(情報開発研究所、東京、1985)
―Barry W.Wolcott,M.D.
このような場面での業務は肉体的にも精神的にもストレスが多い。このストレスに耐えて思考や技術に誤りを起こさないためには、初期評価の基本的事項を確認することである。
5、被災者に対する評価
はじめに
A、初期評価
1)評価の開始
“私は担当医の○○です。あなたはいま○○病院にいます。あなたは○○です(たとえば、ひどいやけどをしています。非常に重症です)。しかし、われわれのすることに協力してください。動くように言われない限り、静かにしていてください。ちょっと痛いことをするかもしれませんが、そうするときは必ずそのように言いますから”などである。
備考:以上のことをするには、ほんの10秒ほどあれば十分である。それによって、患者は静かになり、処置を妨げることは少なくなり、ひいては時間の節約になる。明らかにうそと思われるような安心感を与えてはいけない。たとえば“まったく悪いところはありません”、“心配しないでください”など。そのような説明をすると、馬鹿にされるか、うそつきと思われる。さらに、患者の不安は減少するどころか、かえって強くな る。
初期評価 | |
AIRWAY(気道) 話せるか? 呼吸しようとしているか? 呼気を感じるか? 開放可能か?
BREATHlNG(呼吸) | CIRCULATl0N(循環) 心拍出量は適切か? 出血は? 心タンポナーデは? 心機能は? 末梢血管抵抗は適切か?
DELIVERY 0F 02(酸素運搬) |
MとNが中間にくる | |
MINIMUM DATA BASE(最小限度の情報) 患者が言うには? 財布は? 身分証明は? 救急隊員は? |
NAKED(裸にして診察) 反対側に悪いところは? |
災害に“Z”はない ―ただ患者がもっと多数いるだけ― | |
RECTAL-VAGINAL EXAM
(直腸・膣診察) 裂傷は? 出血は? 括約筋は? STABILIZE C-SPINE(頸椎固定)
TEETH(歯)
URETHRA(尿道) |
VISION(視野) 視力は? 異物は?
WRAP UP QUESTI0NS
XTREMITIES(四肢)
YOUR DECISI0N(さて、どうするか) |
はい、次の患者さん !! |
2)気道の評価
3)呼吸の評価
4)循環の評価
備考:動脈を触知できるならば、おおかたの血圧は、頸動脈で60mmHg以上、大腿動脈で70mmHg以上、とう骨動脈で80mmHg以上あると考えてよい。毛細管充満時間は末梢循環をよく表す。したがって、低心拍出量状態は、すぐによくわかる。
d) 末梢血管抵抗の減少
e) 不整脈:不整脈を呈する患者も脈拍の触診で診断する。不整脈は心拍出量が減少する程度でなければ重要ではない。
以上のごとく、患者の状態の把握と、発見した異常を治療すれば、患者は次の救護所に達するまでは何とか生き延びることができる。
しかし、次のレベルの評価なしでは患者は生存できないかもしれない。次の段階ではより細かい異常のチェックを行い、もし治療ができなければ搬送の途中または本格的治療を待っている間に死亡するかもしれない。
5)酸素化の評価
組織への酸素運搬がうまくいっているかどうかを観察する。チアノーゼ、理由不明の錯乱や激昂がもしあれば、次の原因を考える。
6)第二次全身検査
7)第二次局所検索
備考:災害はそれぞれ異なった性質を有しており、一つの災害でよくみられる疾患がほかの災害ではめったに起きないということがある。たとえば竜巻では気道熱傷は起きにくいし、伝染病的災害では大きな外傷は通常生じない。しかし、災害医療に参加している間は、被災者の種類を問わず種々の疾病が合併することの多いことに注意する。たとえば、竜巻の恐怖で心臓発作が起きる、化学物質をいれたタンクが地震で崩壊して化学性物質を吸入する、核燃料プラント事故から逃げる途中で交通事故を起こす、などである。
眼症状 開眼 自発的 4 口頭命令で 3 痛みで 2 反応しない 1 |
運動性反応 口頭命令に従う 6 痛み刺激*で 手を胸骨までもってくる 5 身をよじって逃げる 4 異常屈曲 3 異常伸展 2 反応せず 1 |
質間に対して** 見当識あり、会話可能 5 失見当識、会話可能 4 不適当言語 3 意味不明音声 2 反応せず 1 |
合計 3〜15 |
*胸骨をこぶしでこすり、腕の反応を見る。
* *必要に応じて痛み刺激を与え、患者を起こして行う。
以上の質間に答えて初期評価を完了する。
参考文献
Committee on Trauma,American Co1lege of Surgeons:Advanced Trauma Life Support Course,1981.
United States Department of Defense:Emergency War Surgery. Washington, D. C., U.S.Government Printing Office,1975
―訳 青野允