ボランティアによるCoSTRとERC、AHAの2005年版心肺蘇生法ガイドラインの翻訳作業について

第23回日本救急医学会中国四国地方会・一般演題
(2007/05/26、広島市)

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ボランティアによるCoSTRとERC、AHAの2005年版心肺蘇生法ガイドラインの翻訳作業について(抄録)

越智元郎(市立八幡浜総合病院 麻酔科)、 岡田 稔(鳥取県立中央病院救急科救命救急センター)、 西岡憲吾(中電病院麻酔科)、 平賀徳人(愛媛大学医学部麻酔蘇生科)、 三原 弘(高岡市民病院胃腸科、 木村圭一(大隅鹿屋病院外科)、 岡野谷純(日本ファーストエイドソサエティ)、 石川雅巳(呉共済病院麻酔・集中治療部)、 加藤一朗(隠岐病院産婦人科)

 05年11月、国際蘇生連絡協議会(ILCOR)は「心肺蘇生と緊急心血管治療のための科学と治療の推奨に関わる国際コンセンサス2005(CoSTR)」を発表した。これと同時に、ヨーロッパ蘇生協議会(ERC)とアメリカ心臓協会(AHA)はそれぞれの新しい心肺蘇生法(以下、CPR)指針をウェブ発信した。わが国は当時ILCORの正式メンバーでなかったため事前にCoSTRを入手することができず、CoSTR正式発表後に新しいCPR指針の策定作業が開始された。

 CPRは医師や看護師を含む様々な医療関係者、救急隊員、赤十字関係者ひいては一般市民にも重要な役割がある。蘇生関係者にとって、CoSTRや欧米の新ガイドラインが英語情報であることはその内容を理解する上で大きな障害となる。われわれは日本蘇生協議会(JRC)などの正式訳が発表される前の空白期間を埋めるために、救急医療・情報研究会(救急医療メーリングリスト、eml)などで協力者を募り、05年11月末より翻訳作業を開始した。そしてその後の成果はおよそ以下のようなものであった。

 1)06年2月末まで―CoSTR全章の粗訳作成とウェブ発信(http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/05/CoSTR.htm)。また第1-3,10章の訳を日本救急医療財団による正式訳の基礎訳として提供。2)06年6月末まで― ERC新ガイドラインの全章の粗訳作成とウェブ発信(URLは同上)。3)06年10月末まで―AHA新ガイドラインの全章の粗訳作成。4)07年3月末まで―ERC、AHA新ガイドラインのチェック済みの訳を発信。以上の作業には全国から60人以上のボランティアが参加した。また上記ウェブのアクセス数は1年間で約42,000件であった。

 以上、まとめとして、ボランティアによりCoSTRと関連文書の翻訳、ウェブ発信を試み、CoSTR及びAHA新ガイドラインの正式訳発表までの重要な資料として活用された。ERC新ガイドラインについては正式訳発表の予定は無いようであり(註:その後JRCのご尽力によりERCの許可が得られ、2007年5月より日本語版を正式発信中)、われわれの資料が特に有用である。


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 2005年11月、国際蘇生連絡協議会(ILCOR)は「心肺蘇生と緊急心血管治療のための科学と治療の推奨に関わる国際コンセンサス2005(CoSTR)」を発表した。これと同時に、ヨーロッパ蘇生協議会(ERC)とアメリカ心臓協会(AHA)は、CoSTRをもとに策定した、それぞれの新しい心肺蘇生法(以下、CPR)指針を発表している。わが国は当時ILCORの正式メンバーでなかったため事前にCoSTRを入手することができず、CoSTRの正式発表後に新しいCPR指針の策定作業が開始されることとなった。


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 一方、われわれはCPRの普及に関心を持つ草の根の救急医療関係者であるが、世界の新しいCPRの趨勢を学び、またわが国の新指針策定の論議に参加する上で、CoSTRやERC・AHAの新ガイドラインを熟読する必要があると考えた。そしてこれらの文書が膨大な英語情報であることから、これを手分けして翻訳し、公的な翻訳版が作成されるまでの蘇生関係者の助けとしたいと考えた。


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 そこでわれわれは、救急医療や蘇生関係者のメーリングリストでボランティアを募集し、結果的に全国から様々な背景の協力者約60人を得ることができた。
 グループ内での役割分担と論議は専用のメーリングリスト上で行った。そして作成した翻訳資料は粗訳(あらやく)の段階から公開ウェブとして発信することにした。


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 われわれのこれまでの作業を振り返ると、まず昨年 2月末まではCoSTR全章の粗訳を作成しウェブ発信した(http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/05/CoSTR.htm)。特に、CoSTR第1〜3、および第10章の訳を日本救急医療財団による公式訳の基礎訳として提供した。次に、昨年6月末まではERC新ガイドライン全章の粗訳を作成しウェブ発信した。


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 さらに昨年10月末までは、AHA新ガイドライン全章の粗訳を作成しウェブ発信した。また、本年 5月末まではERC、AHA新ガイドライン粗訳のチェック作業を行い、さらにERCの許可を得られたことから、ERC新ガイドライン日本語版の正式発信(http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/erc/)を開始した。


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 われわれの成果をまとめると、まず全国から多数の蘇生関係者が集い、世界の新しいCPRに関する理解を深めることができた。 また、われわれのグループで日本救急医療財団による日本版新指針策定に関して意見書を作成し、送付することができた。さらに、われわれの翻訳資料を多数の蘇生関係者に利用していただいた。フロントペ−ジへのアクセス数は1年間で約42,000件となり、特にCoSTRとAHA新ガイドライン正式訳発表までの期間には、これらを読む助けとなったものと思われる。さらに、ERC新ガイドラインはERC、JRCの配慮により、公式訳として発信することができた。


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 以上、まとめとして、インターネットなどの情報通信技術の進歩を反映して、CPRの知見やガイドラインも頻繁に改訂されつつある。今回のわれわれの翻訳活動は世界の新しいCPRへの理解を深め、わが国の新しいCPRを策定し、これを定着させる一助になったと考えている。


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