(情報開発研究所、東京、1985)
―Randall B. Case, M.D.
1)天候
天候が,航空医学的救出が可能か無理かを決定する.
a)視界不良
b)暴風
c)風
d)航空機凍結
e)降雨降雪
f)比較的有利な状況
2)地理
地理的な条件も航空医学的救出の適・不適をきめる.
a)高地
b)着陸地
c)比較的有利な状況
@荒野,山岳地帯,または,洪水,孤島とかで,道路を通って接近で
きない場所.大都市で交通機関が渋滞している場合.道路が敵国によっ
て破壊されているとか,敵の手中に収められている地域.
A湾,丘陵地帯などの,航空機で直接行けば近いが地上を経由したの
では著しく遠い場所.
3)航空機
航空機は,航空医学的救出計画において最も変動しやすい要因を有し
ている.そのうち最も重要な変動要因は,@客室の大きさ,A積載重量
B飛行距離,C飛行速度,D安全飛行高度,E着陸地の条件,F操縦機
器および通信装置 G医療装備,などである.これらすべての要求を満
足させる航空機は存在せず,このような特殊な要求は災害時に実際に生
じる必要性によってそれぞれ異なってくる.航空医学的救出法に利用で
きそうな航空機の機種にまえもって慣れておけば,医師の必要に応じて
最も有効に利用できることになろう.
a)客室の大きさ
b)最大積載量
c)飛行距離
d)飛行速度
e)安全飛行高度
f)清隆地の必要集件
g)操縦機器および通信装置
h)医療設備
1)航空生理学
航空生理学は低酸素症,ガス容積の変化,加速力,温度変化,低湿度,
騒音,振動などを含む.
a)低酸素症
通常,患者運搬に用いられる典型的な高度には二種類ある.平均海抜(mean sea level; MSL)5,000フィート(1,525m)での標準大気圧は632mmHgで,肺胞気酸素分圧は80 mmHgである.平均海抜10,000フィー
ト(3,050m)では,標準大気圧は523 mmHgで,肺胞気酸素分圧は61
mmHgである.正常肺胞気‐動脈血酸素分圧鮫差は 10 mmHg であるが,
おそらく患者の具合が悪く,外傷のある場合には,もっと高い数値を示
していたとしても飛行中には低酸素症が起こることが予想できる.実際
に,患者の基礎動脈血酸素分圧がわかっている場合(たとえば動脈血ガス
分析から)には,
算できる.
低酸素症を最小限に留める一般的な方法には,酸素吸入,客室圧上昇,
低空飛行などがある.平均海抜34,000フィート(10,370m)で,100%の酸
素吸入をすれば,海抜ゼロ地点における空中での呼吸に等しい動脈血酸素分圧を得ることができる.
b)ガス容積の変動
ガス容積の変動およびその影響を最小限にするための一般的方法には,
次のようなものがある.@飛行前にNG管または胸管を挿入しておく,
A飛行前または飛行中に充血除去薬を使用する,Bプラスチック製輸液
バッグを使用する,CET管やフォーリーカテーテルのバルーンを膨ら
ませる場合には,客室を加圧しているか低空飛行をしているときには空
気を注入するよりは生理食塩水を使用する.その他の航空医学的現象は,
航空機でもヘリコプターでも同様に発生する.
c)加速力
こうした加速力を最小限に留める一般的な方法には,@静かな操縦方
法,A既知の,または可能性のある暴風領域を避けること,B患者を航
空機長軸に対し横向きに乗せること,C暴風防御装置のある航空機を利
用すること,などがある.
d)極端な気温
e)湿度
f)騒音
騒音を最少にする一般的方法には,@個人に耳栓を使用すること,A
乗務員間のインタホンにはヘッドホンを使用すること,Bドップラー血
圧測定装置のような特別の医療機器を使用すること,などがある.
g)振動
2)臨床状態
航空医学的生理現象によって,多数の臨床症状が出現する.急性のも
のと以前から存在する状態との両方の生理的変動があるので,関連する
事項の決定に際しては,両者を考慮にいれなければならない.
@航空医学的救出法をそもそも行うべきなのか?
Aもしそうであれば,飛行前の診断または治療の準備には何が必要な
のか?
B飛行中の環境はどのようにすべきか?
そうした判断には,絶対的なものはほとんどない.むしろ,外科手術
の実施決定などのように,相対的な危険に関する判断が問題である.航
空医学的救出の禁忌は,単に相対的なもので,内容に応じて慎重に考慮
しなければならない.
a)相対的禁忌
h)血液学的状態
c)心血管障害
d)肺障害
e)脳神経外科的状態
f)整形外科的状態
g)熱傷
@高所で客室内湿度が低い場合,空調が行われている場合,温暖地,
熱帯地での温室効果などは,蒸散性の体液喪失が増加する.飛行中では,
体液補給を入院中のそれより多くすることを考えなければならない.飛
行時間がかなり長くなるような場合には,尿量監視用のフォーリーカテ
ーテルと中心静脈圧(CVP)モニタの両者を用いて必要な体液補給量を計
算することが望ましい.
A全周性の焼痴皮は,全周を取り巻くギプスと同様,遠位部の循環を
危険にさらし,飛行中は,ガス交換を減少させる危険がある.飛行前に,
適切な焼痂皮除去術を施行しておくべきである.
B気道熱傷および一酸化炭素中毒の可能性を考慮すべきである.
h)耳鼻咽喉科的問題
i)胃腸障害
j)眼科的状態
k)減圧病
l)皮膚科的状態
m)出産患者
n)新生児
o)歯科問題
災害に対する航空医学的対応を計画する過程では,いくつかの重要因子を考慮しなければならない.
@問題になっている地域の地形の特徴や天候状況などは,どうなって
いるか?
A医療施設はどこにあるか?
B災害のような環境下での,航空医学的救出の強みと弱点こついて何を予期できるか?
Cどんな航空医学的資源(設備および人員など)がその地域に存在する
か? また,これを利用するには,どのような手順が必要か?
Dどのような着陸地があるか? 近くに医療施設があるか? どのよ
うな天候条件下で着陸地を利用できるか?
E好都合な天候または悪天候のいずれの場合にしても,現場,または
医療施設,航空管制に関して,どのような処置が必要になるか?
Fどのような地上輸送が着陸地と医療施設とを連絡するのに必要とな
るか?
G航空機内,医療施設内には,どのような通信設備が存在するか? 災害管理に対してはどうか? いかに対処するのか?
H安全かつ有効な航空医学的救出を行うために,職員に対してどのよ
うな種類の訓練(航空医学的訓練を含む)を実施するか,またはするべき
か?
2)災害時
発生した災害に対して,将来の見通しを立てる際に,航空医学的救出
を容易にするためには,次の因子を考慮しなければならない.
@航空医学的要因には,どのようなものがあるか? たとえば,現在
の天候はどうか,天気予報はどうか? 現場の地理,途中の経路の地理
はどうか? 受け入れ医療施設はどうか?
A現在利用できる航空機の数,種類,機能はどうか?
B天候や地理の状況によって,どのようなことが航空医学的救出に対
して制約となるのか? もい制約がある場合,どのような種類の患者
や航空機が問題となるのか?
C利用できる輸送方法として,かわりこなるものにはどのようなもの
があるのか? そのような環境下では,それをいかに比較するか?
D傷害者数および種類,傷害部位はどうか?
E航空医学的救出で,誰が最も利益を受けるか?
F飛行前準備には何が必要か? どのような傷害者に対して,その安全な救出のためには何が必要か(下記参照)?
Gそのような準備にはどれくらいの時間と資材がかかるか?
Hあらゆる種類の資材が不適当である可能性がある場合には,患者を
ほかの方法で救出する場合と比較して,救出にかかる時間を再評価すべ
きである(ヘリコプターで第三次輸送をするよりも,第一次野戦病院へ送
るほうが早い場合もある).
I各傷害者の国外輸送については,刻々新しい評価を続けていく必要
があり,必要な資材や人員の国内輸送についても同様である.
酸素吸入を準備しておかなければならないのは,次の疾患である.@
心疾患,A肺疾患,B胸部損傷,C貧血 D鎌状赤血球ヘモグロビン障
害,E脳内圧亢進,F重症熱傷,G緑内障 H新鮮網膜または脈絡膜出
血 I減圧病,I失神発作障害,I一酸化炭素中毒,などである.
2)経鼻胃管(naso-gastric tube
NG管を挿入しておくべき患者は,次のような疾患の可能性のある場合
である.@腸閉塞(たとえば,大外傷,熱傷,昏睡,急性腹症など),A
呼吸困難(たとえば慢性閉塞性肺疾患,妊婦,ピックウィック病,胸部損
傷など),B胃腸破裂(たとえば,消化性債傷性疾患,ヘルニア,腸閉塞,
急性腹症,アメーバ赤痢,新鮮胃腸手術),またはC人工呼吸中の患者.
3)胸腔ドレナージ
血胸ないし自然気胸の存在が強く疑われる患者には,胸腔ドレナージ
をしておくべきである.
4)抗うっ血薬
副鼻腔または中耳に感染か腫脹のある患者には,抗うっ血薬を飛行前
に投与しておくべきである.
5)眼軟膏
昏睡の患者とか眼瞼外反症の患者には,眼軟膏を塗布しておくべきである.
6)動揺病予防(乗り物酔いの予防)
動揺病の傾向があることがわかっている患者,特に,激しい動揺が予
想される場合とか,嘔吐しないようにしなければならない場合(たとえば
顎間固定,脳血管障害,重症心疾患,熱傷,胃腸出血,腹部/胸部/眼科などの術後,または脳外科術後など)には,動揺病予防薬を投与すべきで
ある.
7)失神発作予防
失神発作を起こすことがわかっている患者で未治療の患者や童篤な頭
部外傷のある患者には,失神発作予防を行わなければならない.
8)鎮静ないし抑制
始末におえない患者には,鎮静と抑制を考慮すべきである.
9)器具
カテーテルのバルーンは,空気よりも生理食塩水で膨らますべきであ
る.静注びんはプラスチック製がよい(ガラスの場合には,テープを巻
き,通気孔をつくっておくべきである).牽引器具は,スプリング式がよ
い.ギプスは二枚貝式がよい.蘇生器具はいかなる患者の場合にも,機
内に持ち込むべきである.
10)耳保護
乗務員は,雑音消音耳当て,マイクロホン装置を利用できる.実際,患者には耳栓,耳覆いを用意すべきである.
11)患者体位
一般に患者は,航空機の長軸に対して横向きに寝かして運ぶべきであ
る.もしそれができなければ,心臓病の患者は,頭部を後方に向けて乗
せるべきである.脳内圧,または眼内圧上昇患者は,頭部を前方に向け
て運ぶべきである.減圧病患者は,左臥位で頭部を低くして運ぶべきで
ある.
12)加圧または低空飛行
航空機内は,地上の気圧レベルに加圧すべきである.または,低空飛
行をすべきである(高度1,000フィート〈300m〉またはそれ以下).対象と
なる疾患は,自然気胸,脳気腫,眼内気腫,ガス壊疽,腸閉塞,網膜破
裂の可能性,空洞,嚢腫,減圧病などの場合である.
引用文献 --訳・谷 荘青8.救出計画
第I部 航空医学的救出法
はじめに
A.航空学的要因
B.航空医学的要因
C.計 画
1)事前準備D.患者に対する航空医学的準備のためのチェックリスト
1)酸素吸入