目 次
当初,インターネット上での情報交換は,主にネットニュースを通じて,行なわれ
ました.(この目的のために,震災の翌日にはfj.misc.earthquake という臨時の
ニュースグループが作成されました)。また,既存のメイリングリストを急遽
転用して,緊急の議論が行なわれた所もありました.
そこでは,下記のように,もう,この社会における,ありとあらゆる問題への対応
の必要が指摘,報告され,対応結果の検討,新たな問題等が議論されていました.
例えば,まず各地の被害状況の報告,そのまとめ,いわゆる安否情報の問い合せや
情報提供から始まって,電話の状況,交通の問題,緊急医療体制や消防、自衛隊、
政府の対応、マスコミ報道の問題、電気や水などの状況、物流管理、救援物資の
活用、ライフライン復旧、お風呂の情報,トイレの問題、避難所運営、ボランティア
情報,ボランティア報告,被災地からの各種問い合せと回答,避難所情報,行政と
ボランティアの問題、地域社会と学校、教育と受験の情報、高齢者、障害者、
外国人、子供ら社会的弱者の問題、こころのケアの問題、ペットの問題、
義援金と見舞金、仮設住宅と避難所解消、マンションや家屋の再建の情報,
都市計画の議論、交通の復旧、経済再建と職探しの情報、被災現地への支援
の考え方の問題の議論,大学関係者や専門家の対応、そして海外への対応などです。
これらの情報を提供し,情報交換が出来た人々は,当時からすでにインターネット
を日常的に使っていた人々で,大学の理工系や研究所の研究者,大企業の技術系
社員が主体であったとおもいます。
誰に対してか,というと,当初は,自ずと,これらの情報を自由に読み書き
出来る人の内部に限られていました。しかし,これを読める人は,それが
一般の多くの人にも有用な情報であることは分かっていたので,そのうちに
これらの情報を,被災現地で被害が少なかった所でコピー,あるいは編集して,
紙にして(あるいはファイルにして)必要と思われる所へ持って行く,という
活動も行なわれるようになりました.あるいは,ボランティアに出掛けた人が,
ついでに,情報のまとめを印刷して現地へ届けて喜ばれたということも聞いて
います.しかしそのうちに,(当初不足していた)情報も次第に現地に届く様
になり,マスコミの情報提供も改善され,行政情報の提供も始まりました。
そうすると,情報の更新や情報整理,情報検索の方が重要に成ってきた事は
言う迄もありません.
また,ある段階からは,いくつかの情報ボランティア・グループでは,その
グループ内で,インターネットのいわゆるメイリング・リスト(ML)が
活用されるようになりました.
そうすると,そのMLメンバーのグループの外へは,情報があまり出て行かない,
ということにもなりました.しかし,人数で言うと,MLに参加していない人々
の方が多いので,ネットニュースの活用はその後も継続し,それは現在でも続い
ています。
どのメディアも,その特徴を最大限に生かし,極限まで活用されたと思います,
例えばWEBは,当初から1ケ月程の間に,合計30サイトくらい,立ち上がり
ました。その数は,実は現在も増え続けています。検索エンジンで見てみると
わかりますが(例えば,阪神大震災とか,阪神淡路大震災,というキーワードで,
調べてみてください),今では,もう数百サイトも出来ているようです。
また,メイルでは,MLの場合ですが,WNN(World NGO Network) のML等は
非常に活発で,1日平均30通くらいも飛び交い,2年近くの間にすでに合計
約1万通の情報が交換されています.
NetNewsでは,最初の3ヶ月間に,約2000通ほどの情報交換がされました.
よく,自分が欲しい情報は少なかった,という不満を聞きますが,災害への社会の
対応という観点から見れば,大災害時の問題というのは,今の社会の在り方の
問題点を教えてくれているわけです.またそれは,今後の社会の在り方や,
我々の文化の在り方そのものへの反省の過程でもあるわけです。そこからは,
実に多くの教訓を学ぶことも出来ます。そういう見方をすると,どれも
貴重な情報や意見であると,私は思いました.
完全な誤報対策は,ないだろう,むしろ,情報を受け取る側に,判断能力を
求めたいと,私は思います.
情報を元に動く時,その情報の信頼性を判断する能力,あるいは確認する要領
というのも,異常事態を生きる力ではないか,とさえ思うくらいです.
今回,日本海で発生した重油災害でも,公的機関の情報に当初誤報があった
こともあるくらいですから,恐らく,誤報を完全に避けることは不可能でしょう。
誤報を恐れるあまり,慎重に成りすぎて畏縮し,情報をタイムリーに出せないと
すると,それをむしろ,私は残念に思います.
多くの人は,非常災害時には人間の善意を信じて,相互の信頼関係を基礎にして,
動くものだと思います.そういう事態での心構えとしては,たとえ後で誤報である
と分かっても,まず,怒らない.(例えば,開いているはずのお風呂が閉まって
いても,文句を言うのではなく,情報を出し合う,というスタンスで,連絡する)。
あるいは,「誤報」の可能性を常に,念頭に置く.そして,出来るだけ,その情報源
がどこか,ということを,確認して行動する,等でしょうか?
情報を出す側としては,やはりニュースソース,その責任主体の連絡先,
情報の賞味期限,等を忘れずに書く事,くらいでしょうか?
デマについては,行政やマスコミに対応してもらうのが,いいように思います.
そのための,住民による監視や苦情受け付の窓口,「目安箱」のような投稿口,
等を,行政やマスコミは,明記して設けておき,そういう仕組みがあることを周知
しておくことが大事ではないでしょうか?
誰でも参加出来ます。もちろん,情報通信(インターネット利用)の基本的な技術
やネット上での情報リテラシー,コミュニケーションのマナー等は必要ですが,
それは誰でも,慣れることで,学んでいると思います。リテラシーについては時間を
掛けないと分からない事も多いですが,最近は,ネット上のマナーやルールに
ついても,よくまとめられた資料が(ネット上にも)ありますから,今では,
かなり短時間で,慣れるのではないか,とおもいます.
また,逆に失敗をしないとわからないことも多いですから,どんどん参加して,
しかもいいネットに参加して,その現場で学んで行くことを薦めたいと思います.
ボランティア精神というのは,なにかが必要なことが分かった時,たとえ自分一人
でもやる,というだけのことだと思います.ですから誰でも日常的に行っている
ことの延長だと思います。
参加の仕方ですが,例えば我々の mailing-list に参加を希望されるなら,
ngo@center.osaka-u.ac.jp に宛てて,メイルを下さい。
とても有効だった,という評価は,「それが使えた人には」という条件を
付ける必要があると思います。
平成7年度と8年度の「防災白書」というのを見ますと,ほとんど全ての省庁で,
防災にインターネット等の情報技術を活用しようとしていることがわかります.
例えば通産省では,「災害対応総合情報ネットワークシステム」という名称で,
兵庫県がモデルとなり,県内の4市町(三木市,宝塚市,淡路島の洲本市,
五色町)に,行政系のインターネット整備と市民による平常時におけるネット
利用の実験的な試みが始まっています。
その検討委員会の報告書は, http://www.nmda.or.jp/nmda/saigai/ に
出ています.
このシステムは,兵庫県においては,フェニックス防災システムと呼ばれ,
WEB上では,ここで,その概要を見る事が出来ます:
兵庫県では,1997年1月24日に,防災情報フォーラムも企画されています。
その案内は,http://web.pref.hyogo.jp/jouhou_f/index.htm にあります.
兵庫県三木市のシステムについては,ここで見られます:
三木市内(人口8万人)の唯一の大学である関西女学院短大のコンピュータクラ
ブの学生さんたちが,そこの山下先生,松本先生らのご協力も得て,情報ボラン
ティアで作られたページもあります:
洲本市については,ここで,経過を見られます:
郵政省や,運輸省,厚生省など,それぞれ特色あるシステムが出来つつあります。
私の希望としては,マスコミも,こういうシステムの発展にもっと注目し,報道や
評価をすべきではないかと思います.
まず,東京がやられても大丈夫なように,機能分散をハードにおいても,
また組織のソフト面においても,真面目に考える必要があるのでは
ないでしょうか? コストもかかるでしょうが,危険分散という意味では
色々なメリットもあるのではないでしょうか?
また,地方でも中央でも,今,大震災が起こったら,WWWでの情報提供は,
その現地では,やらない(回線が細すぎて事実上,すぐにパンクして出来ないでしょ
う),ということを,考えるべきだとおもいます.
つまり,全国各地で最近流行のWWWでの情報提供は,事実上,使えないという
ことです.つまり,せっかく大災害に強いインターネットでも,使えるのは,
おそらくメイリングリストやネットニュースのような,文字ベースでの情報提供
や情報整理が主体になるだろう,ということです.しかし,そういう観点から,
文字情報での,広域のインターネット利用を,積極的に行っている自治体も行政も
少ないのではないでしょうか?
自治体での電子ネット利用としては,自治体によるパソコン通信も
盛んのようですが,インターネットについても,WWWだけに目を奪われる
ことなく,電子的なメリットを生かした情報交換の基本に立ち戻り,もっと,
電子メイルでのmailing-listの利用や,ネットニュース等,文字情報の
情報交換のシステムの利活用の経験を積んで頂きたいものだと思います.
それが,普段の情報交流の道具に成り切っていないと,いざという肝心の時に
メイルもニュースも使えない事は,明らかです。そのためには,行政の方々も,
もっと,私はこう思う,ということを,もっと発言するといいのかもしれません.
そうすると,情報交換が楽しくなります。仕事にからむと難しいかとおもいますが.
そういう意味では,防災の話題,というのは,社会のあらゆる人の立場を越えた,
共通の話題であるとも言えますから,適当な話題ではないでしょうか(笑)?
実際に,歴史的な大地震のあとの報告書の中には,そういう点に触れている
ものもあります.
ニュースグループには,災害時でないとあまり情報が流れないですが,
上で紹介した,fj.misc.earthquake というものがあります.これは,
阪神淡路大震災を契機に自主的に作成され,現在も維持管理されているものです.
また,fj 以外では,tnn.interv.saigai.lifeline等というグループが
幾つかに別れて用意されています.これには,大災害の時等に,パソコン通信の
大手各社も協力することになっています.これには慶応大学のVCOMプロジェクト
の金子郁容先生らも協力されています。
WEBページとしては,情報ボランティアのページなら,
また,震災等のWEB情報の全般については,是非とも,検索エンジンで
調べてみて下さい。初期のものから最新のものまで,非常に数が増えている
ことがわかります。また積極的に情報提供をされている方々の自主的な努力には
感銘を受けます.
インターネットというのは,よく,コンピュータの「ネットワークのネットワーク
です」という言い方がされますが,実際に使っていて,繋がっていると感じられる
ものは人間のつながり,ですよね.人間関係というのは,誰にとっても,その人の
財産の一つですが,そういう人間関係というのは,ビジネスでも何でも,社会活動
の基本となります.そういう意味で,インターネットで繋がれるものは,コン
ピュータではなくて,ヒューマンネットワークなのですね.
そういう意味での人間関係という財産を,インターネットという広域の繋がり
を生かした繋がれ方によって,誰でも,いくらでも増やして行くことも出来る
わけです。それは,インターネットの持つ特性(時間的,空間的,社会的な制約
を越える,という本来的な特性)によっていますから,誰にとっても,非常に
自然に,それが行なわれていると思います。
これが一人ひとりにとってメリットであると感じられるなら,インターネット的
な繋がり方,というのは,今後の社会においても,広く歓迎され,生かされて行く
ことになるとおもいます.
社会の発展に伴って,様々な組織が次第に複雑になっていくと,どうしても,
人間のつながりが間接的になり,つまらないものになります.現代社会の抱える
問題の一つですよね.これが,ある程度は解消できるかもしれません.といっても,
これは,手紙や電話が果たしている役割に,即時性や広域性,蓄積性と同報性等を
持たせた程度であり,特に新しくはないとも言えます.コミュニケーションのため
のメディアの発達に伴う,新しい文化状況の出現としては,我々はすでに経験して
いる,ということも言えるかもしれません.
テレビ等の受け身の(双方向性に乏しい)メディアに比べると,ネット利用は,
利用者に主体性を要求しますが,それは,メディアのレベルアップにも寄与
出来ると思います.ネット中毒の指摘については,テレビ中毒の弊害と共に,
メディアとの付き合い方の問題だと言えるのではないでしょうか? むしろ,
はまる位に面白くないと,広く使われないと思います。
広く使われることによって,どんどん良くなりますので,それは大事なこと
ですよね.読書文化でも,一度は,はまらないと,その良さも問題点も
理解できないのではないでしょうか?そして最終的には,複数のメディアが
共存すると思います。何事も,ちょっと距離を置いて付き合うことが出来れば,
心配することはないと思います.
Q1:
災害時のネットワークでの情報活動は,2年前の阪神淡路大震災のときに
インターネットをはじめとしたコンピュータ通信網が大活躍したと聞いています。
具体的には,どんな情報がどんな人々によって,誰に対してフィードされたのでしょ
うか。Q2:
また,Webやメール,NetNewsなどのメディアがありますが,
どのメディアが最も活発だったのでしょうか。Q3:
震災のもたらす異常事態は多くの人に精神的ストレスをもたらし,
やはりある程度のパニックを想定しなければなりませんが,
そうした中で情報の信憑性を確保するにはどんなノウハウがあるのでしょう。
つまり,誤報対策やデマ対策などの具体的な方法です。Q4:
水野先生はボランティアの立場からこうした活動をされたと伺って
いますが,こうしたボランティアは誰もが参加できるのでしょうか。
また,参加するにはどうしたらよいのでしょうか。Q5:
震災の後,ネットワークを通じた情報活動がとても有効だった
ことから,国や公共団体も注目しました。現在は,国や公共団体
はどんな活動を行っているのでしょうか。
http://web.pref.hyogo.jp/syoubou/phoe/index.htm
http://www.city.miki.hyogo.jp/profile/bosai01.htm
http://www1.meshnet.or.jp/~miki-kjc/
http://www.awaji-is.or.jp/uomasu/gyoho.html
今年の1月16日には、最後のシステムである五色町のシステムが稼働を始める
予定になっているそうです.Q6:
たとえば,今の日本のネットは,アメリカほど冗長性がなく
どこかのNOCやハブがやられると情報網が分断されてしまうような問題
があります。震災情報活動のうえで,インターネットにこうあって欲しいとか,
ユーザの望ましい振るまいがあると思いますが,お聞かせいただけません
でしょうか。Q7:
震災や震災に関連するサイトで,ご紹介いただけるNewsgroupや,
Webページがあれば教えてください。
http://www.ntt.co.jp/mirror/shinsai/home.html
http://www.osaka-u.ac.jp/ymca-os/
http://www1.meshnet.or.jp/~volanet/
http://www1.meshnet.or.jp/~vag/index.html
等がいいのではないでしょうか?Q8:
最後に,水野先生自身の「インターネット観」をお聞かせください。
gochi@hypnos.m.ehime-u.ac.jp までご意見や情報をお寄せ下さい。