F.一般的な問題が最もよく起こる
すでに述べたように、災害計画に参画した医師は少数しかいない。しかし、本書の読者は、いっそうそうした問題にかかわりをもちたいと願っているであろう。災害救助の初期に発生する一般的な問題に関する討論こそ、当然間題になることであり、そうした間題こそ重要である。それは個人的に直面するものであり、またSOPsを自分自身で使いやすくするための計画を立てる際に、専念しなければならない間題でもある。
1)通信手段
-
電話網が作動している場合には、医師詰所、病院案内所や事務室などの受信回線は、多くの情報探求者によってほとんどふさがってしまうであろう。ここでは以下のことを示唆しておく。
-
地域内の公衆電話を確保し、身近に400回分の通話ができる小銭を確実に用意する。
-
病棟、検査室、事務室などの必要な場所に電話帳に載せていない回線を用意して、リストを作成しておく。そうすれば、電話帳に記載されていない電話番号には通話が殺到することはない。
-
ポケットベルシステムが働いていれば、一方通行のコミュニケーションが可能である。
電話連絡が不通の場合には、大多数の人々は、CB(有線)、または警察、消防、EMSラジオ網などを利用することを考え、それはすぐに混雑することになろう。そこで次のような対策を考えておく。
-
処方蔓に書き込んだメッセージを持たせてメッセンジャーを送る。それはその病院から発信された伝言であることを確認できる利点がある。また、返信を要求すべきである。緊急時に行ったことはあとで忘れてしまうからである。
-
病院内通信用に近所の電気店から有線インタホンを購入する。それは簡単に、即刻組み立てることができ、電池で動き、性能も良好である。
2)群集管理
-
警官があらゆるところに配置される。病院自体は、警察ではなく警備員による管理を頼む必要性が生じるであろう。ここでは次のことを提言
しておく。
-
救出部隊の自動車用、負傷者の歩行用などの発着に必要なレーンを
つくり、標示する。
-
知的で、才知に富んだボランティアを依頼する。問題が起こったときにだけきてもらう。医療関係者が警官の仕事までしたのでは忙しすぎる。
3)報道関係の管理
-
報道関係者は、すぐに現れ、状況を報道する。報道関係者は、自分たちの行動や質間が患者のケアを著しく妨げることのないように、態度をわきまえなければならない。以下のことに注意する。
-
原則に従って行動する。医師が大勢の人々を助けるのに妨げにならない限り、何ら心配する必要はない。一般に、医師と報道関係者とは共存できるものである。報道関係者の個人的行動が、医師にとって本当に妨げとなるならば、そのことを報道関係者に伝えるべきである。通常は取材を中止するであろう。もし中止しなければ、暴力をふるう困り者の患者を扱うときのように処理する必要がある。
-
レポーターが、同僚の仕事を妨害しているように思われる場合には、第三者に気を配ってもらわねばならない。医師の仕事はあくまでも医療上のケアであることを忘れてはいけない。医療以外の問題は、誰かほかの人に心配してもらえばよい。
4)水の供給
給配水システムは、早期に駄目になりやすい。水漏れや利用増加によって、圧が非常に低下するため、水道は利用できない。したがって次のような対策を講じておく。
-
1.最も近いスーパーマーケットで、蒸留水、ビン詰めの水を買ってこさせる。必要ならば、スーパーマーケット社長あてにサインで買い、後日返済できるようにしておくとよい。
-
2.水源として、地域内の泉、貯水池、小川、井戸、水泳プールなどについて調査しておく
。
-
3.キャンピングカーを利用する(たいていは50ガロン(約190l)の給水ができる)。
-
備考:以前は石油類を運ぶのに使用していた容器で飲料水を運ばないように注意しなければならない。そうした容器の水を飲むと、二次災害が発生する危険がある。
5)電力供給
災害時には電力の供給が失われることが多い。緊急用発電機は、病院内エレベータ、手術室、ICUなどへの電力を優先しなければならない。通常、トリアージ現場には電力はほとんど存在しない。そこで、次のことを提言しておく。
-
多数のレクレーション車は1,100〜3,600Wの発電機を備えており、1〜2日分のガソリンを積んでいる。こうした発電機が1〜2個あれば、非常に混乱を伴うトリアージ、初期評価に大きな力を発揮する。
6)縫合材料
縫合材料は貴重品である。すなわち、どのような災害でも裂創は最も多い問題であり、いずれも治療可能で、負傷者は何とかしてほしいと思うものである。しかし、縫合材料はたちまち使い果たしてしまい、すぐにはその補充ができないという不都合がある。このような場合に備えて、次のようにする。
-
すべての損傷について、一次縫合は見合わせる。縫合材料を節約するだけでなく、そうした環境下では、それがすぐれた医療でもある。
-
一次縫合が適切と考えられる場合には、絆創膏縫合を行う。
7)包帯、副子
上記と同様の理由で、包帯および副子材料は欠乏する。ここでは次のことを提言しておく。
-
包帯材料の代用品としては、衛生ナプキン(近隣のスーパーマーケットより補充)、布製品(衣料品店より補充)、被覆品およびダクトテープ(金物屋から補充)、シーツおよびタオル(デパートから補充)などがある。
-
副子材料の代用品としては、垣根などの材料、組み立てまえの木製の囲い材料、材木置場からの木片などがある。
-
ドアやよろい戸は、間に合わせの寝台として役に立つ。
おわりに
事前の計画が役に立つ。しかし、それは、多くの人々が将来おそらく発生するのではないかと危倶するような出来事を想定した現実的なものでなければならない。保健要員は、大規模な計画に人々を従わせるまえに、小さな地域で自分たちの行動すべきことを考慮し、確認しておくべきである。保健要員は、個人的に実行できる解決法について考慮する以前に、まず、間題点を確認しなければならない。
引用文献
1)Vickery DM and Fries JF:Take Care of Yourse1f.Philippines,Addison-Wes1ey Pub. Co., 1976.
2)U.S. Army Hea1th Services Command(DCSPER):Algorithm Directed Troop Medical Care.Triage Mannua1(Training Manual). Fort Sam Houston,Texas.
3) Champion HR and Sacco WJ:Trauma Risk Assessment:Review of Severity Sca1es.Emergency Medicine Annual.Norwalk,Conn., Appleton-Century-Croft, 1983.
4)Gil1 W and Long WB:Shock Trauma Manual. Ba1timore,Williams& Wi1kins Co., 1979.
―訳・谷 荘吉
■災害医療ホームページ/ 救急・災害医療 文献集/大災害と救急医療