目 次
阪神淡路大震災より2年近くが経過し,今後のわが国の災害医療体制の確立を自ら
の試練ととらえたさまざまな分野の専門家が今回も多く集まった.参加者層は医師・
ナース・消防・自衛官・行政・企業・ボランティアなど多岐にわたる.
シンポジウムは「集団災害として考えるO-157」「集団災害と情報・通信」の2題
,一般演題が28題,特別・招待講演として海外から4題とさらにJICAによるCountry
Reportの11演題が発表された.
震災を機に,わが国でも災害医療にかかわるさまざまな研究・訓練・派遣救助活
動などの模索が活発化している.今回の研究会では,ここ1〜2年間に実行・構想され
てきた数多くの取り組みについて種々の興味深い経過報告がなされ,その検証が行わ
れた.
演題4:「医療施設などにおける大規模災害対策訓練についての一提言−自衛隊の訓
練ノウハウをモデルとして−」(防衛庁防衛研究所 小村隆史氏)では,各地で様々
な形で行われている防災訓について「訓練というより予め決められたシナリオに沿っ
たショーである」という指摘があった.小村氏は訓練の目的とは「時々刻々と変化す
る状況にどう対処するかを判断する」ことにあると述べ,具体的な実践法について持
論を展開した.大がかりで本格的な訓練までいかなくとも,少人数での机上における
「判断」を問う訓練というものにも目を向けて訓練の本質を議論する必要性を説いた
.これに対し会場からは「現実的には,今の縦割り行政において訓練で関係機関全体
をイメージ把握することは困難では?」という指摘があった.小村氏は「現状では制
度に頼らず人間的な疎通・連携を図るしかない」とコメント.体制がはらむ問題点を
再認識する一方で,「個」として人が持ち得る柔軟性と明るさに心強さを感じた.
演題27:「阪神淡路大震災被災者におけるPTSDについて」(兵庫医科大学精神科神
経科 湖海正尋氏)では,調査・分析の結果日本でも自然災害被災者についてPTSDが
疾患単位で存在しうることが確認されたと報告.しかし海外でのハイリスクサンプル
と比較して有病率が著しく低く,その原因に日本の社会構造の安定度(犯罪・戦争・
飢餓・貧困の低頻度)や精神科受診の敷居の高さなどの相違が示唆された.会場から
は,上記の背景を含め心の傷をうまく形にできない日本人の性質を認識したうえで,
「待ちの姿勢」にとどまらず積極的な姿勢で精神科的アプローチを行っていく必要性
があるとの指摘があった.
演題28:「バングラディシュ竜巻災害におけるJMTDRとしての看護活動の検討」(大
阪府立千里救命救急センター 西田直美氏)では,今年5月にバングラディシュへ国
際救急援助隊医療チームとして派遣された経験について,看護婦の立場から報告があ
った.とくに医師らを含む医療チームの役割分担と創傷処置のマニュアル化などが有
効に活用され,トリアージや創処置などナース独自に行動できる機会が得られたこと
が成果にあげられた.
演題21:「放射線災害時の医療のポイント」(三菱重工神戸病院外科 衣笠達也氏
)においては,もっとも身近かつ深刻な人為災害の可能性が存在しながら,これまで
まったく議論されてこなかった放射線災害の問題提起が初めて公の場でなされたとい
える.演者は国の原子力緊急対策委員会のメンバーであり,そこからこういう形での
語りかけが行われたことは前向きに評価すべきであると同時に,原子力エネルギー利
用の安全性にかんする当事者たちの認識に変化が現れた点を,われわれは見逃しては
ならない.
(次回開催は1997年11月4・5日東京にて.会長は日本医科大学千葉北総病院
山本保博氏)
(1996.11.12・13. 編集部・村上)はじめに
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