越智元郎1)、畑中哲生2)、福井道彦3)、守田 央4)、漢那朝雄5)、生垣 正6)、白川洋一1)
1)愛媛大学医学部救急医学、2)救急救命九州研修所、3)大津市民病院救急集中治療部、4)尼崎市消防局北消防署、5)九州大学大学院医学研究科救急災害医学、6)市立砺波総合病院麻酔科
目 次
はじめに
AHA、ILCORとわが国の CPR指針をめぐって
草の根型救急医療情報ネットワークが発端となった論議―
また同年、筆者の一人 越智は日本救急医療財団のプレホスピタルケアに関する厚生研究に参加していたが、これに関連して同財団と厚生省が計画した日本心肺蘇生法協議会(JRC)の立ち上げとILCOR加盟に向けての動きを手伝うことになった4)。さらに、筆者ら(越智および畑中)が ILCOR勧告の翻訳に関連して、AHA と連絡を取ったのをきっかけに、2回にわたるAHAのCPRガイドラインの策定会議に参加することになった。
われわれはその後、 2000年6月、雑誌「LiSA」の特集「心肺蘇生法2000年の潮流」5)をまとめ、さらに同年7月には日本心肺蘇生法協議会(JRC)への提言書などを発表6), 7)するなど、JRCのあり方とわが国の CPR指針策定の手順について提言を行った。われわれのこれらの活動が、2001年度早々に策定・刊行されると予想される「日本版 心肺蘇生法の指針」に有益な形で反映されることを切望する次第である。
まず、現在のわが国のCPR指針は1992年、日本医師会の救急蘇生法教育検討委員会に関連学会、厚生省、自治省消防庁、日赤など、関連組織の代表が参加して作成、刊行された8), 9)。その方針として、1992年の AHA の ガイドラインに準拠するとしている。
しかし、現在、わが国におけるCPRの指導内容には団体ごとにいくつかの相違点がみられ、必ずしも AHAガイドラインの精神を反映したものにはなっていない10)。その具体例として、一部の組織が早期除細動のために必須の 119番通報を余り強調していないこと、同様に CPR訓練の最初のステップとして仰臥位への体位変換を入れていないこと、消防が全例に口腔内異物確認を施行させていること11)、最初の胸骨圧迫までに人工呼吸4回を実施させる救急救命士テキストがあったこと12)など上げられる。
このような指導法の違いにより困るのは市民、特に複数の組織の講習を受講することのある熱心な受講者である。また、筆者らのような医育機関の者、市民指導にあたる救急隊員、赤十字などの応急手当普及員などは、しばしば組織を横断した交流を持ち、ある系列の講習と別の系列との講習とで違うことを教えなければいけない場合があるのである。また教育の効果を上げるためには、内容を単純化し憶えやすいものにする必要がある。特に時間の要素を重視すべき蘇生法教育において、ある状況でのみ適応となる処置などを総花的に織り込むことは戒められるべきであろう。
また、われわれは1992年の日本医師会 救急蘇生法教育検討委員会による心肺蘇生法統一プロセスには表1のような反省点があったと考えており、現在の CPR新指針策定に関しては次の6点の配慮がなされることを希望している。
表1.日本医師会 救急蘇生法教育検討委員会による心肺蘇生法統一プロセス(1992年)の問題点
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1.Chain of Survival の概念
これは早期通報、居合わせた人による蘇生処置、除細動、二次救命処置を円滑につなぐことを目指している。中でも早期除細動は最重要点の一つと言える。赤十字など、わが国の指導内容では、「応援を求める」 が 「activate EMS」すなわち 119番通報であることを十分には受講者に意識させていないのではないか。また消防は、全例で口腔内異物確認をさせていること、電気的除細動を行うに際し敢えて病院への心電図伝送を行う本部が今もあり、除細動を実施するまでの時間の短縮の重要性が必ずしも理解されていないと言わざるを得ない。
2.脊髄保護
一部の組織は蘇生訓練の最初のステップを腹臥位からの体位変換からスタートする、AHA方式を採用していない。体位変換の訓練は蘇生時の脊髄保護に関する教育の好機であり、これを省くことは得策ではない。
3.救助者に対する精神的サポートなど
AHAは CPA患者の予後については楽観的な記載は避け、実施者の精神的サポートにも留意している。これに対しわが国では、根拠となる論文のない「ドリンカー曲線」15)などが大きく取り上げられ、呼吸停止から3分以内に蘇生処置を行えば75%が救命され、4分以内であれば半数が救命されるかのごとく記載している。新指針策定とともにこのような記載も削除すべきではないだろうか。
1.総論
2000年のAHA新ガイドラインでは以下の点が強調されている。
2.成人の一次救命処置
1) BLSの原則
まず脳卒中および冠動脈疾患を念頭においた BLSの原則について述べる。
2)気道確保
市民では頭部後屈あご先挙上法が第一選択だが、頚髄損傷を疑う時に実施できるよう下顎挙上法も教えることになった。
3)人工呼吸関連
まず一回換気量であるが、酸素を利用できない場合には 10 ml/kg を 2秒で吹き込み、40%以上の酸素がある場合は 6〜7 ml/kg を 1〜2秒で送気する。800〜1200mlの吹き込みを指導して来た AHA前指針に比べ、日本人では半分位の換気量でよいことになる。一方、ラリンジアルマスクなどの気管内チュ−ブ代用器具の使用は、訓練を受けた人が実施する限りは、BLSとして有用であると記載された。ちなみに電気的除細動もBLSの位置づけである。
4)脈拍確認
市民は胸骨圧迫開始、AED電極装着に際し脈の確認は行わず、呼吸停止、咳や体動がないなど「循環停止の兆候」を確認する。医療従事者ではこれまで通り脈拍を確認する。
5)胸骨圧迫心マッサ−ジ
胸骨圧迫ッサ−ジ:胸骨圧迫のピッチはこれまでの80〜100回/分からおよそ 100回/分に変更された。また気管内挿管などをしていない患者では 1人法、2人法ともに、胸骨圧迫:吹き込み比 15:2 で 実施する。一方、電話で蘇生処置を指導して実施させる場合や、実施者が人工呼吸をしたくない場合は胸骨圧迫のみでもよいことになった。他方、録音テープ教材などによる蘇生教育が有用と評価された。
6)気道異物による窒息
市民には、意識のない気道異物患者ではハイムリック法などの異物除去処置ではなく、CPRを実施させる。BLSの手順の中では、気道確保の際に口腔内に異物が見えれば除去するとなっている。
表2にAHA新ガイドラインの成人一次救命処置の手順をまとめた。わが国のCPR指針もAHAの新ガイドラインの強い影響を受けると考えられるが、この幹となるCPR手順(Sequence of BLS)については、すべての団体で共有していただきたい。
3.小児の BLS
AHA新ガイドライン(BLS)の変更点を小児(新生児は除く)についてまとめた16)。
AHA新ガイドラインの小児一次救命処置の手順(新生児を除く)は表3のようになる。
なお本稿の要旨の一部は第26回滋賀救急医療研究会(2000年9月30日、大津市)において発表した。
参考文献
1992年のAHAガイドラインとわが国の指導法との関連性
2000年のAHAガイドラインの変更点
おわりに
関連ウェブ資料:http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/00/k9aha/k917aha.files/frame.htm
http://ghd.uic.net/99/ilcor.html