(情報開発研究所、東京、1985)
Douglas Stutz, Ph.D.
危険な化学物質は有害物質として分類し,順序だてて定義することが
できる.運輸省では運送に関した点においてのみ危険物質を定義する.
換言すれば,どのような内容であれ商業ベースで運送される場合には,
安全性や健康に危険性があるような量や形の物質は,危険な物質である
とすべきである.同様に,可燃性とか腐食性がある化学物質について,
その組み合わせの危険性についても考慮せねばならない.また,取り扱
い,貯蔵,操作中に,周囲の人,救急隊員,一般の人,器具やそのまわ
川こ有害な影響を及ぼすような化学物質も危険なものと考えねばならな
い.多くの公共機関の定義では,運搬する物質については注意を向けて
いる.しかしながら,実際には多くの事故が貯蔵時や使用中に起こって
いる.結果的にこれらを無視することはできない.そして潜在的に危険
性の高い物質はすべて危険物質であると考え,本稿ではこれらを危険性
化学物質として断定する.
この議論の目的のために,化学物質を大きく二つに分類する.すなわ
ち,兵器として使われる化学物質とそうでない化学物質とである.化学
兵器はそれぞれ生体への作用または軍事上の使用目的から,詳しく分類
されている.
生理作用によって分類すれば,神経性,水庖性,窒息性,血液性に分
けられる.軍事上の目的から分類すれば,中毒を起こすものと童篤な障
害または死に至るものとに分けられる.これらも同様に神経性,水梅性,
窒息性に分けられる.これらは敵の無力化を目的として使用される.こ
れらの物質は一時的に肉体的・精神的影響を及ぼす.
現在,商用として使用される化学物質は7万種を超える.これらの物
質に急性曝露された場合の生理学的影響について,2〜3種類以上の物質
について知っている人はほとんどいない.いくつかの有害な化学物質に
ついては,種々の災害の結果や遅発性の癌の増加などから同定されてい
る.種々の工業用化学物質にさらされた人に与える相乗作用,相加作用,
拮抗作用についての中毒学が発展したのは,ごく最近のことである.わ
れわれは化学物質にさらされたときの濃度や曝露時間や曝露部位がわか
れば,その身体的影響が予測できる.不幸にも多くの化学物質は一種類
以上の危険性をもっており,それらのすべては等しく害がある.例とし
て,シアン化水素は可燃性は低い.しかし,ある条件下では爆発性があ
り,またきわめて毒性が強い.
化学物質はある形から他の形に,たとえばガス状から個体になると,
より危険となることがしばしばある.ある物質は乾燥状態では非常に危
険であるが,水に溶けている状態では比較的安全となる.
化学物質は種々の方法で分類されるが,今,われわれが議論しようと
している目的の場合には次のように分類する.
化学物質は,単純兵器からはじまって航空機に至るまで種々の分野で,
核,非核を問わず,戦術的または戦略的に使用される.化学物質作戦は
広い範囲にわたって,個人に対してよりもグループに対するのが目的で
ある.そして非戦闘員に直接作用する.化学物質は爆発物やロケット,
ミサイル航空機,地雷や噴霧器などの種々の手段で使われる.使用手段
が多彩であるために,化学物質は常にはっきり同定できるものではない.
だから戦時の戦闘状態では常に,霧や雲でさえも航空機や砲弾や爆弾か
ら化学物質が放出されたように思ってしまう.したがって,いつでもた
だちに信号によって防護マスクをつけるれるようにしておく必要がある.
航空機から散布された蒸気は目に見えない.そして蒸気や霧はいるいる
な大気の状態で隠されてしまう.
a)第一の優先
戦時下ではいかなる状況におかれても,まず自分自身の処置をする.
この場合に,当事者は次のようないずれの場合であっても防護マスクを
つけなければならない.すなわち,戦闘地区にはいる場合,臼砲やロケ
ットまたは航空機からの爆弾の集中砲火を浴びるようなところへ行く場
合,噴霧が当事者のはいろうとしている地域に落ちてくる場合,不審な
臭いや液体がある場合,中毒物質で汚染されたか,あるいはそれが疑わ
しい地域にはいる場合.あるいは次のような症状が一つでもある場合,
すなわち,突然の鼻水,胸や喉に窒息や締め付けるような感じ,視覚が
ぼんやりする,近くのものを見るのに焦点が定まらない,目がチカチカ
する,呼吸が急に苦しくなる,あるいは呼吸が早くなる,などである.
化学物質で汚染された被災者によって,防護していない救助者は危険
にさらされることを心に留めておく必要がある.これらの患者を扱う者
はだれでも,その患者の汚染された衣類が取り除かれて,清潔に処分さ
れるまでは防護マスク,化学防護手袋や防護衣などをつけていなければ
ならない.もしできることなら,集合場所や救護所は高度汚染地区の風
上に設置しなければならない.
b)第二の優先
戦闘時,前述のような状況下では多くの兵隊が自分でもしくは戦友に
よってすでに応急手当てをしている,ということを初期の救助者は考え
にいれておく必要がある.しかしながら,適切なトリアージとか障害の
診断とか,あるいはまた医学的治療に備えるようにすることは,救助者
の責任である.同時に,戦闘状況下でも平時でも,自分自身および他の
救助者を護るためにも防具を用意することは必要なことである.また,
他の人々が汚染されないように,曝露されないようにすることも必要で
ある.
2)一段の化学物質災害
非戦時下では,現場に到着した救助者が危険な化学物質によるおもな
合併症を見つけなければならない.これは主たる問題であることもある
が,単に全体の事故のうちの一つであることもある.たとえばトラック
がひっくり返り,運転者が怪我をし,他の車を巻き添えにした場合に,
トラックから漏れだした危険物質による災害の危険性がある.第一の段
階は救助活動を開始するまえに,巻き込まれたすべての人々を保護する
ことである.このためには,これらすべての人々を現場から十分離して,
安全な場所に避難させてから問題の事故処理をするよう決定するべきで
ある.
a)中毒物質の同定
まず,運搬方法について調べる.これで運搬された化学物質がどうい
うものかという情報が得られる.これによる方法はきわめて正確である
が,場合によっては安く請け負うために違う表示をしていることがある.
第二の手段は車の横やうしろにある表示や貼り紙で,運んでいるものを
知る.この新しい表示法は1980年の危険物の緊急対応ガイドブックのな
かで説明されており,これは運輸省から出版されている.この方法は多
くの化学物質を同定するのに,かなりはっきりした方法である.救助者
はその物質を同定するための適切な表示法に精通しておかねばならない.
もし事故が運送によるものでなくて,貯蔵場所で起こった場合には,
そこで働いている人は化学物質についての情報に対して十分な知識を持
ち合わせているはずである.いまいま商品名か化学名がその容器に記載
されている.これらの名は,物が何であって,その強さがどれくらいの
ものであるかを決める決め手となる.
第二の重要な問題は,物質的な性質を知るとともに,その量を知るこ
とである.それがガスであるか,個体であるか,液体であるかを知る必
要がある.その総量とともに地面にばらまかれた量も知る必要がある.
現在まだ漏れているならば,さらにその割合,速度なども必要である.
第三は化学的性質をはっきりさせることである.危険物質はそれを同
定する目的によって四つに分ける.しかし,いかなる化学物質の場合で
も,複数のカテゴリーをもっているかどうかをも知ることが必要である.
これらは,1)可燃性,2)人体への毒性,3)反応性(他の化学物質や水など
との),4)放射性,の四つのカテゴリーである.
第四番めに決定するべき事項は危険性の広がりである.最初の3相を
決めたのち,救助者は次のどのカテゴリーが適用されるかを確認するこ
とができる.
b)評価の時期
いかなる評価も,次のような拡大因子を含まなければならない.これ
らの因子はどのような影響力をもっているか,あるいは事故そのものに
どういう影響があるかを分析しなければならない.
c)決定の時期
これらの状況を考える場合に含まれる問題として,次の四つがあげら
れる.
d)遂行の時期
一般的にいって,軍隊ではすべて自分自身で汚染除去ができるように
訓練されている.さらに,衛生兵は,蘇生法や動けなくなった人の汚染
除去についても訓練を受けている(図II-4,5).
1)現場での医師の責任
2)次に行うべき処置
3)トリアージの種類
化学物質災害では,多くの被災者は,内科的,外科的な合併症がない.
あいにく,これは戦闘や交通事故や爆発事故の場合では,そうはいかな
い.混合災害でのトリアージの種類は表II-2に記されている.
4)特異的な拮抗薬による治療
神経ガスや抗コリンエステラーゼ薬(たとえば,有機リン殺虫剤や化学
物質)中毒はただちにアトロピンの投与が必要である.
b)必要ならば酸素投与,気管内挿管を行う.
c)チアノーゼが改善するにつれて,アトロピン2〜4mgを静注する.アトロビン症状(口,喉の乾燥,赤面,頻脈,嚥下困難)の徴候がでるまで5〜10分ごとに投与を繰り返す.その後48時間は少量のアトロビンで維持する.
b)小児:20〜40 mg/kgを投与する.
5)医療従事者自身の保護
参考文献
Departments of the Army, Navy, and Air Force: Treatment of Chemical Agent Casualties and Conventional Military Chemical Injuries. TM 8‐285, NAVMED P‐5041, AFM 160-12, Washington,D.C., Departments of the Army, Navy, and Air Force, May, 1974.
Doull J, K1aassen CD and Amdur MD: Casarett and Doull's Toxicology. 2nd ed. New York, MacMillan Publishing Co., lnc.,1980.
Department of Transportation: Emergency Response Guidebook for Hazardous Materials. Washington,D.C., Department of Transportation, 1980.
Ayerst Laboratories: Protopam Chloride. Professional brochure. New York, Ayerst Laboratories,1973.
――訳 森 秀麿14.化学物質災害
Frederick M Burcle, M.D., M.P.Hはじめに
A.問題の展望
B.化学的危険区域の管理
C.トリアージと緊急の対応
化学物質/
内科的外科的症状化学物質そのもののみ 内科的外科的症状のみ 汚染/最小 汚染 最小 汚染/観察 観察 汚染/あとで治療 のちほど 汚染/ただちに治療 ただちに