DISASTER MEDICINE

Application for the Immediate Management and Triage of Civilian and Military Disaster Victims

Burcle FM Jr, Sanner PH and Wolcott BW

翻訳・青野 允、谷 壮吉、森 秀麿、中村紘一郎

(情報開発研究所、東京、1985)


7.通信手段

―Patricia H. Sanner, M.D.


はじめに

 不測の出来事の際に行う医療行為にとっては,通信手段の確保が最も たいせつである.通信手段の欠如は,自然災害でも人為的災害でも,有 効な救出作業および医学的治療を行う際に,最も重大な妨げとなる.災 害時には,在来のすべての通信手段を災害援助のために協力させるべき である.また,在来の手段がほとんど全部障害されるか,破壊されるよ うな場合には,緊急通信網を計画しなければならない.それにはまず, 地域的な計画が必要で,次のように考えを進める.

 @誰が誰との交信を必要とするのか?
 Aどのような情報が必要なのか?
 Bどのような通信手段が使えるのか?

A.通信網−−誰が誰との交信を必要とするのか?

1)前方連絡または現場連絡

a)事態報告

 通常,災害事故の初期報告は二つの機関を通じて権威筋に送られる. 現場における第一機関は,一般に,警察,消防隊などであり,彼らは本 部に対し,災害および原因などに関して,いつ,どこで,何か起こった かなど,詳細を報告する.その報告は,他の種々の機関に伝達されて事 態に対する対策がとられる.初期報告を行う第二の機関は一般の人々で, 現場の目撃者,または歩行可能な犠牲者である.彼らは現場を離れ,直 接,消防署,病院,警察などの公共機関に連絡をとる.その後,連鎖的 に災害に対する対応が活動化する.

b)災害現場連絡指揮拠点

 災害対策要員がひとたび現場に到着すれば,コミュニケーションセン ターを含む現場指揮拠点を設立しなければならない.現場のコミュニケ ーションセンターは,以下に記した部署または係員と常に連絡を密にし なければならない.

 @消防および防災関係部署
 A警察や地方公共機関
 B救急隊
 C医療指揮者
 D後方指揮者
 E搬送指揮者
 F軍隊
 G現場で活動しているその他の機関
 (たとえば,赤十字,民間防衛軍など)

c)医療連絡指揮拠点

 医療連絡指揮拠点は以下にあげる部門と常に連絡をとりあっておかね ばならない.

 @救出チーム
 Aトリァージ集合地点
 B搬送段階地域
 C現地(現場)指揮者
 D後方医療指揮者
 E後方災害指揮者

2)後方連絡

a)警戒期

 暴風や洪水のような潜在的な災害では,大多数の場合,警告期がある. 事態が発生し,進展し始めたときにも,損傷や傷害の程度は不明ではあ るが,警告期がある.警戒期には,通信手段について次の二つのことを 行っておかねばならない.

 @どのような手段を講じようとも,通信手段を確保または開設する
 A必要とする要員を動員する

 消防隊主任,巡査部長,病院管理者,トリアージ要員,看護部長など のような重要人物は,通常,要請システムを通じて動員する.要請シス テムは,電話連絡,二方向ラジオ,ポケットベル,またはこれらの様式 のあらゆる組み合わせなどを利用する.またこのシステムは,常備要員 を倍増する必要があるときに,休暇要員を召集するのにも用いられる. 要請システムは,まえもって計画しておき,テストしておかなければな らない.電話連絡が障害されている場合には,要員への連絡として,ほ かの手段をあらかじめ手配しておく.それには次のような手段がある.

 @大衆情報(ラジオ,テレビ)
 Aラウドスピーカー,音響装置
 B公共機関の職員を利用したメッセンジャー
 C町内会等の会長などを通じて警告や必要な人員の動員を行う

d)病院連絡

(1)基幹病院−医療指揮連絡拠点

 基幹病院として一つの病院を任命すべきである.前方地域および後方 災害機関からのすべての情報は,ここの管理センターを通じて入手でき, 後方医療操作と協調することができる.基幹病院は,以下の場所と連絡 をとらなければならない.

(a)ほかの病院

 空床数,内科および外科規模,職員構成,血液供給,受け入れた傷害 者数,各病院で何を必要としているか,などの報告を受ける.

(b)後方指揮者

 交通整理,公共機関からの援助,車節調達,赤十字援助,追加資材供給などを都合する.

(c)前方医療指揮者

 あらゆる種類の傷害についておよびその数に関する情報を入手する.

(d)後方災害指揮者

 化学薬品,放射性物質等が犠牲者を汚染したような特殊障害についてすべての情報を入手する.

(e)搬送段階地域

 患者をいつ,どのようにしてどこへ搬送したか,その報告を入手する.

(f)災害地以外の病院施設

 追加援助を用意できる余裕,および熱傷病棟のような特殊医療施設を確認する.

(2)病院間情報連絡網

 医療施設が災害に対応する場合,すべての病院間での通信手段が必要となる.しかい 資材を最も適切に利用するために,基幹病院の管理センターを通じて調整を行うのが最もよい.

(3)病院内情報連絡網

 対応するすべての病院では,種々の患者ケア,資材室,特に救急治療室,中央材料室,手術室,検査室,血液銀行,ICUなどとの連絡を維持しなければならない.病院内では電話の故障時に備え,あらかじめ電話以外の通信手段の計画を立てておかなければならない(たとえば,インタホンシステムやメッセンジャー).

3)災書時運格紳以外の通信手段

 多くの災害研究によって終始一貫して明らかにされたことは,被災地 へ向かって,多数の人間,供給物資,伝言などが送られることである. 1か所に集中するこの行動は,救出救済活動の重大な妨げとなり,特に, 運搬と通信手段の妨げになる.その1か所集中行動を管理する一つの方 法は,災害時連絡網以外の通信手段を採用することである.

a)犠牲者に対する照会

 多数の人々が,友人や家族が犠牲になっていないかどうか病院に尋ね てくる.すぐに病院電話交換台に多数の照会が殺到する.別の電話回線 や電話本線またはボランティア要員を利用して,病院外で多数の照会を 処理するべく情報センターを設立しなければならない.

b)報道

 前方および後方指揮拠点からの正しい情報をラジオやテレビの報道網 に提供しなければならない.災害発生のマスコミ情報を短時間(たとえ ば30分間)遅らせる手配をすれば,災害救助要員が,予測される集中行動 を避けて行動する助けとなろう.たとえば,防災課の係員が,被災地へ の接近を抑制するための交通止めや検問地を設定する時間が多少とれる であろう.


B.必要な通信手段−−どのような情報が必要なのか?

1)事態発生

 災害発生の初期報告には,次の情報を含んでいなければならない.@ いつ,どこで,何が起こったのか,A傷害者の人数と種類,B被害報告, C特殊な危険性のすべての報告,などである.

 事態発生に関する情報は,状況変化に応じた,たえず新しい情報でな ければならない(悪化している,改善している,またはすでに解決してい るなど).

2)何が必要なのか?

 後方機関への災害発生の初期連絡には,その状況に対応するには何が 必要であるかを明示するべきである.前方指揮拠点がひとたび設立され ると,何が必要かをさらに詳細に確認し,前方機関との適切な通信手段 が必要となる.特別な要請としては次のようなものがある.

 @救出,障害物の除去,設備の修復,人員確保
  (たとえば,消防団員,労務者,クレーン,地ならし機など)
 A医療援助
 B特殊危険災害管理(たとえば,放射性物質および化学物質漏出)

3)どのような資源が利用できるか?

 災害救援の際に援助に利用できる資材のりストをまず後方指揮者,次 に前方指揮者に連絡しなければならない.次の状況を確認すること.

 @消防機関および公共機関
 A民間防衛軍
 B赤十字
 C軍隊
 D人員および設備の修復のための重機機救出装備
 E医療資源(人員,場所,血液を含む医療物資)
 F排除すべき物(たとえば雪や水を処理するための土,圧搾空気など)
 G特殊災害処理(たとえば,放射性物質,化学物質,その他の危険物の取り扱い機関)


C.通信の方法

 災害時に考慮すべき非常に重要な事項の一つに,通信の方法がある. 電話は最も頻繁に用いられる方法であるが,通常,故障するか,すぐに 使えなくなってしまう.この有効な電話網以外の通信手段を用意しなけ ればならないし,また電話を有効に使用する準備が必要である.

1)在来の電話網の有効な使用法

 集中行動によって,病院および公共機関の幹線電話はすぐに使用不能 になる.この基本的通信手段の障害は,いろいろな方法で克服すること ができる.その一つの方法として,電話帳に載っていない電話番号を設け,被災地と病院,外来病棟,各指揮拠点などのような種々の機関との 直接の回線を設置することである.病院内公衆電話は重要な回線である. そうした電話を徴用するには,病院側に要請すればよいわけで,硬貨の 確保が必要なだけである(病院保安課が管理しているか,カフェテリア, スナックバー,売店などからも入手できる).そのほかに協議回線,テレ タイプ,コンピュータ回線なども利用できる.

2)交互連絡の通信手段

a)基地を有するニ方向ラジオ

 このシステムは事態が発生する以前から設置しておかなければならな い.それは連邦政府コミュニケーション委員会規定(federal communication commission; FCC)に従わなければならない.ポータブルラジオ は,少なくとも2マイル(約 3,200 m)の範囲内で作動する.許可されてい る最大出力を出せる装置を取りつけるように心がける必要がある.

b)軍用通信施設

 二方向ラジオシステムが災害発生以前に設置されていない場合には, 軍隊が有効な設備を有している.多数の現役部隊,予備軍ともに野外の 通信手段には慣れている.無線機,アンテナ,バッテリー,野外電話な どの利用・供給をし,同様に,設備を設置し操作できる訓練された要員 も確保している.

c)公共防災後期

 この部局は,数種類の無線ラジオ,基地を有する二方向ラジオを常時 使用している.

d)民間ラジオ放送局技師

e)アマチュア無猿ラジオ技師(ハム<HAM>)

 この人たちは非常に価値のある要員である.彼らは,必要な装置,技 術的な知識をもち,さらに,悪条件下で通信手段を維持するための修理 能力を有しているからである.

f)メッセンジャー

 メッセンジャ」は,種々の輸送手段を利用できるので,これはおおい に活用すべきである.しかしその際には,どこへ行くべきか,誰に伝言 を伝えるべきか,同様に,返事の情報と連絡事項に関して,注意深い指 示を受けなければならない.

g)メガホンおよび音響装置


おわりに

 すべての偶発的医療活動に際しては,通信手段の確保がきわめて重要 である.在来の手段が利用できない場合には,その時点での発想と予想 が成功の条件となる.災害時の通信手段は,新しい情報を継続して伝え, そして情報の中継も必要な動的なものである.災害対策における重要事 項の一つは,広範囲の災害時通信手段を調整することである.


参考文献

--訳・谷 荘青


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