目 次
立川便り1:災害医療セミナー(2/28/97、eml 2953)
おち@愛媛です。災害医療セミナーに出席のため立川市の国立病院東京災
害医療センターに参っております。emlメンバーの方々にも沢山お眼にかか
ることができました。
さて、第1日の「災害医療の基礎」の話題のうち、圧倒的であったのは京
大防災研の河田恵昭センター長の「被害予測」でした。主催者が録音してお
られたら、「テープをお借りしてホームページに収載したいっ!」と思った
のですが、残念ながら録音はしていないとのお話でした。もし出席されたeml
メンバーで録音された方がありましたら、是非ご協力をお願い申し上げます。
勿論、河田教授のご了承はいただく所存です。以下、乱雑なメモ書きですが、
何かの参考にしていただければ幸いです。
〇マグニチュード8クラスの地震による人的被害を、計算によって予測する
ことができる。
例えば、ある町の△丁目の予測死亡者数= その地域の人口 x 死者率
死者率 → 地震による速度または加速度の関数
(家屋倒壊率 80%の地域だと、家屋倒壊による死者率は 3%位)
家屋倒壊のほかに、火災、鉄道損壊、道路災害、斜面災害、落下物、津波
などによる死者をそれぞれ計算し、総計を出す。
〇大阪府であると5つの断層それぞれの被害を、綿密に予想することが可能。
例。上町断層による大阪府内の死者予測数
・建物倒壊による 12,328人
・火災による 3,562人
・鉄道災害による 4,803人
・道路、高速道路の損壊による 31人(耐震構造に立て替えた場合)
・落下物による 445人
合計 21,169人
都市災害としての大阪府の被害(死者数)の最大推測値は 68,600人
時間帯にもよる: 朝のラッシュ時の場合 1,000人増
(建物倒壊による死者が減り、交通災害によるものが増加)
〇太平洋の南海トラフによるプレート境界型の大地震がいつおこっても不思
議ではない。しかも鹿児島から神奈川の太平洋側がすべて巻き込まれる恐
れも(南海大地震 + 東南海大地震 + 東海大地震)。西暦1000年以降の
歴史では、南海大地震と東南海大地震のそれぞれの歴史のうち、8回中2
回は非常に近接した時間にあい呼応しておこった。
〇上記の大地震による津波の恐怖
・前回の南海大地震による津波は、徳島県や和歌山県で地震から25分位で
来た。古老は少し時間があるというかも知れないが信じるな。10分以内
に来る恐れも。
・大阪では 120分後に第1波、50分周期で第5波まである。地震の後、
120+50x5分は気を許すな。防潮堤があれば大丈夫、しかし 343箇所の鉄
扉を閉め忘れたら、大阪市内に津波が進入。大阪駅で満潮レベルからわ
ずか1m。津波の恐れがあれば地下街の100万人を地上に出せ。地域防災
計画で淀川沿いを避難場所に決めている人口57万人はどうする?
・津波がおこるかどうかは地震後3分でわかる。120kmより浅い海底に震源
がありM6以上の場合(直下型では起こらない)。地震としては小さいが
大津波を起こすタイプが1/3あり、このパターンでは津波警報は出にく
い。
長文となりました。ひとまずこの辺りで。
立川便り2:災害シミュレーション(3/02/97、eml 2965)
おち@愛媛です。災害医療セミナーに出席のため立川市の国立病院東京災
害医療センターに参っております。第2日は午前 8:30〜8:15まで、2食付き
のびっしりの内容でした。このセミナーは初心者のための研修という風にお
考えの方もおられるかもしれませんが、初心者にも災害医学の専門家にも非
常に役に立つ構成になっています。来年も多くの方(医師対象のセミナーで
す)が参加されますよう、お勧めしたいと思います。以下、第2日の最後の
出し物(災害シミュレーション)の印象を走り書きしました。
例によってつくばメディカルセンターの大橋先生の司会。私がシミュレー
ションに参加させていただくのは日本救急医学会の2回、災害医療セミナー
2回の4回目。大橋氏はもはやこの計画では欠かせぬ人となられた。
今回は本来の意味のシミュレーション(机上、架空の計算)とは趣を異に
し、1995年の地下鉄サリン事件の実際の流れを聖ルカ病院を舞台に再現した。
当時、救急部長の高須医師の参加を得て、参加者全員で追体験できた。また
阪神・淡路大震災(神戸大学)、川崎医大の火災事故(本年)などの他の災
害の実際の流れとも対比、直接の経験者から話しが聞けた。
救急隊からの初報は「地下鉄での火災または爆発事故、多数のけが人。何
人収容できるか?」というもの。高須医師は「重傷者を含め6,7人と応答」。
間もなく「眼がしばしばする」という患者3人が歩いて来院。上記の地下鉄
事故との関連は不明なまま、救急部研修医が診察。一般の人が「地下鉄の出
口に倒れていた人」を乗用車で運びこむ。みると心肺停止。そのあと、救急
車、消防車、一般車両が続々と患者を収容。自力で来院する患者も多く、あ
っという間に外来が100人以上の患者であふれかえる。院内蘇生コールで医師、
看護婦の緊急召集(外来へ)。重症患者は2階の礼拝堂などへ。
心肺停止患者は合計4人。1人目は30分間、蘇生処置をしたが、4人目は
状況から5分の処置で死亡確認。救急隊が約20人運びこんだ所で、これ以上
収容できないと連絡。この段階で初報から15分。その後も続々と患者来院。
救急外来からの緊急召集コールは異例であり、院長も外来へ。院外のけたた
ましいサイレン音、外来にあふれる患者などでから、一般外来診療の中止を
決定。縮瞳、コリンエステラーゼ低値などから有機リン剤の中毒が浮かび上
がったのは10:30頃。警視庁からサリンが原因との発表があったのは11:00頃。
この頃には地下鉄の現場にはもう患者はいなかった。しかし救急隊の救急車
は21時頃までずっとふさがっており、他院転送はできない状況が続く。ボラ
ンティアを含む病院職員の20〜25%が目の違和感など、サリンの二次汚染を
疑わせる症状。
聖ルカ病院に普段から病院ボランティアが活動しているのは初耳。キリス
ト教関係の活動? スライドにもエプロンをした若い女性が何人も映ってい
た。この災害でのボランティアは普段の活動をしている時に、たまたま災害
に巻き込まれたかたち。ある意味では理想的なボランティア活動。余分の人
員を呼び寄せる暇があったかどうかは質問できず。
長文となりました。皆様、また。
立川便り3:災害拠点病院構想(3/03/97、eml 2972)
愛媛大学の越智です。
災害医療セミナー(於、立川市の国立病院東京災害医療センター)第3日の
話題を紹介します。
災害拠点病院構想と題したシンポジウムでは、最初にこの構想の発案者であ
る厚生省健康政策局の山本光昭氏から発表があり、その後の質疑でも山本氏へ
の質問・コメントが相次ぎました。
山本氏にはセミナーの前に「21世紀の災害医療」のHP
http://apollo.m.ehime-u.ac.jp/~gochi/96/gb20saig.html についてご挨拶
をさせていただく機会があり、HP収載についても喜んでいただいているよう
で安心しました。このHPにも「災害医療支援拠点病院」についての記事を収
載(http://apollo.m.ehime-u.ac.jp/~gochi/96/gc01kose.html#049)してい
ます。
山本氏によると、災害拠点病院の様々な指定要件のうち、ほとんどの項目は
「原則として」「・・が望ましい」という言葉がついており、その要件がかな
っていなくとも、拠点病院としての指定は可能である。しかし、搬送関係の以
下の要件だけは、「必須」という解釈をしてほしいということです。すなわち、
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搬送関係
1、施設
原則として,病院敷地内にヘリコプターの離着陸場を有すること。
やむなく病院敷地内に雛発着場の確保が困難な場合は,病院近接地に非常
時に使用可能な離着陸場を確保するとともに,患者搬送用の緊急車両を必ず
有すること。  ̄ ̄
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ということです。
セミナーの資料では1月14日現在、災害拠点病院が指定された都道府県は27
あり、3月末にはすべての県で指定が完了するとの事です。山本氏からも配布
資料により「広域災害 救急医療情報インフォメーション」のホームページ
http://www.emis.or.jp に「災害拠点病院一覧」が掲載されていることについ
ても紹介がありました。このHPは emlのメンバーでもあるNTTデータ通信
〇〇さんらのご担当によるものですが、今後とも自治体や政府からの災害情報
発信の中心となれるよう、ご健闘をお祈りしたいと思います。可能であれば
「日本救急医学会」「日本集団災害医療研究会」「世界災害救急医学会」など
の学術団体によるホームページや、私共の「救急・災害医療ホームページ」な
どの草の根の災害医療情報のホームページへのリンク集を載せていただければ
有り難いですが、如何でしょうか?
さて本題です。厚生省の災害拠点病院構想については様々な懸念が表明され
ました。ひとつは座長から「救急医療ジャーナル2月号」の論説に掲載された
香川医大 小栗教授の論説が紹介されました。また高知、岡山からの参加者か
ら、各県の実状が紹介されました。それによると、「災害拠点病院」がふだん
救急医療をほとんどしていない施設に指定される例があるという点です。その
背景には自治体が「厚生省からできるだけ多くの補助金を引き出すためには?」
という観点から拠点病院を指定しようとしている、という面があることを否定
できません。
私は、自治体の災害対策マニュアルとも言える「地域防災計画」に災害拠点
病院構想のことが一切書かれていないこと、災害対策基本法などの法的な裏付
けがないことについて質問をしました。山本氏は、早速「地域防災計画」にも
反映させるよう指導すると言われましたが、これを作るには各自治体とも1年
以上の時間をかけています。また阪神・淡路大震災のあと、多くの自治体が見
直しをしたばかりです。この段階で「地域防災計画」の再見直しが簡単にでき
るとは思えません。まあ、多くの自治体の「地域防災計画」では、医療に関す
る部分はほんの2、3ページの「形骸化」したもので、これを書き換えるのは
かえって簡単なのかも知れませんが。。
長文となりました。皆様、また。
災害医療セミナー(3/3/97、eml 2971)
坂野@札幌医大救急集中治療部です。
EMLのみなさまこんにちは。
越智さんからすでに報告されているとおり、2/28から3/2まで立川
市の国立病院東京災害医療センターで行われた第二回災害医療セミ
ナーに出席しました。
初日は災害医療の基礎知識ともいうべき内容で、気象庁の予報官の
方の話や、越智さんからのメールでも詳述されている、京大の先生
の話で非常に有意義でした。夕方は懇親会となり、同病院9階の職
員食堂で各地の先生方と親交を深めることが出来ました。
2日目は、午前中は災害マニュアル構築に関するグループディスカッ
ション昼食には同病院に備蓄されている「災害食」の試食を兼ねた
昼食、午後からは避難所医療を考えるパネルディスカッションや災
害事例報告、夕食は病院の職員食堂(ここからの夜景はなかなかの
ものです)、夕食後はサリン事件の聖路加国際病院の対応のシミュ
レーション、大橋先生の名調子で有意義な2時間でありました。
3日目は午前中のみのスケジュールで、災害拠点病院に関するパネル
ディスカッションで厚生省健康政策局指導課山本課長補佐による明
快な説明で聴衆一同理解を深めたのではないかと思います。山本補
佐のお話は官僚らしからぬ分かりやすい言葉遣いで、当セミナーで
一番意義深かったと個人的には考えております。その後外国人の講
演と病院見学で3日間におよぶセミナーは終了しました。修了証には
大塚敏文先生の名前が入っておりましたが、救急医学会の認定医更
新のクレジットにはまだ算入されていないとの由、早急な対応をお
願いしたいと思っております。
第3回は三重大学千種教授の御世話で名古屋で行われる「予定」で
ある旨アナウンスがありましたが、正式なアナウンスを待ちたいと
思います。
最後に印象。メディカ出版の皆様や関連する先生たちの努力(大変な
ご努力と拝察しております)で非常に充実したセミナーになったと
思っております。自己研鑚投資としての25,000円(救急医学会会員の
参加費)は全然高くないと思いました。
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