(情報開発研究所、東京、1985)
―Craig H. Llewellyn, M.D.
緊急ケアや公衆衛生活動では,ともに,初期に迅速に正確な認識をも
ち,何を優先するかを決定することが重要である。被災者にとっては緊
急ケアが必要だが,その後の救援活動には,これは役に立たない。次の
救援活動全体においては,共同体の公衆衛生に取り組むトリアージが基
本となる。それは損害を限られた範囲内に留めることによって,現実的
希望がもてるようにし,のちに衛生問題が生じることを予防する。これ
は緊急ケアが果たす役割を小さなものにするだろう。
医師が個々の被災者に対するアプローチと,防疫学者が共同体を評価
し,把握するアプローチとには,直接的な平行関係がある。緊急医療に
従事する医師が行った経験は,防疫学者にとって,疾病や環境衛生を扱
う場合に基本線となる。緊急医療に従事する医師は,患者の主訴を聞き
だして身体的な検査をする。防疫学者は,迅速な事態の把握や調査を続
けることで,問題の所在をはっきりさせ,作業の優先順位を決める。そ
して,明らかになった問題点と,作業に対する反応を監視,調整する。
決定に際しては,最も新しい正確な情報に全面的に依存する。公衆衛生
活動では,救助活動の基礎になる良質の情報を得ることが,むやみに救
助活動を始めることにとってかわらなければならない。
この稿では,正確な情報を入手して,判断し,限界を定めることと,
簡単な調査,把握法を使って問題の優先順位を決めることについて述べ
る。もし,災害を複雑で無駄の多いものにすることを避けようとするな
ら,災害救助活動に対する防疫的なアプローチが欠かせない。
表I-8は,衛生活動の効果と災害の種類との関係を示している。こと
に損傷が重度で,治療を要したり,伝染性疾病が広がる可能性があるケ
ースについてである。1968年のイラン地震では,緊急治療を要した11,000
人中 368人(3.3%)のみが入院を要した。最近のペルー,ニカラグア,グ
アテマラの経験から,緊急ケアの必要性は,当初の24時間でピークとな
り,外部からの大きな援助が到着するまえ,72〜96時間で通常のレベル
に戻ることを示している。洪水では死者は多数で,負傷者は少ない。暴
風では,死者はまれである。
第二次世界大戦以来,災害に関連して感染性疾患が伝染することはほ
とんどない。しかし伝播する危険性は常にあり,ことに災害が人口移
動を引き起こしたり,人口密度を高めたり,食料,交通,エネルギーな
どの生命にかかわる供給や,正常な環境衛生活動がとだえるような場合
に,危険性が増す。免疫的プログラムは,災害救助活動とは別で,まれ
にしか必要とされない。しかし,防疫学的調査,疾病の抑制,環境衛生
調査は不可欠である。病原体を媒介する動物の駆除を含む,正常な供給
ができるだけ早く,強制的に再開されねばならない。
大災害は,生存者の間に広範なパニックを生じさせるものではない。
共同体を活動できないように麻痺させるものでもない。数分から数時間
内に,自発的な救助活動が始まる。時に効果がないこともあるが,目的
に沿った活動が行われる。このように,被災住民は,自分で救助,救援
ができるし,実行しようとする。しかし,これには方向づけが必要であ
る。この方向づけは,現状を的確にとらえたうえでのものであってこそ,
信頼される。事態の把握を繰り返して得られる正確な情報は,生存者を
力づけ,彼らの努力を方向づけ,二次災害のもととなる噂を否定するの
に欠くことができない。時宜を得た正確な情報の伝達は,被災住民の団
結を維持し強めるであろう。
大災害の多くの影響は,現実の健康上のリスクよりも潜在的なりスク
が大きい。正常な社会活動,公衆衛生活動,衛生サービスがとだえ,住
民が適切な供給を受けられる地域に移動し,集まってくると,これらす
べてが健康を危くするものとなりかねない。一気に起こる被災と異なり,
救助・救援活動の早期に,これらの影響と潜在的な危険性が見極められ,
監視されるならば,そのほとんどが避けられるであろう。
災害後のそれぞれの時期によって,現実的にも潜在的にも健康上の危
険性や救援に要するものが,かわっていく。それらは,被災地での重要
度の強さや程度によってもかわる(図1-21,22)。このような理由によっ
て,被災直後から,状況把握や調査が繰り返されねばならない。また,
救援と復旧の期間を通して続ける必要がある。
災害発生直後に,公衆衛生管理,食料,退避所などが,全部必要とな
ることはまれである。救助・救援活動の組織,被災地での資材確保,援
助の優先順位決定,被災者や情報機関に生じる噂への対応などを,権威
をもって進めるためには,状況把握と調査の助けが欠かせない。多くの
死者がでて,傷害者のなかに生存者が少ない場合には,野戦病院はいら
ない。被害が少ないか,またはより人員のそろっている資材豊富な施設
へ患者を移すことが適当である。
災害はどれも独特なものであるが,重要な類似点がある。この類似点
を理解すれば,救助活動を最大限まで進め,割り当てられた資材が活用
できる。大災害の神話は,適切で正確な情報によってのみ駆逐できる。
状況把握と調査のための公衆衛生学的,疫学的な手段が,問題の機能的
な把握と優先順位の決定に必要である。
本稿のこれ以降は,何をなすべきか,どのようにすべきかについて述
べる。しかし 議論は教科書的なしベルで行う必要がある。興味のある
読者は,文献としてあげたもののなかに基本的な参考書があるので,そ
れを読んでいただきたい。
たぶん医師が演じうる役割で,最も重要なことは,救助活動の権威の
確立である。そうでなければ不適当な衛生管理や防疫についての噂を広
め,住民,情報機関,外部機関,ボランティアなどに影響を与える。医
師が自分の活動を疾病者,負傷者の管理にのみ限定し,ほかの被災住民
を無視するならば,権威の確立は不可能となる。
ここでは,予防と十分な準備が強調されなければならない。
a)大災害の脅威を認識させる指導
b)傷害を受けやすい部分の把握
c)在庫品の目録
d)計画の進展
e)訓練
f)教育
災害がくるまえに計画図が用意されていなければならない。水道シス
テム,下水システム,食料品の在庫とその分布,共同体における慢性あ
るいは伝染性疾患のデータ,資材と装備などについての背景となるデー
タは,緊急医療隊員の住所,その服務可能性と同様,集めておかなけれ
ばならない。大災害計画では,どのようなしベルでも衛生についての配
慮が常に強調されるべきである。大災害救助を指揮する者は,迅速な初
期状況の認識,特殊な調査,正確なデータを得るための調査の必要性に
ついて教育されるべきである。多くの人々は,公衆衛生と防疫技術をよ
く知らず,それを健康管理活動の範囲でのみとらえ,救助活動全般にわ
たるものと考えない。また,多くの人々は,何が必要なのかを見いだす
系統的な努力よりも,すぐ何か目に見えることを少しでもやろうとする。
1)初期の状況認識
衛生を含む災害のすべての面での迅速な判断が効果的な緊急救助・救
援に不可欠である。正確な情報は速さにまさる。過去の救援活動は誇大
で混乱した報告によって修飾されている。不適切な支援が,ありもしな
い問題を扱うために,不適当な地域に洪水のように押し寄せ,一方では
深刻な問題が認識されずに放置されている。
初期の状況認識には以下のようなことが必要である。
表I-9に基本的な情報の必要性と相対的優先順位の概要を示す。
初期の状況認識は,利用できる最高速の輸送法(ヘリコプターがこの目
的にすぐれている)で実行すべきで,技術的な卓越を必要としない。
以前から存在するシステムを通じての通常の通信方法は最大限に利用
されるべきである。共同体のリーダ一からの報告は救助の優先権を得た
いためにしばしば誇張され真の損害の広がりを無視してしまう。被害を
受けた地域,その人々,生命にかかわる供給(衛生,エネルギー,水,食
料,輸送,通信手段)の損害について得られた情報に基づいて,重要で緊
急な問題地域を判断し,活動のための資材が投入される。
最初の3日以内に,初期の状況把握に基づいて,被災地の被災前の状
態に精通した技術専門家を使って特異的で多角的な被災地全域の調査を
すべきである。衛生面において強調されるべきことは,緊急ケアに必要
な物資,長期入院の必要な者,環境衛生システムの損害,不適切な供給
と人口密度の増大を伴った人口の放置のようなほかの衛生面でのリスク
の可能性などを記録することである。この組織的な調査の結果は絶対的
な緊急救援必需品を指示し,最終的な救援計画の基礎となるであろう。
この調査と平行して,伝染可能な疾病の監視と環境衛生の監視が始め
られなければならない。以前からあるシステムや手段,救助隊員は最大
に利用すべきである。両方の監視は,もし基本的な衛生が維持できなけ
れば,疾病の伝染性が爆発的に増す可能性のある被災者キャンプや救助
センターでは,最重要事項となるべきである。
表I-10はNieburgの種々の状況把握の手段によるモデルから得られ
る概要である。重要な点は,状況把握は当初から始められ,動員可能な
人的資源に適した手段で続けるれることである。
防疫的な監視は1日単位で変化した徴候を報告することに努力を集中
する。報告の形式例を図1‐23に示した。大災害に付随する伝染性疾患の
問題についてのさらに進んだ情報は表I-11に示した。
環境衛生の状況把握と監視活動のための有用なモデルがこの稿のおわ
りにつけ加えられている。安全な飲料水の適切で十分な量の供給がすぐ
に必要となる。第二の重要点は,ほかの飲料以外の目的のために十分な
量の水が供給されることである。衛生的な食料品の扱いとその準備は,
腸管系の疾病の伝播予防に大きな重要性をもつ。これは被災住民の間の
みばかりでなく救援隊員の間についても同様である。
毒性産業物質による汚染の拡大のような,災害によって引き起こされ
る新たな環境衛生上の問題の検索と迅速な環境衛生の保全も強調される
べきである。
迅速な状況把握,調査,持続的な監視の重要性は,強調されすぎるこ
とはない。それらは被災者の緊急ケアと同時に始めなければならないし,
救援とリハビリテーション期の両期を通じても続けるべきである。確立
されたシステムと得られたデータは,衛生と救援活動の両方に有用であ
る。医師がこれらの活動の指揮にエキスパートである必要はないが,医
師はその重要性を認識し,有用な手段を理解し,災害発生前の計画と大
災害救援に組み込まれるべく活動的であるべきである。
(PUBLIC DOCUMENT: Health Aspects and Relief Management After Natural Disasters. Center for Research on the Epidemiology of Disasters. Bruxelles, Belbium, 1980)
* これまでの救護活動中に発生した例やその発生機序が知られているもの
不潔な水や食品は疾病を生み,ゴミや人間の排泄物は疾病を拡散させ
る。汚い家や不潔な身体も同様の作用をもつ。それゆえ,個々の家庭は
状況が正常に復するか,救援が受けられるまで自身で注意をすることが
重要となる。そうすることで,簡単な衛生のルールが家庭で行われるこ
とになる。家族を守るための簡単な方法を以下に述べる。
b)塩素殺菌:5%の塩素の糊状液が使用できる。水1Lに
対して糊
状液を1滴加える(濁り水ならば3滴)。適量の塩素糊状液を加え,かきまぜて30分間放置する。安全の目安である塩素特有の味と臭いを調べ,もしそれがなければ,さらに2~3滴加え15分間待って味を再び確かめる。
c)精製用錠剤:水を安全に精製するのにヨウ素を放出する錠剤が使
われる。通常のきれいな水では1Lに1錠で十分である。濁り水には
2錠用いる。
d)ヨードチンキ:通常,家庭にあるヨウ素が水の精製に使える。水
1Lに2〜3滴(濁り水ならば8~10滴)加え,かきまぜて30分間放置
する。
一般的には,これらの消毒薬は,監視下にある限られた数の住民に対
する少量の飲料水の緊急消毒用として考えられ,1〜2週間のきわめて短
期間に限定される。通常の塩素消毒の再確保と水源の保全のために全力
を注ぐ。
緊急時に消毒が必要と考えられる場合には,水の最初の状態にいつも
十分な注意が向けられなければならない。混濁と着色は,布による濾過
でできるだけ減らす。水は一度消毒されたら,清潔でふたのある非腐食
性の容器に貯蔵する。緊急治療のために個々の使用者にどのような消毒
薬が与えられようとも,使用前に公衆衛生従事者は,その使われる水の
可否を確かめなければならない。もし不適当であれば,塩素消毒を行う。
また,水のなかの残留塩素については,その水の配布前に調査しておく。
少量の飲料水を緊急の状況下で消毒するために,最も一般的に使われ
るのは塩素,ヨウ素,過マンガン酸カリウムである。詳細は以下に示す。
1)塩素化合物
a)錠剤
b)次亜塩素酸カルシウム顆粒剤
粉末をまぜる際には,発火の可能性があるため,油や発火しやすい物
質と接触させないように注意する。HTHを使うときには,スプーンに山
盛り1杯(7g)を2ガロン(約7。6 L)の水に加えて溶かし、500 mg/l の貯
蔵液をつくる。この貯蔵液を,貯蔵液1に対し水100の割合でいれ,こ
れを30分間放置する。もし塩素の味が強すぎるならば,さらに数時間放
置して空気にさらすか,きれいな容器に数回入れたり出したりする。作
成した貯蔵液は作成後2週間以内に使用すべきである。
c)塩素ソーダの糊状液または次亜塩素酸塩水(javel water)
もし使用する糊状液のなかの塩素含有量がわからなければ,水に10滴
加え,かきまぜたのち,30分間放置する。塩素の臭いが少しあるかもし
れない。塩素の臭いがなければ,さらに10滴加え15分間放置する。
表I‐12. 糊状液の希釈量
2)ヨウ素
a)錠剤
b)溶液
3)過マンガン酸カリウム(KMn04)
過マンガン酸カリウムは反応時間が長いのであまり使われない。通常
これは,井戸,泉,貯蔵タンク内の大量の水のための消毒薬と考えられ
ている。過マンガン酸カリウムはたぶんビブリオコレラを例外とするの
みで,ほかの病原菌に対しては効果に疑問がある。使用するには40mgの
過マンガン酸カリウムを 1Lの湯に溶いて用意する。その溶液は,24時
間で約 1 m3の水を消毒するといわれる。
1)救援活動――水と排池物の処理
救援活動中,汚染の疑いのある水源からの水は1分間煮沸させるか,
錠剤,粉末,結晶,液体のいずれかの塩素,ヨウ素,過マンガン酸カリ
ウムで消毒すべきである。供給されるべき水の最小必要量は,寒冷また
は温暖な気候では1人当たり,1日に 3L,暑い気候では1人当たり1
日に 6Lである。
食料は腐敗しにくいものであるべきで,調理を要するものであっては
ならない。
ゴミ,食物残滓の廃棄場は,浅い溝を掘り使用する。溝の大きさは,
1,000人当たり深さ10 cm,幅 45 cm,長さ 3mが必要である。
2)救援活動――テントキャンプ
救援活動中のテントキャンプの場所は,傾斜地で,排水がよい土壌で,
悪天候に強い場所を選ぶべきである。場所は蚊の繁殖地,ゴミ捨て場,
商工業地帯から離れているべきで,配置の仕方は次の条件に合致しなけ
ればならない。
キャンプ場内での水の配置は次のように構成されるべきである。
キャンプ場内の固形ゴミの廃棄容器は,防水,防虫処理がなされ非浸
食性のものでなければならない。容器は,プラスチックか金属のきちん
としたふたのできるものであること。最終的廃棄は焼却か埋没による。
容器の大きさは4〜8個のテントで 1Lか25〜50人で50〜100 L必要で
ある。
尿や汚水の廃棄物はキャンプ内の穴か溝便所に捨てる。これは,テン
トから30〜50m離れ,10人当たり1個が必要である。
汚水の廃棄には人工的な濾過性の穴が必要で,穴には小石,ワラ,草,
小枝の層をつくる。ワラは毎日取り替えて焼く。
洗面は,長さ3mの両側から使える洗面ベンチで行う。100人当たり
2脚のベンチが必要である。
3)救援活動――収容施設
救助の間に犠牲者を収容する建物には,1人当たり 3.5 m2の最小床面
積,10 m2の最小空間,1時間当たり 30 m3の最低空気循環が必要である。
男女別々の洗面ブロックを用意する。洗面の設備として10人当たり1
個の洗面器,もしくは100人当たり4~5mの洗面ベンチ,そして温暖な
気候では50人当たり1個のシャワー,熱い気候では30人当たり1個の
シャワーが必要である。
住居を失った人々を収容する際には,女性25人当たり大使所1個,男
性35人当たり大使所1個と小便所1個の設備が要求され,建物からの距
離は最大で50mでなければならない。
ゴミ廃棄容器は,プラスチックか金属のふたのきちんとできるもので,
25〜50人当たり 50〜100 Lの容器が有効である。
4)救援活動――水の供給
毎日の水の消費量は,野外病院で1人当たり40〜60 L,大量給食セン
夕一で1人当たり20〜30L,仮設小舎やキャンプで1人当たり15〜20
L,洗濯設備で1人当たり 35 L必要である。
水の消毒のための塩素の処方は,通常の塩素の残留を目安として水1
Lに対して0.7〜1.0mgである。配管の消毒に24時間の消毒時間をとれ
る場合は,水 1Lに対して50mg,1時間しか消毒時間がない場合は,水
1 Lに対して 100 mgを添加する。井戸や泉の消毒には,水 1L に対して
50〜100mgを添加し12時間かける。
消毒した水のなかの高濃度塩素を除くためには,チオ硫酸ソーダ 0.88
g/塩素 1,000 mgを使用する。水を汚染から守るために,水源と汚物廃棄
場所は最低 30 m離れていなければならない。また下水だめと便所の底を
井戸の水面から 1.5〜 3 m上におくことで守られる。このため,1)水を通
さない材質でつくった井戸枠を地表 30cmから地下 3mまで埋める,2)
井戸の周囲に 1m半径でコンクリートの台をつける,3) 50 m半径で囲い
をする。
5)救援活動――公衆便所
公衆便所用の浅い溝は,100人当たり深さ90〜150cm,幅30cm(でき
るだけ狭く),長さ3.0〜3.5m,深い溝は,100人当たり深さ1.8〜2.4
m,幅75〜90cm,長さ 3.0〜3.5m,穴は,20人当たり深さ 5〜6m,
直径40cmの大きさが必要である。
6)救援活動――ゴミの廃棄
ゴミの廃棄用の溝は,200人当たり深さ2m,幅15m,長さlmの大
きさにし,埋める際は,土を上から40cm以上かぶせる。この方式だ
と,溝は1週間でいっぱいになる。ゴミの分解に要する時間は4〜6か月
である。
7)救援活動――食品衛生
台所用具は熱湯で5分間,100 mg/Lの塩素液で30秒間,200 mg/Lの
第4アンモニア化合物で2分間消毒する。
8)救援活動――貯蔵品
次のものが装備や供給品として重要な物件であり,それらは緊急環境
衛生のために貯蔵されるべきである。
自然災害のあとにはすべての環境衛生の手段(水質・量の改善,基本的
な衛生器具の確保,貯蔵所など)が次の要素と関連して考慮される。
以上の要素は時間とともにかわるので,それぞれの方法に向けられる
努力の密度は,行動を起こすときに考慮しなければならない。
a)第一優先権--0〜3日
食料,輸送力,エネルギーのような生命にかかわる供給を確保する。
b)第二優先権--3〜7日
不可欠な供給の確保。
c)第三優先権--7 日以後
正常な監視の設定。
資材(人的資源と装備)を考慮する際には次のことに注意する。
その報告の準備をするに当たって,災害救援チームは,彼らが向かう
どの場所についても次の1)〜5)の疑問をもつべきである。
1)飲料水(0〜7日)
2)屎尿の廃棄(0〜7日)
3)基本的な避難場所(0〜7日)
4)食料の保護(0〜7日)
5)個人の衛生方法
30,000人に及ぶ人々に対して避難所をつくることは膨大な仕事である。
1)水
2)便 所
3)固形廃棄物
4)評 価
5)場 所
6)生活条件
7)衛生条件
8)全体的な注意
9)問題地域
10)全体的なコメント
11)キャンプ地
12)全体的なこと
13)経験から学んだ事項
14)計画の基準
15)その他の必要資材
16)災害の起こりそうな地域への配慮
引用文献
1)Assar M: Guide to Sanitation in NaturaI Disasters. p.93-94, GeneVa, WHO, 1974.
2)EnvironmentaI Health Management. After NaturaI DiSaSter. Pan American Health 0rganization (PAHO). Scientific Publication No.430. p.47‐50,1982.
3)EnvironmentaI Health Management. After NaturaI Disaster. Pan American Health 0rganization (PAHO). Scientific Publication No.430. p.51-55, 1982.
4)WHO Course on Health Aspects and Relief Management in NaturaI Disasters. p.148-150, Brussels, 1980.
5)WHO Course on Health Aspects and Relief Management in NaturaI Disasters. p. 131-135, Brussels, 1980.
参考文献
Assar M: Guide to Sanitation in NaturaI Disasters. Geneva, WH0, 1971.
Bevenson AS (ed.): Control of Communicable Diseases in Man. 13th ed.
Washington, D.C., American Public Health Association, 1981.
Center for Research in the Epidemiology of Disasters: Health Aspects and
Relief Management after NaturaI Disasters. Bruxelles, Belgium, 1980.
VWorld Health 0rganization: Emergency Health Management after NaturaI Disaster. Scientific Publication No.407. Washington, D.C., Pan American Health 0rganization, WH0, 1981.
World Health 0rganization: Epidemiologic SurveiIIance after NaturaI Disaster. Scientific Publication No.420. Washington, D.D., Pan American Health 0rganization, 1982.
World Health 0rganization: EnvironmentaI Health Management after NaturaI Disasters. Scientific Publication No.430. Washington, D.C., Pan American Health 0rganization, 1982.
--訳 中村紘一郎9.災害時における公衆衛生
第II部 地上救出法
はじめに
A.大災害の神話と現実
B. 医師の役割
C. 何をなすべきか,どのようにすべきか
D. 大災害と緊急救援相
状況把握の手段 必需品 データ採集のテクニック 長 所 短 所
時間 情報源 インディケータ
1.災害発生前の背景のデータ 監視の実行 訓練されたスタッフ ○衛生施設や開業医からの報告
○疾病の類型と季節性
問題点や変更を追求するデータの基本を提供する
2.遠隔地,航空後,へリコプタ一,人エ衛星 数分―数時間 ハードウエア ○実視,カメラ
○破壊された建物,道路,ダム,洪水早急。地上輸送力がない際は有用。被災地の判断に有用 高額。大きな主観的なまちがい。最小の特異的なデータ
3.被災地の徒歩巡回(騎 馬巡回) 数時間―数日 輸送,地図 ○実視,土地のりーダーや衛生管理従事者との会話
○死者,家屋のない人,疾病の種類と数の問題早急。客観的技術的な背景を要しない。 非特異的なデータひずみの可能性。高率のエラー。最大の被災地に達していないことがある
4. 迅速な汚染謀査 2―3日 数人の訓練されたスタッフ ○ 早急の調査
○死者,入院者,栄養状態(3.を参照)早急,ハードデータ。管理ミスを予防することができる。監視の基礎をつくることができる。 常に無作意ではありえない。仕事の密度が高い。過度に読みすぎる危険
5. 迅速な衛生スクリー二ングシステム 実行(必要に応じて) 衛生管理従事者,必要なデータによる備品の準備 ○スクリーニングを終わった人からのデータの採集
○栄養状態,デルモグラフィ,ヘマトクリット,寄生虫血症など
早急な設定と機能。データを集め避難民に対してサービスを与える(ワクチン、ビタミンA、トリアージなど) 最少の必需品の資材。限定された住民のみに有用で外部の状況を反映しない
6. 監視システム 実行 数人の訓練されたスタッフ、標準的な診断、交信データ ○標準方式でのルーチンデータの採集
○死者,有病者は診断と年齢タイムリー。広げることができる。客観的 資材の設定を要し,常に動ける。警戒を要する。従事者へのフィードバックが必要
7. 調査 変化する数時間―数日 経験深い疫学者,統計学者,信頼できる野外活動者 ○無作為あるいは代表標本の選択
○問題への特異性短時間での多くの特異的なデータ データの解読に疫学者や統計学者を要し,仕事の密度が高い
救援の要素 疾病のメカニズム 特異的な疾病(例) 退避所 混雑,混乱 球菌性髄膜炎* 水 汚染* 便からの汚染による疾患 食料品 幼児食,粉ミルク
かん入りミルク下痢* 抗生物質 過剰投与* 耐性菌 注射用鉄剤 細菌の発育を促進 マラリア* 免疫化 未消毒の注射針 肝炎 易感染者の参加 免疫の欠如 小児麻痺,肝炎* 疾病保持者の参加 地方性の媒介動物
輸入細菌マラリア,顎口虫症,条虫症
疑疫病 誇張した監視 少数
補 遺
A. 家庭用緊急衛生に関するパンフレットの見本例1)
B. 緊急状況下における錠剤,粉末,液状消毒薬使用のためのガイドライン2)
塩素量 清水
( 1 L当たり)混濁または着色
(1 L当たり)
l% l0滴 20滴
4〜6% 2滴 2滴
7〜l0% l滴 1滴
C. 自然災害における環境衛生の方法についてのガイド3)
D. 自然災害後の環境衛生の状況認識4)
b)川(取水の可能な方法は? 水質の変化は? 汚濁の程度は?)
b)安全にするには何が必要か?(水源は保護してあるか?)
b)安全でなければ,安全にするには何が必要か?
b)トラック(燃料は? 車両の維持は?)
c)ポンプ(電気は?)
b) 共同体ないし集団の場合(誰が管理するか? どのように分配する
のか? 容器は?)
b)共同体(風呂? 衣服の洗濯?)
b)野外でしているのか?
c)共同用の公衆便所は?
b)共同体の設備は?
c)下水システムは?
b)暑くて湿気が多いか?
c)寒冷か?
b)その地でどのような資材が利用できるか?
c)その資材はどのくらい遠くから輸送されるのか?
b)水の供給は?(計画案と必要な装備は?)
c)基本的な衛生は?(使用できる空間は? 穴は掘れるか? 排水
は?)
b)キャンプ(衛生実施と必要な材料は?)
b)使用が制限されているか?
c)たくさん使えるか?
b)キャンプ内の指導は?
c)食品の貯蔵と場所は?
d)集団的な食料の救援はあるか?E. 被災者キャンプのなかでの環境衛生5)
b)井戸は?
c)災害後の日数当たり1人に 5 Lとして 30,000人収容すれば毎日
150,00O Lを要する
b)背板の材料は?
c)プライバシーのための材料は?
b)どこに埋めるか?
b)消毒した水をどこに貯蔵するか?
b)まばらに植物がはえた草原の傾斜地で,適当に排水がよいこと
c)1人当たりの空間l0~20m2は,長期になれば30~90m2に変更す
ること
b)衛生設備はキャンプの期間と使用できる機械,道具,労働力に基
づくべきである。短期間では,40人当たり一つの便所,長期間では25
人当たり一つの便所となる
b)もし必要ならば共同体の容器を用いて貯蔵器を配布する
b)キャンプ委員会を組織する
i.衛生
ii.警備
iii.秩序
iv.衛生教育
c)配布中および販売中の食品の衛生
d)共同体の洗濯と洗面設備
e)媒介動物の駆除設備
i.媒介動物を駆除する
ii.放し飼いの動物を規制する
b)1人当たり床面積3m2
c)10mの広い道路または街路
d) 2mの歩道
e)テント間の間隔8m(防火と換気のため)
i.1人当たり1日1kgの便
ii.1人当たり1日ILの尿
b)100m以内に10OLの貯水タンク(小さなものを多くより大きいも
のを数少なく)
c)25〜50人当たり,50〜100Lのゴミ用のかん1個
d)50人当たり,長さ3mの両側から使える洗面ベンチ1つ
つるはしとシャベル
簡便連結パイプ
セメント
“Y"セメント,セメント用網4インチ(約10cm)をひと巻き
55ガロン(約208 L)の貯蔵用容器
手動ポンプ
b)屎尿の廃棄
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