主張・解説・論説

「災害時の医療救護に関する協定」について

愛媛県医師会常任理事 貞本和彦

(愛媛県医師会報 1996年、5月号・通巻第716号)


 今度,愛媛県医師会(以下県医師会と略す)は愛媛県,各市町村と3者が「災害時の医療救護に関する協定」で合意し,去る1月31日愛媛県庁番町クラブにおいて記者発表を行った。会見には,県医師会から村上郁夫会長,小生,中矢良一理事,愛媛県側から高橋弘保健環境部長,露口富勝地域医療課長らが出席した。ふり返ってみると,昨年2月に県医師会災害救護医療対策委員会が発足してから,第95回定例代議員会や行政との接渉,行政はまた各市町村との接渉を行って今回の合意にいたったものである。愛媛県知事,各市町村長と県医師会長の 3者が締結した「災害時の医療救護に関する協定」の概要は次のようなものである。

 1.協定の目的:あらかじめ愛媛県と市町村と県医師会が協定を締結しておくことにより,災害救助法の適用の有無にかかわらず,災害発生時には,県知事や市町村長から要請があれば,県医師会は全ての市町村に救護班を派遣することができるようにする。

 2.協定の主内容:県医師会はこのための救護計画を策定する。愛媛県と市町村は,地域防災計画により県医師会に救護班の派遣を要請する。この要請に対して,県医師会は救護班を派遣するほか,自主的判断で救護班を派遣することができる。救護班業務に関する規定,医療スタッフの災害補償(災害救助法の規定に準ずる),費用の弁償(災害救助法に準ずる)などが規定されている。その他主な項目を列挙すると次のようになる。

 3.費用の負担:愛媛県または市町村が,医療費および救護班派遣に要する旅費,日当などは負担する(災害救助法適用時は愛媛県が,同法適用外は市町村が)。

 4.救護班スタッフの負傷その他の扶助金:災害救助法適用時には,同法29条により愛媛県が療養扶助金,休業扶助金,障害扶助金,遺族扶助金などを支給する。同法適用外時は,各市町村は本協定にもとづき災害救助法の定める内容と同様の措置をとる。

 5.すでに(またはこれから)郡市医師会と市町村(事務組合も含む)が締結している(またはこれからする)協定の取り扱い:現在県内では,5つの郡市医師会が市町村(事務組合)と協定を締結している。これらの締結については,今回の協定に優先するものである。また今回の協定締結日(平成8年2月1日)以降,郡市医師会と市町村(事務組合)とが締結する協定についても同様であることを明記しておきたい。

 以上が今回締結した協定の基本内容である。この協定の最大特色は,何んと言っても全県的に広域的な医療救護体制を確立するために,愛媛県知事と県下70市町村長と県医師会長の3者が協定の当事者とした所である。しかもその底流には,3者ともに,平成7年1月に突然発生したあの阪神・淡路大震災の悲惨な災害の教訓があったことはいなめない。

 今回の協定締結に関しては,費用弁償,災害補償,派遣スタッフの身分保障,救護活動中に発生した医療事故などの取り扱い…について,まだまだ十分に整備されたものではない。不十分な問題に関しては,今後とも時間をかけながら行政と協議していく予定である。本協定のもとづいた「県医師会医療救護計画」は,イ)救護班の編成計画,ロ)救護班の医療救護活動計画,ハ)郡市医師会その他関係機関との連絡体制,ニ)医療救護訓練計画,ホ)その他などからなっている。すでに本計画にもとづいた各郡市医師会の医療救護班の編成も出来上った所である。まだまだ各論においては問題を残しているが,各郡市医師会の諸先生方には,今後とも心からご協力ご援助をお願いするしだいである。


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