抄読会

laryngeal mask airwayを用いた気道内薬物投与

情報提供:愛媛大学麻酔科蘇生科 木村重雄さん
(4/07/97、eml 3239)


The laryngeal mask airway and the tracheal route for drug administration.

Alexander R et al,British Journal of Anaesthesia 78:220-221,1997

はじめに

 欧州蘇生会議は CPR 時に静脈路が確保されてなければ蘇生用の薬剤を気管内投与するべきであると推奨している。しかし,laryngeak mask airway(LMA)が気道確保に使用されていたら薬剤の気管内投与は保証されない。

 Trachojet(Evans Medical,UK)は気管内や気管支内投与のために作製された解剖学的な曲りを持ったプラスチック製のカニューラである。これは注射器の接続のため近位側はロック式で,カニューラが落ち込まないようにわっかが付いている。遠位側の先端には注入液が放射状に広がるように多数の孔が 23cm,25cm,27cm の印と共に開いている。LMA の中に十分挿入すると,Trachojet は LMA の格子から少なくとも 3cm 以上出る。

 今回は Trachojet が LMA の中を盲目的に通過して麻酔中の患者の気管内に入るかどうかを調査した。

方法と結果

 病院の倫理委員会の承諾を得て,Informed consent を100名の患者から得た。

 ASA I〜II の LMA を使用する予定手術患者(18歳以下は除外)を対象とした。

 手術室では,心電図,SpO2,血圧計を装着し,プロポフォール 2mg/kg,フェンタニル 1 μg/kgの静注で導入した。麻酔が喉頭反射を鈍くする位深くなったら,患者の頚を伸展し,LMA を製作者の記述に従って挿入した。もし,LMA が上手く挿入できなかったら,プロポフォールを追加して再度試みた。LMA は十分挿入され,容易に換気ができたら成功とみなした。LMA の挿入は2回以上試みたら困難と判定した。患者は自発呼吸のままで,O2-Isoflurane(2.5〜3%)で麻酔を維持した。少なくとも5分経過してバイタルサインが安定してから,回路をはずし,患者の頚部は伸展したままで Trachojet を LMA の中へできる限り挿入し,ロック式の先端に注射器を接続して空気が吸引できるかどうかを確認した。Trachojet の先端を LMA 内に挿入した気管支ファイバースコープで確認した。これらを取り除き,患者に再び麻酔ガスを吸入させ,GOI で維持した。

 患者の年齢,体重,LMA の大きさ,LMA や Trachojet の挿入が困難かどうか,Trachojet の最終位置が気管内かどうかを記録し,χ2 検定で統計処理を行った。

 100名の患者の平均年齢は47歳(22〜83歳),平均体重は68kg(47〜87kg)だった。Trachojet が気管内へ到達したのはたったの27名だった。12名ではカニューラは格子の孔の後壁に捕まっていた。残りの61名では,43名で食道へ,18名で梨状窩に留まった。

 表1(省略)に LMA の大きさと患者数を載せた。LMA の大きさと LMA や Trachojet の挿入の容易さに相関はみられなかった。吸引試験は先端が LMA 内に留まったものでも陽性であり,指標とはならなかった。

コメント

 以前の報告では,LMA を介しての気管内カニューラの設置の成功率は30〜84%である。失敗率が高いのはカテーテルが硬く,曲がりが少なくて食道へ迷入するためとされている。

 Trachojet は曲がりが自然で,in vitro では LMA 内を滑って前面に出ることが示されている。しかし,今回の生体を使用した実験では成功率は27%で,12%は後壁へ当たり,先に進まなかった。

この結果から,LMA は Trachojet のような器具と一緒に使用するなら,更に改良の余地があると結論した。


抄読会

血中アルコ−ルレベルと心停止

Blood Alcohl Lebel and Cardiac Arrest

(Parke T, et al. Resuscitation 32:1996;199-202)

情報提供:愛媛大学麻酔科蘇生科 A先生(4/14/97、eml 3281)


要 約

 飲酒は致死的不整脈や蘇生の効果を悪くする。ところで今回調査した150例の心停止患者の内、アルコ−ルが検出されたのは49例であり、非飲酒群との間には、不整脈、蘇生の成功率、生存退院などに関して有意な違いは認めなかった。しかし、大量飲酒例は7例と少なく、今回の調査からはその影響ははっきりしなかった。

研究の背景

 大量飲酒者は、そうでない者と比較して虚血性性心疾患(IHD)で突然死することが多く、多くは致死的な心室性不整脈による。ヒトではアルコ−ルによる不整脈の誘発が報告されており、動物実験でも蘇生率の低下が言われている。また飲酒者では、救急車の手配(電話)が遅れがちで、アルコ−ル臭があると居合わせた人も一次救命処置(BLS)をしたがらない傾向がある。そこで心停止患者において、血中アルコ−ルの有無で、不整脈、心停止の原因、救急車のコ−ル、蘇生率に違いがあるかどうか調べた。

 アルコ−ル濃度は来院時の血液サンプルから求め、最終予後は病歴から調べた。

結 果

1)150例が集まり、年令、12−88才(平均68)で、飲酒例49例であった。

      血中アルコ−ル濃度(mmol/l)  0   <2  2−17.3     17.3>
          n            101   25   17     7
2)アルコ−ルの有無による蘇生率には有為差はなかった。

               患者数  脈拍再開    生存入院    生存退院
      アルコ−ル(−) 101  41(40.6)   29(28.7)   13(12.9)
      アルコ−ル(+)  49  22(44.9)   11(22.4)   8(16.3)
       合計 (%)  150  63(42)   40(26.7)  21(14)
3)血中アルコ−ル濃度が 17.3 mmol/l以上の患者では、3人で脈拍が再開したが、生存入院した者はいなかった(患者数が少なく、統計処理はできなかった)。
 蘇生初期の心のリズムによる分類でも、飲酒による蘇生率には差がなかった。

            患者数(飲酒割合) 脈拍再開  生存入院  生存退院
   心室細動(VF)  66 (36%)    50    38    21
   心静止(ASY)  45 (26%)   9     1     0
       EMD   29 (34%)   4     1     0
4)救急車内や救急外来で心停止し、直ちに2次救命処置(ALS)を受けた患者では有為に蘇生率が高かった。しかし立合者の有無や飲酒は蘇生率に影響しなかった。

             患者数(飲酒割合)    生存退院
     直ちにALS   24(29.2%)    9(37.5%)
     立合者  有      92(33.7%)   12(9.5%) ** p<0.001
     立合者 無    34(32.4%)
5)BLSは心搏再開には影響しなかったが、生存退院率を上げた。飲酒は蘇生の結果に影響しなかった。

                   心搏再開率(%) 生存退院率(%)
     BLS 有    44     45.5     18.2
     BLS 無    82     36.6      4.9 * p<0.02
6)Call response times (ambulance call to arrival) は117例で得られ、CRTの短い者では、蘇生率が良かったが、飲酒による影響は認めなかった。

      CRT        飲酒割合     心搏再開       生存退院
      6分以内   41 12(29.3%)  22(53.7%)   9(22.0%)
      6分以上   76 28(36.8%)  24(31.6%)*  2(2.6%)** 
討 論

 この研究から、心停止後の予後が良い因子として、心停止時のリズムが心室細動(VF)である、医療従事者が居る、立合者によるBLS、6分以内のALS開始があげられる。飲酒に関わらず、不整脈の種類、立合者の有無、BLSの開始、CRTには違いが無く、少量のアルコ−ルは蘇生そのものには影響しないように思われる。しかし大量飲酒では、重篤な不整脈が報告されており、BLSも躊躇され、蘇生率も低下する(動物実験)ことが多い。

 今回調査した患者の90%では、心疾患が直接原因であり、アルコ−ルの有無は心停止に影響していなかった。しかし、血中アルコ−ルが高値のものでは、低体温などの非心原性の病態が関与してくる可能性がある。

 *参考:日本人のアルコ−ル消失率:110 mg/kg/h。飲酒(毎日純アルコ−ル34g=日本酒1.5合以上)により脳卒中や循環器疾患での死亡率は上昇するが、IHDによる死亡率は低下する。中年では禁酒により、むしろ高血圧、脳卒中が増加する(日本医師会雑誌より)。

               


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