心肺蘇生に関する統計基準検討委員会

ウツタイン様式 日本語版

病院外心停止事例の記録を統一するための推奨ガイドライン


救急システムに関する記載


 地域において救急システムがどのように組織化されているかということは、心停止事例の転帰に大きな影響を及ぼす(10, 29, 70)。会議のメンバ−は、心停止からの蘇生率に関する記録には、その地域における救急システムの状況を記載することを推奨している(7, 8, 17, 71)。統計をとる者は、救急の様々な対応レベルについて記載するとともに、救急システムの構成要素についても記載すべきである。また、誰がどのレベルの救急の対応に関与しており、彼らがどのような処置を、どのように、いつ行ったかを記載する必要がある(72)。以下のことは、統計をとる者やシステムの管理者が知っていなければならないことである。各症例において、これらすべてのデ−タを詳細に記載するのは、必ずしも現実的ではないが、できるだけ多くのコアデータが記載されるよう努力がなされなくてはならない。


出動システム

 誰が(補足的デ−タ)。出動隊の中にEMT(Emergency Medical Technician)(訳注31)、パラメディック、看護婦、あるいは医師等が乗っているかどうか、またそれが常勤職員なのかボランティアなのかについて記載されるべきである。また、正規の救急隊員養成課程を終了したかのみならず、受けたトレーニングの時間についても記載されるべきである(73)。さらに、その救急搬送システムが1年間に扱う救急依頼電話の数や、それぞれの出動隊が1年間に搬送する数についても記載されるべきである。

(訳注31)Emergency medical technician(EMT)。傷病者の救急処置に必要な、特定の医療行為を行いながら、傷病者の搬送業務を行う資格を有する者である。どのような医療行為がおこなえるかで、EMTの種類も異なる。

 何を(コアデ−タ)。救急搬送システムが救急専用なのか、消火や警察と兼用なのかを記載する。すなわち通報番号は119番であるのか、110番であるのか、コンピュタ−連動であるかなどについても明記する。

 どのように(補足的デ−タ)。出動のために、公に定められた方式(formal protocol)が使われているかについて記載されるべきである。心停止と思われる事例を通報した人に対して、救急司令室が心肺蘇生の手順を示したか(74-76)。同時に救急車が発進する同時起動システムが使用されたか。司令室は事態の確認中に緊急車両を送れるのか。通報はどういう経路で入ってきたのか、そして通報を受けた時点から救急車が出動するまでに何人のオペレーターが関与したのか。

 いつ(コアデ−タ)。覚知時刻から救急車出動時刻までの時間間隔の中央値(訳注32)について記載されるべきである。

(訳注32)Median。デ−タを大きさの順に並べた時に、その中央に位置するのが中央値である。デ−タ数が15であれば8番目のデ−タが中央値である。統計デ−タの代表値としては、平均値が使われる場合が多いが、飛び抜けて大きな値を有する事例が含まれているような場合や、分布の偏りの大きなデ−タを扱う場合は、中央値が使われる。


第1出動

 誰が(補足的デ−タ)。最初に出動する者が、それぞれの救急システムで誰であるのか明記されなくてはならない。(医師、看護婦、救急隊員、EMT(訳注31)、その他)。また、救急サ−ビスを行う職員の所属する組織がどのようなものであるか、救急専門の機関か、救急および消防の混合機関か、病院か、民間救急会社か、を記載する。また、救急搬送を行う隊員は、公的に(その業務が)認められた者であるかも述べられなくてはならない。さらに、救急隊の総人数、(搬送サ−ビスは)有料か無料か、訓練時間、一隊を構成する隊員数、稼働している救急車の数、年間の出動件数等も記載されるべきである。

 何を(コアデ−タ)。心停止の事例に対し、使用が認められている主な処置を記載する。この中には、心肺蘇生、除細動、経静脈的薬剤投与、専門的な気道確保の処置が含まれる。これらのそれぞれの項目について、救急搬送システムの隊員が心停止事例に具体的に行った処置について、はっきりとわかるように記載されなくてはならない。

 心肺蘇生については、施行者が心マッサ−ジを用手で行ったか、器械を使用して行ったかを記載する。また行われた気道確保の方法については、たとえば、バッグマスク、ポケットマスク、あるいは他の上気道確保器具が使われたかどうか、についても記載する。食道閉鎖式エアウェイ、ラリンゲアルマスク、あるいは咽頭気管エアウェイが使われたのかどうか、である。救急搬送システムにおいて気管内挿管が許可されている場合は、そのことを特に明確に記載すべきである。さらに、挿管困難症例に対する筋弛緩薬の使用を許可されている場合、あるいは甲状輪状靱帯切開術が許可されている場合も同様である。もし除細動器の使用が許可されているなら、そのタイプを記載する。これらには、体外式自動除細動器や従来型の(用手的)除細動器が含まれる。また、自動ペースメーカーによる経皮的ペーシングや除細動器付きペースメーカーの使用が認められているかについても記載されるべきである。

 もし薬剤の使用が認められているのなら、投与経路(筋注、静注、中心静脈路経由、経気管的、経骨髄的(訳注33))も記載されるべきである。心停止症例に投与される薬物についても記載されるべきである。

(訳注33)静脈と異なり、ショック時も虚脱することがない輸液や薬剤の投与経路として、提唱されている。特に、静脈ル−トが不確実な場合、あるいは小児の緊急ル−トとして、有用性が主張されている。原文にinterosseousとあるが、intraosseousの誤り。

 どのように(コアデ−タ)。処置の順序や種類に関する蘇生プロトコールを記載する。そのプロトコールが、アメリカ心臓協会(American Heart Association)(13)、ヨ−ロッパ蘇生会議(European Resuscitation Council)のような公の学術団体により推奨されたものに基づいているかどうかも記載する。また、隊員はこのプロトコールに従って処置したのか、あるいは処置を始める際に無線か電話で許可を得たのか(77)。どの時点で、指示を与える基地や指令医師とコンタクトをとらなければならないのか。もし現場の隊員が心肺蘇生を行いながら患者を搬送しなければならないなら、搬送を開始する時期を判断する基準は何か。また救急システムが、現場での救急隊員の蘇生処置の中止を許可できるのか。もしそうであれば、プロトコールはどの時点で蘇生努力の中止を許可するのか、またその判断基準は何か。

 どれぐらいうまく(補足的デ−タ)。統計をとる者は隊員の活動のレベルについて何らかのコメントを入れるべきである。救急処置に関して検討すべき最も重要な処置とは、心室細動患者に対する除細動施行率、成功した気管内挿管の割合、静脈確保成功率である。(中でも)救急隊員のレベルを検討するために、最も重要な記録は、気管内挿管成功率および静脈確保成功率である。こうした救急隊員の活動のレベルは、記録の不正確さや困難性のために、いつでもすべてのシステムで評価できるわけではない。(しかし)会議ではこれらのことを、できるだけ客観的に評価することを重要視している。

 いつ(コアデ−タ)。各出動部隊の覚知から現着までの時間の中央値(訳注32)を記載する。平均時間は、長時間搬送事例によって不適切に歪められてしまう。救急搬送システムが公表すべき補足的なデータは、所要時間の累積曲線である(訳注34)。この曲線には所要時間が全体の事例の、25%にあたる順位となる事例の、また、50%、75%、90%にあたる事例の所要時間を書き入れるべきである。また、これらの中央値が計算された記録の数も記載されるべきである。

(訳注34)どのくらい時間がかかった事例がいくつあったかを、累積図として示したものである。


第2、第3出動

 アメリカではほとんどの地域で、パラメディックが第2出動となり(7)、第3出動はない(7)。ヨーロッパでは、しばしば病院外事例に対応する救急医による第2、第3出動がある。これら後発隊についても、第1出動と同様に詳しく記録を取らなければならない。さらに、この出動の方法についても補足的説明として記載されるべきである。救急指令室は心停止の第一報が入ったときにこの隊を要請した

のか、あるいは第2出動のチ−ムは第1出動のチ−ムの報告を待たなければならないのか。第2出動のチ−ムが第1出動のチ−ムより早く到着する頻度はどれぐらいか。