DISASTER MEDICINE

Application for the Immediate Management and Triage of Civilian and Military Disaster Victims

Burcle FM Jr, Sanner PH and Wolcott BW

翻訳・青野 允、谷 壮吉、森 秀麿、中村紘一郎

(情報開発研究所、東京、1985)


17.小児における災害

Frederick M Burcle, M.D., M.P.H


はじめに

 災害に関する書物で特に小児の犠牲者について注意して言及している ものはほとんどない.重症児のブレホスピタルケアについて,緊急医療 サービス条例やそれによる計画などでもほとんど注意がはらわれてい ない1).二次救命処置(advanced cardiac lifesupport; ACLS)や二次外 傷救命処置(advanced trauma life support; ATLS)は,成人について の処置がおもに強調されている2), 3).病院や社会でのトリアージ演習とか災 害訓練などは,しばしば成人の災害に対しては方向づけがされている. しかしながら,自然災害にしろ人為災害にしろ子供を除外して起きるも のではない.災害医学での大きな悲劇の一つは,何も知らない子供の犠 牲者の不幸な鐘の音をまのあたりに聞くことである.

 災害救助に参加する健康管理従事者は,たまたま小児外傷(そのうちの わずかは多発外傷であるが)をみたことがあるとしてやってくる.ベトナ ム戦争で小児をみた医師は,兵器によって性の区別も年齢の区別もでき なくなった子供が多いことを立証している.外国での被災あるいは災害 に関連する看護から戻った医師は次のように述べている.“小児の知識と 小児蘇生法について知識があればもっとよい治療ができるであろう”と.

 本稿では,災害時の小児被災者のトリアージと多発外傷について,必 要とされる実際的な技術についての注意を述べた.


A.低循環血液量

1)徴候と症状

 低血圧の徴候は年齢と関係なく,冷たくてじっとりした皮膚,弱い脈, 虚弱,疲労,口渇,眩暈そして末梢血管充満不全などである.ショック の初期症状である精神障害がしばしば小児では容易に見逃される.なぜ なら,恐怖にかられた行動として見過ごしてしまうからである.災害後 遺症をもった小児は,周囲の出来事に圧倒されてしまってしばしば何も 表にださないほどおとなしくなる.興奮してあばれまわる子供は精神状 態が変化しつつあることを示している.

2)血 圧

 小児での血圧は年齢によって変動する.血圧計のカフの幅は小児の上 腕の 1/2〜 3/4でなければならない.

a)著明な血圧低下

  1. 6歳以下二収縮期圧は60 mmHg以下
  2. 6歳以上:収縮期圧は70 mmHg以下4)

b)年齢と血圧の関係

 年齢と血圧との関係を決めるときに使用される式は,正常では次のご とくである.

  収縮期圧(mmHg)=80+2×年齢(歳)
  拡張期圧(mmHg)=2/3×収縮期圧

3)治療

a)基本的治療

 蘇生のABC,頚部カラー,背板,副木や出血対策などが基本である. 小児の蘇生法については,本稿「B.蘇生における落とし穴」で述べる.

b)ショックバンツ  ショックバンツ(MAST)は,わすかの出血で低血圧となってしまうよ うな小児の低容量性ショックには重要である.

 ショックバンツは次のような作用をもっている.

  1. 十分な血圧を維持するために末梢血管抵抗を増加させる.
  2. 2分以内に全血流量の 1/10〜1/5を中心循環に引き戻す4)
  3. 直接的圧迫作用で出血を抑制する.
  4. 静脈を充満させるため,頚静脈諭液を行うときに血管がよくわかり, カ二ューレをいれやすい.

 災害状況下で,小児用ショックパンツがないときには,小児の両肢を ともに成人用のショックパンツの片足にいれる.ズボンの足は片方ずつ 加圧ができるので,一つの成人用パンツで2人の子供に利用できる.第 二の子供の両足をパンツの残りの片足に反対側(末梢側)からいれる.こ の方法は,明らかに助けなければならず,しかも死の危険性の高いとき に,一時的ではあるが生命維持の手段として用いうる.

c)群力包帯と空気副子

 エースの弾力包帯や空気副子(成人用上肢空気副子は小児の下肢にちょ うどよい)などを使用して足を垂直にすると,生命維持が可能な血液量を 中心循環へ移動させることになり,末梢血管抵抗を維持できる.

d)輸液と輸血

  1. 正常な血液量を80〜90 ml/kgと仮定する.25kgの小児を基準とし て次の式を使う.

     I度出血=15%以上=300 ml
     II度出血=20〜25%=400〜700 ml
     III度出血=30〜35%=600〜700 ml
     IV度出血=40〜45%=800〜1,000 ml

     III度とIV度は蘇生するには晶質液と血液の両方が必要である4)

  2. 代償機構が働くために,早期のあるいはショック直前状態の判定は 困難である.災害状況のもとでは討論や相談する時間はほとんどない. 早期にショックが疑われたときには,10 ml/kgの生理食塩水か乳酸加リ ンゲル液の投与を早く開始すべきである.症状が改善されないときには 10 ml/kgを繰り返す.診断はそれからつければよい.

  3. 患者がショックと認められたら,乳酸加リンゲル液か生理食塩水の 15〜20 ml/kgを15〜30分かけて(新生児は45〜60分かけて)投与する5).患者によっては,治療まえの安定状態が得られるまでに最初の1時間に35〜40 ml/kgを必要とする6).ショックの徴候が続くならば5%アルブミン10 ml/kgを45分以上かけて投与する7).あるいは交差血20 ml/kg,ま たはブラスマかプラスマネート10〜20 ml/kgを20〜30分以上かけて投 与する.血液はできるだけ太い針(18G以上が好ましい)で投与する.幼 児ではこれは不可能かもしれない.全血は21Gの針ならば溶血せずに行 うことができる8).太い血管のない場合や幼児では,細い針でも少量の血 液と生理食塩水を混合して投与する(強制的にいれてはならない)ことが すすめるれる.経骨髄注入で生命を助けられるかもしれない.

  4. 輸液負荷をしたあと,蘇生には5%グルコース入りの乳酸加リンゲ ル液を維持として2〜3回投与する.外傷を受けていない場合には排尿が ありしだいできるだけ早く5〜10 mEqのカリウムを500mlのなかに混ぜ る6).多発外傷では組織から大量のカリウムが放出されるので注意が必要である.

  5. 小児は尿量が十分でれば(1時間当たり最低lml/kg)手術室に運ばな ければならない.理想的には尿比重が1.020以下(乳児では1.015以下)に なるまで待つのがよい6)

  6. 重症ショックの小児で4〜10時間の無尿がある場合(長時間の絞腕の のちのような)には,最初の輸液は5%アルブミン 10 ml/kgを30分以上 かけて行い,そのあとで生理食塩水を1時間に25〜30ml/kg投与する6).水分の摂取と排他を厳密に記録し,頻回に心電図をとり,血清カリウム, カルシウムを測定する.

  7. 維持輸液量は表II-7のように簡素化する9)

表II-7 輸液の必要量

体重必要輸液量
2.5〜10 kg100 ml/kg
10〜20 kg1,000 ml + 10kg超えるごとに 50 ml/kg
20 kg以上1,500 ml + 20kg超えるごとに 20 ml/kg

e)補助薬剤(低循環血液量によらないショック)

 (1)ドバミン

5%グルコース250mlに200 mgを混ぜる.1〜5μg/kg/minで開始する.

 (2)イソプロテレノール

5%グルコース250 mlにlmgを混ぜる.0.1μg/kg/minで開始し, 効果がでるまで増やしていく.


B.蘇生における落とし穴

1)小児蘇生法と成人蘇生法の相違点

 小児蘇生法を詳しく述べるよりも,むしろここでは小児蘇生法が成人 の蘇生法とどれだけ違うかに絞って考える.

a)症状

 小児の心停止は心臓が原因である場合はまれである.したがって,不 整派はあまりない.徐脈は血圧低下でみられ,心電図と機能の解離がみ られれば心タンポナーデに注意する.

b)薬剤,除紬動の量

 薬剤の量,除細動のエネルギーは表II-8に示す体重を参考に決める.

表II-8 体重の見積表

年齢体重
1歳10 kg
3歳15 kg
5歳20 kg
8歳25 kg
10歳30 kg

c)通常使用される薬剤

  1. 重炭酸ナトリウム:2mEq/kg
  2. エピネフリン(1:10,000):0.01 mg/kg=0.1 ml/kg= 1 ml/10kg
  3. アトロピン:0.03mg/kg
  4. リドカイン:lmg/kg
  5. ブレチリウム:5mg/kg
  6. 塩化カルシウム(10%溶液):0.2 ml/kg
  7. デカドロン:0.5 mg/kg
  8. マンニトール: 1 g/kg
  9. 除細動:2〜3 watt-sec(joul)/kg

d)気道確保

  1. 頚の過伸展を避ける.過伸展は,5歳以下の幼児では輪状軟骨部の気 道を狭くする.

  2. 気道内あるいは経鼻による挿管は経験のない人には困難である.バ ッグマスクバルブによる換気は成人では十分には行えないかもしれない が,小児では十分な換気を行うことができる.

  3. 気管内チューブの太さは第5指の末節骨か外鼻孔の大きさで決める.

  4. 乳児で一般的に使えるチューブは3.5mmである.

  5. 8歳以下の小児ではカフのないチューブを使用する.

  6. 食道閉鎖式エアウエイは16歳以下の子供では適応とならない.


C.胸部,腹部の外傷

 小児での胸部外傷の評価は成人でみられるものと同じである.気胸, 血胸は胸腔ドレナージが必要である.気胸は,小児では,理学的検査で 呼吸音が正常側から縦隔を横切って聞こえるために判断できないかもし れない.

 胸腔チューブは未熟児では8〜10フレンチサイズ,青年期では28フレ ンチサイズである10).位置は腋窩線で第5肋間である.前方アプローチは避ける.特に小児では大きな胸腺が上縦隔まで広がっている. 胸腔チューブから2時間連続して 3〜5 ml/kg/h以上,または4〜6時 間以上で 1.5 ml/kg/hの出血の場合には開胸が必要である11)

 肝は小児では大きくて非常にもろい.肝や隅の裂傷は肋骨骨折がなく ても起きる.小児のしなやかな肋骨は通常は折れにくい.


D.頭部外傷

 脳圧の亢進をさげるのに過換気は最も早い方法である。18〜21回/min の過換気は,炭酸ガス分圧を24〜28 mmHgにする.換気回数が適正かど うかを,可能ならば血液ガスでチェックすること.

 マンニトール1g/kgに先立ってフロセミド(ラシックスR)lmg/kgを投 与することは,マンニトール単独投与時にみられる一時的な脳圧上昇を 予防できるし,また速く脳圧をさげることができる。水分の摂取と排泄 や電解質バランスを厳格に注意することが必要である。マンニト一ルで 起きる肺水腫に注意する.小児の頭部外傷では肺水腰でなくて充血を起 こす.CTスキャンによって臨床的鑑別が可能になる12)

 頭部を45度にあげると脳圧を7〜13 mmHgさげることができる。

 分泌物の吸引によって脳圧は30 mmHgまで上昇する。


E.整形外科的外傷

 軟骨性骨端および骨膜が厚いために,小児の骨は損傷に対して抵抗が 強い.X線ではっきりしなくても骨折が存在することがある。触診や重量 負荷で痛みを感じたときには骨折があるものとして、適当なシ一ネを使 って治療しなければならない.

 地震による災害で圧迫損傷から生き残った多くの小児についての記録 が残されている.X線ではほとんど認められないけれども、多くの外層 骨折がある可能性がある.軟部組織や筋肉の広範な損傷は、逆にはっき り回復の徴候があったとしても,急性腎不全の危険性がある。腫脹が予 期されるときには四肢にギプスを巻かず副木を当てる。末梢側の神経血 管の頻回のチェックを怠ってはいけない.早期の高カリウム血症は緊急 の注意を必要とする.緊急の血液透析を考慮する。

 災害時に一群の外傷や治療の遅れがはっきりしている場合には,壊疽やDICが治療をおびやかすであろう.DICの最もよい治療方針にはいろ いろ議論のあるところである.新鮮血,凍結血漿(10〜15mg/kg)や血小 板,凝固因子の濃縮液が解決法となる.災害状態のもとでは濃縮液の利 用には限界がある.出血があり,緊急を要するならば開始量100単位/kg のへパリン静注14)が試みられる.


F.熱傷

 泣き叫ぶ小児では,深く呼吸をするために,煙や化学物質のガスをは じめに吸い込むことが最も有害となる.成人と同じように熱による曝露 から肺水腫にいたる間に時間的ずれがある.鼻や眉や顔面の毛はまばら なために,焦げた毛と気道熱傷の診断を結びつけるわけにはいかない. 気道熱傷は緊急の気道内挿管を必要とする.小児はすべて24〜48時間入 院させておかなければならない.

 小児では熱傷の深さの判定が困難である.通常,成人では表層である と考えられる熱傷が,小児では全層,あるいはそこまで進行するもので ある.

 熱傷の面積は次のようにして決める15)

  1. 頭:19%(9歳までは1歳ごとに1%ずつ減ずる)
  2. 躯幹後面:18%
  3. 躯幹前面および会陰:18%
  4. 上肢:9%
  5. 下肢:13%(15歳までは1歳ごとに各肢に0.5%を加える)

 小児への補液治療は,
   3 ml ×%BSA×体重kg
を基準として,はじめ8時間で半分を行う.残りを次の16時間で維持量 を加えて行う03)


G.小児災害のトリアージ

 野外状況では,成人でのトリアージと同様の一般的原則が小児にも適 用される.

 病院設備がある場所では,緊急の小児被災者はただちに救急センター へ運ぶ.他の小児被災者は小児科へ運ぶ.そこでは小児科医と小児看護 に精通した看護婦によって症状の安定化と評価を続いて行う.傷害を受 けていないで泣いている子供は行方不明になりやすい.

 大災害状況下ではすべての医師は医療にかかりきりになっているが, 小児科医や一般医は次に示すような管理について特別な関心をもたなけ ればならない16)

  1. 長時間にわたって動けない人や多発外傷者に対する栄養や電解質の 必要性

  2. 血液や血液製剤の準備

  3. 圧砕による高カリウム血症や腎不全に対するトリアージ,早期の認 識や治療

  4. 外傷や煙吸入による進行性低酸素性呼吸不全や肺水腫の治療

  5. 汚染した傷や外傷の合併症からくる敗血症の治療,すなわち肺敗血 症(pulmonary sepsis)の治療

  6. 体温下降や体温上昇の治療

 公衆衛生基準によって,小児科医は伝染性疾患について,それを予想 し,処理するようなトリアージを行うこと.


引用文歓

  1. Holbrook PE: Prehospital care of critically ill children. Crit Care Med 8(10): 537-540, 1980.

  2. McIntyre KM, Lewis AJ eds.: Textbook of Advanced Cardiac Life Support. American Heart Association,1981.

  3. American College of Surgeons, Committee on Trauma: Advanced Trauma Life Support,1980.

  4. Los Angeles Pediatrjc Society: PrehospitaI Care of Pediatric Emergencies. Management Guidelines. American Academy of Pediatrics,1980.

  5. Mathewson J: Problems in detection and management of pediaric shock. ER Reports 2(8):31-36, 1981.

  6. Pringle K et al.: Preoperative and postoperative care of the pediatric surgical patient. Crit Care Med 8(10): 554‐558, 1980.

  7. Dube SV: Cardiopulmonary Emergencies. In: Immediate Care of the Sick and Iniured Child. Dube SV ed. Saint Louis,C.V. Mosby Co., 1978.

  8. Buchanan GR and Hartwig R: B1ood Product Transfusions. In: A Practical Guide to Pediatric Intensive Care.Levin DL ed. St.Louis, C.V. Mosby Co.,1979.

  9. Olness K: Practical Pediatrics in Less-DevelopedCountries. Eden Prairie, Minn., The Garden,1980.

  10. Moore GC et al.: Thoracentesis and Chest Tube Insertion. In: A Practical Guide to Pediatric Intensive Care.Levin DL ed.St.Louis,C.V.Mosby Co.,1979.

  11. Singh RP: Chest Trauma. In: Immediate Care of the Sick and Injured Child. Dube SV ed. St.Louis,C.V.Mosby Co, 1978.

  12. Bruce DA et al.: Resuscitation from coma due to head injury. Crit Care Med 6(4): 254-269, 1978.

  13. Kenning JA et al.: Upright patient positioning in the management of intracranial hypertension. Surg Neurol 15 (2): 148, 1981

  14. Hardaway RM: A new look at disseminated intravascular coagulation. ER Reports 2(9): 37-40, 1981.

  15. Touloukian RJ and Krizek TJ: Diagnosis and Early Management of Trauma Emergencies. Springfield, Illinois, Charles C Thomas Co., 1974.

  16. King EG: The Moorgate disaster: Lessons for the internist. Ann Intern Med 84 (3): 333-334, 1976.

――訳 森 秀麿 


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