DISASTER MEDICINE

Application for the Immediate Management and Triage of Civilian and Military Disaster Victims

Burcle FM Jr, Sanner PH and Wolcott BW

翻訳・青野 允、谷 壮吉、森 秀麿、中村紘一郎

(情報開発研究所、東京、1985)


13.放射線災害

William A. Alter III, Ph.D.
James J. Conkin, M.D.


はじめに

 事故により,あるいはまた目的をもって人体に放射線を照射すると障 害を起こし,また死亡することもある.世界情勢が不安定になって,核 兵器が急増していることは,増大する放射線障害やそれに伴う爆風や高 温による大災害の状況に関与する危険に専門家たちが対処しなければな らないことを意味している.それに加えるに,人類は今日,医学,工学 の分野で使用される多くの放射線源からの危険性にさらされている.平 時の放射線災害による放射線障害の可能性は核爆発のそれよりも大きい が,重症犠牲者の数は1回の核爆弾の爆発よりもはるかに少ない.

 事故が起きたときに,医師が最初にする仕事は,放射線障害の程度を 決めることであろう.また同時に,他の病状や障害の病因を突き止める ことである.著しい,しかも強力な致死量の放射線が,知らすに浴びせ かけられる.不運にも,不適当な診断のために治療開始が遅れたり,放 射線への曝露がそのまま続いていたりする.

 核戦争による放射線災害の場合には,もっと異なった様相を呈する. このような状況下では,健康管理従事者は最後の挑戦にを強いられる. 被災者は大量で,しかも補給品は疑いなく不十分であろう.最も重要な 点は,最小の治療のみで救出が可能な犠牲者だけを救い出すことである. 多くの被曝者には,爆発に伴う爆風や高温によって傷害がさらに加わり, 状況がより複雑になる.

 本稿に含まれる情報は,その原因が何であれ,放射線災害にかかわる ことになる医療従事者にとっては有益であろう.

 現場での活動を要求される医療従事者にとっては,被災者に対する種 種の準備段階でのトリアージが必要である.これは放射能の曝露から最 初の2〜3時間にみられる症状に基づいて行う.放射能の曝露は全身であ るか,あるいは少なくとも胸部や腹部の全面であるかのどちらかである.

 病院の設備のなかにいる医師にとっても,最初の患者のトリアージは 現場でのそれと同じである.しかしながら病院では,放射線障害の疑わ れる人にほかの検査を行うことができる.特にここでは,血球や血小板 の検査のための採血も含まれる.

 放射線障害に対して生き残る力をもっている人々には,ただちに生命 をおびやかす危険性がないことを考慮して,医師はまず一次救命処置を 行うべきである.それから,放射線障害の可能性についての評価に時間 を使うべきである.どちらの場合(現場か病院)でも,健康管理従事者は 放射線事故や核爆発の犠牲者の処置を遅らせてはいけない.手術衣を着 て測定器を使い,適切な方法でこれらの患者の手当てをする.放射能を 浴びたか,放射能に汚染した患者については,曝露からの最初の2日間 の適切な注意事項について種々説明をしておく.


A.急性放射線症候群

1)放射線の生物学的な影響

   放射線の感受性は,種々の組織の細胞分裂の割合とか細胞のなかでの 分化の程度に関係する.この感受性の点からみて,生き残るために重要 な関係がある組織には次のようなものがある.

  1. 造血組織
  2. 胃腸管の粘液層
  3. 血管の内膜層
  4. 神経組織

 これらの組織の障害の結果として,全身に放射能を浴びた個体は,は っきりと急性放射線障害の症候を呈す.この発症は,曝露から数時間な いし数週間の間に起きる.これらの症候は,最初のトリアージや診断が 行われた直後の時間帯ではあまり有用とはならない.最も価値が高いの は,曝露から数時間ないし数日の間に現れる前徴である.この前徴は, その発現や持続時間の長さの具合から,放射線障害の初期診断やその重 症度を決めるのに有用である.

2)放射線障害の前徴

 早期に決定的な診断をすることは困難であるので,できれば患者に三 つのカテゴリーに基づく簡単な分類を試みるほうがよい.表II-1はこれ らの放射線障害を被曝量と症状との関連で表している.これらの症状の 潜伏期間とか持続時間とか重症度は本文で述べる.

a)放射線障害が起こりそうにない場合

 放射線障害に関連する著明な症状が認められない場合には,患者が合 併症を起こす危険性はきわめて低いと判定される.これらの患者は,そ のときに存在していた他の内科的疾患の程度によって治療されればよい. もし治療を必要とするような他の障害や疾病がなければ解放し,緊急事 態が落ち着いたときにもう一度追跡調査に応じるようにすればよい.

表II-1 放射線障害の可能性を探る予備的トリアージ

症状可能性なし可能性あり重 症
悪 心+++++
嘔 吐+++
下 痢±±〜+++
体温上昇±+〜+++
血圧下降+〜++
紅 斑−〜++
中枢神経障害−〜++

b)放射線障害の可能性のある場合

 放射線障害に関連する症状が現れる.食欲不振,悪心や幅吐がこのカ テゴリーの前駆症状である.これらの患者は,他の全身状態が安定した あとに精査を受ける必要がある.またこの場合には,血液検査が放射線 障害の最もよい指標となる.患者をとりあえず解放するか,待期部門に 移すかどちらかにする.著明な放射線障害であると診断するには,この あと2日後の血液検査によって明らかとなる.放射線障害を受けている ことが明らかになったならば,この患者を汎血球減少症が起きるかどう か監視する必要がある.

c)重篤な放射線陣害のある場合

 これらの患者は,かなりの致死的な量の放射線を受けたと判定される. 悪心,嘔吐は,この場合はほとんど一般的である.加えるに,前駆症状と しては一般的に突発的な下痢,著明な血圧低下と中枢神経障害の徴候が でる.これらの患者は,医療団あるいは施設のあるところへ送られねばな らない.対症療法を行い,早期に分類を行うための血液検査が必要である.

3)被爆後2〜3時間でみられる症状

a)悪心,嘔吐

 これらの症状は,被曝量が 100〜200 radを超えるとしばしばみられる. 発現は6〜12時間経過してからであるが,普通,最初の日には現れな い.最初の2時間で嘔吐がみられるような場合には,高度に被曝してい る.最初の1時間でこれがみられ,しかも激しい下痢を伴っていたならば, しばしば被曝は致死量に達している.これらの症状は一時的なものである ので,医師が診察するまえに胃腸障害の初期症状として見過ごされてし まうこともある.したがって,最初の検査のときにこれらの症状を尋ねる 必要がある.精神的ストレスでこれらの胃腸症状が現れることもある.

b)体温上昇

 致死量の被曝の場合には,最初の1時間に体温の顕著な上昇がみられ る.この体温上昇は,みられない例もあるが,たいていみられる.被曝 第1日めの発熱や悪寒は,強力でかつ致死量の放射線量による.しかし, 致死量より少ない量すなわち 200 radあるいはそれ以上の放射線の曝露を 受けた者にも体温上昇は起こる場合もある.今までの例によると体温上 昇はしばしば見逃されている.

c) 紅斑

全身被曝量が 1,000〜2,000 radを超えると,第1日以内に紅斑を生じ る.局所的にほぼ同量を受けても起きるが,この場合は局所に限られる. それより少量,しかも致死的となりうる可能性のある量,すなわち 200rad あるいはそれ以上では紅斑の発生頻度は減少する.

d) 血圧下降

 著明な,しばしば臨床的に有意な血圧下降が,致死量を超える全身被 曝者にみられる.激しい血圧下降は数千ラドの被曝を受けた人に記録さ れている.数百ラドを受けた人では,10 %を超える血圧下降が記されて いる.被曝後の激しい血圧下降は予後が悪い.

e) 神経障害

 致死量以上の被曝の1時間後に中枢神経障害をきたすことが経験され ている.それらは,意識混濁,痙攣,昏睡などである.手に負えない血 圧低下はおそらくこれらの症状を伴っている.

4)血液変化

 医師が臨床検査設備をもっているという前提であれば,前駆症状が疑 われるときに診断の手助けになるような付加的な情報を得ることがきる. “放射線障害あり”または“放射線障害変化”と分類されたすべての患者 に,リンパ球数を知るために早期の採血をできるだけ早くなすべきであ る.初期評価の終了時または問題のときから少なくとも24時間以内に次 の血液検査をすべきである.

 末梢リンパ球は放射線に感受性が高い.末梢リンパ球数と全身被曝量 とに相関がみられることは十分明らかとなっている.図II-2は,24〜48 時間におけるリンパ球の変化を,被曝量との関係から表している.

a) 1,500/mm3を超えるリンパ球

治療を必要とする最低量.

b) 1,000〜1,500/mm3のりンバ球

被曝後3週間で額粒球や血小板の中等度減少のあるときには,治療を 必要とする.

c) 500〜1,000/mm3のりンパ球

激しい放射線障害に対しては治療が必要である.また,被曝後2〜3週 間で起こる出血や感染を最小にするために入院が必要である.

d) 500/mm3以下のりンバ球

ほとんど致死量の放射線を受けている.汎血球減少が避けられないの ですべて入院する.

e) リンパ球がみられない

致死量以上の放射線量を受けており,生存はほとんどありえない.ほ とんどの患者は胃腸系,心血管系に重篤な障害を受けており,2週間以 上生存することはできない.

 次の2週間に血液検査を受け,顆粒球や血小板の変動をみる.汎血球 減少に伴う症状は,1)発熱,2)口腔内潰傷,3)全身性の出血斑,4)全身 倦怠感,などであり,これらの症状によって,のちの治療の指針とする.

まとめ

 要約すれば,強力な致死量の放射線を受けた患者は,被曝そのものと, それによって惹起される前駆症状を経験するであろう.不運にも,これ らは特異的ではなくて,他の障害や疾病でもみられるものである.した がって,医師は被曝後第1日めに起こるであろう症状を決めなくてはな らず,また直接関係があったかどうかを判定し,個々を三つのカテゴリ ー,すなわち,1)放射線障害なし,2)放射線障害あり,3)放射線障害高 度,という具合に分ける必要がある.このうち2)と3)は,血中リンパ球 の検査によって最初の現場での診断を確認するか,あるいは取り消すか のどちらかとなる.外傷のある患者はすべて著しい放射線障害がないも のとして処置されるべきである.生命に危険があるかもしれない障害者 のトリアージや手当ては,放射線障害の可能性を考慮せずに行わなけれ ばならない.放射線が唯一の原因である患者においてのみ,放射線障害 という予備診断をくだすべきである.これは悪心,嘔吐,下痢,体温上 昇,血圧下降,中枢神経障害の発現に基づいて行う.

5)全身被曝者の初期治療

 100〜200 rad以上の放射線を全身に受けた人にとっては,胃腸障害が 最初の2日以内に現れてくる.制吐薬がこれらの症状軽減に効果的であ る.激しい放射線障害が起こらなくても,これらの症状は普通は1日以 内に消失する.

 胃腸障害が続いている患者に対しては,補液を考慮するべきである. もし下痢が被曝後1時間以内に急激に現れたら,水分や電解質の補液を 当該施設の可能な範囲で行わせるべきである.トリアージの時点で急激 な下痢(特に血性の下痢)がある場合には,致死量の放射線が関係してい るとされる.

 中枢神経症状を伴った著明な血圧低下の患者に対する処置は,施設や 医療団が処置可能なときにのみ行う.これらの患者は,その放射線障害 から生き残る可能性が少ない.骨髄不全を伴った血管内皮,胃腸管上皮 の障害者はごくまれに生存する.

6)混合性障害者の診断と治療

 放射線災害や核爆発の場合には,多くの患者に付随的な障害が多くみ られる.最初のトリアージでは通常の障害に基づいてトリアージを行い, 次に放射線障害に伴うような前駆症状に基づいて選別をやりなおす.動 物実験によれば,致死量以下の放射線でも感染対策は困難であり,また 傷や骨折も治りにくい.かなり生き残れるような熱傷や外傷でも,致死 量以下の放射線を受けている場合に高頻度で致死的となる.外科的処置 を必要とする患者では,汎血球減少からくる合併症の危険性を防ぐ意味 で(36時間以内に)手術をするほうがよい.強い放射線障害を受けている 場合には,通常は生き残れるような障害であっても,危険の可能性があ ると分類される.


B.汚染された患者

 放射線障害それ自体は,医療者側の健康を害することはない.患者が内 部的に放射線障害をもっていることそれ自体は(ニュートロンやプロトン 源に曝露した場合に),医療従事者の生命をおびやかす危険性はもってい ない.

 放射線源がはっきりしないような大災害で,放射線モニタがない場合 には,患者を治療施設にいれるときに汚染を除去する必要がある.患者 の衣類を脱がせるといった簡単な方法が,汚染の大部分を取り除く.身 体の露出した部分を洗うことによって,この汚染はより少なくなる.こ のいずれの方法も,現場で,または施設へ送る途中で行うことができる. いったん,患者が治療施設へはいったならば,外傷に対する処置を行う. 生命をおびやかすような障害の場合には,汚染除去が完全に終わるのを 待たずに必要な処置を行うべきである.

 放射線防護要員が得られる状況では,汚染除去の操作は確実に行われ, 放射線汚染の危険を最少に抑える注意をはらうことができる.このこと によって医師の手助けができる.もっと広範な汚染除去法は,軽い洗浄 剤や薄めた液を使って汚染部位にブラシをかけて行う.このときに,無 傷の皮膚を傷つけてはいけない.傷をつけると,皮膚の深い層に放射性 物質を取り込むことになる.汚染した傷の部位は最初に処置する.なぜ なら,これらの部位は汚染がそのなかに及ぶからである.水洗,軽くブ ラシをかける,あるいはデブリドマンをする,などは汚染を減らすのに どうしても必要である.

 手術衣を着ることによって医療従事者への汚染を減らすことができる. もっと注意が必要な場合は,従事者が交代すれば汚染や曝露をより減ら すことができる.

 放射性粒子を吸い込んだり,飲み込んだりすることは,問題をよりむず かしくする.放射性物質の型とか,摂取のルートとか,被曝してからの時 間とか,汚染を取り除く有用な方法など,十分な情報を得ることが有益で ある.遮断薬を使って,その標的となる組織への取り込みの可能性を抑え ることができる.たとえばキレート薬は超ウランと化合物をつくる.利 尿薬や補液は放射性物質の排他を促す.また,下痢は胃腸管にある放射性 物質の排泄を高める,などである.体内汚染の適当な対策1)についての詳細 な書類は,放射線災害の危険性のある病院にとってはぜひとも必要である.


C.甲状腺の障害を予防するためのヨードカリ

 Federal Drug Administration (FDA)は,ヨードカリをすすめている.それは,25 rem以上の放射能を甲状腺に受けた人々に対して放射線緊急 処置として,放射性ヨードを排除するためである.

 食品衛生局は,短期間の少量ヨードカリ投与の危険性よりも,放射性ヨ −ドによる甲状腺結節や甲状腺癌の危険性のほうが高いと判断している.

 国および地方の公衆衛生局は,この使用可能性について検討すべきで ある.ヨードカリは体内の他の放射性物質の摂取貯蔵を予防,減少させ るものではない.

使用量は,以下のごとくである.

  1. 大人および1歳以上の小児:1日当たり 130 mg
  2. 1歳以下の小児:1日当たり 65 mg


D.被曝者あるいは汚染者を取り扱うのに通した場所

 放射線災害は実際,放射性物質を運搬するいかなる幹線道路上でも起 こりうる.放射線源は,国内中の医療施設,大学研究所,産業プラント などに広く行きわたっている.それぞれの病院は,放射線災害を含めた 緊急計画をもつべきである.著者らは,病院計画を有効に推し進める一 段階として“放射線災害緊急指針2)”を熟知することをすすめている.

 地方のエネルギー局は,いかなる状態の放射線曝露に対しても24時間 体制の緊急電話をもっている(図II-3).

 援助は24時間体制で,Radiation Emergency Assistance Center/ Training Site(REAC/TS)が利用できる.これはテネシー州オークリッ ジの Methodist Hospitalにある(電話 615-482-2441,内線502,また時 間外は241番のポケットベル).


引用文献

1)NationaI Council on Radiation Protection and Measurements: Management of Persons Accidentally Contaminated With Radio-nuclides.Recommendations of NCRP.NCRP No.65.Washington, D.C.,1980.

2)Leonard RB and Ricks RC: Emergency department radiation accident protocol. Ann Emerg Med 9:462‐470,1980.

参考文献