第17回日本臨床麻酔学会総会教育講演

初期心肺蘇生手順再考: Cより始めよ! Cのみ行え?

大津市民病院集中治療室 福井道彦

(日臨麻会誌 18: 342-348, 1998)


目 次

 I.はじめに
 II.まず DC よりはじめよ
 III.DC の躊躇をなくす AED
 IV.CPP = dBP - dCVP
 V.A、Bは必要か
 VI.Gasing
 VII.Fickの回転寿司
 VIII.酸素と蘇生
 IX.炭酸ガスと蘇生
 X.まとめ:至適蘇生手順は?
 文献


I. はじめに

 救急外来に運ばれる心停止患者の社会復帰率は、アメリカにおいても 3 % 以下といわれ1), 2)、日本も同様の状況にあると考えられる3) 。この結果は、30年来続けられてきた心停止患者に対する蘇生への取り組がうまく機能していないことを示している。現在まで、Airway protection (A), artificial Breathing (B), chest Compression (C)の手技を、この順に「蘇生のABC」として一般市民にも実施を指導するという方法が取られてきた。1992年、American Heart Association (AHA) の委員会は、現行の蘇生戦略失敗を指摘し、今後検討すべき項目として、早期除細動 (DC) 治療の実施、感染の危険から口対口呼吸が bystander に敬遠される問題への対応などをあげた4)。これを受けて、A、B、C そして DC という優先順位で行われている初期心肺蘇生の手順が再検討されている。ここでは、これら研究の方向性を把握するために、単に A、B、C か C、A、B か DC かといった優先順位にとらわれることなく「停止心臓はいかにして再起動するのか」を中心に考察していく。


II. まずDCより始めよ

 前述の通りアメリカ全体の蘇生率は 3%に満たないといわれ、「アメリカ」として語られる多くの数値は、シアトルからの報告が用いられている5) 。シアトルから20%を超える高い蘇生率が報告されて10年になるが、未だに全米の多くの地域では蘇生率が低く、シアトルを参考に検討が続いている状況である。シアトルという限定された地域で成功した取り組みを一言でいうと「心停止患者に対する早期 DC 治療の実現」である。具体的には、心停止患者発生に対し本来の白い救急車で救命士が到着する前に、最寄りの赤い消防車が現場に出向きDCを含めた蘇生治療を行なっている。

 シアトルの成功は、早期 DC 治療の有用性を臨床的に証明している。一方、日本においても救命士により病院到着前の DC 治療が開始されたが、救命率に著明な改善はみられていない。日本で指摘される問題として、現場での DC 治療を心電図伝送等により医師の判断を仰いだ後に行っているため、この過程で時間を要し、期を失する場合が多いということがある。日本の現状と、シアトルの成功から明らかなように、DC 治療は、心停止直後においては極めて有効であるが、その効果は時間とともに急激に低下してしまうことになる。

 DC 治療の成否は何に左右されるのであろうか? 心停止を心電図上から分類すると次の3つに分けられる。1. 心室細動 (Vf): 個々の心筋には活動性を保っているものもあるが心筋の電気的興奮がまちまちで統合されていない状態。2. 興奮収縮解離 (EMD): 電気的には興奮が見られるが収縮が起こらない状態。3. 心静止: 収縮力も電気的活動も停止した状態。DC 治療は、活発な Vf 状態にのみ有効な治療である。活動性を保った心筋が十分あれば、DC 後心臓は蘇生するが、これが少ないと DC によって逆に EMD や心静止となり心蘇生は失敗する。心停止後時間経過と伴に、個々の心筋では虚血が進行し活動性が低下していく。この様な心臓では、A、B・C等の治療による心筋再酸素化が DC に先だって必要になる。このことからわかる通り狭義の心蘇生治療は、Vf に対して DC 治療を成功させることにあり、後に検討する他の治療は、全て虚血心筋を酸素化して DC を成功させる「下ごしらえ」にすぎないことになる。


III. DCの躊躇をなくす AED

 DC 治療の時期は、図1に示すように概ね Vf 発症から 3-5分以内であれば最優先されるべきであり、これを過ぎると心筋を酸素化してから行う必要がある。1分以内の一次性 Vfであれば、ただ DC治療を行うだけで完全に自己心拍再開が得られると言われている。心停止後 8分を経過すると DCによって EMD、心静止に陥り心蘇生に失敗しやすいこと6)や 、たとえ、心マッサージを行った後でも DC 治療が 30秒間遅れただけで蘇生率は 1/5に低下すること7)が、動物実験から示されている。多くは Vf 発症時間が不明なことから、DC 治療の決定には、心電図上の Vf 波形が荒く大きな振幅を示していることを判断して行われている。しかし、採否を短時間に決断し速やかに実施することは決して容易ではない。

 緊迫した状況の中で DC 治療を確実に行うために自動体外式除細動器(AED: Automatic External Defibrillator)が注目されている。AED は、心電図を自動解析し DC 治療の適否を自動判断して手技者を指導するもので、わが国においても救急救命士が使用している。現在 AHAを中心に、さらに診断能力と安全性を高めて、一般市民にも使用できる機種 (Heartstream 社製 Fore Runner、Physiocontrol 社製Lifepak 500など)が開発されている8)。数時間のトレーニングで市民にも AED の使用を許可し、AED をイベントホールなど多くの人が集まる公共の場所に配備して、速やかに DC 治療を行う取り組みが進行している。これら市民用 AEDは、DC 治療に不慣れな医療従事者が躊躇なく適切な DC 治療を行う上でも極めて有用な器具と考えられ、一部(Physiocontrol社製など)は、日本での販売も検討されている。

図1 経時的蘇生優先順位の変化

 Vf 発症後早期(約 3分以内)には DC 治療のみで自己心拍再開を期待できるが、約 8分を過ぎると心筋虚血が進み ABC などの処置による心筋酸素化が優先される。


IV. CPP = dBP - dCVP

 停止心臓が再起動するまでの流れは、図2のようにまとめられる9)。Vf に対する DC 治療の成否は、心筋虚血の進行度に左右される。虚血 Vf 心臓を酸素化する鍵は、冠血管灌流圧 (CPP: Coronary Perfusion Pressure) を高く保って冠血流を維持することと、動脈血酸素分圧を高く保つことである。生理的循環において冠血流は拡張期に生じることが知られており、
CPP = dBP (拡張期血圧) - dCVP (拡張期中心静脈圧)
となる。閉胸式心マッサージ中においても、この関係が成立し、拡張期(除圧時)にのみ冠血流を生じる。前胸部圧迫時、胸腔内圧の増加が動静脈圧を同時に上昇させるために冠血流は生じない。除圧時に動静脈圧較差が生じ冠血流が得られる10), 11)。停止心臓を酸素化し再起動させるために必要な CPP は、ヒトでは 12-14 mmHg 以上と言われている。

 閉胸式心マッサージの効果を高めるとされている補助治療は、全て CPP の上昇を期待していると考えられる。エピネフリンは、主にそのα作用により CPPを増加させる12), 13)。前胸部圧迫に続いて「能動的除圧」を行うことで機械的に拡張期の動静脈圧較差を増大させる方法として、吸盤によって胸骨を直接引き上げる Active compression - decompression 法 (AMBU社CardiopumpTM)14), 15)。てこによって胸骨引き上げと腹部圧迫を同時に行う Phased chest and abdoinal compression - decompression 法 (Datascope 社 LifestikTM)16)などが提案されている。より侵襲的な補助として、「上行大動脈でバルーンを膨らませる方法」では、ブタの実験において生理循環に匹敵する CPPを生じ無治療心停止 7分後でも 100%の蘇生率が確認されている17)

 この様に、CPPは、心マッサージの効果を評価する最良の指標と考えられる。高い CPP を維持するには、補液とα刺激薬による治療に加え、使用可能な補助手段を積極的に導入することが肝要である。蘇生治療を観血的に動脈・中心静脈圧モニター下に行なえる場合には、CPP を確認することで治療判断がより容易になると考えられる。

図2 心蘇生の方程式

 心室細動 (VF) の状態でも全てが除細動 (DC) に成功するわけではない。心筋の酸素化が良好な心室細動(図左上)では、除細動により自己心拍を再開できる(図右上)が、心筋虚血が進んだ心室細動(図左下)では除細動に失敗(図右下)する場合もある。虚血が進んだ停止心では、まず心筋の酸素化を図る必要があり(図左下から上へ)、その成否は冠血管灌流圧 (CPP) を高く保てているかと動脈血酸素分圧 (PaO2) を保てているかに左右される9)


V. A、Bは必要か?

 「初期心肺蘇生の成功に A、Bは必須ではない」との結果が bystander による蘇生を躊躇させる口対口呼吸の必要性を検討するなかから報告された18), 19), 20)。その内容は、「蘇生の優先順位はABCでよいのか?」9)、「圧すだけの蘇生」21)として既に概説したので参照されたい。A、Bを行わない蘇生は、主に bystander を対象としているため、心停止後約 10分間に限って検討されているが、従来法と比べて動脈血炭酸ガスが上昇するものの、動脈血酸素化・蘇生率・蘇生予後はほぼ同等であることが示されている。A、Bを行なわない蘇生中の換気には、「胸部圧迫による高頻度換気」と「心停止後に生じる喘ぎ呼吸 (gasping)」が関与していると考えられている。


VI. Gasping

 Gaspingは、生命の始まりと終わりに脳幹部の低酸素により普遍的に生じることが知られている22), 23)。臨床的にも、心停止確認後に患者が大きな換気運動を示すことが、しばしば観察される。図3にブタで測定した人工呼吸を行わない蘇生中の gaspingの換気量変化を示す24)。4分間の無治療心停止中に gaspingは、数・換気量とも増加し150 ml/min/kg(BW)に達する分時換気量を生じているが、前胸部圧迫開始により急激に換気量が低下している。前胸部圧迫自体が生じる換気量も時間とともに低下し、これらは、胸郭 recoilの低下によると考えられる。

 そのほか、gasping には、上咽頭の神経筋興奮と開口・頭部後屈運動を引き起こし上気道を開放する Aの作用25), 26), 27) や、特に新生児において無呼吸心停止状態から gasping を引き金に自己心拍が再開する「auto-resuscitation」28)が知られ、胸腔内陰圧化に伴う静脈還流の増加を含めて Cに対しても有益な反射であると考えられている。また gaspingは、無治療心停止状態で約 1分後から 5-10分後にかけて観察されると考えられ、発症が目撃されていない症例の心停止時間予測にも用いることが可能である。臨床的にも、gaspingが観察された心停止患者では予後良好であることが報告されている29)

図3 心停止中のgaspingによる換気量

 AC 通電後、無治療 Vf の間に、gasping数 (Gasps)、一回換気量 (TV) 伴に増加を続け、4分間後 (Vf4)には Minute Ventilation も最大になっている。その後、人工呼吸を行わない蘇生を 8分行ったところ、前胸部圧迫 (PC) の影響から gasping による換気量・PC自体が生じる換気量ともに急激な低下がみられている。(mean ±SE)。


VII. Fickの回転寿司

 人工呼吸を行わない蘇生中の炭酸ガス上昇と軽度の酸素低下は、どの様な影響があるのであろうか?蘇生中の酸素・炭酸ガス代謝を考えるには、動静脈血・組織という部位別分圧較差を検討する必要がある。図4に示すように、蘇生という高度低灌流状態では、酸素・炭酸ガスとも動脈側での変化は少なく(混合)静脈側で大きく変化する。このように灌流状態の影響は、主に静脈側に現われるため、動静脈間較差が循環の指標になることも知られている, 30), 31)。近年臨床的にも、肺動脈カテーテルに酸素飽和度計が装備され、連続的に混合静脈血酸素飽和度 (SvO2) がモニターされている。SvO2 の変化は、Fick の方程式に従うと考えられ、蘇生中の部位別ガス分圧較差を検討するうえで、この式を理解しておくことが重要になる。Fick の簡易式は、 VO2: 酸素消費量(mL/min)、Hb: ヘモグロビン濃度(g/dL)、SaO2: 動脈血酸素飽和度(%)、CO: 心拍出量(L/min)から次のように表される。

VO2 = 0.134・Hb・(SaO2 - SvO2) ・CO

 VO2を一定に保つために、Hb、SaO2、COの低下に対して SvO2 は代償的に低下する。この関係を直感的に理解するために、図5のような「食べ放題の回転寿司」で説明してみる。寿司が酸素で、皿がHb、回転ベルトの速さがCOである。呼吸器役の寿司職人は確実に寿司を皿に乗せるし、客はつねに一定量の寿司を食べて (VO2一定) 、食べ放題なので空皿をベルトに乗せて返す。寿司職人に返ってくる皿で寿司の乗っている比率が SvO2である。ベルトに乗った皿の数が減っても (Hb低下) 、寿司職人が寿司を乗せ損ねても (SaO2低下) 、ベルトが遅くなっても (CO低下) 、寿司職人に返ってくる寿司の量 (SvO2) は低下する。では、SvO2はどこまで低下出来るのだろうか? 客はどこまできれいにシャリを皿からつまみ取れるのか? それは、末梢における毛細血管網の発達程度とミトコンドリア密度に左右されるとされ、一流運動選手で 10%、一般人では30%くらいと考えられる。

 多少横道にそれたが以上のような理由で、蘇生中の酸素・炭酸ガスは動脈側以上に静脈・組織側において大きく変化する。その際、動脈血ガスを測定する意味としては、酸素供給を評価する上では有用であるが、炭酸ガス代謝に関しては産成される組織レベルの変化が評価出来ないために、あまり良い指標とはいえない。次に、酸素・炭酸ガスが蘇生に及ぼす影響を検討する。

図4 蘇生中の部位別酸素・炭酸ガス分圧

 蘇生に伴う酸素分圧 (PO2)・炭酸ガス分圧 (PCO2)の変化は、いずれも動脈 (artery)側で小さく、静脈(vein)・組織(tissue)側で大きくなる。
 Normal: 生理的状態、CPR: 人工呼吸を行う従来法による蘇生中


図5 Fickの回転寿司

 Fick の方程式を空き皿もベルトで返す食べ放題回転寿司で考える。皿がヘモグロビン (Hb)、寿司が酸素 (O2)、ベルトの回転速度が心拍出量 (CO)、寿司職人(呼吸器)から出ていく側の皿で寿司の乗っている割合が動脈血酸素飽和度 (SaO2)、返る側の割合が混合静脈血酸素飽和度 (SvO2)になる。ベルトの速度 (CO)が低下すると、いくら寿司を乗せても空皿が多く返ってくる (SvO2が低下する)ことがわかる。


VIII. 酸素と蘇生

 ラットにおいてCPPを一定以上に保った蘇生実験で予後を SaO2から観察すると、40%を下回ったときに蘇生しないことがわかった21)。十分なCPPを保った蘇生を行って冠血流を得たとしても、送られる動脈血中に十分な酸素が含有されていないと心筋を酸素化することはできない。では、人工呼吸を行わない蘇生中でも酸素投与は有効であろうか? Cのみの蘇生開始直後、大気呼吸していた患者の場合、肺胞残気中には約 120 mmHg の分圧を保って酸素が存在していると考えられ、当所はこの酸素が利用できる。やがて、前胸部圧迫による高頻度換気とgaspingにより初期蘇生成功に必要量の酸素が取り込まれることになる。しかし、Cのみの蘇生では、炭酸ガス分圧の上昇に伴い、肺胞酸素分圧が低下することが次の簡易肺胞換気式からわかる。

 PAO2 = PIO2 - PACO2/R (PAO2: 肺胞酸素分圧、PIO2:吸入酸素分圧、PACO2:肺胞炭酸ガス分圧、R:呼吸商)

 この状態において酸素分圧を高く保つには、吸入酸素分圧を上昇させる必要がある。このために酸素投与は、高炭酸ガス状態下の蘇生においてより有効性が高いと考えられる。 ラットを用いたCのみの蘇生でも、簡単なフードを通して顔に酸素を投与するだけて蘇生率は著名に改善した21)。動脈血の酸素化は、蘇生成功にきわめて重要であり、A、Bを行わない(行えない)場合でも、口・鼻への酸素投与は動脈血酸素化を促すうえで有用になる。


IX. 炭酸ガスと蘇生

 生理的安静状態において、炭酸ガス分圧は、動脈側で 40 mmHg、静脈側で 46 mmHg、組織で 50mm Hgと、わずか 10 mmHgの較差の中に全ての部位が調整されている(図4)。ブタやイヌを用いた蘇生実験によると炭酸ガス分圧は、人工呼吸を行う従来法では、動脈側が 20-30 mmHg、静脈側が 50-80 mmHg、人工呼吸を行わない蘇生では、動脈側が 40-80 mmHg、静脈側が 60-100 mmHgの範囲にあるようである。静脈側は、前述の通り動脈側の状態と灌流量に左右されるため値の振れ幅が大きくなる。では、これら動静脈血の測定値から蘇生成否を判断できるのであろうか? 炭酸ガスと心蘇生の関係を調べた研究では、蘇生中の冠静脈を含む動静脈血炭酸ガス分圧から心蘇生成否を左右する閾値は観察されず、ただ組織(心筋)レベルでの炭酸ガス測定において、約 350 mmHgを境界値に成否が分かれることが報告されている32), 33)。心蘇生を阻害する機序として、組織レベルの過剰な高炭酸ガス状態が、直接的に心筋収縮力を低下させるといわれている34), 35)34)。蘇生中、過剰な組織での炭酸ガス上昇を、冠静脈炭酸ガス分圧においてさえ反映できない理由として、低灌流による組織からの洗い出しの極端な悪化が考えられる。

 このような組織高炭酸ガス状態の成因としては、蘇生中の低灌流・組織低酸素状態に伴う「嫌気的炭酸ガス産成」がある36)。嫌気的状態にある細胞内では、乳酸産成がすすむ。乳酸は強酸のため解離して水素イオンと乳酸イオンに別れるが、イオンは細胞膜透過性が制限されるため多くは細胞内で緩衝されると考えられる。細胞内で重炭酸による水素イオンの緩衝が起こると、同量の炭酸ガスと水が産成され、炭酸ガスは拡散により細胞膜を自由に通過して広がり組織・静脈系の炭酸ガス分圧を上昇させる。

 人工呼吸を行わない蘇生時にみられる動脈側炭酸ガスの 10-40 mmHg程度 の上昇は、300 mmHgを超えて上昇した細胞内炭酸ガスの運び出しにおいては、ほとんど影響がなかったと考えられる。蘇生中動脈血炭酸ガスは低いにこしたことはないが、80 mmHg 程度までの上昇は蘇生予後からみるとそれ自体 permissive - hypercapnea の範囲と考えられる。


X. まとめ: 至適蘇生手順は?

 近年報告された蘇生に関する新知見は、1)心停止早期のDC治療効果が高いこと、2) C がA、B に比して重要度が高いことを示している。この結果から考えられる至適蘇生手順はどうであろうか? bystanderによる蘇生では、肩枕など簡便な A の後 C のみ行わせることは有用であると考えられる。この方法は、口対口呼吸による感染の危険が回避できることと、不慣れな手技者でも一定の効果が期待できる。さらに、119番通報者への電話指導を試みる場合、「簡易 A の後 C のみ行え」の指示は蘇生講習を受けていない市民でも実施可能ではないかと考える。

 医療従事者の蘇生手順としては、心停止直後の DC 治療は極めて効果的であるため、滞りなく実施することが求められる。ただちに DC 治療が行えない場合には「Cより始めよ」と言えるし、その際にも上気道への酸素投与は考慮すべきである。C のみの蘇生が 10分を超える状況に関しては知見が少ないため、気管内挿管を用いた A、Bを開始すべきであるが、その際も Cの中断を最少に止めることが重要である。

 今後、初期蘇生手順の見直しは、今回紹介した新知見を基に検討されると思われる。


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