広島県のメディカルコントロール体制の構築について


資料集


資料6 救急業務の実施に必要な各種プロトコル(標準)(案)

※ 本プロトコルは,各圏域メディカルコントロール協議会においてプロトコルを作成する上 での標準として用いる目的で2003 年に作成したものです。


I CPA

1 傷病者接触まで

(1) 119 通報の入電時刻を「覚知」,現場に停車した時刻を「現着」,患者に触れて観察を開 始した時刻を「患者のそばに到達した時刻」とする。

(2) 次の入電内容の場合は,CPA 状態または現着までにCPA に陥る可能性のある病態である ことを疑う。

 「意識消失」「呼吸していない」「脈がない」「気道異物」「胸痛」「呼吸困難」その他

(3) 上記(2)が疑われた場合は,次の資器材を現場に搬入する。

  1. 除細動器
  2. バッグ&マスクを含む救急セット
  3. 酸素ボンベ
  4. 吸引器

(3) 周囲の状況を観察し,二次災害の恐れがないことを確認する。

(4) バイスタンダーCPR の施行を,気道確保・人工呼吸・心臓マッサージに分けて,「適切」・ 「不適切」・「施行なし」の3 段階でチェックする(この作業のためにU以下の手順開始が 遅れてはならない。見落とした場合は事後の聴取でよい)。


2 心停止の確認から除細動パッド装着

(1) 「明らかに死亡している」症例の除外,第1 回

 頚部離断・体幹部離断・腐敗など,一見して判断できる場合。

(2) 意識の確認

 「大丈夫ですか?」との呼びかけ⇒ 強い刺激⇒ 意識なし⇒ (3)に進む

(3) 用手気道確保

  1. 頭部後屈・あご先挙上法,または下顎挙上法による。頚椎損傷が否定できない状況 においては,頚椎に注意を払いながら下顎挙上法を行う。

  2. 用手気道確保をおこなっても呼吸運動が感じられないとき⇒ 5に進む

  3. 用手気道確保を試みても上気道閉塞兆候(シーソー呼吸)を認める場合,または家 族等の情報から異物による窒息が疑われる場合は,喉頭鏡を用いて喉頭展開を行い 口腔内から喉頭までを観察する。

  4. 異物を認めた場合は,マギール鉗子等を用いて異物の除去を試みる。

  5. 異物の除去が不可能であるか,または可視化に異物が認められないが窒息の疑いが 強い場合は,ハイムリック法(仰臥位の場合の方法)を行う。

  6. 異物が認められず,したがって窒息の疑いが少ないと判断した場合は,経口または 経鼻エアウェイを挿入する。

(4) 「明らかに死亡している」症例の判別,第2回

  1. 目撃者がない(昏倒する瞬間を直接見たか聞いた人がいない)症例の場合は,用手 気道確保時に死後硬直,および寒冷環境下でないにも係わらない著しい体温低下の 有無に留意する。以上より明らかに死亡している可能性が高いと判断した場合は死 斑の有無を確認する。

  2. 「明らかに死亡している」と判断されるにも係わらず,家族等が医療機関への搬送 を希望する場合⇒6に進む

(5) 呼吸の確認・人工呼吸

  1. 気道を確保したまま耳を傷病者の口と鼻の近くに置き,5秒以上をかけて呼吸の有 無を確認する。

  2. 呼吸停止・呼吸が弱く不十分・反射性のあえぎ呼吸(死線期呼吸)の場合は,バッ グマスク換気を開始する。

  3. 換気は1回2秒以上かけて,2回行う。

  4. 換気を試みるも強い抵抗があって換気できない場合は,異物を疑い3(3)〜(6)と同 様の観察・処置を行う。

(6) 脈拍の確認・心臓マッサージ

  1. 頚動脈で脈拍を確認する。

  2. 脈拍を認めない場合は,心臓マッサージを開始する。

  3. 脈拍を認めるか否かの判定が微妙であり自信がもてない場合は,市民救助者に指導 するところの循環のサイン(呼吸・咳・体動)により,自己循環の有無を判断する。

(7) 除細動パッド装着

  1. VF または無脈性VT⇒ 3に進む

    (15 年度以降に使用するとの前提で、除細動にオンライン指示は不要とする)
    ただし,年齢8 歳未満または概ね体重25kg 以下の小児の場合,または偶発性低体温 によるVF であることが疑われる場合は,次項(8)に進みon line 指示に従う。

  2. 心静止⇒ 次項(8),および4に進む

  3. PEA ⇒ 次項(8),および5に進む

    (注)永久ペースメーカーまたは植え込み型除細動器装着患者においては ,パッドをそれらの機器から少なくとも2.5cm 離して貼付けること。

(8) 特定行為の指示の取得(器具を用いた気道確保、静脈確保、3クール目以降の除細動)

  1. 圏域ごとに予め定める方法により,指示医師からの具体的な指示を取得する。(圏 域MC 協議会において,「○△病院ホットライン」あるいは「携帯電話090-×××× -□□□□」などのような具体的なプロトコルを作成してください)

  2. 搬送先医療機関についても指示を取得しておくことが望ましい。

(9) 自動心マッサージ器の使用について

 車内収容後の心臓マッサージは,可能な限り自動心マッサージ器を用いて(30 秒以内 で装着)1人分の救急隊員の手を空けることを原則とするが,そのために除細動の実施 が遅れる状況下では,その限りではない。

(10) 病歴の聴取について

 以下の項目を,他の作業を中断することなく他の隊員に聴取させる。ただし,そのた めに半自動式除細動器による除細動の実施が遅れたり,現場滞在時間が延長する状況下 ではその限りではなく,聴取は搬送中または病着後で十分である。

  1. 目撃者(昏倒する瞬間を直接見たか聞いた人)の有無

  2. 目撃者がある場合は,昏倒から通報までの推定所要時間

  3. 前駆症状の有無

  4. その他の必要な情報


3 VF または無脈性VT

(1) 除細動準備の間もCPR を継続する。

(2) 除細動は, 200J→200J→360J の順で行う。(二相性除細動器が導入された時点では, 「150J で3回行う」と改正して下さい)

(3) 1クール3回の除細動は奏功しないかぎり連続して実施し,その間の心臓マッサージは 中断する。

(4) 除細動後の波形の確認

  1. 1クール3回のいずれかの除細動で心電図上の波形を認めた場合⇒ (5)に進む

  2. 1クール3回のいずれかの除細動で心静止となった場合⇒4の(2)に進む

  3. 1クール3回を終了の後,依然としてVF または無脈性VT の場合⇒ (8)に進む

(5) 1クール3回のいずれかの除細動で心電図上の波形を認めた場合⇒ 脈拍の確認

  1. 頚動脈触知あり(自己循環再開) ⇒(6)に進む

  2. 頚動脈触知なし(PEA) ⇒ 5の(2)に進む

(6) 自己循環再開後

  1. 呼吸の確認;呼吸がないか不十分であればバッグマスク換気を継続する。

  2. バッグマスク換気が良好に施行可能であり,かつ医療機関までの搬送所要時間が概 ね5分以内の場合は,そのまま搬送する。(「概ね5分」の部分は,地域性に応じて 作成して下さい。以下同様)

  3. バッグマスク換気が良好に施行不可能であるか,または医療機関までの搬送所要時 間が概ね5分以上の場合は,on line 指示のもと,器具を用いた気道確保を行う。

  4. 器具を用いた気道確保を行った結果,気道の開通が不十分であり,バッグマスク法 の方がより良好な換気が可能であったと判断される場合は,器具を抜去し,バッグ マスク換気に切り替える(以下,器具を用いた気道確保を試みる場面において,す べて同様)。

  5. 2(8)2.の時点で搬送医療機関が決定していない(したがって搬送所要時間が推定 できない)場合は,1名が搬送医療機関決定のための連絡を行うのと並行して,他 の1名が器具を用いた気道確保を行う。

(7) 搬送中に再び心停止に陥った場合

  1. VF または無脈性VT の場合

    (a) 医療機関までの搬送所要時間が概ね3分以内の場合は,心臓マッサージを再開し, そのまま搬送する。

    (b) 医療機関までの搬送所要時間が概ね3分以上の場合は,停車し3の(2)に戻る。

  2. 心静止またはPEA の場合

(8) 1クール3回の除細動施行の後,依然としてVF または無脈性VT の場合

  1. さらに1分間の心肺蘇生法を施行した後,もう一度1クール3回の除細動を試みる。

  2. その結果,心電図上の波形を認めた場合は(5),心静止となった場合は4(2)に進む。

  3. 2クールの除細動施行の後,依然としてVF または無脈性VT の場合;

    I バッグマスク換気が著しく困難な場合を除き,そのままCPR を施行しつつ搬送 する。

    II バッグマスク換気が著しく困難な場合は,器具を用いた気道確保を行う。

    III 2(8)2.の時点で搬送医療機関が決定していない場合は,1名が搬送医療機関 決定のための連絡を行うのと並行して,他の1名が器具を用いた気道確保を行 う。

(注) 埋め込み型ペースメーカー装着患者の場合

半自動除細動器の取扱説明書の中には,ペースメーカー植え込み患者に対する除細動を禁 忌事項の欄に記載しているものがあるが,これは誤りである。VF に対しては除細動の施行 が必須である。ただし,永久ペースメーカーまたは植え込み型除細動器の機能が除細動に よって損なわれることがあるので,病院到着時に必ず医師に申し送る。


4 心静止

(1) 指示取得の作業中も,心臓マッサージを継続する。

(2) 電極および機器の接続をチェックする(接続がはずれているために心静止に見えるので はないことを確認する)。

(3) 状況に応じて器具を用いた気道確保を行う。

(4) CPR を施行しながら搬送する。


5 PEA

(1) 指示取得の作業中も,心臓マッサージを継続する。

(2) 状況に応じて器具を用いた気道確保を行う。

(3) CPR を施行しながら搬送する。

(注) ガイドライン2000 では,PEA の可逆的な原因として10 の病態を挙げている。これらを 想定しつつ処置・搬送を行うことは重要である。ただし,現在のわが国の法制下では, 現場で救急隊員に許された方法で改善しうる病態は低酸素状態のみである。


6 家族等の反応

(1) 「明らかに死亡している」と判断されるにもかかわらず,家族等が蘇生術の施行および 医療機関への搬送を望む場合。⇒ 現場の状況や家族等の心情を考慮して,自治体の行政 サービスの一環として死亡者の搬送を否定するものではない。しかし,この場合は法的 に緊急自動車として取り扱うことは困難であるため,原則的にはサイレンの吹鳴・警光 灯の点灯はせず,一般車両として走行するのが適当である。

(2) 蘇生術の適応である(「明らかに死亡している」の判断基準のどの項目にも合致しない) にもかかわらず,家族が蘇生術の施行を望まない場合

⇒ プロトコル通りのCPR を実施する。

(3) 蘇生術の施行がふさわしくない背景があって(悪性腫瘍の末期など),家族が蘇生術の 施行を望まない場合

⇒ プロトコル通りのCPR を開始する。並行して主治医と連絡を取るよう務め,主治医 から「CPR を行わない」旨の指示が取得されたならば,CPR を中止する。


7 病院到着後

(1) 病着後の最初のモニター心電図所見を自分の目で確認する。

(2) 心停止の原因は直ちには診断がつかないことも多いが,受傷機転から明らかである場合 (外傷・窒息・縊頚・溺水など)は,記録票兼検証票の傷病名に関する情報欄にチェッ クする。医師の説明から,診断に関する情報が得られた場合は,記録票の傷病名に関す る情報欄に記入する。

(3) 次の項目を把握し記録票兼検証票に記載する。不明の点は医師に確認する。

  1. 病院到着の時点で,医師が対象外と判断して蘇生を試みなかったか否か

  2. 心電図上の波形の出現の有無

  3. 自己循環再開(脈拍触知可能・血圧測定可能)の有無

  4. 自己循環が維持され,ICU 等に入院となったか否か

(4) 家族等から,聞き漏らした情報を聴取・確認する。その際,もともとの病的状態や日常 生活上の制限があったか否かを確認する。


8 記録票の完成

(1) 時刻の項目は重要である。現場発時刻も現場活動時間を算出する上で重要であるから, 必ず記入する。

(2) 気道および心電図変化に関する自由記入欄は,事後検証において重要な情報となるので 鋭意記入する。

(3) 特に経過中に心電図所見の変化が認められた症例は極めて重要であるから,可能な限り 心電図波形のコピーも添付する。

(4) (3)のコピーの上に,その時刻に対応する観察・処置などを記入する(例;心臓マッサ ージ中断等)。

(5) 最後の自由記入欄は,医学的な事項はもとより,感想のようなものでもよいから,鋭意 記入する。また,処置・判断をプロトコルどおりに行わなかった場合は,その理由やコ メントを,この欄に記入する。欄のスペースが足りない場合は別紙に記載し添付する。

(6) 事後の医療機関への問い合わせを通じて,以下の項目に関する情報を可能な限り取得し て記入する。

  1. 診断名;診断がついていない場合も,臨床経過から最も疑われる傷病名・死体検案 書に記入した診断名につき問い合わせる。

  2. 24 時間後の生死

  3. 1 ヵ月後の生死

  4. 長期生存例においては,脳後遺症および身体的後遺症の程度


II 外傷

 外傷マニュアルを次のとおりとする。


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