(情報開発研究所、東京、1985)
Frederick M Burcle, M.D., M.P.H
災害救助に参加する健康管理従事者は,たまたま小児外傷(そのうちの
わずかは多発外傷であるが)をみたことがあるとしてやってくる.ベトナ
ム戦争で小児をみた医師は,兵器によって性の区別も年齢の区別もでき
なくなった子供が多いことを立証している.外国での被災あるいは災害
に関連する看護から戻った医師は次のように述べている.“小児の知識と
小児蘇生法について知識があればもっとよい治療ができるであろう”と.
本稿では,災害時の小児被災者のトリアージと多発外傷について,必
要とされる実際的な技術についての注意を述べた.
低血圧の徴候は年齢と関係なく,冷たくてじっとりした皮膚,弱い脈,
虚弱,疲労,口渇,眩暈そして末梢血管充満不全などである.ショック
の初期症状である精神障害がしばしば小児では容易に見逃される.なぜ
なら,恐怖にかられた行動として見過ごしてしまうからである.災害後
遺症をもった小児は,周囲の出来事に圧倒されてしまってしばしば何も
表にださないほどおとなしくなる.興奮してあばれまわる子供は精神状
態が変化しつつあることを示している.
2)血 圧
小児での血圧は年齢によって変動する.血圧計のカフの幅は小児の上
腕の 1/2〜 3/4でなければならない.
b)年齢と血圧の関係
年齢と血圧との関係を決めるときに使用される式は,正常では次のご
とくである.
収縮期圧(mmHg)=80+2×年齢(歳)
3)治療
蘇生のABC,頚部カラー,背板,副木や出血対策などが基本である.
小児の蘇生法については,本稿「B.蘇生における落とし穴」で述べる.
b)ショックバンツ
ショックバンツ(MAST)は,わすかの出血で低血圧となってしまうよ
うな小児の低容量性ショックには重要である.
ショックバンツは次のような作用をもっている.
災害状況下で,小児用ショックパンツがないときには,小児の両肢を
ともに成人用のショックパンツの片足にいれる.ズボンの足は片方ずつ
加圧ができるので,一つの成人用パンツで2人の子供に利用できる.第
二の子供の両足をパンツの残りの片足に反対側(末梢側)からいれる.こ
の方法は,明らかに助けなければならず,しかも死の危険性の高いとき
に,一時的ではあるが生命維持の手段として用いうる.
c)群力包帯と空気副子
エースの弾力包帯や空気副子(成人用上肢空気副子は小児の下肢にちょ
うどよい)などを使用して足を垂直にすると,生命維持が可能な血液量を
中心循環へ移動させることになり,末梢血管抵抗を維持できる.
d)輸液と輸血
I度出血=15%以上=300 ml
III度とIV度は蘇生するには晶質液と血液の両方が必要である4).
e)補助薬剤(低循環血液量によらないショック)
(1)ドバミン
(2)イソプロテレノール
小児蘇生法を詳しく述べるよりも,むしろここでは小児蘇生法が成人
の蘇生法とどれだけ違うかに絞って考える.
a)症状
b)薬剤,除紬動の量
c)通常使用される薬剤
d)気道確保
胸腔チューブは未熟児では8〜10フレンチサイズ,青年期では28フレ
ンチサイズである10).位置は腋窩線で第5肋間である.前方アプローチは避ける.特に小児では大きな胸腺が上縦隔まで広がっている.
胸腔チューブから2時間連続して 3〜5 ml/kg/h以上,または4〜6時
間以上で 1.5 ml/kg/hの出血の場合には開胸が必要である11).
肝は小児では大きくて非常にもろい.肝や隅の裂傷は肋骨骨折がなく
ても起きる.小児のしなやかな肋骨は通常は折れにくい.
マンニトール1g/kgに先立ってフロセミド(ラシックスR)lmg/kgを投
与することは,マンニトール単独投与時にみられる一時的な脳圧上昇を
予防できるし,また速く脳圧をさげることができる。水分の摂取と排泄
や電解質バランスを厳格に注意することが必要である。マンニト一ルで
起きる肺水腫に注意する.小児の頭部外傷では肺水腰でなくて充血を起
こす.CTスキャンによって臨床的鑑別が可能になる12)。
頭部を45度にあげると脳圧を7〜13 mmHgさげることができる。
分泌物の吸引によって脳圧は30 mmHgまで上昇する。
地震による災害で圧迫損傷から生き残った多くの小児についての記録
が残されている.X線ではほとんど認められないけれども、多くの外層
骨折がある可能性がある.軟部組織や筋肉の広範な損傷は、逆にはっき
り回復の徴候があったとしても,急性腎不全の危険性がある。腫脹が予
期されるときには四肢にギプスを巻かず副木を当てる。末梢側の神経血
管の頻回のチェックを怠ってはいけない.早期の高カリウム血症は緊急
の注意を必要とする.緊急の血液透析を考慮する。
災害時に一群の外傷や治療の遅れがはっきりしている場合には,壊疽やDICが治療をおびやかすであろう.DICの最もよい治療方針にはいろ
いろ議論のあるところである.新鮮血,凍結血漿(10〜15mg/kg)や血小
板,凝固因子の濃縮液が解決法となる.災害状態のもとでは濃縮液の利
用には限界がある.出血があり,緊急を要するならば開始量100単位/kg
のへパリン静注14)が試みられる.
小児では熱傷の深さの判定が困難である.通常,成人では表層である
と考えられる熱傷が,小児では全層,あるいはそこまで進行するもので
ある.
熱傷の面積は次のようにして決める15).
小児への補液治療は,
病院設備がある場所では,緊急の小児被災者はただちに救急センター
へ運ぶ.他の小児被災者は小児科へ運ぶ.そこでは小児科医と小児看護
に精通した看護婦によって症状の安定化と評価を続いて行う.傷害を受
けていないで泣いている子供は行方不明になりやすい.
大災害状況下ではすべての医師は医療にかかりきりになっているが,
小児科医や一般医は次に示すような管理について特別な関心をもたなけ
ればならない16).
公衆衛生基準によって,小児科医は伝染性疾患について,それを予想
し,処理するようなトリアージを行うこと.
引用文歓 ――訳 森 秀麿 17.小児における災害
はじめに
A.低循環血液量
拡張期圧(mmHg)=2/3×収縮期圧
II度出血=20〜25%=400〜700 ml
III度出血=30〜35%=600〜700 ml
IV度出血=40〜45%=800〜1,000 mlB.蘇生における落とし穴
年齢 体重 1歳 10 kg 3歳 15 kg 5歳 20 kg 8歳 25 kg 10歳 30 kg C.胸部,腹部の外傷
D.頭部外傷
E.整形外科的外傷
F.熱傷
3 ml ×%BSA×体重kg
を基準として,はじめ8時間で半分を行う.残りを次の16時間で維持量
を加えて行う03).G.小児災害のトリアージ