが、何をお話ししたらよいか分からなかったのですが、時間に制限もありますので簡単に述べたいと思います。
我々愛媛県消防防災航空隊は、平成8年4月に発足しました。消防本部より8名派遣され、松山市、宇和島地区、今治地区、大洲地区、新居浜市、宇摩広域、伊予地区、越智郡島部消防から1名ずつの8名で結成されました。半年間の訓練を受け、平成8年の10月に運行を開始しました。
ヘリコプターの名称は「えひめヘリ21」、これは公募によって付けられた名前です。機種名は川崎式BK117C−1型です。ヘリに装備されているものは、消火用バケット最大800リットル、ヘリコプター電送システム、各救助器具、減圧式担架、サバイバルスリング等、それと救急用資機材は救急救命士はまだ派遣されていませんが、高規格救急車に近い機材を装備しています。
航空隊の組織としましては、愛媛県交通消防課の出先機関で、松山空港に防災航空事務所を設けまして、所長と隊長1名、副隊長2名、隊員5名の計9名で活動しています。運行については愛媛航空KKに委託をしていまして、パイロット3名、整備士2名で運行しています。
緊急連絡網は、各市町村、各消防本部から防災航空事務所または交通消防課に要請があれば交通消防課長の出動可否の決定で、事務所から要請先へ出動の可否を連絡します。決定権は消防課長です。要請があれば同時進行でヘリの出動準備も行います。パイロット、整備士は天候等の判断を行い、フライとプランを松山空港へ提出し、最終決定の出動指令を待ちます。時間は出動までに約20分はみて下さい。八幡浜市であればヘリで出動してから15分で到着します。ある事例では搬送先が愛大でありましたので、東温消防まで約20分ですから時間は50分かかりますが、実際に飛んでいる時間は約30分です。救急車よりはヘリの方が速いと思います。
航空隊発足から現在までの活動は下記のとおりです。
航空隊発足 平成8年4月1日
運航開始 平成8年10月1日
出動 番号 | 年 月 日 | 種 別 | 出 動 場 所 | ヘ リ ポ ー ト | 備 考 |
1 | 8年4月5日 | 山林火災 | 西条市船屋、焼損面積 80ha | 西条市ひうち第1号埋立地 西条市総合運動公園 | 地 上支援。香川県ヘリ、広島市ヘリ、自衛隊ヘリ |
2 | 8年7月31日 | 山林火災 | 東予市旦之上 大黒山、 焼損面積 9ha | 東予市運動公園 | 地上支援。 香川県ヘリ、島根県ヘリ、北九州市ヘリ |
3 | 8年11月18日 | 救 急 | 高知県土佐清水市(土佐清水市消防本部) → 高知県中央病院(南国市消防本部) | 土佐清水市以布利ヘリポート → 高知空港 | 膠原病、33才女 |
4 | 8年12月2日 | 救 急 | 大阪市総合医療センター→ 愛大医学部(東温消防本部) | 大阪市総合医療センター屋上ヘリポート → 東温消防本部前河川敷 ) | 低酸素性脳症、23才男 |
5 | 9年1月13日 | 山林火災 | 高知県安芸市妙見山、焼損面積 5ha | 安芸中学校野球場 | 自治 省(安芸市消防本部)から依頼 |
6 | 9年1月21日 | 山林火災 | 広島県安芸郡江田島古用 古鷹山、焼損面積 45ha | 海上自衛隊第11訓練指導隊ヘリポート | 自治 省(江能広域消防本部)から依頼 |
7 | 9年1月25日 | 捜索(海上) | 今治市〜川之江市 | 着陸無し | 宇摩広域消防本部より依頼 |
8 | 9年2月13日 | 救助(山岳) | 笹ヶ峰丸山荘付近 | 西条市総合運動公園 | 山岳救助隊員搬送及びホイストウィンチによる引き上げ作業 |
9 | 9年3月3日 | 救 急 | 周産期センター(松山市消防) → 岡山大医学部(岡山市消防) | 松山空港 → 岡山空港 | 生 後2日乳児 |
10 | 9年3月7日 | 山林火災 | 越智郡上浦町井口立石山、焼損面積 13ha | 上浦町臨時ヘリポート | 越 智郡島部消防から依頼 |
11 | 9年3月8日 | 山林火災 | 広島県豊田郡安浦町子之浦 、焼損面積 222ha | 実成公園ヘリポート | 自 治省(呉市消防本部) |
12 | 9年3月9日 | 山林火災 | 香川県白鳥町、 焼損面積 480ha | たばこ乾燥場臨時ヘリポート | 自治省(大川広域消防本部) |
13 | 9年4月17日 | 救 急 | 土屋病院(広島市消防) → 国立循環器センター(箕面市消防) | 松山空港 → 広島空港 → 箕面市第2総合運動場 | 大動脈編弁不全、12才女 |
14 | 9年4月25日 | 救 急 | 県立南宇和病院 (南宇和消防本部) → 国立療養所愛媛院 (東温消防本部) | 僧都川河川敷 → 東温消防本部前河川敷 | 心筋梗塞、 39才男 |
15 | 9年7月14日 | 救 急 | 周産期センター(松山市消防署) → 岡山附属病院小児科(岡山市消防) | 松山空港 → 岡山空港 | 肺動脈等大動脈変換症、0才男 |
16 | 9年7月18日 | 救 急 | 県立南宇和病院 (南宇和消防) → 愛大医学部 (東温消防本部) | 僧都川河川敷 → 東温消防本部前河川敷 | 腹部大動脈瘤、70才男 |
17 | 9年11月3日 | 山林火災 | 高知県土佐郡本川村 黒滝山、焼損面積 3ha | 松枝臨時ヘリポート | 自治省(嶺北消防本部) |
2件目まではまだヘリが導入されていませんので、県外の応援を得ました。3件目からは実際の活動が行われました。現在まで救急が7件で山林火災が8件です。捜索と救助が各1件です。
山林火災ですが今年3日続けてあり、3月7日に越智郡島部消防さん、翌日の8日に広島県豊田郡で222ヘクタール、9日に香川県白鳥町で480ヘクタールで県内では考えられないような大火災でした。
救急に関しましては、初めて行ったのが高知県の33歳の患者さんで、高知県ヘリが点検整備のため応援協定により出動しました。2件目は大阪から愛大医学部へ搬送しました。これは大阪に入院している患者さんを地元へ連れて帰った事例です。大阪の総合医療センターは屋上にヘリポートがありますので難無く着陸できて、愛大は東温消防横の河川敷に着陸しました。あとは松山消防さんで、周産期センターから岡山医大へ搬送、13件目は広島市のヘリが点検整備中で、広島県は広島県防災と広島市消防局に各1台ありますが2台とも都合が悪いということで要請がありました。
愛媛県には病院のヘリポートがありません。だからなるべく病院の近くにヘリポートを構えて、あとは消防機関に依頼し病院まで搬送することになります。できれば近い将来病院にヘリポートが出来ればと思っています。
最後になりますが、ヘリコプターは点検整備が厳しく、1年のうち10カ月程しか運行が出来ませんのでその点お許しをいただきます。2機あればよいのでしょうが予算がありません。できれば松山市さんあたりが導入していただけたらと思いますが高額なものですし、今の1機を有効に活用していただいたらと思います。
(顧問 木 下 研 一)
臓器移植が可能になりまして、試算としては年間5〜10例だといわれていますので、今すぐとは思いませんが可能としてはありますので、そうなると臓器を取り出すのは今のところ愛大だけですが、愛大へ運ぶときに使う話がされているのかどうかという事と、もう一つはヘリポートを整備するためにヘリポートが何トンの物が必要かお教えいただきたい。
(防災航空隊 佐々木 英 二)
一点目は、いま県議会でも取り上げられています。二点目はヘリポートはヘリの最大重量の1.3倍ですから、県のヘリが3.35トンですから約5トンくらいが必要です。今後大きいヘリが降りる可能性がありますので、10トン、15トンも必要になります。
(顧問 越 智 元 郎)
救急用のヘリで使用する場合、患者さんは何人まで乗れますか。それと患者さんに同行された方はどのような方ですか。
(防災航空隊 佐々木 英 二)
患者さんは2名までです、ストレッチャーが2台入ります。同行はドクターと家族の方で2名です。
(顧問 越 智 元 郎)
災害機関病院は県病院が指定されていますが、災害時は道路の通行が出来ないと思いますが離着陸はどうですか。
(防災航空隊 佐々木 英 二)
県病院は河川敷が可能ですし、松山空港のどちらかになります。
演 題 「CPRについて」
講 師 市立宇和島病院
麻酔科科長 新 田 賢 治 先生
今回私に話をさせていただく時間をいただきましてありがとうございました。私の専門は麻酔科でございますが、私の恩師の新井達潤教授はCPRの専門家でございます。私が勉強していたのが17・8年も前になります。今回「CPRについて」のお話しをしますが、普通のことは皆さんの方がよくご存じですので、あまり取り上げられていないようなお話しを3つ程させていただきます。
初めに、いま盛んに行われています心マッサージという状況に至るようになった歴史について、まずしゃべらせていただきます。
皆さん盛んにCPA、CPAと言われますが、いま用語が非常に変わって私も一瞬分からなくて戸惑ってしまうことがありました。これを機会に用語の勉強をしまして、私の勉強の復習ということでお話しをさせていただき、それから最近の話題で皆さんコンビチューブをお使いになっておられると思いますが、コンビチューブと同じようなエアーウェイが発売されましたので、紹介をさせていただきます。
(スライドにて説明)
まず蘇生の歴史ですが、溺れた人とか死んだ人が生き返るという問題は有史以来人類誰もが興味をもって取り組まれて来た話題です。聖書の中に予言者Elishaという人が幼子に口移しで息を吹き込んで蘇生に成功した、というのがあります。これが呼気吹き込み式人工呼吸の最初です。それ以来息をしなくなった人の肺を膨らますのに、呼気吹き込み式人工呼吸法が実施されていたと考えられます。しかしながらギリシャの医師Galen(AD129-200)が動物の解剖をたくさんして、その結果から人体の構造も家畜と同じで、人も開胸すると必ず死ぬ。と考えられまして、この考えが13世紀に渡って信じられるようになりました。
このGalenの考えをはじめて否定したのは解剖学者のAndres Wesele Vesaliusという人で1543年実験用動物に気管切開後の間欠的陽圧呼吸の実験をし、動物は開胸しても人工呼吸をすれば動物は死なない。生きるということを初めて知りました。
その後コロンブスがアメリカ大陸発見後、北米インディアンが行っていた煙草の煙を直腸内に吹き込み、呼吸や循環を刺激する蘇生法がヨーロッパに伝わりました。このGloverによる成功例が報告されたのが1766年。Monsieur Janinが2例の蘇生に成功したのが1774年。19世紀外科医BenjaminBrodieがこの方法で健康な動物が死ぬことを示してそれから中止されました。
1767年オランダのアムステルダムで溺水者を救う会「人類愛協会」が発足されました。協会の目的は正しい救急法の教育と迷信の打破でありました。迷信というのは死者にさわると祟りがあるといわれていた事で、その迷信を打破することを目的に活動を始めました。また死者を樽に乗せ転がすのは無意味であり、呼気吹き込み式人工呼吸が良いという教育もされた。また、成功したかしないかに関わらずそれに要した費用は全て倍償するという事をさせた。そうする事でこの活動はヨーロッパ各国で評価、支援され救命率が上がりました。
その後、1774年Joseph Priestleyが酸素の発見をしたことにより、ふいごによる人工呼吸法がされるようになりました。普通の空気を送る人工呼吸よりもふいごで酸素を送った方がたくさん与えられるのではないかと考えられるようになり、呼気吹き込み式は廃れてしまいました。しばらくふいごによる人工呼吸法がされましたが、1827年Leroyd Etoilleがふいごの誤った使用により緊張性気胸が起こることを発見し、ふいごによる人工呼吸法は中止されました。
その後用手法人工呼吸が普及しまして、HaII,Silvester,Schafar,Nielsonという風に、これは結構繁雑な蘇生法ですが、馬乗りになって1分間に13回とか14回を腰から上を押すというような方法です。また1874年にHeibergが下顎挙上方を提唱しました。このように聖書の時代は呼気吹き込み式から用手式人工呼吸への移り変わりでありまして、現代皆さんが行っている呼気吹き込み式人工呼吸法が適切な換気が出来、無理なく1人でやれるのではないかと広めたのが1958年Peter Saferです。
次に心マッサージですがその歴史を少しお話しします。心マッサージが注目されましたのは、今まで人工呼吸だけで、心臓に直接力を加えることはしなかった様です。本格的な研究が始まりましたのは、全身麻酔が始められ普及する様になって麻酔の合併症として心停止が起こることが当時はよくあったそうです。そういう事がよく見られるという事で、色々な方法が研究されました。1628年William Harveyという人が鳩で血管系の解剖の研究中に止まった心臓の拍動を用手式刺激によって再開させる事が出来ました。非開胸式心マッサージは1858年にJanos Balassaが18才の女性に行い成功しまし。1874年にはMoritz Schiffが犬での開胸式心マッサージで回復に成功しました。また、1901年にはKristian Igelsudクロロホルムの全身麻酔で開胸式心マッサージを女性にしたところ成功しました。我々が現在行っています心マッサージは、1960年にKouwenhobenが非開胸式心マッサージを再導入し、多くの症例で効果的に適応出来ることを示し、この方法はほとんどの状況下で行え外科的な経験の無い人々でも行えることから、蘇生の歴史上大きな足跡となりました。
以上で蘇生の歴史を終わりまして、次に用語ですが私も少ししか知りませんでした。最近は1995年CPA−(Cardiopulmonary Arrest)は医療機関に来院する心肺機能停止(CPA)に関する用語の制定で日本救急医学会・救命救急法検討委員会によっ て定義されています。
医療機関外では、院外心肺機能停止(out-of-hospital cardiopulmonary arrest)は、医療機関外で心機能、肺機能のいずれもが、もしくは心機能、肺機能のいずかが停止状態を言います。 来院時心肺機能停止CPAOA(cardiopulmonary arrest on arrival)は、心肺蘇生法(CPR)が行われず、心機能と肺機能のいずれもが停止状態。それから、心肺蘇生法が現場、救急車で行われたが心肺機能停止状態。
来院時心機能停止CAOA、来院時肺機能停止PAOA(cardiac arrest on arrival,pulmonary arrest on arrival)は、心肺蘇生法(CPR)が行われず、心機能か肺機能のどちらかが停止した状態。それから、心肺蘇生法が現場、救急車で行われたが心機能か肺機能のどちらかが停止。 来院直後心肺機能停止CPAAA(cardiopulmonary arrest immediately after arrival)は、心肺蘇生法(CPR)が現場、救急車で行われ、心肺機能が機能している状態。
医療機関内では、来院時心肺機能停止CPAOA(cardiopulmonary arrest on arrivar)は、救急外来で心肺機能停止状態(CPRしてあってもなくても)で、社会通念上DOA(dead on arrival)を用いる事がある。
来院直後肺機能停止PAOA(pulmonary arrest on arrival)は、心肺蘇生法の有無にかかわらず、医療機関に来院時に肺機能停止状態。肺機能停止の診断は自発呼吸がない。
来院直後心肺機能停止CPAAAは医療機関に来院直後に心、肺機能のいずれか、 または両方が停止したもの。
心拍再開ROSC(return of spontaneous circulation)は、心肺蘇生法を行って頸動脈又は上腕動脈の拍動が触れるようになる。
心拍非再開non-RPSC(non-return of spontaneous circulation)は、心肺蘇生法を行っても頸動脈又は上腕動脈の拍動が触れない。
蘇生admitted ICU/wardは、心拍の再開が得られ、入院となった場合。救命(生存)とは、入院1週間後においても生存している場合。
心停止(cardiac arrest)には心静止、心室細動、電導収縮解離が含まれる。
ここでいう肺機能は呼吸機能を意味する。cardiopulmonary arrest(心肺停止)、cariopulmonary resuscitation(心肺蘇生)のように心肺ということばが世界的に用いられているので肺機能とする。 near DOAは使わない。来院直後心肺機能停止(CPAAA)、来院時心機能停止(CAOA),来院時肺機能停止(PAOA)などを用いる。
DNR(do not resuscitate)とは、癌の末期などで、本人又は家族の希望で心肺蘇生法を行わないこと。これに基づいて医師が指示する場合をDNR指示(do not resuscitate order)という。
救命と生存は同義で用いる。脳死と判定された症例はその時点で死亡とする。
最後に、いま皆さんコンビチューブを使われていますがエアーウェイにカフが付いたものが発売されましたのでご紹介します。コパ社のものですが、コパ付口咽頭チューブと言います。これは、全身麻酔下の換気に気管内チューブを必ずしも必要としない患者の気道確保、短期間の外科手術、気管支鏡下処置、自発呼吸換気中の気道確保、フェイスマスク、グデルオーラルエアーウエイの代替品として効果があります。
以上で本日の私のCPRについてを終わらせていただきます。
今回は応急手当、特にCPRというメインテーマに基づいて展開をして参りました。救命率向上のためには、バイスタンダーによる適正な応急手当、特に心肺蘇生法の早期着手と救急隊員の適正な処置の継続、さらに医療従事者による二次救命処置のいわゆる「救命のリレー」が不可欠になって参ります。更に先程お話しがありました様に、消防防災ヘリも近い将来「救命のリレー」の中に重要な位置付けとして組み込まれて来るものと確信いたしております。
私たち愛媛救友会は、地域に根ざした活動を展開しながらも、今回ご参加をいただきました北摂救急救命士会、広島県救急救命士会、そして来年発足すると聞いております高知県の方々とも幅広い連携を取り、情報交換をしながらネットワークを広げて行きたいと考えております。
この八幡浜大会が、皆様方にとって尊い生命を救うきっかけになっていただければ幸いです。どうぞ皆様方の愛媛救友会に対して温かいご指導とご支援をお願い申し上げまして今大会を終了いたします。本日は誠にありがとうございました。