Utstein Steyleによるボン市(ドイツ)の病院外心肺停止患者の予後の研究

One-year survival after out-of-hospital cardiac arrest in Bonn City: outcome report according to the 'Utstein Steyle'

Fisher M, et al. Resuscitation 33 (1977) 233-243

(要約:愛媛大学医学部救急医学 越智元郎、 eml 3545)


1、はじめに

 心肺蘇生法の効果を研究するにあたり、用語や定義にばらつきがあることが問題となっていた。そこで1990年にthe European Resuscitation Council, the American Heart Association, the Heart and Stroke Foundation of Canada, The Australian Resuscitationの代表者がノルウェーのUtstein Abbeyに集まって協議した。そして病院外心肺停止患者のデータを扱う場合の用語や定義を定め、Utstein styleとして公表した。

 その後、現在までに、Utstein styleを用いた病院外心肺停止患者に関する論文が4編。

 本研究の目的は、ボン市におけるEMSsystemの有効性を、Utstein styleによる病院外心肺停止患者のデータによって分析することである。

2、 方法

2.1. 調査地域:ボン市、141km2, 人口31.3万人、65歳以上が13.9%。人口10万人比の死因はICD 410-414が199, 410-429が308。救急隊は4つのBasic Life Support (BLS) unitと2つのAdvanced Life Support unit(医師1人、救急隊員1)によるdouble-response EMS systemを取っている。

2.2. 蘇生手順:先に到着したチームが一次救命処置を開始。1991年以降は救急隊員に自動式除細動器の使用が許され、救急隊員が除細動を施行した例が17、あとはすべて医師が施行。ALSチームが気管内挿管とエピネフリン投与(1 mg iv or 2.5 mg/5ml生食を気管内投与)、その他はAHAの手順による。処置開始後30分まったく自己心拍が出ない場合に蘇生中止。病院へ搬送されるのは心拍再開例(ROSC)のみ。

2.3. 搬送体制:年間13000の非外傷性の救急患者に対し出動。BLSチームが13000, ALSチームが4500。心肺停止が疑われる場合は至近の2チーム(BLS+ALS)が出動。

2.4. 1989から92年までの4年間の、1ALSチーム(ALS-north)による蘇生施行例をレトロスペクティブに調査。調査項目:覚知からALSチームの現場到着までの時間。最初のECG、瞳孔径、呼吸状態。目撃者の有無、bystander CPRの有無。予後(自己心拍再開、生存退院、1年生存、1年後のCerebral Performance Categories)。

3. 結果

◎ 全例

1) Population served by EMS system: ALS-northが、人口24000人の地域において4年間に、12000例の患者に対し出動。770例はすでに死亡しており、治療は行わず。

2) Confirmed cardiac arrest: 602例に対し、BLSチームが甦生開始。

3) Resuscitations not attempted by physicians: 82例は医師が甦生中止(理由は悪性腫瘍、著しい身体の損壊、心停止からBLSまで15分以上)

4)Resuscitation attempted by physicians: ALSチームが甦生を引き継いだのは520例

5) Non-cardiac etiology - 56,  6) Cardiac etiology - 464
7) Arrest not witnessed - 178,  8) Arrest witnessed (bystander) - 214,  9) Arrest witnessed by EMS - 72
10)  Initial rhythm: asystole - 164,  11) VF - 200,  12) VT - 10,  13) other - 90
15) Never achieved ROSC - 216,  16) Any ROSC - 248 (53%)
17)  Efforts ceased - 63,  18) Admitted to hospitals - 185 (40%)
     19) Expired in hospital - 111, 20) Discharged alive - 74 (16%)
          21) Expired within one year after discharge - 24
         22) Alive at one year - 50 (11%)
◎ Witnessed cardiac arrest by byystanders (total 214)

initial rhythmasystole (n=62)VF (118) 、VT (n=1) other (n=33)
16) Any ROSC31 (50%) 94 (79%)15 (46%)
18) Admitted to hospital 23 (37%) 79 (67%) 11 (33%)
20) Discharged alive6 (10%) 41 (35%) 2 ( 6%)
22) Alive at one year4 ( 7%) 28 (24%) 2 ( 6%)

◎ 蘇生率に影響する要因(chi-square, multi-regression analysis)
  ・ 目撃者、 ・bystander CPR(1年生存率には無関係)
  ・ 年齢(短期予後には無関係、1年予後に影響)
  ・臨床兆候(最初の心電図がVF、瞳孔の大きさ、gaspingの存在)

4. Discussion

1) bystander CPRについては初めEMSレベルでは調べておらず、医師カルテで調べた(このデータについてはunderestimateの恐れ)。

2) Bonnのwitnessed VFでは退院率35%、1年生存率24%で、はじめに挙げた他地区と比べて高い方だった。蘇生率の高い地区の共通点は田舎または郊外、double response EMS systemの2点であろう。

3) 蘇生率の差はEMSのresponse timeの差によるものと考えられる。

    Bonn      call to BLS = within 2- 6.5 min., call to ALS = within 5-11.7 min.
    New York            = exceeded 9 min.              = exceeded 13 min.

4) 救急隊員に除細動が許されていること、医師がALSに参加していることも、高い蘇生率を説明する要因。

5) 都会では人種構成、収入などの背景因子からVF/VTの患者の率が低いという。

6) bystander witnessedとEMT personnel witnessedのケースで蘇生率に差がない。これは前者でVFの率が高くなるため。心筋梗塞では早期から胸痛などで既に救急隊員が呼ばれている場合が多い。一方、突然のVFといったケースでbystanderがいた場合は、救急隊員が到着した時にはbystander CPRにより既に甦生されているという例が少なくない。

7) 脳虚血の持続時間によって臨床兆候が変わって行く。早期(VF、小さい瞳孔、gaspingの存在) → 末期(asystole or EMD、瞳孔散大、完全な無呼吸)。bystander CPRは脳虚血に陥っている時間を短縮するので、推奨すべき。

8) まとめ:よく訓練されたBLSおよびALS甦生チームが活動する地方都市では、VFの場合30%を越える退院率が期待できる。bystander CPR施行率の上昇、response timeの短縮、早期の除細動(5分以内に)、早期のALS(10分以内に)など、いわゆるchain of survivalのすべての鎖を円滑につなぐことができるよう、努力が必要である。


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