欧米のCPR新ガイドラインに関する論議

―メーリングリストACLSより―

(皆様のご意見をウェブ担当者までお寄せ下さい)


目次(発信者の敬称は省略させていただきます)


From: 小林正直
Subject: [ACLS:4909] 2005CoSTR:医療従事者の脈触知は?
Date: Thu, 2 Feb 2006

小林正直@大阪医科大学附属病院救急医療部です。

勉強会で2005CoSTRやAHAのG2005についてお喋りすることになったのですが、
ここで、ふと気になった点があります。

医療従事者であっても脈触知をしないのでしょうか?

2005CoSTRのILCORユニバーサル心停止アルゴリズム(p184)では以下のように
なっています。

反応がない?
 ↓ 大声で助けを呼ぶ
気道を開く
生命のサインを探す
 ↓ EMS/蘇生チームに通報する
正常な呼吸がなければ2〜5回の最初の人工呼吸を行う
 ↓ 
30回の胸部圧迫(ほぼ1秒間に2回)のあと2回の人工呼吸を行い、
除細動器/モニターが装着されるまで続ける。
 ↓
リズムの評価
 ↓
ショック可能か?
(以下、略)

これは医療従事者のアルゴリズムと思われますが、脈の触知が記載されていま
せん。
反応と正常な呼吸がなければCPR開始となっています。
つまり、非医療従事者のアルゴリズムと同じと解釈されます。

また、p188の心停止のサインのところでも、以下のような記載になっており、
医療従事者であっても脈触知をしないと解釈されるような記載になっています。

心停止の初期処置においては、早期の認識することがキーステップである。心
停止に対する正確な診断方法を決定づけるためには早期の認識が重要である。
..(中略)....頸動脈のチェックは、循環の有無を確認するには不正確な方
法である。しかし、動き、呼吸、咳のチェック(つまり"循環のサイン")が診
断的に優れているというエビデンスもない。....(中略)....患者の意識がな
く(反応がなく)、動かず、呼吸をしていなかったら、救助者はCPRを開始すべ
きである。

そもそも2005CoSTRはAHAのG2005と異なり、医療従事者と非医療従事者を明確に
区別していないようにも思えます。
これに対してAHAのG2005では医療従事者と非医療従事者を明確に区別していま
すが、“signs of life”という用語は余り積極的に用いられておらず、少なく
とも、Part 4: Adult Basic Life Support ではこの用語は1回も出てきません。

なぜ、AHAのG2005では“signs of life”という用語を積極的に用いていないの
でしょう?
勿論、市民救助者には反応のない傷病者が呼吸をしていなければ、心停止だと
みなすように指導し、医療従事者はこれに加えて脈触知を10秒以内に行うこと
を求めていますので、“循環のサイン”ではなく、“生命のサイン”を診よと
いう点においては、その意図することは同じなんですけどね。

さて、ここで、個人的な意見になります。
医療従事者であっても、一番最初は、“生命のサイン”だけで迅速に心肺蘇生
を行うことに賛成です。一刻も早く心肺蘇生を開始するためにも、一番最初は
脈触知なしでいいんじゃないかと思います。そして、蘇生の最中では循環のサ
インと脈触知を用いて評価するという流れが最も自然な方法ではないかと思い
ます。

皆様、如何でしょうか?

小林 正直
大阪医科大学附属病院  救急医療部  総合診断・治療学講座救急医学担当
〒569-8686大阪府高槻市大学町2番7号

高槻ICLSコース
 http://www.osaka-med.ac.jp/deps/emm/iclshome.htm
日本救急医学会認定ICLSコース近畿地区のページ
 http://www.osaka-med.ac.jp/deps/emm/jaamicls.htm
NPO大阪ライフサポート協会
 http://www18.ocn.ne.jp/~osakalsa/


From: 越智元郎 Subject: [ACLS:4910] Re: 2005CoSTR:医療従事者の脈触知は? Date: Fri, 3 Feb 2006  大阪医科大 小林先生、メーリングリストACLSの皆様、市立八幡浜総合病 院麻酔科 越智元郎です。 〇  小林先生から問題提起がありました医療関係者による「脈の確認」の件  私たちは血圧を測り、refilling timeをみたり、撓骨動脈の緊張をみるな ど、様々な情報を得て、(緊急)患者さんの病態把握に勤めます。例えば収 縮期血圧が190mmHgか180mmHgかによって、あるいは90mmHgか75mmHgかによ って、降圧処置をしたり、カテコールアミンを投与したり急速輸液をするか どうかというような判断に影響してきます。  それでは頸動脈の脈を触知できるかどうかによって蘇生に関する対応が違 って来るのでしょうか。 ・ILCOR1997、G2000―一般市民[NO]  頸動脈の拍動は確認せず、循環のサインがなければCPR、適応あればAEDを  用いた除細動を実施 ・ILCOR1997、G2000―医療関係者[YES] 頸動脈の拍動を含む循環のサインを確認。頸動脈の拍動を触知すれば、CPR  や除細動は実施しない。除細動の後には頸動脈の拍動を確認して、拍動があ  れば次回除細動は行わない、なければ次回除細動を実施する。 *ILCOR 2005(CoSTR)、G2005―一般市民[NO]  循環のサインでなく、生命のサイン(意識、自発呼吸)がなければCPR、適  応あればAEDを用いた除細動を実施 *ILCOR 2005(CoSTR)、G2005―医療関係者[NO]  頸動脈拍動を含む循環のサインでなく、生命のサイン(意識、自発呼吸)  がなければCPR、適応があれば除細動を実施。除細動の直後には頸動脈の  拍動確認はしないので、拍動があれば次回除細動は行わないという選択肢  はない。  頸動脈の拍動確認、あれば撓骨動脈の拍動とその緊張確認、血圧測定とい った作業は初期対応が済んで、時間的余裕ができた後の話であろうと思いま す。  以上、小林先生のご意見に賛成です。  皆様のご意見をお聞かせいただけますと幸いです。


From: 畑中哲生 Subject: [ACLS:4911] 2005CoSTR:医療従事者の脈触知は? Date: Fri, 3 Feb 2006 小林先生、越智先生、皆様: 救急救命九州研修所の畑中です。 表題の件、小林先生のご質問で、初めてAHAとERCの不整合に気付いた次第です。 これだけでもありがたいことです。 ほんで、調べてみましたら、ERCのガイドラインでは「Advanced Life Support」の 部分で、「In-hospital Resuscitation」でのBLSについて記載されていました。 ERCガイドラインのダウンロード版では41ページです。 引用は省略しますが(テキストをコピーできないんです)、要は: 原則としては、「循環のサインを確認する」  →この言葉が生きていました。脈の確認は「しない」ということです。 ですが、それに続いて、「経験豊かな救助者の場合は、同時に総頸動脈の脈拍も 確認する」となっていました。 ということで、やはり、AHAとERCでは、この部分の見解にはっきりした差があるよう ですね。 私は個人的にはERC派です。


From: 小林正直 Subject: [ACLS:4912] Re: 2005CoSTR:医療従事者の脈触知は? Date: Fri, 3 Feb 2006 越智先生、皆様 こんにちは,小林正直@大阪医科大学附属病院救急医療部です。 > *ILCOR 2005(CoSTR)、G2005―医療関係者[NO] >  頸動脈拍動を含む循環のサインでなく、生命のサイン(意識、自発呼吸) >  がなければCPR、適応があれば除細動を実施。除細動の直後には頸動脈の >  拍動確認はしないので、拍動があれば次回除細動は行わないという選択肢 >  はない。 ILCOR 2005(CoSTR)では医療関係者であっても、頸動脈拍動を含む循環のサイ ンでなく、生命のサイン(意識、自発呼吸)がなければCPRということで宜しい 訳ですね? ところが、AHAのG2005では、医療関係者には頸動脈拍動を求めています。 これは大きな相違点だと思います。 これが気になる私はやはり、日本人だからなのでしょうか? 日本の指針がCoSTRとAHAのどちらに準拠してまとめられるかによって、我が国の 方向性も随分異なると思います。 医療従事者の蘇生につき、個人的意見を述べることを御容赦下さい。 蘇生を開始する時には、もう、殆ど、心肺停止の臨床像があれば、CPRを行って います。そうしようと思ってそうしている訳ではありませんが、自分で蘇生行為 の振り返りをした時に「あ、しまった、脈触知を忘れて心マ開始していた」とい うことがしばしばありました。いまだにそうです。 ILCOR 2005(CoSTR)を見て、画期的だと思いました。心肺停止の臨床像(生命 のサイン)だけで、CPRをしていいんだ.....と。 このコンセプトは、「心停止はみりゃ、すぐ判る。脈や循環のサインを見ている 暇があれば即刻心マを開始した方がいい。もし、傷病者に循環があれば動きだし たりするだろうから、その時点でやめればよい。」なのではないかと思って(思 いこんで?)います。蘇生を暫く続けて、リズムの評価を行う頃には、我を取り 戻して、脈触知を判断材料のメインに持ってくればいいと思っています。 この事は訓練を積んでいない医師・看護師にとっても大事なことで、触れない脈 を10秒以内に正しく「ない」と感じることのできる人は2%しかいなかったという 報告からしても、ILCOR 2005(CoSTR)ってスゴイやと思いました(思いこみ?)。 正直言って、私だって、触れない脈を10秒以内に正しく「ない」と感じることは 難しいです。 越智先生、不勉強で申し訳ありません。 ERCのG2005でもアルゴリズムにはcheck pulseが見あたりませんが、ILCOR 2005 (CoSTR)と同じと考えて宜しいでしょうか? ERCのアルゴリズムを眺めていますと、意識・正常呼吸がなければCPR開始となっ ており、本当に判り易いと思います。 これくらい判りやすくしないと、講習会で苦労して指導しても、記憶としては残 らないのではないかと思います。 AHAのG2005には“signs of life”という用語が余り出てきませんし、脈触知が求 められていますし、「なんか、オリジナル(CoSTR)と随分ちがうな」という印象 を受けましたので投稿させていただきました。 日本の新しい指針は、内容がしっかりしていて、馴染みが深いという理由で(だ ったでしょうか?)AHAのG2005をベースに作成していくというお話を伺ったこと があります。何でもかんでも、AHAに習えではなく、一番、現実的なものを選択し て欲しいという願望がございます。私のようないち医療従事者のこんな意見があ るということが、日本版救急蘇生ガイドライン策定小委員会に伝われば幸いに思 います。


From: 小林正直 Subject: [ACLS:4913] Re: 2005CoSTR:医療従事者の脈触知は? Date: Sat, 4 Feb 2006 00:47:49 +0900 畑中先生、越智先生 こんばんは,小林正直@大阪医科大学附属病院救急医療部です。 畑中先生、コメントありがとうございます。 先生にそう仰って頂くと、何か太鼓判を頂いたような気分になります。 畑中先生が、この (ACLS:4911)お返事をして下さっているのを見る前に [ACLS:4912]の投稿をしてしまいました。 > ほんで、調べてみましたら、ERCのガイドラインでは「Advanced Life Support」の > 部分で、「In-hospital Resuscitation」でのBLSについて記載されていました。 > ERCガイドラインのダウンロード版では41ページです。 > 引用は省略しますが(テキストをコピーできないんです)、要は: > 原則としては、「循環のサインを確認する」 >  →この言葉が生きていました。脈の確認は「しない」ということです。 あれ?ERCのガイドラインでは43ページの院内心停止アルゴリズム、45ペー ジの心停止のALSアルゴリズムとも“循環のサイン”ではなく“signs of life”となっています。 > ですが、それに続いて、「経験豊かな救助者の場合は、同時に総頸動脈の脈拍も > 確認する」となっていました。 > ということで、やはり、AHAとERCでは、この部分の見解にはっきりした差があるよう > > ですね。 > 私は個人的にはERC派です。 私的には「脈触知は経験豊かな救助者の場合は同時に行っても良いが、それ が原因で心肺蘇生が遅れるようなことがあってはならない」であって欲しい と思います。医療従事者全員が「脈を触れるべき」というのは、自分も含め て、課題として難しいことと思います。 そういった意味で私もここはAHA G2005よりもERC G2005/2005CoSTRに一票投 じたい一派です。 ここで、興味津々となり、歴史をひもといてみました。 こんな時、越智先生がつくられた、ページ http://plaza.umin.ac.jp/%7EGHDNet/99/ilcor.html は役にたちますね(^_^)。 そもそも、 1997年のILCOR勧告では以下のように記載されていました。越智 先生がつくられたページのコピペです。 一次救命処置検討委員会では、頸動脈触知を重視するべきではなく、反応も 呼吸もない成人患者に対する心臓マッサージの適応を決定するには、別の基 準を採用すべきであると考える。私たちは頸動脈の触知ならびに拍動の発見 を含む「循環の徴候を探すこと」という表現を採用することにした。救助者 がこのチェックに費やす時間は、10秒以内とすべきである。このため、頸動 脈を触知しないということは必ずしも必要ではなく、明らかな生命徴候が見 られないということを、心マッサージ開始に十分な指標とすべきである。 言葉こそ、『脈を含む循環の徴候を探すこと』と書かれていますが、その内容・ コンセプトに関しては、ERC G2005/2005CoSTRと変わらず、一環していること が判ります。どうも、AHA のみが、異なる方向性を出しているような印象すら 受けます。 我が国の指針がどちらの形でまとめられるか、非常に不安と期待で一杯です。


Date: Sat, 04 Feb 2006 From: 畑中哲生 Subject: [ACLS:4915] 2005CoSTR:医療従事者の脈触知は? 小林先生、越智先生、皆様: 救急救命九州研修所の畑中です。 改めて申しますが、小林先生には重要なポイントをご指摘いただいて「助かっ たぁ」という感じです。日本版ガイドラインについて、麻酔科学会はBLS部分 の検討を任されているのですが、この点を取り上げるのを失念するところでし た。 > “循環のサイン”ではなく“signs of life”となっています。 ありゃま、ほんまですねえ。 よく見ると、41ページの「循環のサイン」の原文には、"a"が入っていて、 "signs of a circulation"になっていることに気づきました。 G2000で「循環のサイン」という言葉が「用語」として用いられている場合は、 "a"がなくて、"signs of circulation"です。 つまり、ERCのガイドラインでは「用語」として(=息・咳・動きという意味 での)「循環のサイン」を用いているのではなく、「循環を示す徴候がある かどうか」という一般的な表現として用いているだけなのかもしれません。 いずれにせよ、AHAが「脈拍の触知」をはっきりと要求しているのは、今まで の考え方とはしっくりしない、という点、確かにご指摘のとおりだと思います。 > 「脈触知は経験豊かな救助者の場合は同時に行っても良いが、 > それが原因で心肺蘇生が遅れるようなことがあってはならない」 ↑ これ、いただきます。 -畑中哲生 救急救命九州研修所


From: 小林正直 Subject: [ACLS:4916] AHA G2005とILCOR 2005CoSTRの相違点 Date: Sat, 4 Feb 2006 22:44:14 +0900 畑中先生、越智先生、みなさま こんばんは,小林正直@大阪医科大学附属病院救急医療部です。 またもやお騒がせします。AHA G2005とILCOR 2005CoSTRの相違点、ますます、気に なってきました。 大きな相違点以外についても、まとめてみました。 (1)循環停止の徴候: 一番大きい点はAHA G2005では医療従事者は脈を診ることであるが、2005CoSTRでは 医療従事者でも最初は“生命のサイン”のみでよい。 (2)心臓マッサージの深さ: AHA G2005では 1.5 〜2インチ (約4 〜5 cm)に対し、 ILCOR 2005CoSTRは“少な くとも”4〜 5cmと、もっともっと、しっかり押せと解釈されるような記載になって い る。 (3)心臓マッサージの速さ: AHA G2005では100回/分に対し、 ILCOR 2005CoSTRは本文に“少なくとも”100回/分 とし、図には(1秒に2回) と記載されている。このILCOR 2005CoSTRの記載は100〜 120回/分とも解釈される。AHA G2005よりやや早くても良いと解釈されともよいよう な記載になっている。 (4)心臓マッサージの手: AHA G2005ではどちらの手が胸骨の上になる手か決めていないが、 ILCOR 2005CoSTR では効き手が胸骨の上になる手と決められている。 2と3は私の解釈のしすぎでしょうか?たった一言、“at least”という単語が入っ ているだけのことなんですけどね。 細かいことを気にする典型的な日本人の発想ですが、日本の指針がどうなるか、気に なって気になってしかたがないです。 2と3は ILCOR 2005CoSTRに一票投じたいですが、4は「利き手を下にして胸骨を圧 迫するが、やりやすい方でよい」のような気がします。エビデンスのあるものに対し て失礼かな。私は「傷病者の右に立って右手で胸郭を辿り、反対の手を胸骨の上に乗 せましょう」と指導を繰り返してきたせいか、きっと泥酔状態でも無意識のうちに左 手(利き手)を下にしてしまうと思います(変な喩えで申し訳ありません)。利き手 を下にするのが良いというエビデンスを否定する気はありませんが、難しいと感じま す。 以上の点、皆様はどのようにお感じになられるでしょうか?


From: 畑中哲生 Subject: [ACLS:4917] AHA G2005とILCOR 2005CoSTRの相違点 小林先生、越智先生、皆様 救急救命九州研修所の畑中です。 小林先生、そうなんですよ、結構ちがうんですよね、ちょっ としたところが。 (4)心臓マッサージの手: ILCOR 2005CoSTRでは効き手が胸骨の上になる手と決められている。 →エビデンスはなかったのではないでしょうか? 私は自然に左手が下になりますが、これは従来の位置決め方 法=右手で剣状を突起を....によるクセのせいかもしれませ ん。 (3)心臓マッサージの速さ: ILCOR 2005CoSTRは本文に“少なくとも”100回/分とし、 →ある(二つの)調査では:  病院外CPRの平均レートは120回/min  病院内CPRでは90回以下と110回以上がそれぞれ4割弱 ということで、どちらかというと、現実にはレートが速すぎ のようですから、”少なくとも”という表現は不要かな(つ まりAHAに一票)と感じています。 しかし、やっぱり最大の違いは「胸骨圧迫前に人工呼吸をす るか(AHA、CoSTR)しないか(ERC)」ではないでしょうか? これ、どんなもんでっしゃろ。


From: 小林正直 Subject: [ACLS:4922] Re: AHA G2005とILCOR 2005CoSTRの相違点 Date: Mon, 6 Feb 2006 20:36:58 +0900 畑中先生、越智先生、皆様 こんばんは,小林正直@大阪医科大学附属病院救急医療部です。 (中略) > (4)心臓マッサージの手: > ILCOR 2005CoSTRでは効き手が胸骨の上になる手と決められている。 > > →エビデンスはなかったのではないでしょうか? > 私は自然に左手が下になりますが、これは従来の位置決め方 > 法=右手で剣状を突起を....によるクセのせいかもしれませ > ん。 畑中先生も私と同じなわけですね。 以下、越智先生のCoSTR粗訳から引用させて頂きます。 手の位置 :  成人に対するCPRの際に、手を置く位置についての満足できるエビデンスはない。小 児では胸骨下1/3の圧迫が胸骨中央に比べ高い血圧を生み出せる(LOE 4)97。医療専門職 によるマネキンによる研究で、利き手を胸骨に当てて胸部圧迫をした時が効果的であっ た (LOE 6)98。手は単純に「胸部の中央」におくとした方が換気と胸部圧迫の間の中断 が少ない(LOE 6)99。 抄録しか読めませんが、以下に文献98をコピペします。 British Journal of Anaesthesia, Vol 84, Issue 4 491-493, Role of dominant hand position during external cardiac compression P Kundra, S Dey and M Ravishankar Nineteen previously trained resident anaesthetists were instructed to perform adult single-rescuer basic life support for 5 min on a manikin, in a double-blind crossover design, changing the hand of contact with the sternum from right to left while performing external cardiac compression (ECC). Total, correct and incorrect ECCs comprising of inadequate depth, wrong hand placement, incomplete relaxation and too much compression were recorded and grouped according to the dominant hand (group DH) or non-dominant hand (group NH) in contact with the sternum. The number of correct ECCs was significantly greater in group DH, median 141 compared to group NH, median 97; P < 0.005. More ECCs were of inadequate depth in group NH, median 34 as compared to a median of 8 in group DH; P < 0.005. Similarly, the incidence of wrong hand placement was significantly higher in group NH; median of 4 versus median of 0 in group DH, P < 0.05. The incidence of incomplete relaxation and too much ECC was not significantly different between the two groups (P < 0.05). We conclude that ECC is performed with fewer errors when the dominant hand of the rescuer is placed in contact with the sternum. 救命率を向上させるほどのエビデンスではないようですね。 利き手を下にすると、強さ、位置の正確さ、完全な徐圧の面から見て良いとのことでした。 > (3)心臓マッサージの速さ: > ILCOR 2005CoSTRは本文に“少なくとも”100回/分とし、 > > →ある(二つの)調査では: >  病院外CPRの平均レートは120回/min >  病院内CPRでは90回以下と110回以上がそれぞれ4割弱 > > ということで、どちらかというと、現実にはレートが速すぎ > のようですから、”少なくとも”という表現は不要かな(つ > まりAHAに一票)と感じています。 すみません。こだわって。 以下、越智先生のCoSTR粗訳から引用させて頂きます。 回数:  1分間当りの胸部圧迫の数は、圧迫の速さ、圧迫と換気との比率、口対口人工呼吸もしく はバッグ・バルブ・マスクの換気に必要な時間、そして救助者の体力(もしくは疲労度)に よって決まる。観察研究では、救助者の実際の圧迫回数は、現在推奨されている回数より少 なく行なっていることが示された(LOE 5)100-103。 動物実験では速度の速いCPR (120〜150/ min) が現行のCPRと比べて血行動態を改善し外傷も少なかったという報告(LOE 6)104-107と、 効果はないとする報告(LOE 6)108がある。他の動物実験では負荷サイクル等のその他の要素 による改善も報告(下記参照)109されている。人体での研究報告では速度の速いCPR (120/min) が現行のCPRに比べ血行動態を改善している(LOE 4)110。しかし、人に対する機械的なCPRで は、速度を上げたCPR (140/minまで) は60/minの場合と比べて血行動態を改善しない(LOE 5) 111,112。 少なくとも100回(1秒に2回)とされている理由は上記の文献110によると思います。 抄録しか読めませんが、以下にコピペします。 110. Swenson RD, Weaver WD, Niskanen RA, Martin J, Dahlberg S. Hemodynamics in humans during conventional and experimental methods of cardiopulmonary resuscitation. Circulation. 1988; 78: 630-639. Hemodynamics in humans during conventional and experimental methods of cardiopulmonary resuscitation High-fidelity hemodynamic recordings of aortic and right atrial pressures and the coronary perfusion gradient (the difference between aortic and atrial pressure) were made in nine patients during cardiopulmonary resuscitation (CPR). Findings during conventional manual CPR were compared with those during high-impulse CPR (rate, 120 cycles/min with a shorter compression:relaxation ratio) as well as during pneumatic vest CPR with and without simultaneous ventilation and abdominal binding. Aortic peak pressure during conventional CPR averaged 61 +/- 29 mm Hg but varied widely (range, 39-126 mm Hg) among patients. Although the magnitude of improvement was modest, the high- impulse method was the only technique tested that significantly elevated both aortic peak pressure and the coronary perfusion gradient during cardiac arrest. During conventional CPR, aortic pressure rose from 61 +/- 29 to 80 +/- 39 mm Hg during high-impulse CPR, and the gradient rose from 9 +/- 11 to 14 +/- 15 mm Hg, respectively; p less than 0.01. The pneumatic vest method significantly improved peak aortic pressure but not the coronary perfusion gradient. Simultaneous ventilation and chest compression created high end-expiratory pressure and lowered the coronary perfusion gradient. Abdominal binding had no significant hemodynamic effects. This evaluation of experimental resuscitation methods in humans shows that the high-impulse chest compression method augments aortic pressure over levels achieved during conventional CPR methods; however, the improvement in pressure is modest and may not be clinically important. Simultaneous ventilation as well as abdominal binding during CPR were associated with no benefit; in fact, simultaneous ventilation appears to adversely affect cardiac perfusion and, therefore, should not be used during clinical resuscitation. 普通の心臓マッサージに比較し、120回/分の心臓マッサージは大動脈圧を 61 +/- 29mm Hg から 80 +/- 39 mm Hg へと有意に上昇させたと書かれているのでしょうか。いずれにせよ、 120回/分の心臓マッサージが生存退院率を向上させたという報告はなさそうなので、エビデ ンスとしてはやや弱いと考えられます。高頻度が良いとも、変わらないとも、種々のデータ が発表されていることもあわせて、遅いよりは早目の方がよかろうということで、CoSTRで は少なくとも100回/分(1秒に2回)とされたのかと推察します。 しかし、プリミティブな疑問として、120回/分の心臓マッサージが心拍出量を増やすという のなら納得はできますが、血圧を上げるというのはなぜなんでしょう? > しかし、やっぱり最大の違いは「胸骨圧迫前に人工呼吸をす > るか(AHA、CoSTR)しないか(ERC)」ではないでしょうか? > これ、どんなもんでっしゃろ。 そうですね。これも、やや驚きですね。 理論的には胸骨圧迫前に人工呼吸をする(AHA、CoSTR)方がよいと思います。今までの指導 方法とも相違はないでしょうし。 ただ、ERCは生命の徴候がなければCPR開始というのは、とてつもなくシンプルですね。個人 的には、これくらい簡単にして頂いた方が指導上の容易性、受講者記憶保持性の観点から好 ましいように思います。 理論的には胸骨圧迫前に人工呼吸をする方法が良いとは思えますが、これに対するエビデン ス(つまり、呼吸がなければ心肺蘇生を開始する方法より軽快退院率が良いというデータ) ってあるのでしょうか?私の知る限りはないように思いますが、もし、「いや、あるよ」と いうことであれば、お教え下さい。


Date: Mon, 6 Feb 2006 21:11:11 +0900 (JST) From: 岡田 稔 Subject: [ACLS:4923] Re: 2005CoSTR :医療従事者の脈触知は?  越智先生,畑中先生,小林先生,MLの皆様.岡田@鳥取県立中央病院救命センターです.  僕はpulse checkはHCPにとっては必須のcore skillだと思いますので,強調しても悪く ないと思います.悪いのは時間がかかりすぎてCPRが遅れることです.恥ずかしながら某院 ではDr,Nsともpulse checkができず,呼吸停止だと思ったけど,心停止とは思わなかった Ns,PEAがわからないDr,ECGのリードがはずれただけでCPRを開始するICLS providorがた くさん?います.ただでさえpulsecheckができないのに,呼吸停止だけでCPRを開始するこ とを教えるのはいささか個人的に抵抗があります.もちろんその根底にあるconceptはわか るのですが,pulse checkをここで教えないと,一生しない,できないHCPになってしまうと 懸念されるから(自信があるから?)です.最初は10秒以内にはできないでしょう.  10秒以内にわからなければNo definite pulseとしてCPR開始というAHA algorithmは合理 的だと思います.shock victimが来てもmonitor装着を指示してmonitorを診察するだけで, Patの体に1回も触らないDrが何と多いことか・・・ 短期的にみれば,pulse checkを教 えない方がCPR開始時間が早いかもしれませんが,長期的にみればpulse checkのskillを masterしpulseless arrestをしっかり判断できるHCPを養成した方が,そのfacilityのlevel があがり,ひいてはそのregionの市民にとってbenefitがあるものと思っています.CPAに限 らず,何かおかしいと思った時に呼吸と脈をcheckする習慣をHCPに習得させることはBLS, ACLS,BTLS,ATLS,PALS,PEPP・・などなどのunivrsal core skillだと理解しています. 皆様の意見のcounterargumentのようで気がひけるのですが・・・


Date: Mon, 6 Feb 2006 23:59:51 +0900 (JST) From: 越智元郎 Subject: [ACLS:4927] Re: AHA G2005とILCOR 2005CoSTRの相違点  小林先生、皆様、市立八幡浜総合病院麻酔科 越智元郎です。意見交換、 有難うございます。 〇 小林先生より(ACLS:4922) > みなさん「なにをぐちゃぐちゃ細かいこと言うとんねん。日本で決まって  いないことを今、論じるのは混乱を与えるだけやないか」と思っておいで  でないですか?そうでなければいいのですが。 ⇒ 決まるまで待って、それを有り難く押し頂くなんで詰まらないですよ。   より良いものを「引き寄せる」のでないと・・。ぜひ意見交換を続けさ   せて下さい。 〇 (畑中先生) > > ?心臓マッサージの手: > > ILCOR 2005CoSTRでは効き手が胸骨の上になる手と決められている。 > > > > →エビデンスはなかったのではないでしょうか? ⇒ 小林先生がCoSTRの参考文献を紹介して下さいましたが、とりあえずは検   討に値するエビデンスがあったということになりますね。そしてCoSTR   で以下のように推奨されちゃった訳ですよね。   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜   市民、医療専門職のどちらに対しても、患者が成人の場合、胸骨中央に   <利き手の>手掌基部を置き、その上にもう一方の手を置くと指導され   ることが適切である。   http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/05/CoSTR-02.htm#d   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜   私も利き手(右手)を(下側の手として)胸骨に当てると明らかに違和感   がありますね。まあ、CoSTRの推奨であれば皆でやってみたらよいのでは   ないでしょうか(絶対何が何でもという教え方をする必要はないわけです   し)。以外に慣れたらやりやすいのかも知れませんし。   両手の指を組む(interlocking)も始めは妙な感じだったが慣れました   し・・。 〇 (畑中先生) > > しかし、やっぱり最大の違いは「胸骨圧迫前に人工呼吸をす > > るか(AHA、CoSTR)しないか(ERC)」ではないでしょうか? > > これ、どんなもんでっしゃろ。 ⇒ やっぱりここの違いが問題になりそうですね。   ERC新指針の第2部から引用します。   http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/05/ERC-02.htm#saisho   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜   最初の人工呼吸    低酸素血症でない心停止の後最初の数分間は血中酸素含量は高く維持   され,心筋と脳への酸素供給は,肺での酸素不足よりも心拍出量減少に   よって制限されている.従って,換気は最初には心マッサージよりも重   要ではない.    BLS一連の動作を単純化すると技術の習得と保持に役立つことはよく認   識されている.また救助者が感染への恐れや行為が嫌いなどの様々な理   由から口対口呼吸をしばしば嫌がることもよく知られている.これらの   理由から,そして胸部圧迫の優先さを強調するために,成人CPRは最初の   人工呼吸よりも胸部圧迫で始めるべきであると推奨される.   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜    去年の日本麻酔科学会総会でもオランダの蘇生関係者が畑中先生の司   会で講演されましたが、G2000後、オランダもCABをやめてヨーロッパ全   体のABCに合わせたと言っていましたね。今回、ヨーロッパ全体で、みん   なでCABにした(オランダはもどった)ということですね。その方がより   多くの人がCPRをしてくれるという判断なのでしょう。そしてこれはヨー   ロッパのローカルルールです。    アメリカはCoSTRの推奨のまま、ABCとした。でもBはしたくなければし   なくていいよ・・というのはG2000のときと一緒。日本の指針もアメリカ   のスタンスと同じでよいと思いますよ。CABの歴史は全然無いし、わざわ   ざCoSTRから離れるほどの動機は持てないのではないでしょうか。  以上、とりとめのないメールになりましたが・・


From: 小林正直 Subject: [ACLS:4928] Re: AHA G2005とILCOR 2005CoSTRの相違点 Date: Tue, 7 Feb 2006 01:02:07 +0900 越智先生、皆様 こんばんは,小林正直@大阪医科大学附属病院救急医療部です。 「胸骨圧迫前に人工呼吸をするか(AHA、CoSTR)しないか(ERC)」はABCなのかCABなの かに基づいているという越智先生の解説で非常に良く理解できました。というより、目 から鱗でした。 両者の違いはエビデンスというよりはポリシーの違いなわけですね。 やはり、狙いは単純化にあったんですね。 しかも、窒息を除いてはCABが有利と。 日本ではCABの歴史は全然無いし、わざわざCoSTRから離れるほどの動機は持てないとい う越智先生の御意見の通りになるのが普通でしょうね。でも個人的にはここはERCの方 が単純な分、教えやすいと思います。


From: 小林正直@大阪医大 Subject: [ACLS:4929] Re: 2005CoSTR :医療従事者の脈触知は? Date: Tue, 7 Feb 2006 02:48:19 +0900 越智先生,畑中先生,岡田先生,MLの皆様. こんばんは,小林正直@大阪医科大学附属病院救急医療部です。 >  岡田@鳥取県立中央病院救命センターです. >  僕はpulse checkはHCPにとっては必須のcore skillだと思いますので,強調しても 悪くないと思います. 岡田先生が必須とお考えの理由は当然です。このMLでも結構賛成・反対がわれるのでは ないでしょうか? >  恥ずかしながら某院ではDr,Nsともpulse checkができず,呼吸停止だと思ったけど,  心停止とは思わなかったNs,PEAがわからないDr,ECGのリードがはずれただけでCPRを  開始するICLS providorがたくさん?います.  ただでさえpulsecheckができないのに,呼吸停止だけでCPRを開始することを教えるのは  いささか個人的に抵抗があります. →そういう人にこそ、意識・動き・息がなければCPRが必要なのではないでしょうか?  そして、そんな人が多いと嘆いているのは、どこでも同じなのではないでしょうか? >  pulse checkをここで教えないと,一生しない,できないHCPになってしまうと懸念さ  れるから(自信があるから?)です.最初は10秒以内にはできないでしょう.10秒  以内にわからなければNo definite pulseとしCPR開始というAHA algorithmは合理的だと  思います. →10秒以内にわからなければCPR開始という指導は正しくても、実際教えられたことを守 ってくれそうな人がどれくらいいるか、データはないですが、自信なしです。 現在、当地では二次救命処置講習会(ICLSコース)では以下のレベルにようやく達する方 が多数を占めています。 シナリオセッションの始めの頃は、15〜20秒位「触れる?触れない?」と悩んでいます。 「脈が触れるか自信を持てない時以外は“ないもの”として扱って下さい!実は触れてい たって構わないのです」と強引に10秒以内を強調し、何回もシナリオを重ねます。 シナリオセッションの最後のころになれば、こちらの願いが届き、10秒弱で「脈がありま せんPEAです心マ開始」と言ってくれるようになります。でもシムの血圧は正常なんですよ ね。こそっと触れてみたらちゃんと触れている......(^_^;)。 ICLSコース受講者のレベルが低いのだと言ってしまえば、それで議論は終わりなんでしょ うけど、こんな方が大勢を占めていると思います。そして、人形相手の比較的リラックス した環境で、こんな状態の人が、記憶が時間の経過とともに減衰し、しかも、臨床の緊張 した場面で、本当に脈の正しい判断ができるだろうか?と日々自問自答しています。 それでも二次救命処置講習会(ICLSコース)に参加しようかと思う人は、蘇生教育にまだ 熱意の感じられる人です。それよりも遙かに大多数を占める二次救命処置講習会(ICLSコ ース)すら受講していない人が10秒以内に無い脈を正しく「触れない」と感じることは到 底無理があると感じています。


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