日本麻酔科学会AED講習会・資料

資料提供:九州大学大学院災害救急医学分野 漢那朝雄先生


 利用者の皆様へ
日本麻酔科学会第50回学術集会(2003年5月)において開催された「AED講習会」の資料をご提供いただきました(ウェブ化担当:越智元郎)。
関連資料として「AEDセミナーのチェックリスト(35 kbytes)」をご提供いただいています。ウェブ上で閲覧できない場合にはダウンロードした後に、xlsファイルを開いてみて下さい。

 目次

国内のAED 関連状況

AEDの確実性と安全性

 (1)AEDのハードとしての信頼性の問題

 (2)確実性・安全性を高める工夫 〜使用者側の問題〜
  1.AEDの操作手順
  2.除細動効率に影響する因子
  3.電極パッド装着における具体的注意点
  4.AED使用時に特別な注意を要する状況
  5.AED使用時の安全確認〜二次災害防止〜

参考文献


国内のAED 関連状況


「AEDの確実性と安全性」

(1)AEDのハードとしての信頼性の問題

 1997年:AHA小委員会

 AEDの安全性と有効性に関する勧告発表2)

  1. 不整脈解析アルゴリズムの精度
  2. 新規または代替の除細動法、特に波形(従来の減衰正弦波波形など)
  3. 最小限の訓練しか受けていない一般市民が使用 する場合の安全性、 などの評価方法を勧告(表1)。

     *不整脈解析精度では、VF,rapid VTを通電の必要ありと高感度に判断す ること、除細動が有害な調律に対して通電不要と判断する高い特異度が求 められている。


(2)確実性・安全性を高める工夫 〜使用者側の問題〜
  (機器を使用する個人あるいはその社会的監視体制などソフト面の問題)

 現時点でAEDのハード面の安全性・確実性はほぼ確立。AEDの確実性・安 全性に関しては、実際に使用する側の問題つまり人為的要因の影響の方が重 要。以下は傷病者の元にAEDが準備されて以降の注意点。

  1. AEDの操作手順

     AEDには音声ガイドによる操作手順の説明やトラブル解決のための忠告、 あるいは手順の簡素化などの工夫がなされているが、できるだけ早期の除細 動を施行するためには接続方法を含め4つの基本的操作手順4)-8) を理解して おく必要がある(表2)

     AEDによる通電のためには、以下の接続が完成した状態で解析が行われるこ とが必要。
     AED 本体−ケーブル−電極パッド−傷病者

     AEDが解析を行わない場合は、上記の各接続を再確認。

  2. 除細動効率に影響する因子

     除細動は、ある短時間に心臓に適切な大きさの電流が流れることにより、 一旦心筋細胞を脱分極させることでVF, VTを停止させる。体外式除細動で は、心臓を流れる電流は選択されたエネルギー(J)と抵抗つまり経胸腔イン ピーダンス(ohm)により決定される。

    *通常、人の経胸腔インピーダンスは15-150 ohm、平均的成人で平均70-80 ohm 4)。経胸腔インピーダンスが非常に大きい場合、除細動に必要な電流 が心臓に流れない可能性がある。経胸腔インピーダンスは、電極の大きさ、 電極と皮膚間に用いられる導電物質、除細動回数、前の除細動との間隔、 電極間の距離(胸郭のサイズ)、電極-胸部間の接触圧などに左右される4)

    AEDの使用で操作者側の行為の影響が大きいのは、電極パッド装着に関連 するものと考えられる。

  3. 電極パッド装着における具体的注意点

     AEDの電極はシール式であり、ハンズフリーである。

     なお、マニュアル式除細動に比べ、経胸腔インピーダンスに影響する電極と皮膚 間に用いられる導電物質、電極-胸部間の接触圧に関連する通電量低下の可 能性は少ないと考えられるが、以下に示すような注意は必要。

    1)装着部位

     成人:標準的装着部位は "Sternum" と "Apex" である4)

    "Sternum":胸骨上部右縁の鎖骨より下方
    "Apex":電極の中心が左乳頭外側の中腋窩線上(写真1)。

     装着部位のずれがどの程度除細動効率に影響するかは不明だが、有名なカ ジノでのAED使用実録ビデオあるいは漢那個人のAED啓蒙経験から、特に非 医療従事者の場合、装着部位を教えたとしても意外に正しい所に装着しない 印象がある。また医師に関しても、"Apex"パッドを乳頭外側ではなく、乳頭 付近としている場合が多いような印象あり。

    2)皮膚への密着度

     電極は皮膚に密着するようにしっかりと装着する必要がある。胸壁に密着 させなければ、インピーダンス上昇による通電効率の低下あるいはアーク(火 花)発生および熱傷の危険性が増加する。本物のAED電極の粘着性はかなり 強力であり、ACLSの訓練などで使用した場合剥がすのに苦労するぐらいであ る。但し、胸毛の濃い傷病者に対しては剃毛などの前処置が必要である6-8) 。 米国では救急隊員は標準的に剃毛用器具を携行している。AEDの販売に際し ては、剃毛用カミソリが標準装備あるいはオプションとなっている。AHAは 剃毛用器具がない場合は、予め用意した3セットの電極パッドのうち、2セ ットで脱毛するというアイディアを提供している6)-8)

  4. AED使用時に特別な注意を要する状況

     BLS, ACLSのテキスト類では、AED 使用の際、以下のような特別な状況が ないかを確認しなければならないとしている4)-8)(表3)。

    1)8歳以下(体重25kg未満)の小児

     現時点では、8歳以下(体重25kg未満)の小児に対するAEDの安全性は未 確立であり、AHAはその使用を推奨していない。従来のAEDでの初期設定エ ネルギーでは、体重25kg未満では10J/kg以上となり高すぎること、また小 児の早い心拍数や調律に対する解析精度が保証されていないという理由によ る。しかしごく最近、米国では小児対応の電極が市販され始めた(写真2)。 但し、AHA などでの見解は前述の通りで、あくまでも使用者の責任の元での 使用が前提のようである。

    2)濡れている傷病者

     傷病者自身あるいはその周辺が濡れている状況下での除細動は、傷病者あ るいは救助者の感電(電撃症)あるいは熱傷の危険性が高い。またアークが 生じ、心臓に電流が流れなくなり、除細動効率も低下する可能性もある。 除細動前に、傷病者の腕や脚を保持しタオルや毛布の上を引きずる、 AED 電極装着前に傷病者の胸部と背部を素早く拭くなどして水分との接触を 絶つ。

     ただし、除細動が1分以上遅れないように注意5)

    3)経皮吸収型薬剤パッチ貼付中の傷病者

     薬剤パッチを剥がし、接着物も除去し皮膚をきれいにした上で電極パッド を装着。(発火や熱傷の危険性あり。)

    4)植込み型ペースメーカーまたは除細動器挿入中の傷病者

     傷病者の胸部(左側)、腹部に隆起や縫合跡がある場合は疑う。

     除細動効率低下回避のために、AED電極は埋め込まれた場所の直上の皮膚 には装着せず、最低3cm以上離して貼る。なお、植込み型ペースメーカーに ついては、蘇生した場合にはペーシングの閾値を再評価5)

     *備考:以前は金属面に倒れている、あるいは接している傷病者に対する除 細動は避けるように忠告されていた。しかし実際には、金属が電流を通すと しても、救助者が金属面を介して感電する危険性はさほど高くないという理 由で、G2000以降は「特別な注意を要する状況」から削除された。現在はAED 操作を続行するよう記載されている5)

  5. AED使用時の安全確認〜二次災害防止〜

    1)感電防止のための安全確認

     AEDのみならず、マニュアル式除細動器による除細動時にも共通すること であるが、除細動器の操作者は、通電時には必ず力強い大きな声で確実に警 告を与え、安全確認を行わなければならない4)-8)。感電により要救助者を増 やしてはならない。以下に具体的安全確認の方法例を示す。

    「1.放電します。離れてください。」
    まず操作者自らが、患者自身またはストレッチャーなどから離れる。

    「2.皆さん、離れてください。」

    *胸骨圧迫、換気などの気道管理あるいは静脈路確保を行っている者など他 の治療者・協力者などが、直接あるいは間接的に傷病者に接していないこ とを確認。

    *気道管理担当者は、電極あるいはパドル周辺に酸素が流し放しになってい ないことを確認する。

    「3.皆さん、離れてますね。」

    * 操作者は、実際に誰も患者やストレッチャーに触れて ないことを目視で確認した後に放電ボタンを押す。

     操作者は、上記の文言を一字一句違わず警告を発しなくても構わないが、 通電時には必ず、周囲の者が確実に患者に直接あるいは間接的に接触してい ないことを確認する。

    2)除細動器使用時における失火防止

     酸素濃度が高い環境下における除細動使用時の火災の危険性がある。最近 では除細動に起因する火災は、もはやアクシデントではなく過失であるとし ている9)。今後ACLS教育の中で徹底的に周知しなければならないとされて いる。

     失火は、(1)着火点、(2)着火点付近の酸素濃度が高いこと、(3)可燃性物 質の存在という3つの条件が揃った場合に生じる。除細動による失火の予防 は比較的簡単なものであり、基本的には、除細動器の取り扱いに関わる過失 予防と酸素供給の過失の予防に大別される。詳細についてはCurrents2002 年秋号(http://216.185.112.41/currents_issues.html からダウンロード可)を参照。


参考文献

  1. 2001-2002年度合同研究班報告:循環器病の診断と治療に関するガイドライン; 自動体外式除細動器(AED)検討委員会報告書 日本における非医師へのAED 導入実施に向けた検討報告.Circulation J.66 Suppl IV:1419-1436,2002

  2. Kerber RE,Becker LB,Bourland JD,et al.Automated External Defibrillators for Public Access Defibrillation:Recommendations for Specifying and Reporting Arrhythmia Analysis Algorithm Performance,Incorporating New Waveforms,and Enhancing Safety. Circulation.95:1677-82,1997

  3. The Human Dimension of CPR and ACLS. In "ACLS provider manual" ed Cummins RO,American Heart Association,pp41-45,2001

  4. The American Heart Association in collaboration with the International Liaison Committee on Resuscitation (ILCOR):Guidelines 2000 for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care - International consensus on science -Circulation.102 Suppl I:1-384,2000

  5. VT treated with CPR and Automated External Defibrillation.In "ACLS provider manual" ed Cummins RO,American Heart Association,pp63-73,2001

  6. Basic ACLS skills:CPR and AED.In "ACLS provider manual" ed Cummins RO, American Heart Association,pp207-224,2001

  7. Automated External Defibrillation.In "ACLS for Healthcare Providers" ed Stapleton ER,Aufderheide TP,Hazinski MF,et al. American Heart Association,pp90-121,2001

  8. Introduction to Automated External Defibrillators.In "Heartsaver AED for the lay rescuer and first responder" ed Aufderheide TP,Stapleton ER, Hazinski MF,et al.American Heart Association,pp3-1〜12,1998

  9. Cummins RO.A neglected topic?Danger of fires from defibrillation in an oxygen-enriched atmosphere.Currents in emergency cardiovascular care. American Heart Association,pp1-16,2002


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