死体検案書に関する論議

救急関連メーリングリストより(2003年7月)

ウェブ担当者:県立新居浜病院麻酔科 越智元郎
(本資料の著作権などに関する責任はすべてウェブ担当者が負います。)


 目 次
               (発信者の敬称は省略させていただきます) 

森野[eml-nc2: 0562] 死亡診断書と司法解剖結果
A [eml-nc2: 0573] Re: [eml-nc2: 0562] 死亡診断書と司法解剖結果
黒木[eml-nc2: 0658] 仮題・死亡診断書(阪大 黒木さんより)

 吉永[eml-nc2: 2681] 死体検案書
 黒木[eml-nc2: 2686] Re:死体検案書
 中尾[eml-nc2: 2701] Re:死体検案書
 黒木[eml-nc2: 2706] Re:死体検案書
 吉永[eml-nc2: 2715] Fwd: Re: 2686 死体検案書
 神納[eml-nc2: 2732] Re:死体検案書
 木下[eml-nc2: 2733] Re: Re:死体検案書
 
奥村[eml-nc3: 2101] 死亡診断書か死体検案書か?
黒木[eml-nc3: 2104] Re: 死亡診断書か死体検案書か?


From: Kazuma Morino
Date: Tue, 12 Feb 2002 20:19:30 +0900
Subject: [eml-nc2: 0562] 死亡診断書と司法解剖結果

皆さん、こんにちは、森野@山形です。
診断書についてのスレッドがありましたので、
便乗質問になってしまいますが、お許し下さい。

司法解剖が決まった際に、都市部では搬送元の死亡診断書(検案書)
を記載せずに解剖する施設に診断書をまかせる、ということを
伺ったことが有ります。死因が食い違った際、二枚の診断書が
できてしまう?と面倒なことになるから、という理由だそうです。
これ(診断書を書かずに解剖施設へ搬送)ってほんとにある事なの
でしょうか?

御遺体の搬送時には死亡診断書(検案書)は不可欠と認識して
おりますが、そのあたりの問題は?
また解剖結果が異なる可能性も十分有るわけで、その際の手続き
は具体的にどうなっているのでしょうか。
このあたりの詳細を御存じであれば教えていただきたく存じます。

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山形県立救命救急センター 森野一真


From: ""
Subject: [eml-nc2: 0573] Re: [eml-nc2: 0562] 死亡診断書と司法解剖結果
Date: Tue, 12 Feb 2002 23:10:25 +0900

Aです。
私は今までほとんど・・内の病院に勤務しています。
うろ覚えですが”死亡前24時間以内に診察をしていて死因がはっきりしていること”
という死亡診断書記載の要件をかなり厳密に適用していますが、特に問題となったこ
とはありません。
もちろんガンの末期など、かかりつけの患者さんの場合は24時間以内の診察という
項目は1〜2週間以内ぐらいの感覚で考えていますが。
それ以外は事件性がなければ行政解剖、事件性があれば司法解剖と理解していますが、
いずれにしても警察に連絡して監察医務院へ搬送してもらいます。
やっとご質問への回答になりますが、
その場合死亡診断書ではなく死亡確認書を書いて警察に渡します。
内容は死亡を確認した時間と診察所見や検査所見などで、
死因が推定可能な場合は何々の疑いと追記する場合もあったと思います。
用紙は特定の死亡確認書という書式がが常備されている病院もありました。
ただし、監察医務院に送った全例が剖検されるのではなく、
ほとんどは検屍のみで死体検案書が交付されるようです。
以前は警察も非協力的でなかなか来てもらえないこともありましたが、
現金なもので、保険金目的の薬物殺人事件が多発した後は比較的すぐに応じてくれる
ようになりました。

/////////
  A
   ・・病院外科
                                  //////////


From: Hisanaga Kuroki
Date: Sat, 16 Feb 2002 09:12:17 +0900
Subject: [eml-nc2: 0658] 仮題・死亡診断書(阪大 黒木さんより)

法医学の黒木です。亀レスで申し訳ありませんが、死亡診断書などの
話の蒸し返しです。

 交通事故による、多発外傷による来院時心肺停止患者の死亡診断書は、
どのような受傷機転の交通事故で死亡したかが明確になり、死亡診断
書の中に、確実に交通事故による外傷で死亡したことが明記されてい
れば、死因の分類上(WHOの国際疾病分類ICD-10)では、確か、自動車同
士の交通事故に分類されると思いますので、何の問題もなく分類され
ます。(手元にマニュアルがないのですが・・・)

 したがって、ここ、スコットランドでは、解剖後(ここでは交通事故
はほとんどが解剖となる)も、多発外傷を死因にすることも多いです。
 わたしの場合、個人的には、致命傷を特定する方が好きではありま
すが・・・

 法医解剖のシステムは、各都道府県で大なり小なり異なります。司
法解剖前に仮の死亡診断書(死体検案書)ができているところもありま
すし、そうでないところもあります。 警察が遺族から解剖の承諾をも
らって行う、承諾解剖が行われている地域も茨城県を含め少なからず
あります。大阪府でも大阪市外ではたまに行われます。

(引用部分省略)
 大阪府は上記地域に該当します。

(引用部分省略)
 確かに法律上、問題があるかもしれませんが、警察が指示して認知
していることですから、あまり問題になったこともありません。大阪
市内の監察医症例もも同様です。

(引用部分省略)
 死体検案の結果と解剖の結果は、一致しません。監察医・法医学を
10年勤めたわたしですら、外表や医療情報だけで死因を決定するのが
いかに難しいかをよく知っております。

 なお、日本で交通事故関連死亡が剖検されるのは5%未満です。

(引用部分省略)
 厚生労働省では、最終診察後24時間以内で死亡していたとしても、
ちゃんと患者さんが亡くなってから患者さんを診て、異状(異常な状
態)のないことを確認して、ガンなどを死因とした死亡診断書を交付
してくださいとしております。ちゃんと死後に患者さんを診ていれ
ば、生前の疾患で死亡したと考えられるのであれば、別に24時間を
越えていても、2,3日たっていても別に構いませんと考えられている
ようです。

監察医制度も東京、大阪、横浜、神戸にありますが、それぞれシス
テムに違いがありますし、いろいろな理由で、同じシステムにはな
りそうもありません。

(引用部分省略)
厚生統計協会による死亡診断書記載マニュアルでは、死因不詳を認
めています。へたに急性心不全と、ICD-10分類上問題が生じ、国際
社会の中での日本の恥になりますので(つまり、先進国のなかで日本
ほど急性心不全の多い国はなかったことが数年前にわかったのです)、
死因不詳の方がある意味では正確です。

---------------------------
Hisanaga Kuroki MD PhD
Academic Visitor
Dept. of Forensic Medicine,
Univ. of Dundee
DUNDEE DD1 4HN, Scotland UK
---------------------------


Date: Wed, 03 Jul 2002 10:25:25 +0900
From: Kazumasa Yoshinaga
Subject: [eml-nc2: 2681] 死体検案書

兵庫医大、吉永です。

死体検案書について皆さんがどのような対応をされているかをお教え下さい。

「標準救急医学 第3版」のP14に以下のような記載があります。

「外因死やその疑いのある死体は異状死体として所轄警察署に届け出る必要があるので、
たとえ自ら患者の死に立ち会い、死亡の原因を医学的に説明できても、死亡診断書を交付
してはならない。救急医は届け出後に警察から死体検案を依頼されることが多いと思われ
るが、この場合は死体検案書を交付する。」

この記述に従うと、交通事故で入院中の患者さんが死亡したような場合も死体検案書を発
行することになります。警察への届け出が必要なことは当然ですが、このような場合すべ
て死体検案書を発行されているでしょうか。

少々マニアックなテーマで申し訳ありませんが、皆さんの対応法法、あるいは考え方をお
教え下さい。

--
##########################################
 兵庫医科大学 救命救急センター
   吉 永 和 正
  663-8501 西宮市武庫川町1−1
##########################################


Date: Wed, 3 Jul 2002 12:48:42 +0900
Subject: [eml-nc2: 2686] Re:死体検案書
From: Hisanaga Kuroki

阪大法医学 黒木です

 「標準救急医学 第3版」P14の 記載は誤っているように思われます。
 
 基本的には、交通事故によって病院で死亡した場合は、医師が「死を診断」し
ているので死亡診断書です。警察へ届出後、担当医に死亡診断書(死体検案書)の
記載を要求された場合は、死亡診断書を交付すれば済むことです。それ以外の医
師(わたしのような法医関係者など)が記載する場合は、死体検案書になります。
 この部分の著者がだれかは知りませんが、東京都の場合は、若干特殊な事情が
はいるようです。異状死体に該当する場合は全例で、死亡診断書に近い、一定の
書式の死体検案調書を作成しなければいけないようです。救命センターで治療行
為を行った先生であっても、死体検案調書を作成しなければいけないようです。
たとえ、病院で「死を診断」された場合もそういう取り決めになっているようで
す。そのあたりが勘違いの原因になっているようにも思われます。
 
┌黒木 尚長    〒565-0871 ┐
│阪大院・医学系法医学(F3)│


Date: Thu, 04 Jul 2002 07:00:43 +0900
Subject: [eml-nc2: 2701] Re:死体検案書
From: nakao

明石市民麻酔の中尾です。

死亡交通事故では死亡診断書を発行しておりますが、家族からの埋葬許可書発行用に
1枚、警察が裁判所に提出するとして1枚の計2枚の発行を毎回求められます。どの
ような目的でしょうか?前任の香川県では確か埋葬用に1枚しか発行していなかった
ように記憶しておりますが、いかがでしょうか?また警察に提出する死亡診断書は強
制でしょうかそれとも任意なのでしょうか?

> 阪大法医学 黒木です
> 
>  「標準救急医学 第3版」P14の 記載は誤っているように思われます。
>  
>  基本的には、交通事故によって病院で死亡した場合は、医師が「死を診断」し
> ているので死亡診断書です。警察へ届出後、担当医に死亡診断書(死体検案書)の
> 記載を要求された場合は、死亡診断書を交付すれば済むことです。それ以外の医
> 師(わたしのような法医関係者など)が記載する場合は、死体検案書になります。

-- 
明石市立市民病院 麻酔科
中尾 博之


Date: Thu, 4 Jul 2002 09:17:10 +0900
Subject: [eml-nc2: 2706] Re:死体検案書
From: Hisanaga Kuroki

 大阪大学大学院医学系研究科 法医学講座 黒木尚長です
 
 大阪でも、司法解剖を行った場合、同様に遺族に1枚、警察に1枚 検案書を交
付します。この場合、検察庁への報告書と、警察としての司法解剖に立ち会った
ことの報告書に添付されるようです。別にコピーでもいいのですが・・・
 担当警察は、刑事課では、異状死体に対して変死事件等発生報告書を作成する
のですが、その添付書類として死亡診断書(死体検案書)が必要なのはいうまでも
ありません。
 交通課の場合は、実況見分調書などの様々な交通事故と関係する書類を作成す
る必要があり、これが加害者の刑罰を決める重要な書類となるので、診断書や死
亡診断書(死体検案書)は極めて重要な書類となるのです。
 よく考えると、交通事故受傷者を治療したときに、診断書を要求されるのと同
じようなことになります。

(引用部分省略)

┌黒木 尚長    〒565-0871 ┐
│阪大院・医学系法医学(F3)│


Date: Thu, 04 Jul 2002 16:17:13 +0900
From: Kazumasa Yoshinaga
Subject: [eml-nc2: 2715] Fwd: Re: 2686 死体検案書―吉永さんより

黒木さんコメントありがとうございます。

>  この部分の著者がだれかは知りませんが、東京都の場合は、若干特殊な事情が
> はいるようです。異状死体に該当する場合は全例で、死亡診断書に近い、一定の
> 書式の死体検案調書を作成しなければいけないようです。救命センターで治療行
> 為を行った先生であっても、死体検案調書を作成しなければいけないようです。

確かに、著者は東京の大学に勤務している方なのでご指摘の事情が反映されているためと
思います。
法医学者の著書にも外因死の症例が「死亡診断書」として記載された例があり、黒木さん
のお考えの通りになっています。ただ、法医学者の中には異状死体として届け出たら検視
が行われ、この時に死体検案も行われるので死体検案書とするのが正しいという考えの方
もおられるようです。

--
##########################################
 兵庫医科大学 救命救急センター
   吉 永 和 正


From: 神納 光一郎
Subject: [eml-nc2: 2732] Re:死体検案書
Date: Fri, 5 Jul 2002 11:12:30 +0900

  吉永さん、黒木さん、皆さんへ
  東洋医療専門学校の神納です。

  今年3月まで関西労災病院(監察医制度のない兵庫県尼崎市にあります)で
 救急医療を担当していました。

  診療中の患者が死亡し異状死体の届け出をしますと、警察官が検視に来ます。担
当医が立ち会いますが、犯罪被害の可能性が否定された場合は警察官は担当医 に死
体検案書の交付を求めます。多分警察のマニュアルに(死亡診断書ではな く) 死体
検案書を求めるようになっているのだと思います。

  私は次のように考えて対応して参りました。

  死亡後に死体を検案して新たな事実が判り、それを織り込んだ内容を記載するな
ら死体検案書を交付します。しかし記載するべき新たな事実がなく、診療中に 明ら
かになった内容に基づいて記載するのであれば、警察官に説明した上で死亡診断書を
交付します。不満顔の警察官もいましたが、あとから死亡診断書を死体検案書に変更
するように求められたことは一度もありません。

  標準救急医学の記載は、「たとえ自ら患者の死に立ち会い、死亡の原因を医学的
に説明できても、死亡診断書を交付してはならない」理由として、「外因死やその疑
いのある死体は異状死体として所轄警察署に届け出る必要がある」からだと述べてい
るわけで、検視を受けずに死亡診断書を交付することを諌めていて、検視後であって
も死亡診断書を交付してはならないという意味ではないように思います。

                                                    --------------------
                                                    東洋医療専門学校
                                                    神納 光一郎


Date: Fri, 05 Jul 2002 11:48:35 +0900
Subject: [eml-nc2: 2733] Re: Re:死体検案書
From: "yoshihiro kinoshita"

神納さん、吉永さん、黒木さん、情報ありがとうございました。
神納さんのご説明で、標準救急医学の記載も納得できました。熊本では異状死体で
あっても、病院である程度治療を受けて亡くなったのなら、死亡診断書を書いてく
ださいと警察から言われました。監察医にお任せであった大阪とはだいぶ様子が違
います。
検案のみで死亡診断書を出すのはいけないが、死に立ち会い死因も診断したら、外
因でも死亡診断書でいいというわけですね。

熊本大学医学部救急医学 教授 木下順弘


Date: Sun, 20 Jul 2003 02:21:56 +0900
Subject: [eml-nc3: 2101] 死亡診断書か死体検案書か?
From: "Tetsu Okumura, M.D., Ph.D." 

奥村です。
皆さまにお世話になっています。

以前も、このメーリングリストで話題になったかも知れませんが、、、

CPAで正常洞調律が一度も認められなかった場合には、死亡診断書
ではなく、死体検案書を書き、警察に連絡する。これは、正解ですか?

ヒトによっては、死亡診断書で良いとするヒトもいるのですが、、、

法医関係の先生方の発言をお待ち致しております。

」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
〒113-8421  
東京都文京区本郷2-1-1
順天堂大学医学部附属順天堂醫院
救急部専任講師 奥村徹
」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


From: Hisanaga Kuroki
Subject: [eml-nc3: 2104] Re: 死亡診断書か死体検案書か?
Date: Sun, 20 Jul 2003 10:06:41 +0900

医療事故の司法解剖(その後始末を含む)が難しくて難しくて苦労している
大阪大学大学院医学系研究科 法医学講座 黒木尚長です。

> CPAで正常洞調律が一度も認められなかった場合には、死亡診断書
> ではなく、死体検案書を書き、警察に連絡する。これは、正解ですか?

原則としては、正解ですが・・・
 全国的には
とにかく異状死体の届出をして下さい。警察官が担当し、検視などを行います。
その後、だれが死亡診断書・死体検案書を作成するかを警察の方で決定すること
でしょう。
 死亡診断書か死体検案書か??難しいところです。
 
 原則としては、生から死への診断が死亡診断であり、
 たとえ、急変するときに立ち会っていなくても、主治医が、診断された疾病で
死亡したとを診断した場合は、死亡診断書でOKとなっております。
 それ以外は、死体検案書が原則です。
 
 CPAを診られた救急医の先生が作成することになった場合、病院での蘇生術を
行った上で、死亡確認時刻を死亡時刻とした場合は、死亡診断書でもいいと思い
ます。(治療を行っておきながら、死体検案書というのは書きにくいですよね)
 心拍が再開したときは、死因がわからなくても死亡診断書となるのは確実だと
思います。
 
 なかなか、CPAの死因というのは、わかりそうでわかりそうにありません。ト
リカブト事件も3人目の沖縄ではじめて、異状死体の届出が行われ、トリカブト
とふぐ毒が原因であったことがわかっているようです。
 つまり、CPAの原因が、疾病か中毒か外傷かを判断するのは、その状況の調査
が必要なのです。だから、警察への異状死体の届出が必要なのです。
 異状死体の届出が必要な例です。ぜひとも警察に届け出て下さい。東京都23区
では、その後、監察医が対応するはずです。
 
 後は、私見ですが・・・
 この方の死亡時刻はいつなんだろうと考えてみてください。
わたしが監察医として、死体検案したときは、死亡場所は、心停止となった場所
(たぶん自宅か)になると思いますし、死亡時刻は心停止となった時刻にすると思
います。そのような死亡時刻と死亡場所を記載して、死亡診断書にすると矛盾し
ます。その場合は死体検案書にする必要があるでしょう。
 これが、一番正確な死亡診断書(死体検案書)となるわけですが、救急医でCPA
を担当した先生がそのような死体検案書を作成するのは、病院では難しいですよ
ね!!
  ですから、CPAのような事例では、死亡診断書か死体検案書か、死亡時刻は
いつなのか、心肺蘇生ができたのかどうかなどは、非常に微妙です。
 わたし個人としては、死亡診断書にしていただくと、なんか決まりがなくなっ
てしまうようにも感じますが、そのような些細なちがいは至るところにあるよう
な気がします。

┌黒木 尚長    〒565-0871 ┐
│阪大院・医学系法医学(F3)│



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