夏の海岸小救急:エイ、クラゲ、オコゼ

(7/03/97、eml 3733)


目次

質問1:エイ、クラゲに刺されたときの処置
回答 1-1:カチリについて(M)
回答 1-2:70℃のお湯でエイ毒が失活(K)
回答 1-3:熱傷の恐れは?(SU)
回答 1-4:エイ刺創の治療(SU)
回答 1-5:追加・お湯によるエイ刺創の治療(K)
回答 1-6:熱傷にならない程度のお湯がエイ刺傷に有効(もぐりのドクター)

質問2:オコゼに刺されたときの処置
回答 2-1(N)
回答 2-2(SA)

回答 3-1 毒魚刺創について(NA)
回答 3-2 DAN JAPAN:「潜水事故対策緊急ハンドブック」より(F)
回答 3-3 クモ咬刺傷からの発想:神経ブロックは如何?(O)

質問1:エイ、クラゲに刺されたときの処置


 海岸のLife Saverからの質問です。

 エイにさされると、小指ほどの穴があいてしまうこともあり、お湯につけながら 毒を出していくということをするのですが、その痛さは、たとえ医者にいっても どうすることもできない、というのが定説とされています。でも、ほんとうにこ の処置でいいのかという疑問があります。

 それから、クラゲにもおなじことがいえます。水でよくながし、触手を落とし てから、お酢(これは、もうあまりやられていないが)をかける、もしくは カチリとよばれている白いペンキのような薬を塗る、という処置をやっている のですが、各浜によっても処置は違っているようだし、ひどいところでは、 キンカンをぬっていたりしているようです。そこで、今一番有効とされる クラゲに対する処置と、カチリとよばれるものがなんなのか、それは効くのか、 お酢はほんとうにだめなのか、アンモニアはどうか、を教えていただきたいの です。お忙しいところ、お手数ですが、宜しくお願いします。

 このような質問を受けました。ご存知の方よろしくお願い申しあげます。

回答1-1:カチリについて(eml 3733)

「カチリ」
石炭酸亜鉛華リニメント(カルボール・チンク・リニメントの頭?文字)

小児科では伝統的に、水痘のかゆみ止めに使用します(M)。

回答 1-2:70℃のお湯でエイ毒が失活(eml 3743)

Date: Mon, 30 Jun 1997 10:26:07 +0100
Subject: [eml:03743] Re: エイとクラゲ、夏の海岸小救急

>海岸のLife Saverからの質問です。
>エイにさされると、小指ほどの穴があいてしまうこともあり、お湯につけながら
>毒を出していくということをするのですが、その痛さは、たとえ医者にいっても
>どうすることもできない、というのが定説とされています。でも、ほんとうにこ
>の処置でいいのかという疑問があります。

病院のLifesaver・Kからのアドバイスです.
これは,私も何度かエイ刺傷の手当に難渋したことがあり,結局は,ソセゴンなど病
院でしか処方できない鎮痛薬,そして,ソルメドなどこれまた病院にしかない薬剤で
お茶を濁してきました.
しかし,今春の中毒学会西日本地方会で和歌山の先生が発表されていたのですが,70
度くらいのお湯に15分くらい浸すと,エイ毒が失活して,痛みなどが非常に和らぐそ
うです.このため,鎮痛薬の投与量も少なくてすむとのことです.実際,お湯に浸け
たときと浸けなかったときの鎮痛薬の使用量などの例を挙げて発表されておりました
.難点は,ただでさえヒーヒー言っている患者の,しかも患部を,結構熱いお湯の中
に入れるという行為を,どう,説明するかだそうです.(K)

回答 1-3:熱傷の恐れは?(eml 3744)

Subject: [eml:03744] RE: [eml:03743] Re: エイとクラゲ、夏の海岸小救急
Date: Mon, 30 Jun 1997 13:21:57 +0900

これはなかなか大胆な治療法のように思われます。
70℃で15分間接触すれば、エイの毒も失活するかも知れませんが、
人体も『失活』するでしょう。通常、60℃以上の高温物体に1秒以上
接触すると2度以上の熱傷となると言われており、いわゆる『低温熱傷』
(低い温度でも長く接触していると熱傷になる)と定義されるものでも
60℃以下ですから、まさに『熱湯熱傷(scald burn)』以外の何物でも
ないです。痛みだけの問題ではなく、このような療法が一般療法として
行なわれることの危険性の方が懸念されますが、如何でしょうか(SU)。

回答 1-4:エイ刺創の治療(eml 3745)

Subject: [eml:03745] RE: [eml:03743] Re: エイとクラゲ、夏の海岸小救急
Date: Mon, 30 Jun 1997 14:58:22 +0900

追加です。

この類の疾患は全く診たこともなければ、調べたこともなかったので、無責任な
発言で申しわけないと思い、以下のごくごく教科書的な内容を調べましたので
ご参考下さい。

エイによる刺創(stingray sting)
Emergency Medicine 2nd Ed. Ed in chief HL May,Little, Brown and 
Company,Boston,1992
Dee Hodge III,83 Dangerous Marine Bites, Stings, and Ingestions, pp932
より要約

北米で年間750件の発生がある。あさい海底に生息し、砂などの中に身を潜めている 。
知らずに踏みつけてしまったときに、反射的に尾を突き立てるために尾の先、背側  
にあるノコギリ状の針で刺される。毒は針の外被にある分泌細胞で作られる。刺され  
るとこの外被が破れ毒が放出される。
毒素の成分は少なくとも15種類あり、serotonin,5-nucleotidase,phosphodiesterase  
が含まれ、熱には不安定である。生理作用として、呼吸中枢を抑制し、心伝達系を障  
害し、強い疼痛を起こす。臨床的には、創は3.5〜15cmの裂創で針の外被が残存する  
ことがある。疼痛は90分ほどでピークに達し、悪心嘔吐、下痢、不安感、脱力感、失  
神を起こし患肢の筋肉の筋攣縮を起こす。全身痙攣、低血圧、不整脈から死に至るこ  
とがある。
現場での初期治療は、冷たい食塩水(あれば清潔な生食)で創を洗浄する。止血は圧  
迫止血。医療施設では、創内に残存する針の外被を除去しデブリドマンを行なう。患  
肢は温水(38℃〜46℃)に30分から90分浸ける。疼痛にはmeperidine(メペリジン:麻  
薬鎮痛剤)、破傷風の予防処置、二次感染に対する予防的抗生剤投与を推奨している。

と言うわけで、エイの毒素が熱に不安定であることはその通りのようですが、このテ  
キストでは、『38℃〜46℃の温水に30分から90分浸ける』ことを推奨しているようで  
す。
どう考えても70℃は熱傷を起こし、治療とはならないと思われます。
やはり大切なのは、創部のデブリドマンと感染に対する処置であり、疼痛にも適切な  
対処が行なわれるべきなのでしょう(SU)。

回答 1-5:追加・お湯によるエイ刺創の治療(eml 3747)

Date: Mon, 30 Jun 1997 21:55:00 +0100
Subject: [eml:03747] エイとクラゲ,その2

Kです.
確かに,70度という温度は人間は耐えられません.発表された先生も「ヤケドぎりぎ
りです」と述べられていました.しかし,あのエイの痛みは,診たり刺されたりした
ことのある方はおわかりだと思いますが,悶絶ものです.しかも,たいていは十数時
間以上続くのです.昨年,うちのクラブ(大阪ライフセービングクラブ)の部員が磯
の浦海岸で夕方にエイを踏みつけてしまい,深夜に救急車で痛みによるショック状態
で入院となりました.そして,ソセゴン漬けになりました.
もちろん,温度ややり方については,さらに考慮の余地はあると思いますが,あの痛
みをどうにかして早く取り去ることも,非常に意味があると,私はその発表を聞きな
がら感じたのでした.(なお,その発表は第7回日本中毒学会西日本部会での国保す
さみ病院外科・稲田佳紀先生の「当院における有毒海洋生物刺創の治療経験」です.
1997/3/1和歌山県民文化会館)(K)

回答 1-6:熱傷にならない程度のお湯がエイ刺傷に有効

Date: Mon, 30 Aug 1999 14:59:02 +0900
From: 池田知純(ホームページへの直接投稿)
Subject: お知らせ

 私は救急関係医ではなく、潜水関係に携わっている池田知純と言う者ですが、
潜水関係のホームページを歩いていて、おそらく貴教室が関与しておられると思
われる質問回答コーナーに行き当たりました。そこに記載されていた質問とコメ
ントの内容(eml3746及び3745)に付け加えさせていただきたいと考え、メール
いたします。

 それは、エイに刺された場合の対処の方法を訊ねていたものですが、回答者の
一人が70℃のお湯につけることを推奨したところ、それでは熱傷になってしまう
と大多数の人から反対されたものです。しかしながら、あついお湯にエイに刺さ
れた部分を浸すことは、欧米の関係書籍及び文献で推奨されており、間違った対
処方法ではないと思います。お風呂に入るのではないので、反対意見のように45
-46℃のお湯でなければならないというわけではありません。熱傷にならない程
度のできるだけあついお湯に浸せばよいと思います。

 当方でも、刺した生物の種類は特定できないものの、海の中で突然激痛におそ
われ、刺しあとのみられた傷口をあついお湯に浸したところ、急速に劇的に痛み
が消失していった例を経験しております。したがって、70℃のお湯に浸すことは
間違っていないと思います。なお当然のことながら、現場ではお湯の温度をいち
いち測ることはできません。ここは常識的に手を浸してみて何とか熱傷にならな
いですむ温度と考えたらよいと思います。

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  池田知純
  http://www03.u-page.so-net.ne.jp/qa2/ikeda-dv/
 もぐりのドクターの潜水医学入門
  http://www03.u-page.so-net.ne.jp/qa2/ikeda-dv/dream.htm
 もぐりのドクター江田島夢日記
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質問2:オコゼに刺されたときの処置


Subject: オコゼ刺傷の治療法
Date: 20 Jun 1997 20:33:52 +0900
(jpmed-miscより投稿者の許可を得て転載)

内科開業医のTと申します。
早速本題に入りますが、診療エリアに漁港があり年に数回オコゼに
刺された処置に遭遇します。
局所の疼痛、しびれおよび発赤腫脹等に対する治療法をお教え下さい。

回答 2-1

Subject: Re: オコゼ刺傷の治療法
Date: 20 Jun 1997 23:55:28 +0900
(jpmed-miscより投稿者の許可を得て転載)

長崎県のNと申します。
以前よく行っていたある病院の診察室にオコゼ刺傷に対する治療法が書いてあり
ました。局所に対しては、キシロカインの局注と、リバノールシップが良いよう
です。キシロカインの局注は、現地の何回もオコゼに刺されたことのある漁師さ
んにも好評でした。

回答 2-2

Subject: RE: オコゼ刺傷の治療法
Date: Sat, 21 Jun 1997 04:05:24 GMT
(jpmed-miscより投稿者の許可を得て転載)

時々海つりに行きます。船の無線で「客がカサゴに刺された」と話していた
りします。私は山の中にいますから蜂に刺された方が時々来ます。オコゼよ
り、しびれ感は少ないと思いますが、蜂に刺されると腫れがひどく、手がグ
ローブの様になって来る人がいます。私のところでは消毒用のヒビテン液を
浸けたガーゼ数枚で大きく全体を包んで湿布をします。さらに点滴セットを
10cm位切って途中に穴を空けたりして、ガーゼの中につっ込みます。他
方の端は創のガーゼの外に出ています。その上から包帯をしてあげます。デ
ィスポの10mlと滅菌水で薄めた〔かぶれたりするので〕、ヒビテン液を
水薬のビンに入れて出し、乾いたら何度も注射器で薬を入れるように伝えま
す。間違えて子供が飲まないような所に置くように指示します。時に気休め
で刺入点にリンデロンVGを塗ったりします(SA)。


毒魚刺創について

Date: Thu, 03 Jul 97 14:12:29 +0900(私信)

 毒魚刺創ですが、当地方も結構多く、ウグ(ゴンズイ)
アイゴ、オコゼ、など年に数例は訪れます。エイの棘が刺入し
切開して除去したこともあります。程度にもよりますが、
毒素のせいでしょうか、人によっては刺創部のみでなく、
その中枢側にもひどい放散痛を訴え、プレショック状態に
なるような方もいらっしゃいます。

 そこで、私はブロックとしてステロイド(今はデカドロン4mg)
を1A 1-2%キシロカイン10mlほどに混入して、局所に適量
注入しております。大抵の人はそれで軽快します。一度だけ、
再度受診し、再注入した方もいらっしゃいます。アクリノール
湿布は私も良く使用します。気持ち良いようです。
 ムカデなどでは良くあることですが、時々、数日後にアレルギー
反応を起こす方もいらっしゃいますので、抗アレルギー、
抗ヒスタミン剤と消炎鎮痛剤を数回分処方することが多いです。
創の状態によっては、抗生物質を処方することもあります。
刺創を放置し、その後受診、膿瘍を形成していた方もいらっしゃい
ますので。

 以上、少ない経験上の自己流の処置ですが、一応、ご参考までに。

                       (宇和島市 NA)

回答 3-2 DAN JAPAN:「潜水事故対策緊急ハンドブック」より

 お断り:以下の情報はDAN JAPAN:「潜水事故対策緊急ハンドブック」より引用させていただきました。これは医学書ではありませんので、処置内容などにつきましては、利用者は自己の判断で実施して下さい(情報提供者)。

Subject: [eml:03757] RE:03731エイとクラゲ、夏の海岸小救急
Date: Thu, 3 Jul 1997 00:58:28 +0900

こんにちは、、最近Title readerに終始しているFです。

エイの毒に詳しいわけじゃないのですが、趣味でScuba divingをしており
まして、その関係で(DAN JAPAN:主に潜水に関連した緊急対応/潜水病
を支援する団体)にも加入しております。そこの「潜水事故対策緊急ハン
ドブック」(一般用ですから、現場医療向けではないかもしれませんがご参考)
に類似記載がありましたので、お知らせします。

ーーーー引用開始

「魚のとげの刺し傷」(オニヒトデ、ガンガゼ、およびエイに刺された傷を含む)

原因:
 魚のとげによる刺し傷。ミノカサゴ、オコゼ、ゴンズイ、エイ、オニヒトデ等の
とげには毒がある。それらの毒は、摂氏50度の湯で無毒化できる。

症候:
 刺し傷または裂傷
 すぐに痛む(有毒であれば激しい痛み)
 出血
 吐き気、嘔吐
 ショック

応急手当:
 とげを抜く
 傷口を清水で洗い流す
 我慢できる範囲内だが、できるだけ熱くした湯の中に傷の部分を30分〜
  90分間浸す。顔面などで湯に浸せない場合は発熱パッド(ホカホカ等)
  で暖める。
 鎮痛剤を投与する。
 ショックに対する処置をする。

医師へのお願い:
 必要があれば破傷風トキソイドを投与してください。
 局所の鎮痛や洗浄に局所麻酔薬を使用するときは、アドレナリンを含ま
  ない麻酔剤を使用してください。
 アンチベノブ(抗毒液)はオニオコゼの刺し傷の場合に使用してください。

----引用終わり

70度のお湯というのはどきっとしましたが、SU先生からコメントがあった
ように46度という程度なら治療になりそうですね。この本には他にも次の
ような項目があります。(もともとは洋書/冊子?の翻訳のようです。)

 ヒョウモンタコの噛み傷
 イモ貝(巻き貝の一種)の刺し傷
 海蛇の噛み傷
 魚の噛み傷
 クラゲ、珊瑚、シロガヤ、イソギンチャクの刺し傷

なお、連絡先ですが、次の通りです。

DAN JAPANのしくみ、登録に関する情報:
 (財)日本海洋レジャー安全・振興協会 03-3590-6501 Fax:3590-8325

救急医療電話相談サービス:
 東京医科歯科大学医学部附属病院 03-3812-4999

日本では主に潜水病対応が中心にも見えますが、、何かの参考になれ
ば幸いです。(こういうことはちょっと知っていると知らないでは大違いで
すから、、)

では(F)

回答 3-3 クモ咬刺傷からの発想:神経ブロックは如何? 

Date: Sun, 20 Jul 1997 22:07:03 +0900 Subject: [eml:03879] 毒グモ?咬創による激痛  Oです。真夏らしい1日でした。 eml メンバーの皆様の中にも、 家庭サービスで海や山へ行かれた方が少なくないものと思います。  さて先日ですが、クモに母指のつけ根を咬まれた後の激痛をどうしたら よいか、という相談を受けました。患者さんは70歳代の農夫で、自宅で天井 から滑り下りてきたクモを両手で叩いたら、瞬間、左母指の基部に強い痛み が走り、その後猛烈な痛みに苦しんでいるという連絡です。  咬まれた?のが夜中の 0時頃、1時30分ころ近くの診療所へ。ここで局麻薬 の局注(または指間ブロック)、ステロイド剤の静注を受けています。その後、 3:30,5:30, 7:30, 9:00, 11:00(正確な時間は忘れました)という感じで、 局麻薬の注射を受け、午前中はこの診療所から離れることができませんでし た。後で聞いた話では、局麻薬は1時間半くらい有効、消炎鎮痛薬は効果な く、ペンタゾシンは有効であったが頭がフラフラしたとのことでした。  電話で紹介された時に頭に浮かんだのは先日の毒魚の話題でしたが、私は 2,3日入院して伝達麻酔(腕神経叢ブロックや硬膜外ブロック)を持続的 に施行してはどうかと考えました。実際に患者さんを診察した時には痛みは 七転抜倒というほどではありませんでしたので、腕神経叢ブロック(アキシ ラール 0.25%ブピバカイン15ml)をワンショットで施行し、ブプレノルフィ ンの座剤(0.2mg)を4個処方して帰宅してもらいました。ブロックの後、疼 痛はほぼ消失しましたが、どの位の時間持続したかは確認しておりません。  患者さんの家は海沿いとのことでした。セアカドクグモのこともチラッと頭 に浮かびましたが、診療所の医師によると咬まれたクモはテレビでみたセアカ ・・とは似ても似つかぬものだったそうです。  なお神経ブロックによる交感神経系の遮断は、反射性交感神経性ジストロフ ィ−(RSD)またはカウザルギーの予防にも有効と考えられているようです。  以上、世間話としてお読みいただければ幸いです。それでは。                                 (O)


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