大災害と救急医療
DISASTER MEDICINE

Application for the Immediate Management and Triage of Civilian and Military Disaster Victims

Burcle FM Jr, Sanner PH and Wolcott BW

翻訳・青野 允、谷 荘吉、森 秀麿、中村紘一郎

(情報開発研究所、東京、1985)


9.災害時における公衆衛生

第II部 地上救出法

―Craig H. Llewellyn, M.D.


はじめに

 前稿では,災害時のトリアージによる緊急ケアの原則を強調した。本 稿では,トリアージの概念を,被災住民や被災共同体(以後共同体と省 略),その健康管理や環境サービスにまで広げる。

 緊急ケアや公衆衛生活動では,ともに,初期に迅速に正確な認識をも ち,何を優先するかを決定することが重要である。被災者にとっては緊 急ケアが必要だが,その後の救援活動には,これは役に立たない。次の 救援活動全体においては,共同体の公衆衛生に取り組むトリアージが基 本となる。それは損害を限られた範囲内に留めることによって,現実的 希望がもてるようにし,のちに衛生問題が生じることを予防する。これ は緊急ケアが果たす役割を小さなものにするだろう。

 医師が個々の被災者に対するアプローチと,防疫学者が共同体を評価 し,把握するアプローチとには,直接的な平行関係がある。緊急医療に 従事する医師が行った経験は,防疫学者にとって,疾病や環境衛生を扱 う場合に基本線となる。緊急医療に従事する医師は,患者の主訴を聞き だして身体的な検査をする。防疫学者は,迅速な事態の把握や調査を続 けることで,問題の所在をはっきりさせ,作業の優先順位を決める。そ して,明らかになった問題点と,作業に対する反応を監視,調整する。 決定に際しては,最も新しい正確な情報に全面的に依存する。公衆衛生 活動では,救助活動の基礎になる良質の情報を得ることが,むやみに救 助活動を始めることにとってかわらなければならない。

 この稿では,正確な情報を入手して,判断し,限界を定めることと, 簡単な調査,把握法を使って問題の優先順位を決めることについて述べ る。もし,災害を複雑で無駄の多いものにすることを避けようとするな ら,災害救助活動に対する防疫的なアプローチが欠かせない。


A.大災害の神話と現実

 過去20年間に生じた災害に対して評価,管理,調査する際,防疫学や 公衆衛生の技術を応用していくと,以下の仮定に対し疑問が生じた。

  1. 災害は多数の死者をだし,これに伴い緊急入院を要する多くの被災 者を生ずる
  2. 災害は広範なパニックと共同体の活動麻痺を伴う大きな社会的断絶 を引き起こす
  3. 災害には伝染性の疾病が伴う
  4. 災害はまったくほかからの助力に頼らねば生きていけないような生 存者を残す

 表I-8は,衛生活動の効果と災害の種類との関係を示している。こと に損傷が重度で,治療を要したり,伝染性疾病が広がる可能性があるケ ースについてである。1968年のイラン地震では,緊急治療を要した11,000 人中 368人(3.3%)のみが入院を要した。最近のペルー,ニカラグア,グ アテマラの経験から,緊急ケアの必要性は,当初の24時間でピークとな り,外部からの大きな援助が到着するまえ,72〜96時間で通常のレベル に戻ることを示している。洪水では死者は多数で,負傷者は少ない。暴 風では,死者はまれである。

 第二次世界大戦以来,災害に関連して感染性疾患が伝染することはほ とんどない。しかし伝播する危険性は常にあり,ことに災害が人口移 動を引き起こしたり,人口密度を高めたり,食料,交通,エネルギーな どの生命にかかわる供給や,正常な環境衛生活動がとだえるような場合 に,危険性が増す。免疫的プログラムは,災害救助活動とは別で,まれ にしか必要とされない。しかし,防疫学的調査,疾病の抑制,環境衛生 調査は不可欠である。病原体を媒介する動物の駆除を含む,正常な供給 ができるだけ早く,強制的に再開されねばならない。

 大災害は,生存者の間に広範なパニックを生じさせるものではない。 共同体を活動できないように麻痺させるものでもない。数分から数時間 内に,自発的な救助活動が始まる。時に効果がないこともあるが,目的 に沿った活動が行われる。このように,被災住民は,自分で救助,救援 ができるし,実行しようとする。しかし,これには方向づけが必要であ る。この方向づけは,現状を的確にとらえたうえでのものであってこそ, 信頼される。事態の把握を繰り返して得られる正確な情報は,生存者を 力づけ,彼らの努力を方向づけ,二次災害のもととなる噂を否定するの に欠くことができない。時宜を得た正確な情報の伝達は,被災住民の団 結を維持し強めるであろう。

 大災害の多くの影響は,現実の健康上のリスクよりも潜在的なりスク が大きい。正常な社会活動,公衆衛生活動,衛生サービスがとだえ,住 民が適切な供給を受けられる地域に移動し,集まってくると,これらす べてが健康を危くするものとなりかねない。一気に起こる被災と異なり, 救助・救援活動の早期に,これらの影響と潜在的な危険性が見極められ, 監視されるならば,そのほとんどが避けられるであろう。

 災害後のそれぞれの時期によって,現実的にも潜在的にも健康上の危 険性や救援に要するものが,かわっていく。それらは,被災地での重要 度の強さや程度によってもかわる(図1-21,22)。このような理由によっ て,被災直後から,状況把握や調査が繰り返されねばならない。また, 救援と復旧の期間を通して続ける必要がある。

 災害発生直後に,公衆衛生管理,食料,退避所などが,全部必要とな ることはまれである。救助・救援活動の組織,被災地での資材確保,援 助の優先順位決定,被災者や情報機関に生じる噂への対応などを,権威 をもって進めるためには,状況把握と調査の助けが欠かせない。多くの 死者がでて,傷害者のなかに生存者が少ない場合には,野戦病院はいら ない。被害が少ないか,またはより人員のそろっている資材豊富な施設 へ患者を移すことが適当である。

 災害はどれも独特なものであるが,重要な類似点がある。この類似点 を理解すれば,救助活動を最大限まで進め,割り当てられた資材が活用 できる。大災害の神話は,適切で正確な情報によってのみ駆逐できる。 状況把握と調査のための公衆衛生学的,疫学的な手段が,問題の機能的 な把握と優先順位の決定に必要である。


B. 医師の役割

 公衆衛生や疫学の専門家ではない者も,これらの活動のなかでは重要 な役割をもつ。計画と組織化の段階で果たされるべき役割をはじめとし て,監督役,評価役,相談役などの活動力と責任が伴ってくるし、これ らに続いて,医師は共同体と住民の問題を要求に沿って緊急ケアにより 対処できるように,たえず準備している必要がある。多くの場合,医師 は健康管理チームの一員であったり,また,健康衛生問題の唯一の専門 家であることもある。そのためにも,医師は,どのような必要性をどの ように満たすべきか,それなりの考えをもっていなければならない。特 に,災害発生後最初の3日間の緊急援助・救援段階では,そうあるべき である。

 本稿のこれ以降は,何をなすべきか,どのようにすべきかについて述 べる。しかし 議論は教科書的なしベルで行う必要がある。興味のある 読者は,文献としてあげたもののなかに基本的な参考書があるので,そ れを読んでいただきたい。

 たぶん医師が演じうる役割で,最も重要なことは,救助活動の権威の 確立である。そうでなければ不適当な衛生管理や防疫についての噂を広 め,住民,情報機関,外部機関,ボランティアなどに影響を与える。医 師が自分の活動を疾病者,負傷者の管理にのみ限定し,ほかの被災住民 を無視するならば,権威の確立は不可能となる。


C. 何をなすべきか,どのようにすべきか

1)災害前

 ここでは,予防と十分な準備が強調されなければならない。

a)大災害の脅威を認識させる指導

 共同体,住民,地域がどのような災害の危険にさらされているかを判 断すること。その地域での過去の経験,他地域での類似の経験を想起す ること。

b)傷害を受けやすい部分の把握

 起こりうる脅威に対し,どのような施設,サービス,地域,住民の活 動単位が傷害を受けやすいか。考えうる損害はだいたいどれくらいか。

c)在庫品の目録

 災害時に損害を予防するか,軽微にするために,利用可能な資材,救 援,復興に必要な物資のリストアップを行う。これは救援組織の作成, 関連機関,報告方法,連絡法,運搬法,動力,重傷者リスト,資材,そ の存在場所と利用可能度,援助を受けられそうな外部の団体名等を含む。

d)計画の進展

 必要な活動に対し,責任の所在が明確な,幅広い柔軟なアウトライン をつくること。これには警告,警報,移動,報告,災害の間やのちに必 要なその他の活動機能を含む。しかし,どのようにするかの詳細までは 含まない。

e)訓練

 緊急行動に携わる管理者,指揮者,人員は,その手順を訓練しなけれ ばならない。これらの人員は住民全体にケアを行えるだけの人数になる ようにする。

f)教育

 教育は行政を司るものにも必要だが,特に大衆に対して必要である。 教育は,大災害への警告と,発生した場合の対処の仕方を含まねばなら ない。このプログラムには,最初の緊急措置,公衆衛生,水と食料の確 保,通信手段を必ず含むべきである。

 災害がくるまえに計画図が用意されていなければならない。水道シス テム,下水システム,食料品の在庫とその分布,共同体における慢性あ るいは伝染性疾患のデータ,資材と装備などについての背景となるデー タは,緊急医療隊員の住所,その服務可能性と同様,集めておかなけれ ばならない。大災害計画では,どのようなしベルでも衛生についての配 慮が常に強調されるべきである。大災害救助を指揮する者は,迅速な初 期状況の認識,特殊な調査,正確なデータを得るための調査の必要性に ついて教育されるべきである。多くの人々は,公衆衛生と防疫技術をよ く知らず,それを健康管理活動の範囲でのみとらえ,救助活動全般にわ たるものと考えない。また,多くの人々は,何が必要なのかを見いだす 系統的な努力よりも,すぐ何か目に見えることを少しでもやろうとする。


D. 大災害と緊急救援相

 災害発生の瞬間から続く3日間に,緊急救助・救援が行われる。この 時点でのおもな難点は,この二つが必要以上に長びくことである。この ことは状況認識と監視活動とが組織化されず,緊急救援の初期に開始さ れないとしばしば起こることである。不必要な救助・救援活動の続行は 資材の浪費であり,必要な供給の再開を遅延させる。こうして生存者に さらに健康管理上の難題を課すことになる。またそれは不適当な外部の 支援を招くことにもなる。

1)初期の状況認識

 衛生を含む災害のすべての面での迅速な判断が効果的な緊急救助・救 援に不可欠である。正確な情報は速さにまさる。過去の救援活動は誇大 で混乱した報告によって修飾されている。不適切な支援が,ありもしな い問題を扱うために,不適当な地域に洪水のように押し寄せ,一方では 深刻な問題が認識されずに放置されている。

 初期の状況認識には以下のようなことが必要である。

  1. 被災地域とその人口を明確に判断する

  2. 損害の評価に基づいて救助の必要性を実際面でのカテゴリーに分類 する

  3. 二次的衛生面でのリスクの可能性を記録する

 表I-9に基本的な情報の必要性と相対的優先順位の概要を示す。

 初期の状況認識は,利用できる最高速の輸送法(ヘリコプターがこの目 的にすぐれている)で実行すべきで,技術的な卓越を必要としない。

 以前から存在するシステムを通じての通常の通信方法は最大限に利用 されるべきである。共同体のリーダ一からの報告は救助の優先権を得た いためにしばしば誇張され真の損害の広がりを無視してしまう。被害を 受けた地域,その人々,生命にかかわる供給(衛生,エネルギー,水,食 料,輸送,通信手段)の損害について得られた情報に基づいて,重要で緊 急な問題地域を判断し,活動のための資材が投入される。

 最初の3日以内に,初期の状況把握に基づいて,被災地の被災前の状 態に精通した技術専門家を使って特異的で多角的な被災地全域の調査を すべきである。衛生面において強調されるべきことは,緊急ケアに必要 な物資,長期入院の必要な者,環境衛生システムの損害,不適切な供給 と人口密度の増大を伴った人口の放置のようなほかの衛生面でのリスク の可能性などを記録することである。この組織的な調査の結果は絶対的 な緊急救援必需品を指示し,最終的な救援計画の基礎となるであろう。

 この調査と平行して,伝染可能な疾病の監視と環境衛生の監視が始め られなければならない。以前からあるシステムや手段,救助隊員は最大 に利用すべきである。両方の監視は,もし基本的な衛生が維持できなけ れば,疾病の伝染性が爆発的に増す可能性のある被災者キャンプや救助 センターでは,最重要事項となるべきである。

 表I-10はNieburgの種々の状況把握の手段によるモデルから得られ る概要である。重要な点は,状況把握は当初から始められ,動員可能な 人的資源に適した手段で続けるれることである。

 防疫的な監視は1日単位で変化した徴候を報告することに努力を集中 する。報告の形式例を図1‐23に示した。大災害に付随する伝染性疾患の 問題についてのさらに進んだ情報は表I-11に示した。

 環境衛生の状況把握と監視活動のための有用なモデルがこの稿のおわ りにつけ加えられている。安全な飲料水の適切で十分な量の供給がすぐ に必要となる。第二の重要点は,ほかの飲料以外の目的のために十分な 量の水が供給されることである。衛生的な食料品の扱いとその準備は, 腸管系の疾病の伝播予防に大きな重要性をもつ。これは被災住民の間の みばかりでなく救援隊員の間についても同様である。

 毒性産業物質による汚染の拡大のような,災害によって引き起こされ る新たな環境衛生上の問題の検索と迅速な環境衛生の保全も強調される べきである。

 迅速な状況把握,調査,持続的な監視の重要性は,強調されすぎるこ とはない。それらは被災者の緊急ケアと同時に始めなければならないし, 救援とリハビリテーション期の両期を通じても続けるべきである。確立 されたシステムと得られたデータは,衛生と救援活動の両方に有用であ る。医師がこれらの活動の指揮にエキスパートである必要はないが,医 師はその重要性を認識し,有用な手段を理解し,災害発生前の計画と大 災害救援に組み込まれるべく活動的であるべきである。

表I-9 緊急災害救抜に必要な情報

  1. 被災人口,その構成と地理的分布

  2. 連絡と輸送手段の使用可能性

  3. 水,食料,退避所,最低の衛生設備の使用可能性

  4. 被災者の数

  5. その地域の衛生管理システムの状況と能力――人員,資材,設備

  6. 残留住民の数とその場所

  7. 死者と行方不明者の数


表1-10 災害状況におけるデータ採集のための Nieburg のモデル

状況把握の手段必需品データ採集のテクニック長 所短 所
時間情報源インディケータ 
1.災害発生前の背景のデータ監視の実行訓練されたスタッフ○衛生施設や開業医からの報告
○疾病の類型と季節性
問題点や変更を追求するデータの基本を提供する 
2.遠隔地,航空後,へリコプタ一,人エ衛星数分―数時間 ハードウエア○実視,カメラ
○破壊された建物,道路,ダム,洪水
早急。地上輸送力がない際は有用。被災地の判断に有用 高額。大きな主観的なまちがい。最小の特異的なデータ
3.被災地の徒歩巡回(騎 馬巡回)数時間―数日輸送,地図○実視,土地のりーダーや衛生管理従事者との会話
○死者,家屋のない人,疾病の種類と数の問題
早急。客観的技術的な背景を要しない。非特異的なデータひずみの可能性。高率のエラー。最大の被災地に達していないことがある
4. 迅速な汚染謀査2―3日数人の訓練されたスタッフ○ 早急の調査
○死者,入院者,栄養状態(3.を参照)
早急,ハードデータ。管理ミスを予防することができる。監視の基礎をつくることができる。常に無作意ではありえない。仕事の密度が高い。過度に読みすぎる危険
5. 迅速な衛生スクリー二ングシステム実行(必要に応じて) 衛生管理従事者,必要なデータによる備品の準備○スクリーニングを終わった人からのデータの採集
○栄養状態,デルモグラフィ,ヘマトクリット,寄生虫血症など
早急な設定と機能。データを集め避難民に対してサービスを与える(ワクチン、ビタミンA、トリアージなど)最少の必需品の資材。限定された住民のみに有用で外部の状況を反映しない
6. 監視システム実行数人の訓練されたスタッフ、標準的な診断、交信データ○標準方式でのルーチンデータの採集
○死者,有病者は診断と年齢
タイムリー。広げることができる。客観的 資材の設定を要し,常に動ける。警戒を要する。従事者へのフィードバックが必要
7. 調査変化する数時間―数日経験深い疫学者,統計学者,信頼できる野外活動者○無作為あるいは代表標本の選択
○問題への特異性
短時間での多くの特異的なデータデータの解読に疫学者や統計学者を要し,仕事の密度が高い

(PUBLIC DOCUMENT: Health Aspects and Relief Management After Natural Disasters. Center for Research on the Epidemiology of Disasters. Bruxelles, Belbium, 1980)


表I-11 災害救援活動に関連した伝染力のある疾病

救援の要素疾病のメカニズム特異的な疾病(例)
退避所混雑,混乱球菌性髄膜炎*
汚染*便からの汚染による疾患
食料品幼児食,粉ミルク
かん入りミルク
下痢*
抗生物質過剰投与*耐性菌
注射用鉄剤細菌の発育を促進マラリア*
免疫化未消毒の注射針肝炎
易感染者の参加免疫の欠如小児麻痺,肝炎*
疾病保持者の参加地方性の媒介動物
輸入細菌
マラリア,顎口虫症,条虫症
疑疫病誇張した監視少数

* これまでの救護活動中に発生した例やその発生機序が知られているもの


補 遺


A. 家庭用緊急衛生に関するパンフレットの見本例1)

 多くの公共設備が自然災害によって破壊されうる。もし共同体の水供 給路が損害を受けたならば,修理がなされるまで家庭への水の供給が打 ち切られる。下水管がこわれれば,通常は汚水の廃棄が不可能となる。 ゴミ集配と下水廃棄が機能しなければ,ネズミ,ハエ,その他病気を媒 介する動物を増やすことになる。日常の食料供給の流通も維持困難とな る。

 不潔な水や食品は疾病を生み,ゴミや人間の排泄物は疾病を拡散させ る。汚い家や不潔な身体も同様の作用をもつ。それゆえ,個々の家庭は 状況が正常に復するか,救援が受けられるまで自身で注意をすることが 重要となる。そうすることで,簡単な衛生のルールが家庭で行われるこ とになる。家族を守るための簡単な方法を以下に述べる。

  1. 安全であると思われる水や液体だけを飲む。警告の間に,家族に必 要な十分な水を貯えること。

  2. 各家庭へ水の供給を制限するバルブを,必要に応じて閉められるよ うに,バルブのある場所を確かめておく。そのバルブが確実に自由に動 くか試しておく。レンチのような道具がバルブを動かすために必要なら ば,緊急時にすばやくそれを入手できるように置き場所を知っておく。 緊急時の飲料用,炊事用,洗濯用の水が途切れたらどこで得られるか覚 えておく。

  3. 各家庭で飲料用に水を精製できるよう準備しておく。それには多く の方法がある。

    a)煮沸:水は5〜10分間煮沸すると飲料用となる。煮沸は微生物を 破壊するからである。

    b)塩素殺菌:5%の塩素の糊状液が使用できる。水1Lに 対して糊  状液を1滴加える(濁り水ならば3滴)。適量の塩素糊状液を加え,かきまぜて30分間放置する。安全の目安である塩素特有の味と臭いを調べ,もしそれがなければ,さらに2~3滴加え15分間待って味を再び確かめる。

    c)精製用錠剤:水を安全に精製するのにヨウ素を放出する錠剤が使 われる。通常のきれいな水では1Lに1錠で十分である。濁り水には 2錠用いる。

    d)ヨードチンキ:通常,家庭にあるヨウ素が水の精製に使える。水 1Lに2〜3滴(濁り水ならば8~10滴)加え,かきまぜて30分間放置 する。

  4. 安全な条件のもとで処理された安全な食料だけを食べる。2週間分 の食料を手もとにおき,使った分ずつ補充するようにする。

  5. 汚染された食料や水分を摂取するのを避ける。

  6. 水洗便所がなかったり,機能しない場合には,人の廃池物の廃棄の ためにふた付きの箱を用いる。肥料袋の作成法を学ぶとよい。

  7. 便や不用物は少なくとも地面から30cm以上の深さに埋める。

  8. 衛生問題の責任者の言うことを聞き,指示に従う。


B. 緊急状況下における錠剤,粉末,液状消毒薬使用のためのガイドライン2)

 個々の使用者に錠剤,粉末,液状の消毒薬を供与することは,その地 域が次の条件を満たした場合にのみ考慮すべきである。

  1. 人々が消毒薬の使用法について適切な衛生教育を受けていること

  2. 水不足がその地域で生じていること

  3. 公衆衛生係員や予備の人員数が適当で,継続的に錠剤を使用するた めに必要な経過観察ができること

  4. 緊急相やりハビリ相の全相において必要とされるほかの供給品の配 布網があること

 一般的には,これらの消毒薬は,監視下にある限られた数の住民に対 する少量の飲料水の緊急消毒用として考えられ,1〜2週間のきわめて短 期間に限定される。通常の塩素消毒の再確保と水源の保全のために全力 を注ぐ。

 緊急時に消毒が必要と考えられる場合には,水の最初の状態にいつも 十分な注意が向けられなければならない。混濁と着色は,布による濾過 でできるだけ減らす。水は一度消毒されたら,清潔でふたのある非腐食 性の容器に貯蔵する。緊急治療のために個々の使用者にどのような消毒 薬が与えられようとも,使用前に公衆衛生従事者は,その使われる水の 可否を確かめなければならない。もし不適当であれば,塩素消毒を行う。 また,水のなかの残留塩素については,その水の配布前に調査しておく。

 少量の飲料水を緊急の状況下で消毒するために,最も一般的に使われ るのは塩素,ヨウ素,過マンガン酸カリウムである。詳細は以下に示す。

1)塩素化合物

a)錠剤

 使用される最も一般的な塩素化合物は,ハラゾン(halazone)錠であ る。使用方法は,通常,ピンの底に印刷してある。水1Lに対してスプ ーン1杯(4mg)を使用する。もし水が濁っていたり,ひどく着色してい れば使用量を2倍にする。水はかきまぜ,使用前に10分間放置する。 ハラゾン錠はピンのワックスシールが開封されるとすぐに効力を失う。 それゆえ,錠剤はできるだけ早く使用しなければならないし,使用中は ふたをしっかりしておくべきである。ハラゾン(160mg)の強力錠は,大 型の錠剤として手にはいる。ハラゾン(160 mg)は,40 Lの清水または20 Lの混濁水や20 Lの着色水の消毒に使われる。この強力錠を用いる際に は,前述の小さなハラゾン(4mg)錠使用の際の水対ハラゾン比と同様に して使わないよう(1錠〈160 mg〉に対して水1 Lのようにまちがわないよ うに)注意をはらう必要がある。その地域の衛生従事者はこの注意を知っ ておくべきで,使用者を教育すべきである。

b)次亜塩素酸カルシウム顆粒剤

 このHTHとかブレクロロンとよばれる乾燥粉末は60〜70%の塩素を 含んでいる。乾燥した冷暗所に,きっちりと密閉した箱にいれて保管す ると,ほとんど安定したままである。一度箱が開封されると40日でその 効力は5%減る。

 粉末をまぜる際には,発火の可能性があるため,油や発火しやすい物 質と接触させないように注意する。HTHを使うときには,スプーンに山 盛り1杯(7g)を2ガロン(約7。6 L)の水に加えて溶かし、500 mg/l の貯 蔵液をつくる。この貯蔵液を,貯蔵液1に対し水100の割合でいれ,こ れを30分間放置する。もし塩素の味が強すぎるならば,さらに数時間放 置して空気にさらすか,きれいな容器に数回入れたり出したりする。作 成した貯蔵液は作成後2週間以内に使用すべきである。

c)塩素ソーダの糊状液または次亜塩素酸塩水(javel water)

 一般家庭用の糊状液は,緊急時において水を消毒しうる化合物を含ん でいる。使う糊状液の塩素の含有量(通常3〜10%)を調べておくべきで ある。薬剤は表I‐12に従って水に添加する。

 もし使用する糊状液のなかの塩素含有量がわからなければ,水に10滴 加え,かきまぜたのち,30分間放置する。塩素の臭いが少しあるかもし れない。塩素の臭いがなければ,さらに10滴加え15分間放置する。

表I‐12. 糊状液の希釈量

塩素量清水
( 1 L当たり)
混濁または着色
(1 L当たり)
 l%l0滴20滴
4〜6%2滴2滴
7〜l0%l滴1滴

2)ヨウ素

a)錠剤

 最も便利で信頼できるヨウ素の錠剤は約20mgのテトラグリシン・ハ イプロバ-・イオーダイン,90mgのジソジウム・ジハイドロゲン・フロ ホスフェート,5 mgの滑石〈H2Mg3(SiO3)4〉を含むものである。この錠 剤は20℃で1分以内に溶解し,1錠当たり8 mgのヨウ素元素を放出す る。この量は,ほとんどの自然水1L を,10分以内で消毒するのに適し ている。

b)溶液

 一般家庭用の救急箱にはいっているヨードチンキ(2%チンキ液)が水 の消毒に使用できる。チンキの5滴で清水 1 Lを消毒できる。混濁水に は10滴を滴加する。少なくともその後30分間は放置する。

3)過マンガン酸カリウム(KMn04)

 過マンガン酸カリウムは反応時間が長いのであまり使われない。通常 これは,井戸,泉,貯蔵タンク内の大量の水のための消毒薬と考えられ ている。過マンガン酸カリウムはたぶんビブリオコレラを例外とするの みで,ほかの病原菌に対しては効果に疑問がある。使用するには40mgの 過マンガン酸カリウムを 1Lの湯に溶いて用意する。その溶液は,24時 間で約 1 m3の水を消毒するといわれる。


C. 自然災害における環境衛生の方法についてのガイド3)

 ここでは,救助・救援活動の間に行なわれるべく推奨されるものを要 約して述べる。

1)救援活動――水と排池物の処理

 救援活動中,汚染の疑いのある水源からの水は1分間煮沸させるか, 錠剤,粉末,結晶,液体のいずれかの塩素,ヨウ素,過マンガン酸カリ ウムで消毒すべきである。供給されるべき水の最小必要量は,寒冷また は温暖な気候では1人当たり,1日に 3L,暑い気候では1人当たり1 日に 6Lである。

 食料は腐敗しにくいものであるべきで,調理を要するものであっては ならない。  ゴミ,食物残滓の廃棄場は,浅い溝を掘り使用する。溝の大きさは, 1,000人当たり深さ10 cm,幅 45 cm,長さ 3mが必要である。

2)救援活動――テントキャンプ

 救援活動中のテントキャンプの場所は,傾斜地で,排水がよい土壌で, 悪天候に強い場所を選ぶべきである。場所は蚊の繁殖地,ゴミ捨て場, 商工業地帯から離れているべきで,配置の仕方は次の条件に合致しなけ ればならない。

  1. 1,000人当たり 30,000〜40,000 m2の広さ
  2. 10 m幅の道路
  3. テントと道路との間隔は最低 2 m
  4. テント間の間隔は最低 8 m
  5. テント床面積は最低 3 m2

 キャンプ場内での水の配置は次のように構成されるべきである。

  1. 最低200 Lの容量のタンク群
  2. 最小供給能力は1日当たり15 L
  3. テントとタンクとの距離は最大100m

 キャンプ場内の固形ゴミの廃棄容器は,防水,防虫処理がなされ非浸 食性のものでなければならない。容器は,プラスチックか金属のきちん としたふたのできるものであること。最終的廃棄は焼却か埋没による。 容器の大きさは4〜8個のテントで 1Lか25〜50人で50〜100 L必要で ある。

 尿や汚水の廃棄物はキャンプ内の穴か溝便所に捨てる。これは,テン トから30〜50m離れ,10人当たり1個が必要である。

 汚水の廃棄には人工的な濾過性の穴が必要で,穴には小石,ワラ,草, 小枝の層をつくる。ワラは毎日取り替えて焼く。

 洗面は,長さ3mの両側から使える洗面ベンチで行う。100人当たり 2脚のベンチが必要である。

3)救援活動――収容施設

 救助の間に犠牲者を収容する建物には,1人当たり 3.5 m2の最小床面 積,10 m2の最小空間,1時間当たり 30 m3の最低空気循環が必要である。

 男女別々の洗面ブロックを用意する。洗面の設備として10人当たり1 個の洗面器,もしくは100人当たり4~5mの洗面ベンチ,そして温暖な 気候では50人当たり1個のシャワー,熱い気候では30人当たり1個の シャワーが必要である。

 住居を失った人々を収容する際には,女性25人当たり大使所1個,男 性35人当たり大使所1個と小便所1個の設備が要求され,建物からの距 離は最大で50mでなければならない。

 ゴミ廃棄容器は,プラスチックか金属のふたのきちんとできるもので, 25〜50人当たり 50〜100 Lの容器が有効である。

4)救援活動――水の供給

 毎日の水の消費量は,野外病院で1人当たり40〜60 L,大量給食セン 夕一で1人当たり20〜30L,仮設小舎やキャンプで1人当たり15〜20 L,洗濯設備で1人当たり 35 L必要である。 水の消毒のための塩素の処方は,通常の塩素の残留を目安として水1 Lに対して0.7〜1.0mgである。配管の消毒に24時間の消毒時間をとれ る場合は,水 1Lに対して50mg,1時間しか消毒時間がない場合は,水 1 Lに対して 100 mgを添加する。井戸や泉の消毒には,水 1L に対して 50〜100mgを添加し12時間かける。

 消毒した水のなかの高濃度塩素を除くためには,チオ硫酸ソーダ 0.88 g/塩素 1,000 mgを使用する。水を汚染から守るために,水源と汚物廃棄 場所は最低 30 m離れていなければならない。また下水だめと便所の底を 井戸の水面から 1.5〜 3 m上におくことで守られる。このため,1)水を通 さない材質でつくった井戸枠を地表 30cmから地下 3mまで埋める,2) 井戸の周囲に 1m半径でコンクリートの台をつける,3) 50 m半径で囲い をする。

5)救援活動――公衆便所

 公衆便所用の浅い溝は,100人当たり深さ90〜150cm,幅30cm(でき るだけ狭く),長さ3.0〜3.5m,深い溝は,100人当たり深さ1.8〜2.4 m,幅75〜90cm,長さ 3.0〜3.5m,穴は,20人当たり深さ 5〜6m, 直径40cmの大きさが必要である。

6)救援活動――ゴミの廃棄

 ゴミの廃棄用の溝は,200人当たり深さ2m,幅15m,長さlmの大 きさにし,埋める際は,土を上から40cm以上かぶせる。この方式だ と,溝は1週間でいっぱいになる。ゴミの分解に要する時間は4〜6か月 である。

7)救援活動――食品衛生

 台所用具は熱湯で5分間,100 mg/Lの塩素液で30秒間,200 mg/Lの 第4アンモニア化合物で2分間消毒する。

8)救援活動――貯蔵品

 次のものが装備や供給品として重要な物件であり,それらは緊急環境 衛生のために貯蔵されるべきである。

  1. ミリポア(MiIIipore)社の衛生セット
  2. 残留塩素の測定計とpHテストのキット
  3. HachのDR/EL野外テストキット
  4. ポケットタイブの懐中電灯と予備の電池
  5. 水圧計(陽圧,陰圧ともはかれるもの)
  6. 迅速リン検知キット
  7. 携帯用塩素または次亜塩素酸
  8. 携帯用の200〜250 L/minの純水化装置
  9. 7m3の容量のある水用のタンクローリー
  10. 集めやすく,持ち運びできる貯蔵タンク


D. 自然災害後の環境衛生の状況認識4)

はじめに

 自然災害のあとにはすべての環境衛生の手段(水質・量の改善,基本的 な衛生器具の確保,貯蔵所など)が次の要素と関連して考慮される。

  1. 人口密度の変化
  2. 住民の所在の変化
  3. 資源・資材の変化,材料の利用可能性の変化

 以上の要素は時間とともにかわるので,それぞれの方法に向けられる 努力の密度は,行動を起こすときに考慮しなければならない。

a)第一優先権--0〜3日

 食料,輸送力,エネルギーのような生命にかかわる供給を確保する。

  1. 最低量の安全な飲料水
  2. 基本的な衛生状態の確立
  3. 最低限度の避難場所

b)第二優先権--3〜7日

 不可欠な供給の確保。

  1. 個人の衛生に必要な水
  2. 食品の保存方法の設定
  3. 基本的な再建行動のコントロール
  4. 破壊物の整理の開始
  5. 固形廃棄物の処理の開始

c)第三優先権--7 日以後

 正常な監視の設定。

  1. 水質
  2. 衛生
  3. 食料の管理

 資材(人的資源と装備)を考慮する際には次のことに注意する。

  1. 何が標準的資材として必要か?
  2. 今,この地域にどのような資材が使用可能か?
  3. 人口密度,保管場所,人的資源についてどのようなやり繰りが期待 できるか?
  4. 災害以前の供給水準にいつ到達できるか?

 その報告の準備をするに当たって,災害救援チームは,彼らが向かう どの場所についても次の1)〜5)の疑問をもつべきである。

1)飲料水(0〜7日)

  1. どのような水源から水が得られているか?

    a)井戸(保護されているか? その容量は? どのようにして取水し ているか?)
    b)川(取水の可能な方法は? 水質の変化は? 汚濁の程度は?)

  2. 水がどのように扱われ,改良されているか?

    a) 細菌学的に安全か?(大腸菌数50個/100ml)
    b)安全にするには何が必要か?(水源は保護してあるか?)

  3. ほかの水源が必要か?

    a) どんな資材が必要か?
    b)安全でなければ,安全にするには何が必要か?

  4. 水をどのようにして水源から使用者まで導くか?

    a)パイプ(大きさは? どこにあるのか?)
    b)トラック(燃料は? 車両の維持は?)
    c)ポンプ(電気は?)

  5. 水をどのようにして貯えるか?

    a) 個人の場合(何に貯えるか? どのようにして清潔に保つか?
    b) 共同体ないし集団の場合(誰が管理するか? どのように分配する のか? 容器は?)

  6. 何のために水が使われるか?

    a) 個人用(飲料水? 衛生用?)
    b)共同体(風呂? 衣服の洗濯?)

2)屎尿の廃棄(0〜7日)

  1. 使用者の習慣はどうなっているか?

    a) 個人用の便所は?
    b)野外でしているのか?
    c)共同用の公衆便所は?

  2. 現在の施設の状況は?

    a)各個人用の設備は?
    b)共同体の設備は?
    c)下水システムは?

  3. 気候が屎尿の処理にどのような影響を与えるか?

    a)暑くて乾燥しているか?
    b)暑くて湿気が多いか?
    c)寒冷か?

3)基本的な避難場所(0〜7日)

  1. 避難場所の建設にどのような資材が必要か?

    a)家族構成の規模は?
    b)その地でどのような資材が利用できるか?
    c)その資材はどのくらい遠くから輸送されるのか?

  2. キャンプ避難所のための必需品は何か?

    a)キャンプ地(食料の配給は? 風や水に関連した設定場所は?)
    b)水の供給は?(計画案と必要な装備は?)
    c)基本的な衛生は?(使用できる空間は? 穴は掘れるか? 排水 は?)

4)食料の保護(0〜7日)

  1. どこでどのように食料が準備(料理)されるか?

    a)個人(燃料,レンジ,コンロは?)
    b)キャンプ(衛生実施と必要な材料は?)

  2. 周辺地域の食料の調査

    a)損害を受けているか?
    b)使用が制限されているか?
    c)たくさん使えるか?

  3. 食料の扱い方が確立されているか? 貯蔵法の実施は?

    a)個人の教育は?
    b)キャンプ内の指導は?
    c)食品の貯蔵と場所は?
    d)集団的な食料の救援はあるか?

5)個人の衛生方法

個々の被災者の衛生概念のレベルは?


E. 被災者キャンプのなかでの環境衛生5)

 実際に行動しているときは,新しい街をつくっているという事実を認 識しなければならない。それゆえ,以下のすべてに対して下部組織を組 織せねばならない。

  1. 飲料水
  2. 屎尿の処理
  3. 避難所
  4. 固形ゴミの廃棄
  5. 媒介動物の駆除

 30,000人に及ぶ人々に対して避難所をつくることは膨大な仕事である。

1)水

  1. 300人当たり一つの公共用蛇口

  2. 300の蛇口が必要
    a)パイプは?
    b)井戸は?
    c)災害後の日数当たり1人に 5 Lとして 30,000人収容すれば毎日 150,00O Lを要する

2)便 所

  1. 50人当たり一つの便所

  2. 設営に16,000 m3の土を動かさねばならない
    a)つるはし,シャベルは?
    b)背板の材料は?
    c)プライバシーのための材料は?

  3. 600個も便所をつくらねばならない

3)固形廃棄物

  1. 1日,1人当たり,0.5 〜 1 kgで,1日に15,000 kgを運ばなければならない

  2. 一つの地域を決めて廃棄させる
    a) どのようにして運ぶか?
    b)どこに埋めるか?

4)評 価

5)場 所

  1. 自然の排水
  2. 地表空間(1人当たり10〜20 m2)

6)生活条件

  1. テント間は 8 m
  2. 床面積は1人当たり 3 m2
  3. 道路と家の周囲に排水溝をつくる

7)衛生条件

  1. 十分な水(災害後の日数当たり15〜20 L)
  2. 洗濯施設(30人当たり 1.5 m の二つの洗い場をもつ洗濯場)
  3. 公衆便所(25人当たり1個)
  4. 食料品の衛生
  5. 地域全体の衛生のために固形廃棄物を収集

8)全体的な注意

  1. 住居空間にはいる雨水
  2. シャワーの使用による問題
  3. 洗濯設備を使うことによる問題
  4. 便所を使用することでの問題
  5. 個人の衛生問題
  6. 仕事から長期間離れることに対する問題

9)問題地域

  1. 大雨後の洪水
  2. 水質の不適切
  3. 扱いと貯蔵による水の汚染
  4. 不備な設計と維持による便所を源とする感染
  5. 収集システムがないための固形物廃棄の問題。個人的な廃棄は不衛 生である
  6. ハエ,ゴキブリなどの増加や人口の増加

10)全体的なコメント

  1. 水の煮沸
    a)どこで容器や燃料を手にいれるか?

  2. 消毒
    a)消毒薬はどこで入手できるか?
    b)消毒した水をどこに貯蔵するか?

11)キャンプ地

  1. 排水をよくするために粘土状の土壌地を避ける
  2. 南に面して設営する
  3. 高地に設営する
  4. 収容する場合,1,000人ずつの単位に細分する

12)全体的なこと

  1. 衛生教育が非常にたいせつである

13)経験から学んだ事項

  1. キャンプ地において必要なこと
    a) 適切な道路 街路があること
    b)まばらに植物がはえた草原の傾斜地で,適当に排水がよいこと
    c)1人当たりの空間l0~20m2は,長期になれば30~90m2に変更す ること

  2. 水と基本的な衛生
    a)水は適切に処理してパイプで配水する
    b)衛生設備はキャンプの期間と使用できる機械,道具,労働力に基 づくべきである。短期間では,40人当たり一つの便所,長期間では25 人当たり一つの便所となる

  3. 固形廃棄物
    a)自治体の行う収集と廃棄のサービスに基づくべきで,もし不可能 なら地域全体を含む衛生システムを組織する
    b)もし必要ならば共同体の容器を用いて貯蔵器を配布する

  4. その他のサービス
    a)移動衛生設備を供給する
    b)キャンプ委員会を組織する
     i.衛生
     ii.警備
     iii.秩序
     iv.衛生教育
    c)配布中および販売中の食品の衛生
    d)共同体の洗濯と洗面設備
    e)媒介動物の駆除設備
     i.媒介動物を駆除する
     ii.放し飼いの動物を規制する

    14)計画の基準

    1. 空間面積
      a)1人当たり30〜40 m3
      b)1人当たり床面積3m2
      c)10mの広い道路または街路
      d) 2mの歩道
      e)テント間の間隔8m(防火と換気のため)

    2. 衛生
      a)便所のデザイン
       i.1人当たり1日1kgの便
       ii.1人当たり1日ILの尿
      b)100m以内に10OLの貯水タンク(小さなものを多くより大きいも のを数少なく)
      c)25〜50人当たり,50〜100Lのゴミ用のかん1個
      d)50人当たり,長さ3mの両側から使える洗面ベンチ1つ

    15)その他の必要資材

    1. 鍋とポット
      つるはしとシャベル
      簡便連結パイプ
      セメント
      “Y"セメント,セメント用網4インチ(約10cm)をひと巻き
      55ガロン(約208 L)の貯蔵用容器
      手動ポンプ

    16)災害の起こりそうな地域への配慮

    1. 維持,維持,維持!(生活条件の確保と維持)
    2. 衛生従事者は保護されるべきである(彼らこそ基本的な要素である !)
    3. 次のことに注意する
      a)水の容器
      b)屎尿の廃棄


    引用文献

    1)Assar M: Guide to Sanitation in NaturaI Disasters. p.93-94, GeneVa, WHO, 1974.

    2)EnvironmentaI Health Management. After NaturaI DiSaSter. Pan American Health 0rganization (PAHO). Scientific Publication No.430. p.47‐50,1982.

    3)EnvironmentaI Health Management. After NaturaI Disaster. Pan American Health 0rganization (PAHO). Scientific Publication No.430. p.51-55, 1982.

    4)WHO Course on Health Aspects and Relief Management in NaturaI Disasters. p.148-150, Brussels, 1980.

    5)WHO Course on Health Aspects and Relief Management in NaturaI Disasters. p. 131-135, Brussels, 1980.

    参考文献

    Assar M: Guide to Sanitation in NaturaI Disasters. Geneva, WH0, 1971.

    Bevenson AS (ed.): Control of Communicable Diseases in Man. 13th ed. Washington, D.C., American Public Health Association, 1981.

    Center for Research in the Epidemiology of Disasters: Health Aspects and Relief Management after NaturaI Disasters. Bruxelles, Belgium, 1980.

    VWorld Health 0rganization: Emergency Health Management after NaturaI Disaster. Scientific Publication No.407. Washington, D.C., Pan American Health 0rganization, WH0, 1981.

    World Health 0rganization: Epidemiologic SurveiIIance after NaturaI Disaster. Scientific Publication No.420. Washington, D.D., Pan American Health 0rganization, 1982.

    World Health 0rganization: EnvironmentaI Health Management after NaturaI Disasters. Scientific Publication No.430. Washington, D.C., Pan American Health 0rganization, 1982.

    --訳 中村紘一郎


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